TVアニメ『アルテ』オリジナルサウンドトラックを手掛けた伊藤ゴローさんにメール・インタビュー!

2020/07/01

ハイレゾ音源大賞受賞作『アーキテクト・ジョビン』や、藤倉大さんとのセッションを収録した『3D Binaural Sessions at Metropolis Studios』など、e-onkyo musicではお馴染みのギタリストで作曲家の伊藤ゴローさんの新作は、TVアニメ『アルテ』のオリジナルサウンドトラック! 中世のイタリアを舞台にした人気アニメ作品に、伊藤ゴローさんならではの感性で花を添えています。ここにご紹介するメール・インタビューには、初めて手掛けたアニメ音楽の制作秘話、かつて訪れたルネサンス音楽の旅など、興味深いコメントが目白押し。サウンドトラックの世界観をより深く味わうためにも、ぜひお楽しみください。

 

構成◎山本 昇






■大好きだったマンガやアニメ

ーー『響-HIBIKI-』(2018年)、『君は月夜に光り輝く』(2019年)、『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020年)と、このところ映画音楽の創作が続いています。ゴローさんにとって、映像と音楽の関係、あるいはサウンドトラックの役割とはどんなものだとお考えですか。

難しい質問ですね。もし映像に音楽がなかったら? 音楽があるからといってその音楽に気がつかないかもしれない。どんな音楽が鳴っていたか印象にない映像もたくさんあります。なくなると気がつくけど、あっても気がつかないものなぁ~に? →「映画音楽、サウンドトラック」ということかな、と思います。

ーー今回はテレビアニメのサウンドトラックです。『アルテ』の原作マンガを読んだ印象はいかがでしたか。

自分が想像するルネサンスの重々しい空気はなく、快活で現代的だと思いました。

ーーちなみに、これまでに好きだったマンガやアニメとは?

マンガ
小学生の時に松本零士の戦場漫画シリーズ『わが青春のアルカディア』や『鉄の墓標』などを集めていました。

アニメ
小さいころは『モンシェリCoCo』を見ていました。『アルテ』のようなサクセスストーリーです。宮崎駿は『風の谷のナウシカ』ですね。チェコのパペット・アニメ『パットとマット』は大好きで、今でも時々見ています。話が最高で音楽もいい。それからだいぶ後になりますが、息子が生まれてからはカートゥーンネットワークで『ガーフィールド』『おかしなガムボール』『アドベンチャー・タイム』『スポンジ・ボブ』など気に入って見ていました。


■ルネサンス音楽と古楽の旅

ーー『アルテ』の物語の舞台は16世紀のフィレンツェなど。中世のイタリア音楽、またはイタリアルネサンスにはどんな印象を持っていますか。

ルネサンス期を舞台にした映画やその時代の音楽、中世ファンタジーの影響かもしれませんが、ルネサンスのイメージは暗くて混沌として猥雑なイメージがあります。音楽は、教会音楽から発生した複雑なポリフォニー音楽や、モンテヴェルディが「マドリガーレ」などの世俗歌曲をたくさん書いていました。イタリアやフランスといった音楽的な国境は曖昧で、さらに中東~東欧からの音楽もミックスチャーしていき、ヴィヴァルディに代表される次の世紀のバロック音楽に受け継がれていきます。『アルテ』のサントラでは「賑やかな街」「ヴェネツィアでの日々」で、その時代の空気をちょっと入れてみました。

ーー公式ホームページのスタッフコメントには、今回の依頼を受けたのは、「偶然にもフランスのアンブロネー修道院で行われた〈古楽フェス〉を観にヨーロッパを訪ね、まさにルネッサンス音楽の旅をしてきたばかりでした」と書かれています。この旅は、ゴローさんの創作に何か影響を与えましたか。また、〈古楽フェス〉ではどんなところに興味を持たれたのでしょう。

モンテヴェルディも立ち寄ったと言われるフランスのアンブロネー修道院で行われる古楽フェスは毎年開催されていて、修道院に併設された古楽アカデミーによる様々なワークショップが行われています。僕が訪れた2017年は、Les Arts Florissants、若手のチェンバロ奏者Jean Rondeau(ジャン・ロンドー)などが出演していました。大聖堂の前後左右にコーラス付きのミニオーケストラがいくつか配置され、中央に席が設けられていて、観客はその中でサラウンドの音楽を体験します。ヨーロッパの古楽フェスの中でも、このような貴重な演奏が聴けるということで異彩を放っています。

モンテヴェルディや同時代のイタリア作曲家のオペラ、それに影響を受けたフランスの作曲家Marc-Antoine Charpentierの演奏を見ました。毎晩行われるフェスティバルのアフターパーティーでは、出演者がアルメニアの音楽やモロッコ、エジプトなどの様々な国の音楽を演奏していて、ルネサンス期の音楽地図を旅するような貴重な経験ができました。そういえば「パットとマット」の映像に合わせて音楽も生演奏するというイベントもありました。


伊藤ゴローさんが訪れたフランスの古都にあるアンブロネー修道院[写真提供:伊藤ゴロー]



響きのきれいな大聖堂の内部で繰り広げられる古楽フェスティバル[写真提供:伊藤ゴロー]



■『アルテ』サウンドトラックの制作秘(悲)話

ーーさて、『アルテ』サウンドトラックの制作にあたり、その世界観やテーマの普遍性など、全体的にはどんなものをイメージして作っていったのでしょうか。

『アルテ』の物語は、大河ドラマや朝ドラのようなオーセンティックなサクセスストーリーで、とても普遍的ですよね。なので、洋画やディズニーの映画のようなスケール感をイメージして作り始めたと記憶しています。

ーー初となるオーケストレーションにも挑まれています。作曲の段階で苦労したことはあまりしたか。

アニメ音楽は初めての挑戦でした。映画は完成した映像を見ながら音楽を作っていきますが、アニメは映像がない状態で、先行して音楽を完成させます。マンガを読んで、テーマのイメージをいただいて作曲しますが、最終的にはどこに使われるかわかりません。最初の1曲は、1話の絵コンテとシナリオから自由に映像を想像して作り始めていたのですが、制作側からのオーダーは「なるべく小編成で」ということでした。でも、どんどん音楽のスケールが大きくなってしまいました。もともと大きな編成は好きだし、映像の尺など制限もないので、とても楽しく自由に作曲させてもらいました。

曲が全部仕上がったのが録音直前だったので、Pro ToolsのMIDIからオーケストラ譜面に落とし込みするのに鈴木歌穂さん他3人の方に浄書をお願いして、ギリギリまでやってしまったのが一番の苦労でしょうか。データもそのまま送っていたので、「この音はこっちの楽器であっていますか?」とか当日までやりとりしていました。

ーー「アルテ メインテーマ」が、やはりサウンドトラック全体にとってのキーとなっているようです。この曲はどのようにして出来上がったのでしょうか。

ラフの段階では、今のメインテーマとは全然違うタイプの短調で単純な主題から変化していくパッサカリアみたいな曲ができました。「良い曲ができた!」と自信満々で送ったのですが、全員に「暗い、アルテのイメージとかけ離れている」と却下されました(泣)。 それならばと、主人公がハツラツと上昇気流に乗って飛んでいくイメージで作り直しました。

イントロ部分に3つのモチーフを使い、曲中でも他のテーマになるメロディーを入れたり、後半の拍子が変わる部分も他のテーマになることを想定して作りました。オペラ、ミュージカル、映画のサウンドトラックにならってオーバーチャー風です。そして、そのテーマを解体していく形でそれ以降の曲を作っていきました。しかし、後で「一度使ったメロディーは、できれば使わないでください」と言われたりして(ここも映画と違いますよね)、メインテーマを最後に作ればよかったかな(笑)。今回サントラが発売となって、1曲丸々お楽しみいただけるのは嬉しい限りです。

ーーレオ、アンジェロ、ヴェロニカ、カタリーナ、ユーリと、キャラクターをテーマにした曲も含まれていますが、こうした楽曲はキャラクターのどんな部分を捉えて作曲するのでしょうか。

それぞれのキャラクターに明確なオーダーがありました。例えばカタリーナは「少し意地悪な」や「悲しみを背負った」、アンジェロは「〈ピーターと狼〉のイメージで」などです。そのオーダーにそって作曲しました。制作チームとやりとりをしていく中で、心情とはいえ、暗くなり過ぎるのはアニメに合わないのかな?と感じた部分もあり、短調と長調を行き交うような進行を心がけました。

ーーちなみに、一番好きなキャラクターは? 

ユーリです。主人公のアルテを一歩先に導く水先案内人でしょうか。地位もお金もあり、もしかしたら悪役にもなれるという、いろんな可能性を秘めたキャラクターですよね。


■2日で37曲! ビクタースタジオでのレコーディング

ーーレコーディングについて伺います。総勢30人にも及ぶ劇判の録音は、どちらのスタジオで何日間行われたのでしょうか。また、普段からゴローさんの作品に参加されている方も多くいらっしゃるようですが、演奏者の皆さんはどんな様子でしたか。

レコーディングはビクタースタジオ301st.で行いました。2日間で37曲録りきるという作業は慣れないものでしたが、いつものメンバーも多かったので大変救われました!


ビクタースタジオ301st.で行われたレコーディング



ーーずばり、レコーディング時の一番の難曲は?

一番時間がかかったのはフル編成の「アルテ メインテーマ」「アルテズ ウイング」、「テンペスト」ですね。それと、アレンジの関係で、木管の録音に手間取った曲がありましたね。

ーーレコーディングのエピソードで印象に残っていることは?

録音が終わって、ヴァイオリンの伊藤彩さんがスタジオ近くにある「パーラ」というお店のクレープを差し入れしてくれました。無事に録り終わったこともあり、とても美味しかったです。それと、演奏者に女性が多かったのも印象に残っています。『アルテ』のテーマにぴったりですね。

ーーところで、ゴローさんのギターはどの曲で聴けますか。

「ヴェネツィアの朝」にうっすらと入っています。

ーー全体としてはアコースティックなサウンドを中心としながら、曲によって、エレクトロニカ風なサウンドやリバーブも聞こえてきます。こうしたミックスにはどんな狙いがありますか。

全曲アコースティックすぎるのも、と思い、少し硬質なイメージにもしたくて作ってみました。もしレコーディングしたものをリモデルする時間があったら、他の曲にもその要素も入れ込んでいたかもしれません。

ーー『アルテ』サウンドトラックの一番の聴きどころは何でしょう。

全曲アニメや映画のテーマになるように、と思って作ったので、お好きな曲をみつけてお楽しみください。


コントロールルームで指揮を執る伊藤ゴローさん(手前)



ーーでは最後に、e-onkyo musicリスナーへのメッセージをお願いします。

ハイレゾは音の輪郭が鋭くて立体的に聴こえるのが特徴だと思います。伝統あるビクタースタジオのオーケストラサウンドがより楽しめると思いますので、ハイレゾでぜひ。

ーーご協力、ありがとうございました。


 ◎Information
TOKYO MXで『アルテ』のアンコール放送が決定!
放送情報:2020年7月5日より毎週日曜11:00~(TOKYO MX)






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