NONA REEVES 西寺郷太 presents ハイレゾ "STAY HOME" 黄金郷

2020/06/19

コロナ禍は続き、「Stay Home」が時代のキーワード。ただ歴史的混乱の中で、一旦立ち止まり、自宅でゆったりと音楽を聴いたり、積まれたままだった本を読むことで新たな発見があったという人も多いのではないでょうか。

僕もこの春、自分で壁紙を変え部屋を心地良くし、音響機材に設備投資。これまで「いつかは」と思いながら没頭できなかったジャズの名盤たちをアナログでゲットしては深みにハマってみたりして……。同時にこれまで散々聴いてきたポップ・ミュージックの数々を、ハイレゾ・クオリティで聴き直す至福も噛み締めています。

「2020年」のタイミングでしか生まれない、研ぎ澄まされた孤独。音楽と一対一で向かい合う貴重な対話の時間。時代のルールが激変する今だからこそ、心の在り処は音楽で守りたい、改めてそう思う今日この頃です。

文◎西寺郷太(NONA REEVES)

「Back To The 80's」



 


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「80年代ポップ」は、今、40年の時を経てもはやクラシックとなった。その格別のキャッチーさゆえの新たな世代への継承力の強さも、近年再認識している。

個人的に「1980年代を代表するサウンド」と言って最初に思いつくのが、ポリフォニック・アナログ・シンセサイザーの名機「オーバーハイムOB-Xa」を効果的に使ったVAN HALEN「ジャンプ」のオープニング。デイヴ・リー・ロス時代最後のアルバム『1984』は、どんな時代の、どんな苦しいタイミングで聴いても適度なアホさとエンターティナーぶりに身体中にエネルギーが満ちてくる永遠の名盤だ。

アニメーションを効果的に使ったシングル「テイク・オン・ミー」のミュージック・ヴィデオで世界を制したノルウェイ出身のA-ha。彼らのデビュー作『ハンティング・ハイ・アンド・ロウ』は、アルバムトータルで大傑作。モートン・ハルケットのレンジが広く深いヴォーカルがハイレゾでさらに五臓六腑に滲みた。

リック・ジェイムスは、その先進性と音楽的才能に見合った評価をされているとは言いがたい。失速期のように思えた80年代後半の「Kickin’」でも光る彼のグルーヴと切れ味鋭いメロディメイクの妙は、今の視点だからこそ正しく体感出来るはず。


「Back To The 70's」



 


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音楽史の中でも最も潤いに満ちた名曲、名盤が生まれたこの「70年代」は、僕も含むすべての「後追い世代」にとって無限の財宝に溢れた黄金郷と呼べるだろう。

フリートウッド・マックは現在の男女混成、世代混合バンドのパイオニアであり、ロック史上屈指の天才集団だ。特に鉄壁のリズム・セクションによるドライで存在感の大きいドラムとベースに乗ったスティーヴィー・ニックスの青く枯れた歌心に痺れる「ドリームス」は、叙情的で渋みもありながら瑞々しさも奇跡的なバランスで含有するポップ・ソングの金字塔。

ジョニ・ミッチェルの音楽を初めて聴いたのは、僕が十代の頃。プリンスが「自らの敬愛しているアーティスト」としてジョニの名を何度も挙げたことがきっかけだ。プリンスは15歳の時、ジョニのライヴを最前列で観て、ファンレターまで書いたらしい。プリンスが亡くなった今にして思えば、確かにどんな瞬間にも彼のキャリアの奥底にジョニの真実を貫く深い影が刻まれていたことがよくわかる。僕は、ジョニを聴く時、同時にプリンスも聴いている。素晴らしい音楽家とは、他者の記憶や感覚の中に他の優れた音楽家をも柔らかく包んでゆく存在だと、僕は思う。


「今こそ、JAZZ。的な?」



 



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個人的に「Stay Home」で、最も楽しい時間はジャズの巨人達が残した作品群に触れること。村上春樹さんの訳された『スタン・ゲッツ 音楽を生きる』や、和田誠さんとの共著『ポートレイト・イン・ジャズ』を読み、Netflixで『コルトレーンを追いかけて』『マイルス・デイビス:クールの誕生』などドキュメンタリーを見て……。結果的に時間が足りない(笑)。

僕がマイルスのアルバムを初めて手にしたのは、1986年、中学一年生の頃だ。当時僕が大好きだったスクリッティ・ポリッティの「パーフェクト・ウェイ」を彼がカヴァーしたのがきっかけだった。その後、そのアルバム「Tutu」は元々プリンスが共同プロデュースを行う予定だった、同じレーベル、ワーナーだからあり得ない話でもなかった、という噂を知り驚くわけだが……。当時、60歳。80年代半ばの「ポップ」に接近したマイルスの作品群は、この時代にしか生まれ得なかった「不思議な食感」が楽しい。

2020年の今、新たなジャズの入り口は広がっている。デューク・エリントン『エリントン '65』と、パット・メセニー『レター・フロム・ホーム』は、ここ数ヶ月自宅で繰り返し聴いた。


「ブルー・アイド・ソウル + α」



 


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あなたが最も好きな音楽は?と問われれば、「広義の意味でのブルー・アイド・ソウル」と答える。「青い瞳の」という言葉だけに注目し「白人が黒人音楽に憧れて奏でた」と限定するわけではでなく、あくまでも国と国、人種と人種、時代と時代、ジャンルとジャンルの境界線にある、いくつかの感性が入り混じった瑞々しいソウル・ミュージックという意味で。

「絶対的にとどかぬ憧れ」から生まれる音楽だけ持つ「ほのかな若さ」。その懐かしい生命の香りに触れることは、日本人の自分にしか鳴らせない音もあるはずだと、奮い立たせる希望をくれる。

ドナルド・フェイゲンやトッド・ラングレン、ジェイムス・テイラーは若かりし頃から、僕の心の琴線の一番響く場所にいるアーティスト達。「ブラス・ロック」と呼ばれた初期のシカゴは「ブルー・アイド・ソウル」の究極の形だろう。デヴィッド・ボウイの変貌と憑依の歴史をまとめたベスト盤、前回は「後編」を選んだので今回は「前編」で。

この流れの中でジョビンだけは「ブルー・アイド・ソウル」とは、呼べないかもしれない。ただ、彼が紡ぎ出す「瑞々しい痛み」の到達点は、いつも心のど真ん中にある。真の天才が奏でる、音楽という名の魔法。






【あとがき】
2年前、2018年に企画された「NONA REEVES 西寺郷太 Presents ハイレゾ "POP" 英雄伝説」はありがたいことに大好評だったようで、今年も選盤企画に誘っていただきました。その間、たった2年とは言え、世界の状況は大きく変わっています。特にこの春は、コンサートやライヴはもちろん、野球もサッカーも街で飲み歩くことも、もっと言えば子供達が学校に通うこともストップされてしまい、娯楽や社会生活のほとんどが制限されてしまいました。しばらくこの波は続くでしょう。

そんな中、我々に残された数少ない救いのひとつが、音楽を聴くこと。危機的状況で感覚が鋭敏になったせいでしょうか、まるで心と身体すべてがスポンジのようにサウンドを吸い込んだ十代の頃のように音楽に浸れているのは「コロナ禍」で得た、数少ない嬉しい動きの一つ。

このキャンペーンが、あらゆる世代のリスナーにとって忘れていた、新たな愉しみへのきっかけになってもらえたとすれば、それほど嬉しいことはありません。

ー西寺郷太(NONA REEVES)








西寺郷太 Gota Nishidera

Produce, Song Writing & Vocal

<プロデュース、作詞、作曲、ボーカル>

1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成したバンド『NONA REEVES』のシンガーであり、多くの楽曲で作詞・作曲も担当している。音楽プロデューサー、作詞・作曲家としては少年隊やSMAP、V6、KAT-TUN、岡村靖幸、中島美嘉などの多くの作品に携わる。また、ソロ・アーティスト、堂島孝平・藤井隆とのユニット「Smalll Boys」としても並行して活動。

そして、日本屈指の音楽研究家としても知られ、特にマイケル・ジャクソンをはじめとする80年代の洋楽に詳しく、これまでに数多くのライナーノーツを手がけ、近年では80年代音楽の伝承者として執筆した書籍の数々がベストセラーに。代表作に小説「噂のメロディー・メイカー」(扶桑社)、「プリンス論」(新潮新書)など。

テレビ・ラジオ出演、雑誌の連載などでも精力的に活動中。


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http://www.nonareeves.com/

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