ギター界の大黒柱、福田進一の通算100作目となる『バロック・クロニクルズ』

2020/04/25
ギター界の大黒柱とも言うべき存在であり、アルバムを出すごとにクラシック・ギターという楽器の多彩な魅力に気づかせてくれるマエストロ、福田進一が100枚目となるアルバムをリリースする。『バロック・クロニクルズ』と題されたその新譜は、イタリア、ドイツ、フランスを巡るバロック音楽の年代記。約10年にわたるバッハのレコーディングを終え、その周辺の作曲家たちにも手を伸ばしたくなったと語る福田が聴かせる新境地とは? メールでのインタビューにお応えいただいた。

インタヴュー・文:原典子



★伊~仏~独と伝播するバロックの名作で綴る、聴く「年代記」
バロック・クロニクルズ』/福田進一

 イタリア~フランス~ドイツと伝播するバロックの流れを追い、その名作で綴った、聴く「クロニクルズ(年代記)』撥弦楽器はもとより、鍵盤、声楽、管弦楽のために書かれた名作を、ギター1本で豊かに表現。作品それぞれの個性を描写する(編曲も含めて)卓越した技法は、福田進一ならではの際立ったもの。

【使用楽器】
Guitar: Jose Rubio (1966) & Jose Louis Romanillos (2014)
Strings: Savarez (Cantiga / Rouge)



■福田進一 スペシャル・インタヴュー

――福田さんにとってバロックのレパートリーはどのような存在ですか?

「今、私たちの弾いている現代のギター(モダン・ギター)は、19世紀以後に発明されたものであり、これでバロックを弾くということは、ピアニストが現代のピアノ(モダン・ピアノ)でバロックを弾いているのと基本的には同じことです。私はバロックを、より自在な音楽、アプローチの自由な音楽だと捉えています。ドビュッシーは“ギターは表情豊かなクラヴサン”だと言ったそうですが、私もそのように考えてモダン・ギターでバロックを弾くことを楽しんでいます。なぜバロック・ギターを使わないのかと訊かれれば、古楽奏者でないので弾けないからとしか答えようがありませんが、モダン・ギターなら鍵盤楽器、撥弦楽器、擦弦楽器など、どんな楽器の曲であってもリアライズ可能だと考えるからです」

――約10年の歳月をかけて行なわれたバッハのレコーディングを経てから、同時代の作曲家に目を向けることで、新たに見えてきたものはありますか?

「はい、バッハがいかに偉大か……あらゆる語法を吸収した途轍もない才能だということがよくわかりました。しかし、ヘンデルの高貴さ、スカルラッティの遊戯性、ヴァイスの歌心などなど、ここに収録した作品のどれもが愛おしく、これまたバッハと同じく貴重な音楽であることを再確認しました」

――ドメニコ・スカルラッティのソナタがアルバムの冒頭に3曲、最後に4曲収録されていますが、スカルラッティはギタリストにとってどのような作曲家なのでしょう?

「ナポリの音楽名家に生まれたスカルラッティですが、その活躍の場はポルトガル、スペインでした。よって、その作品はイベリア半島のリズムや和声、とくにギターのかき鳴らしから大きな影響を受けています。たとえば、有名なソナタ K.380のリズムはファンダンゴですし、K.9や、K.11の和声はどこかフラメンコを思わせます。全555曲のソナタを遺しましたが、私はそのうち100曲はギターで演奏可能だと思っています。まだまだ未知の領域で大きな可能性を秘めていますね」

――多くの曲は福田さんご自身の編曲によるものですが、どの曲も「ギター的な表現」を意識させない、とても自然な音楽になっているように感じます。編曲の過程では、アンドレス・セゴビアやジュリアン・ブリーム、レオ・ブローウェルら先達の編曲とあらためて向き合ったそうですが、そこで発見したことはありますか?

「今回のレコーディングは、先人の偉大な仕事を見直す良い機会でした。昔の人は素材をグッと自分たちの楽器、ギターの方に引き寄せ、手元に置いて同化してしまおうという発想です。それに対して私はもう、オリジナルそのものを弾いてしまおうという感じ。ですから、日本語ではどれも“編曲”と訳しますが、そこにある“アレンジ”と“トランスクリプション”の差異を認識し、演奏でも強調しています。私のやり方は“トランスクリプション”より、“アダプテーション”と言ったほうが良いかもしれません。バッハに取り組んだときもそのスタンスでしたが、私は“まるでギター曲みたいだ”と言われるのと、“まるで原曲みたいだ”と言われるのと、その両方を実現したいのです」

――福田さんにとって今作が100枚目のアルバムとのことですが、振り返ってみていかがでしょうか。ライヴとは違う、レコーディングならではの醍醐味はどんなところにありますか?

「まわりから言われ、気がつくと総リリース数が今作で100枚となり、自分でも驚いています。やりたいことをやり続けていたら、いつの間にかこうなった、としか言えないのですが。振り返ってリストを見ると壮観です。
ギターという楽器は、ライヴの環境によって非常に大きく音響が変化します。1,000人を超えるホールではほとんど蚊の鳴くような音で、現代の聴衆を満足させることはできません。自分の楽器から出る音でホールを満たすという感覚は滅多に得られないのです。かといって小さな会場では周りが気になって集中できない。ですから私にとってレコーディングはとても大事な演奏活動のひとつです」




――レコーディングに使われた2本のギター(ホセ・ルビオとホセ・ルイス・ロマニリョス)についてお教えください。それぞれどういった用途で弾き分けたのでしょうか?

「ルビオは、1966年にニューヨークで作られたうちの1本で、同じ年に作られたもう1本を使ってブリームがブリテンの《ノクターナル》を世界初録音したことでも話題となった楽器です。この楽器はもう十分に枯れており、スッキリとした分離の良い明るい音響。スカルラッティ、フレスコバルディ、フローベルガーに使用しました。
ロマニリョスもブリームによって見出された製作家ですが、こちらは2014年の作品で新しく、最近ようやく鳴りはじめた感じです。印象派風の多彩な音色で、クープランやラモーなどフランスものに使用しました。両方とも非常によく似た傾向の音色なので、かなりギターを知っている人でないと聴いただけでは区別はつかないと思います」

――マイスターミュージックならではの、超高性能マイクロフォンを使ったワンポイント録音で収録された音は、どのような点が特別だと感じますか?

「ここ2年くらいで、384KHz/24bitのハイレゾを基本として収録されるようになり、以前より臨場感が増し、ライヴ的な感覚で聴けるようになったと思います。横浜みなとみらいホールの雰囲気や空間、とくに奥行きまで聞こえる気がします。
ギターの音で言えば、左指が指板の上を移動する時に出る“ヒュッ”という弦を擦る音。これは現代のクラシック・ギター奏法では極力減らすように教育されるのですが、そういう雑音とみなされてきた音は、本当にミクロな部分では絶対に消すことは不可能なんですね。もちろん、それだからギターは味のある楽器なわけです。しかし、これまでのデジタル録音では、ときとしてその雑音が刺々しく、高域が強調されて不快に感じられました。それが384KHz/24bitになると、じつに自然。雑音が楽音に聞こえるのです。おそらく、この弦を擦る音はかなりの高次倍音を含んでいると思いますが、それが自然に楽音の中に溶け込んでくれます。また、それと同様に、右指の弦を弾く位置によって私たちが自然に調節している音色の変化、これも384KHz/24bitは見事にとらえてくれます。私が思い浮かべたのとほぼ同じ音が再生されること、これほどの喜びはありません」


★レコーディングのポイントに関して、マイスターミュージックの平井義也さんにもコメントをいただいた。

撥弦楽器であるギターは、細かく振動する弦から発せられる音の連なりや和音をバランス良くとらえなければならないため、録音エンジニア泣かせの楽器です。実音で3オクターブ半、ハーモニクスを入れると5オクターブに及ぶ音域がもっともきれいに響くポイントは、作品や調性によりさまざまに変わります。そのため、ホールトーンと楽器の響きがベストになるよう、曲ごとに、マイクロフォンの指向性と楽器までの距離、反響板の位置を微妙に変えながらレコーディングする必要があります。384KHzでは、細かなニュアンスまでとらえるため、セッティングが大変シビアですが、そのかわり、通常は聞こえ難いハーモニクスや倍音が見事に載った立体的な音場感が再現されます。
また、自然倍音の録音はワンポイントがもっとも有効なため、384KHzとワンポイント・レコーディングの組み合わせは、アコースティックを録音するうえで最適だと思われます(平井)

――最後に、このアルバムのリスナーの皆さんにメッセージを。

「このような最高機材と、一流コンサートホールを使用した贅沢なレコーディング活動を何年もコンスタントに続けている私のような幸せな音楽家は世界中にそんなにいないのではないかと感謝しています。その中でも、今回のアルバムはとくにユニークな1枚となったと自負していますので、楽しんでいただければ幸いです」

――貴重なお話、大変ありがとうございました。





■同時配信中!ワンポイント録音の魅力を凝縮したオリジナル・コンピレーション


◆ ハイ・レゾの最大の特徴である「倍音」を最もピュアな状態で唯一録 らえることの出来るワン・ポイント・レコー ディングによる、Hi-Res 384KHzの音源よりクラシックの名曲をセレクト。
◆ マイクロ・フォンは世界に数十ペアしかない、真空管と特殊な銅を使用したオール・ハンド・メイドの「ゲアール・ マイク(周波数帯域:8Hz- 200KHz)」を使用。
◆ オーケストラからギター1本のソロまで、個々のキャラクター際立つ様々な響きが楽しめる。
◆音楽専用ホールでの伸びやかなサウンドは、最初に、楽器本来のしっとりとした落ち着いた響きを感じ、や がて聴き込む程に(ハイレゾの聴感に慣れて来ると)、更なる響きの奥行きとリアルさを体感できます。




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