連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第80回

2020/08/06
『ゴールデンマスク』 広瀬未来
~ジャケット良し、サウンド良しのオススメ日本ジャズ盤!~

■イヤホンで音楽制作?

先日、気になるツイートを目にしました。「音楽制作のミックスダウンの確認に、スマホの付属イヤホンが使用されている」 というもの。少なくとも、私はそのような現場に遭遇したことはありません。レコーディングでモニターブースの遮音性問題から、ヘッドホンで録音モニターするという現場はありましたが。とはいえ、これだけイヤホンでのリスニングが一般化した現代では、確かにイヤホンでの音質チェックは必須となったのかもしれません。勉強になりました。

従来の音楽制作スタイルでは、ミックスダウンやマスタリングにはスピーカーを用います。アーティスト本人などクライアント側からのリクエストが無い限り、まずイヤホンを使うことはありませんでした。イヤホン好きの皆さんなら、「少なくとも完成チェックをイヤホンでもしておくべきでは?」 とお怒りになることでしょう。これは音楽制作側の手抜きという意味ではなく、必要が無い工程だからという印象です。スピーカーで良い完成トラックができた場合、プロならば音の感触で成功が確信できるもの。そういったご機嫌な音源は、スピーカーの種類を選ばず、もちろんイヤホンで聴いても素晴らしいサウンドで鳴るものです。

昭和時代や平成初期に言われていた、「ラジカセで音楽を制作する」 といった都市伝説に近いかもしれません。実際に、音楽制作スタジオにラジカセが常駐していた時代がありました。一時期ラジカセのモニターも合わせて活用ミックスが流行ったこともあったようですが、すぐに廃れていったみたいです。やはり、メインのモニタースピーカーで聴いておけば、音質チェックは十分だったのでしょう。音楽制作は時間との勝負でもあり、ラジカセで聴いている時間と労力を他に回したほうが、最終的には良い結果が得られたのだろうと想像します。

このところ私は音楽制作の現場に立ち会っていませんが、今ならイヤホンを使って完成チェックを行うかどうかと考えてみました。おそらく、ミックスやマスタリングのモニター自体は、スピーカーのみで行うと思います。音楽制作現場でイヤホンを使うとするなら、それは音質をチェックするという意味合いよりは、自分の愛用イヤホンで作りたての音楽を聴いて気分を上げるためという感じなりそうです。

忘れてはいけないのは、音楽制作が共同作業であり、イヤホンのように一人で楽しむアイデムは向いていないということ。スタジオにいる皆で聴いて 「イエ~イ♪」 と言える瞬間が大切なのです。とはいえ、現在のように個別に様々な作業をしなければならない時代が続くならば、イヤホンのみで作られていく音楽制作シーンが誕生するのかもしれません。それはそれで仕方のないことですし、受け入れたいと思っています。音楽好きとしては、逆に新しいモニター手法で産まれてくる音楽をも楽しみたいものです。


■ジャケ買いで見つけたゴキゲンなジャズ盤! 

こんなご時世ですから新譜の発売数は少なく、なかなか思うようなサウンドのハイレゾ音源が見つかりません。旧譜も候補に加えて太鼓判ハイレゾ音源を探してみようかと思っていた矢先、カッコいいジャケットのジャズ盤を見つけました。これがサウンドもゴキゲンではないですか!



レーベル “Days of Delight”さんのTwitterに、本作のサウンドついての興味深いツイートがありました。『「アコースティックなモダンジャズの録音は故ルディ・バン・ゲルダーをお手本に」という常識から自由になったクリエイティブな音づくりが自慢』 とのこと。

なるほど、確かに本作のサウンドは、いわゆるヴァンゲルダー録音を狙ったものではなさそうです。いや、真摯にジャズに向き合って音質を突き詰めるという意味合いでは、ヴァンゲルダー録音の息吹を逆に感じることができます。

生々しい楽器の音たちが、奇をてらうことなく記録されている。つまり、ドラムの音はドラムらしく、ピアノの音はピアノらしくという感じ。記憶の中にある、各楽器の音と見事にシンクロしてくれるので、それだけ演奏に没頭できるというワケです。

とにかく、よく歌うトランペットが魅力。対をなすサックスが、これまた歌う、歌う! このトランペットとサックスのツートップが奏でる歌心こそ、本作最大の聴きどころです。ジャズ盤によくあるエフェクティブな管の音色ではないため、より演奏者の生の歌が感じられるのでしょう。

本作の魅力的なサウンドを記録したエンジニアさんは誰? クレジットをチェックすると、録音もミックスもマスタリングも、全てお一人のエンジニアさんが担当されています。ダイナミクスを重視し、音圧をギュウギュウに詰め込まなかった最終仕上げも大いに好感が持てました。NK SOUND TOKYOのニラジ カジャンチさん、素晴らしいお仕事っぷりです。

私は日本産のジャズを見くびっていたのかもしれません。大いに反省しております。私が今まで感じていた日本のジャズに足りなかったのは、ニクいようなカッコ良さ。ですので、海外産ジャズを好んで聴いていました。ジャケ買いで出会った本作は、クレジットを見なければ、日本人ミュージシャンとは全く気づかなかったかも? アメリカっぽいとか、そういう意味ではなく、完全にボーダーレスで聴けるジャズが日本でも誕生しているということ。若手ミュージシャンにベテラン一人を加えた本作の編成、大成功だと思います。いやはや、参りました。

ラストを飾るトランペットとピアノによる 「酒とバラの日々」。たった1:34という短い時間の中に、ドラマを見るような歌が聴こえてきました。ぜひハイレゾで聴いていただきたい、本作一番のお気に入りトラックです。この曲を大音量で鳴らせるハイレゾ・イベントが、また開催できる日が来ることを願っております。





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<第79回>『Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio』 井筒香奈江~超特殊な録音による、現時点での音質の最高到達点!~


 

筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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