【3/19更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2020/03/19
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
シンディ・ローパー『シーズ・ソー・アンユージュアル』
ペラッペラで大嫌いだった80年代前半のポップ・ミュージックのなか、例外的に大好きだった作品

前回、かつて僕が立ち上げた“Juicy”というカテゴリーについて触れましたが、その当初の目的は、1980年代R&Bを再評価することでした。80年代のR&Bはマニア受けが悪いのですが、「でも、いいものもあるよ」ということを伝えたかったわけです。

おかげさまでそれなりの評価を得ることができましたし、いまでも評価してくれる方がいらっしゃるので、ただただ感謝しかありません。

とはいえ、あの時代のR&Bをコンパイルしたからといって、必ずしも80年代のすべてを肯定しているわけではないのです。

それどころかむしろ、自分の人生という観点から80年代を振り返ると、(とくに前半は)嫌な思い出のほうが多かったりもします。

当時はニュー・ウェイヴという破壊的かつ退廃的、そして創造的なムーヴメントにどっぷりハマッていたので、そういうことも少なからず影響しているとは思います。しかし、いずれにしても、音楽を含むすべてのカルチャーに通じる極彩色でペラペラした感じが耐えられなかったということ。

しかも20代前半だったそのころは、なにをやってもうまくいかなかった時期でもありました。いろいろな意味で諦め、折れかけていたので、すべてが否定的にしか思えなかったわけです。

ですから80年代のことを思い出すと、必然的に“ダメな自分”を思い出してしまうんですよねー。そんな影響もあってか、80年代前半のポップ・チャートに入っていたような音楽はほとんどが苦手だったのでした。

友だちに無理やり連れて行かれた歌舞伎町のディスコで、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの“リラックス”とかケニー・ロギンスの“フットルース”などがかかったりすると(しかもみんなが盛り上がっていたりすると)、すーんと心が冷めていったりもしたよなー。

と、文章にしてしまうと、屈折しまくって厄介で、なんとも寂しい青春って感じですけれど。

けれどそんななか、例外的に共感できたのがシンディ・ローパーでした。社会全体が軽薄の極みだった1983年に彼女がリリースしたファースト・アルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』は、あの時代の空気感をうまい具合に活用した作品だと感じたからです。

なーんて、理屈っぽく考えていたわけではありませんが、ファースト・シングルの“ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン”から、のちに多くのアーティストにカヴァーされることになるバラード“タイム・アフター・タイム”まで、純粋に“いい曲”がたくさん入っていましたからね。

ところで当初、日本盤には『ハイスクールはダンステリア』とかいう超絶意味不明なタイトルがつけられていました。わけわかんないですね。

でも「彼女はマジ普通じゃない」ってな意味合いの原題は、シンディ・ローパーというアーティストのキャラクターをうまいこと言い表していたように思います。ひとことでいえば、きわめてエキセントリックなキャラクターでしたからね。

ただ僕は、あれはよそ行きの“仮の姿”だろうなと感じていました。ぶっちゃけ、実はすごく暗い子なんじゃないかと。

自分自身が暗かったあの時代は、つきあう女の子も暗い子ばっかりだったので(類は友を呼ぶってやつやな)、そういうタイプの子を見分ける嗅覚があったのかもしれません。もしくはそう感じていただけで、単なる勘違いだったのかもしれません。

でも、いずれにしても僕にとっての「正しい80年代」だったシンディ・ローパーについては、なんとなく感覚的に共感できたのです。もちろん、そんなのは勝手な推測にすぎないのですけれど、それでもなんだか「わかる気がする」のです。それだけの話ですが。

それに改めて聴きなおしてみると、これは非常にていねいにつくり込まれた作品だということがよくわかります。

彼女のキャラクターやヴォーカル・スキルもさることながら、曲の完成度も高いし、サウンド・プロダクションにも、80年代のテイストをうまく活用した印象があるので。

つまり、アーティストとスタッフ全員の想いがひとつひとつの楽曲に込められているということ。だからこそ、いま聴いても充分に説得力を感じさせるのでしょう。



『シーズ・ソー・アンユージュアル』
CYNDI LAUPER



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印南敦史 プロフィール

 

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」

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