ASKA、渾身のニューアルバム『Breath of Bless』を語る

2020/03/06
昨年11月に10年ぶりのシングルCD「歌になりたい/Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ~」をリリースし、e-onkyo musicでは同シングルのハイレゾと通常音源(CD音質)を同価格で同時配信するという初の試みを成し遂げたASKAさん。このシングルを含む全15曲を収録したニューアルバム『Breath of Bless』がハイレゾで先行発売に! e-onkyo musicでは早速ご本人へのインタビューを敢行。新作のことはもちろん、作詞からボーカルスタイル、そしてアレンジのポイントなど、ASKAさんの音楽が出来上がるまでのあれこれを自由に語っていただきました。

 

取材・文◎山本 昇


★3月20日のCD発売に先駆けて先行配信スタート!
『Breath of Bless』/ASKA




ASKA スペシャル・インタヴュー

■アルバムはあえてノーコンセプト

-- このところの着実なリリースに、ASKAさんの旺盛な創作意欲を感じます。

 そうですね。曲はいくらでもできるという気持ちです。時間があればあるだけ、楽曲制作を続けていられます。

-- そうした気持ちや体力を維持するために心掛けていることはありますか。昔は剣道をやっていらっしゃいましたよね。

 剣道はまた再開しましてね。ライブの前に稽古に行くと、周りからは心配されますが、“体幹” が鍛えられるので身体のウォーミングアップにもなるんです。

-- では早速、ニューアルバムについて伺います。フォーク、ポップス、パワーロック、エレクトロニカ、そしてクラシックまで、実に多彩なバリエーションを持つ『Breath of Bless』は、現代の生き辛さや未来への不安感といった状況設定も印象的ですが、その一方、優しげな感触のノスタルジーも用意されているようで……。曲それぞれが一遍の映画を思わせるようなメッセージを持ったアルバムと感じました。全体を貫くテーマやアルバムとしてのコンセプトについて、作者としてのお考えがありましたらお聞かせください。

 アルバムについて、僕にはテーマもコンセプトもないんですよ。その昔、アナログレコードの時代に「ジャケ買い」という言葉をよく耳にしていました。ジャケットに釣られてアルバムを買ってみて、その1枚の中に1~2曲でもいいと思える曲があれば「当たり」だと。僕はこの感覚に当時から否定的でした。作り手として、例えば10曲の中でいい曲が1~2曲しかなくて「当たり」と思われるのは情けない。本来は10曲全部がいいと感じてもらわないと気が済まないはずでしょう。そこで僕はある時期から、アルバムとしてのテーマは設定していません。ただ、聴いてもらった楽曲全部が「いいね」って言われるものであってほしい。そのためだけにアルバムを作っています。この方針はこれからもずっと変わらないと思います。

-- 丹精込めて作ったシングルの集合体がアルバムだということですね。

 そのつもりです。僕は自分の持ち味はバリエーションだと思っていますから。


■ファンとの幸せなキャッチボール

-- 『Breath of Bless』には、e-onkyo musicで2018年の3月から8月にかけて月代わりにリリースされた6曲(「虹の花」「未来の人よ」「修羅を行く」「イイ天気」「憲兵も王様も居ない城」「星は何でも知っている」)が収録されています。ハイレゾでのシングルリリースという発表の仕方には、どんな手応えがありましたか。

 昔は作品を世に出しても、フィードバックに時間がかかりましたよね。聴いてくれた方からいただくお手紙だったり、ラジオのパーソナリティのコメントだったり。しかもパーソナリティの方たちはなかなか本心を語らないから、その心の内を読む必要があったり(笑)。でも今は、例えば午後11時に配信を開始すると、その10分後にはコメントが返ってきます。僕は音楽のプロモーションも、旧態依然としたやり方を続けるのは無意味だと感じていて、このようにすぐにリアクションが返ってくるようなネットの仕組みはもっと活用すべきだと思います。
 e-onkyo musicでの一昨年の連続リリースも、曲ごとの反応を見るのが面白かったですね。こちらとしても、「次はこうくるだろう」と予想されるところを「あえて別のコースから球を投げてみよう」とかね。そんなことを楽しませてもらった半年間でした。

-- リスナーの方たちとのいいキャッチボールがあったというわけですね。しかもそれが、ハイレゾでなされたことも特筆すべきですが、ASKAさんのファンの皆さんは、そのあたりをどう受け止めていたのでしょうか。

 日本の中ではおそらく、ハイレゾで聴いてくれる方の割合は僕のリスナーが一番高いのではないでしょうか。まぁ、僕ほどハイレゾを推奨しているアーティストさんもいないと思いますのでね。それくらいハイレゾは素晴らしいですから。

-- そのメリットはリスナーにもしっかり伝わっていると。

 音の深みや温かさというものがハイレゾによってどう表現されるか。作った本人はそのポイントも分かっているから違いもよく分かるのですが、一般の方々にはどうかなと当初は思っていたんです。でも、ブログなどでみんなのコメントを読んでみると、「ハイレゾを一度聴いてしまうと、戻れない」という声がすごく多かったんです。誰でも明確に分かるんだなと思いました。

-- 好みの音楽をいい音で聴く喜びが広まるのは嬉しいことですね。

 音質にこだわらなければ、ストリーミングで大量の曲が聴き放題になっています。それで満足するならそれもいいでしょう。でも一方で、ものすごくいい環境でいい音を楽しむことに喜びを感じることも大切だと思うんです。


■作詞をする際に心掛けていること

-- 印象に残る歌詞もASKAさんの歌の特徴です。不躾な質問かもしれませんが、その「言葉の感覚」はどのようにして培われたのでしょうか。

 歌詞については自分で語ることではないと思っているんですが、そのうえであえてお話しさせてもらうとすれば、とても普通に当たり前の言葉で伝えるべきだと思っています。そして、ここで使っちゃいけない言葉というものとの区別は意識しているつもりで、例えば「ここは比喩でいくべきだ」と思えば必ずそうします。その意図について、リスナーが「あ、そうか」とあとで気付いてくれればいいことですし、気が付かなくてもそれはそれでかまいません。聴いてくれる方の受け取り方によって楽曲がイメージされれば、僕はそれで十分だと思っています。

-- ありがとうございます。歌詞について、不作法ついでにもう一つ伺わせてください。「未来の人よ」の歌詞には鋭い問題提起と言いますか、哲学的なテーマを感じました。この歌詞が投げかけている大きな問いはどこから来たのでしょう。

 現在を生きている人にとっては、過去も未来もロマンだと思うんですよ。なぜならば、現在は常に過酷だから。もちろん「古の人」が迎えていた“現在”も過酷だったことでしょう。今の自分の現実を見て、過去に対して想いを馳せることにロマンがあるわけです。そして同時に、今の現実を生きているからこそ、未来に対してもロマンを持てる。曲の中では「どちらに浪漫を感じればいい?」と歌っていますけれど、自分の中では、両方がロマンなんです。ロマンは現代人が感じればいいことで、そのときそのときの瞬間が生み出すものがロマンだと思っています。

-- そんな現代に生きる者が、未来の人に渡せる一番大事なものは何だと思いますか。

 さて、どうでしょうね……。ありふれた言い方かもしれませんが、これ以上ない答は「すべてに向けての愛」だと思います。「愛がすべて」と、たくさんの人たちが歌ってきました。僕もそのフレーズを歌っていた時代がありましたけれど、「本当にそうだな」と気付くことが出来て、幸せだなと思っています。
 かつてスターダスト☆レビューの根本要と一緒に書いた曲に「デェラ・シエラ・ム」(2003年)というのがありました。未来の人が、地球のことを語るときに、「昔は“愛”と呼ばれる星があってね。それがこの星なんだよ」と。そう言われる時代が来るかもしれないという想いを込めて書いたものです。

-- ASKAさんの歌に励まされ、背中を押されたという想いを抱くリスナーの多さにはいつも驚いています。

 聴いてくれた方が結果的に「背中を押された」と感じてくれるのはとても嬉しいのですが、僕が曲を作るときに最も気を付けているのは、作者として意識的にそういう楽曲は作るまいということ。つまり、聴き手に元気を呼びかけないことなんです。聴いてくれる方をこの曲で元気付けようとか、この歌に何かを見出してほしいとか。そこは絶対に触れてはいけないゾーンだと思っています。もちろん、それを意図的に書いて達成される方もいらっしゃるので、一概に否定するわけではないですよ。でも、僕にはそれができません。自分がそこをくぐり抜ける様だとか、今の僕やこれからの僕を歌うことで、聴いてくれた方がその歌と同化したり、どこかに敏感になったりしてくれるなら、それは作り手として本当に幸せなことですね。だから、今までに歌詞として「頑張れ」という言葉を使ったことはないんです。

-- 確かに“応援歌”ではないけれど、結果的にそのほうが“伝わる”という。そこがASKAさんの歌の強さでもあるのでしょう。


■独特のボーカルスタイルと録音に対するこだわり

-- そして、独特の歌の節回しも、聴けばASKAさんとすぐに分かるものです。例えば本作の「どうしたの?」では、言葉の前後に「あ」「い」「ん」などの音を挿むことで、歌の表情が変化していますね。こうした歌唱法はどのように確立されていったのでしょうか。

 例えば「ソー」「ユー」「ナイ」といった言葉を使うことでメロディが柔らかくなるんですね。「~い」よりも「~いゆう」と歌う方が柔らかく聞こえる。また、言葉としては訓読みよりも、音読みの方がメロディには乗りやすいですね。デビューしてわりとすぐだったんですが、それに気付いてからは歌詞がメロディに合うようになりました。僕の楽曲ではあえてそういう言葉の乗せ方をしています。

-- なるほど。ASKAさんがボーカリストとして、歌に含まれる細かな要素を実に巧みにコントロールされているのは本当によく分かります。

 いや、本人はそんなにコントロールしているつもりはないんですが、僕の声は「倍音が多い」とはよく言われます。そういう特性もあって、気持ちよく聴いていただけているのかなとは思っています。もって生まれたものだとしたら、ありがたいことですね。

-- 録音では、マイクなどに対するこだわりはありますか。

 今はドイツ製のTELEFUNKEN ELA M260というビンテージのコンデンサー・マイクを使っています。すごく僕の声に合っていて、ボーカル録りになくてはならない強力なアイテムとなっています。なにしろ、マイクは音楽の入り口ですから、しっかりしたものを使いたいと思っています。

-- その他、レコーディング機材について、こだわりをもって使っているものはありますか。

 録音のスペックは大事なところで、サンプリング周波数が44.1kHzと96kHzの違いは本当に大きいですから、やはりレコーディングは必ずハイレゾで行うべきだと思います。音の密度が全然違いますからね。

-- そのクオリティを、聴き手がそのまま受け取ることができる時代です。

 僕がハイレゾを推奨しているのは、レコーディングであれだけ細かな音の一つひとつにこだわって仕上げたものをそのまま聴いてほしいから。それだけなんですよ。だからこそ僕は、配信において通常のクオリティの音源とハイレゾ音源で垣根を作らず、同価格で提供しているんです。


■ASKA流アレンジの勘所とは?

-- このアルバムの曲作りで、何か印象深いエピソードがありましたらぜひご紹介ください。

 そうですねぇ。今回は1曲だけ、自分用に作ったものではない歌が入っています。「忘れ物はあったかい」は、元々は提供曲として作ったものが頓挫してしまっていたんですが、自分でも歌いたかった曲だったんですよ。

-- そうでしたか。こうしてアルバムの中で聴くと、ASKAさんの歌以外のなにものでもないという印象です。それにしても、各曲のアレンジも実にバラエティに富んでいますね。今回もアレンジはご自身で行われたのですか。

 はい。アレンジの聴かせどころはいろいろあると思いますが、僕は特にコード進行が大事だと思っています。どれだけショッキングな展開を持ってこようと、コード進行がそれについて行かなければ、ハッとするような魅力は生まれないと思っているんです。だから、僕のアレンジの胆はすべて、コード進行が鍵になっていると言えます。

-- キーボードでの曲作りが長いASKAさんですが、今回は1曲、久々にギターで作ったものがあるそうですね。

 「イイ天気」ですね。この曲は、フェンダー・ジャパンさんに声をかけていただいてギターを見に行ったら、すごく気に入ったアコースティック・ギターがあったんです。その場で「よし、久々にギターで曲を作ろう」と宣言して、実際に作ったのがこの曲です。

-- では最後に、e-onkyo musicのリスナーへ向けてメッセージがございましたらお願いします。

 e-onkyo musicさんがこれまでハイレゾに力を入れてきてくれたから、僕の耳にも届き、ここで作品をリリースさせてもらうことができています。とにかくハイレゾは素晴らしいものです。e-onkyo musicさんにはこれからも旗を振って、よりダウンロードをしやすくするなどしてハイレゾ・ファンを呼び込んでいただきたいですね。
 そして、リスナーの皆さんへのメッセージとしては、毎回「過去最高」という言葉を使わせてもらっていますが、この『Breath of Bless』には渾身の15曲が収録されています。僕の新作は、1995年のアルバム『NEVER END』と比べられることがしばしばなのですが、今回、作り手、聴き手が同じように『NEVER END』を超えたと言い合えるアルバムになったと感じています。読者の皆さんにはぜひ、『Breath of Bless』をハイレゾで楽しんでいただきたいと思います。

-- ありがとうございました。








  • ■ASKA - 歌になりたい (Official Music Video)
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