【インタビュー】実力派ピアニスト福間洸太朗、生誕250年を迎えるベートーヴェンのピアノ・ソナタ集をリリース!

2020/04/17
ハイレゾ・ファンの間でも話題になった瀟洒なフランス音楽集『France Romance』、映画『蜜蜂と遠雷』でのピアノ演奏、サントリーホールでのピアノ・リサイタルの大成功……昨年の音楽シーンを大いに賑わせ、日本を代表する実力派ピアニストのひとりとして脚光を浴びている福間洸太朗。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの生誕250年である本年、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ3作品を演奏したニューアルバムがリリースされました。4月29日のCDリリースより一足早く、配信先行にてお届けいたします。


ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」/第24番「テレーゼ」/第32番
福間洸太朗(ピアノ)
Naxos Japanレーベル
24bit/96kHz









■収録曲『テンペスト 第3楽章』




多彩なレパートリーと、独自の着眼点が光るプログラミングにも定評がある福間洸太朗。今回はどのような思いでこの3つのソナタを選び、レコーディングに挑んだのでしょうか。リリースを控えた4月上旬、メールでのインタビューを行いました。すでに10タイトルを超える録音を経験しているピアニストならではの「レコーディングのこだわり」についても、たっぷりと語られています。ぜひお読みください。






福間洸太朗(ふくまこうたろう)

都立武蔵高等学校卒業後、パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学、コモ湖国際ピアノアカデミーにて学ぶ。20歳でクリーヴランド国際 ピアノコンクール優勝(日本人初)およびショパン賞受賞。

これまでにカーネギーホール、リンカーン・センター、ウィグモア・ホール、ベルリン・コンツェルトハウス、サル・ガヴォー、サントリーホールなどでリサイタルを開催する他、クリーヴランド管、モスクワ・フィル、イスラエル・フィル、フィンランド放送響、ドレスデン・フィル、トーンキュンストラー管、 NHK 交響楽団など国内外の著名オーケストラとの共演も多数。2016年7月にはネルソン・フレイレの代役として急遽、トゥールーズ・キャピ ル国立管弦楽団定期演奏会において、トゥガン・ソヒエフの指揮でブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏し喝采を浴びた。

またフィギュア・スケートの羽生結弦やステファン・ランビエルなどの一流スケーターとのコラボレーションや、パリにてパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、マチュー・ガニオとも共演するなど幅広い活躍を展開。

アルバムは「France Romance」(Naxos)などこれまでに15タイトル以上をリリース。テレビ朝日系「徹子の部屋」や「題名のない音楽会」、NHKFM などにも出演。第39回日本ショパン協会賞受賞。現在ベルリン在住。

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-- 今回のアルバムは、2015年に福間さんが始めたコンサート・シリーズ「三大楽聖のキセキ」で取り上げた 『ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」』と『ピアノ・ソナタ第32番』を軸に置いたと伺っています。同シリーズでこの2つのソナタを選ばれたそもそもの理由、そして今回これらをレコーディングしたいと考えた理由を教えてください。

福間洸太朗(以下、福間)-- 「キセキ」シリーズは、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの三大楽聖に焦点を当てており、第3回で人生の転機に書かれた作品、最終回でラスト・ソナタ(『第32番』)を取り上げました。『テンペスト』は、「ハイリゲンシュタットの遺書」(ベートーヴェンが難聴の悩みを記した手紙)を書く直前の作品で、ベートーヴェンが友人に「私は今までの作品に満足していない。今後は新しい道を進むつもりだ」と言ったことから、第3回で演奏しました。このシリーズを終え、ベートーヴェンイヤーを迎えるにあたって、このタイミングでこれら2つのソナタを録音したいという強い気持ちが生まれました。


■福間洸太朗による『テンペスト』作品解説(YouTube)




-- その2つをはさむ形で置かれた『ピアノ・ソナタ第24番「テレーゼ」』はどういう作品ですか?

福間-- 『テレーゼ』は、有名な『熱情』の次に書かれたピアノ・ソナタですが、前作までの英雄物語のような苦悩から歓喜へと向かう構成からは逸脱しています。嬰ヘ長調という珍しい調性で、ベートーヴェンの親密な優しさ、愛情、そして第2楽章では茶目っ気などが伺える作品です。献呈されたテレーゼ・ヴォン・ブルンスヴィク嬢は、ベートーヴェンの元ピアノの生徒でしたが、ベートーヴェンは彼女の妹ヨゼフィーネに想いを寄せていたようで、彼女への恋心をこの作品に託していたのかもしれません。演奏時間10分足らずの、小型ではありますが、重要なソナタといえます。



2019年4月13日、サントリーホールにて


●数年前に発見した「自分に合った録音の進め方」とは……?

-- レコーディング会場のワイヤストーン・コンサート・ホールはどのような場所でしたか。

福間-- イギリス・ウェールズ州の片田舎にあり、あまりコンサートには使われていないホールと聞いていましたが、音響は本当に素晴らしかったと思います。また、空気が澄んでいて、近くの散歩道では鹿の群れがいたり、のどかな風景に癒されました。

-- レコーディングにあたって、エンジニアやディレクターからは具体的な指示はありましたか。

福間-- 今回、録音エンジニアとディレクターはどちらもMichael Ponderさんが務めましたが、とても穏やかで優しく、でも音のミスなどは的確に聞きとってくださったので、その点安心できました。ただ、音楽的な部分ではあまり注文がなかったので(テンポが前回のテイクより遅くなっているという指示はありましたが)、自分でかなり意識を高く持って集中する必要はありました。

-- レコーディングは2019年10月28日から30日の3日間にわたって行われています。どのような進行でしたか。 

福間-- 私は、数年前に自分にあった録音の進め方というのを発見して以来、いつもそれを実行しています。まず初日に音(サウンドバランス)決めしたあと、プログラム全部を1回録ります。そのテイクを聴いて改善点を楽譜に書き込んで、その曲のテイク2を録ると効率が良いことが分かりました。アルバム収録順ではなく、弾きやすいものから始め、環境に慣れてきたころに大曲、難曲を弾きます。一通り録ったあと、休憩し、また弾きやすいもの(ただしアルバムのトラック1ではないもの)から録り始めます。時間を見て余裕があれば、他の曲も録りますが、大曲、難曲は大体2日目に回します。それは、初日は環境になれるのに少し時間がかかるのと、ある程度ストレスを抱えているため、難曲を弾くと硬くなる傾向があるからです。

2日目にたっぷり時間を割いて、難曲を録ってしまったら、後は体力・残された時間を見ながら残りのものを録り、できなかったものを最終日に録音します。トラック1に来るものはなるべく良い音で録りたいので、2日目午後や最終日に録ることが多いですね。

今回はサウンド決めが早く終わり、予想よりスムーズに進行したので、2日間で収録曲すべてを録り終わり、最終日は気になったものを部分的に録り直すだけでした。残った時間は、テイクバックを聴いて、第1編集用にセレクトする作業をエンジニアとやりました。テンペスト全楽章とラストソナタの第2楽章途中まで作業できたので、その後の編集もかなり時間を短縮できたように思います。

-- 順調なレコーディングだったようですが、思いがけない出来事などはありましたか。

福間-- ハプニングという程ではありませんが、会場の暖房があまり効かず、演奏していても寒かったので、腰から毛布にくるまって録音しました(笑)。




-- レコーディング後、編集された音を聴いてみてどんな印象を持たれましたか。

福間-- これはいつも思うことなのですが、録音を聴く機器、スピーカー、イヤフォン/ヘッドフォンによっても印象がかなり違いますね。でも、私が拘った音の奥行きは十分にあると思いました。『テンペスト』や『第32番』にはどうしても必要だと思います。弱音でもintensity(密度)のある音があったのは、嬉しかったです。 


●いま、ベートーヴェンの生き様から学びたいこと

-- いま、世界規模でアーティストの演奏活動が危機に瀕しています。福間さんのファンの方、ベートーヴェン・ファンの方、そして音楽を愛する方に向けて、いまの想いをお聴かせいただければ幸いです。

福間-- これを書いている今日(4月7日)、日本政府から緊急事態宣言が発表されました。新型コロナウィルス感染のパンデミックで、不安な日々が続きます。楽しみにしていた演奏会やイベントが続々と中止・延期される中、普段当たり前にできていたことの幸せを再確認しているのは私だけではないと思います。また、自分の行動を慎むだけで感染の拡大を減らせることが叫ばれ、周りの人に対する配慮や思いやりを持つことの大切さを実感させられます。私自身のことで言えば、殆どの公演主催者が、中止ではなく延期にしようと動いてくださったことにも心から感謝しています。既に私は気持ちを切り替え、この状況で自分にできることを考え、行動に移すようにしています。

今年の書き初めの言葉に、私は「忍耐」と「勇気」を選びました。私がベートーヴェンの人生で一番尊敬しているこの2点こそが、いま世界に求められているように思います。私にとっての「忍耐」は「自粛すること」、「勇気」は「感染拡大しない方法で、新しく何かを始めること」だと考えています。




ベートーヴェンも数多の苦難と闘いながら、芸術家としての人生を全うし、40分を越える長大なソナタを書いたり、交響曲に合唱を付けるなど、クラシック音楽史上において重要な革新を行いました。私たちは、ベートーヴェンの生き様からたくさんのことを学べると思います。『歓喜の歌』の中で「すべての人が兄弟となる」と言っているように、音楽を通して人々が「私は一人ではない」という想いを持ち、皆でこの世界を少しでも良い方向へ持っていく、それが私の願いです。



「そのときならではの解釈や表現を届けたい」とつねづね語っている福間洸太朗。この生誕250年のシーズンにベートーヴェンを録音したこと、そして厳しい社会状況のなかでそれを世に送り出すことについても、さまざまな想いを抱いているようです。

 自宅で長い時間を過ごす人も多い今日この頃。ベートーヴェン作品に対する緻密な解釈や豊かな音の表情を堪能できるこの最新録音を、ぜひじっくりとお愉しみください。昨年リリースの「France Romance」との雰囲気やタッチの違いを味わうのもオススメです。



○オンラインリリースイベント開催決定!
4月29日  詳しい情報は追ってこちらに掲載されます。



○福間洸太朗の近年の録音


『映画「蜜蜂と遠雷」 ~ 福間洸太朗 plays 高島明石[digital version]』




『France Romance』


インタヴュー記事→




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