連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第78回

2020/02/28
『From This Place』 Pat Metheny
~巨匠テッド・ジェンセン氏のマスタリングが冴える!~

■高音質なハイレゾ音源の当たり月!


太鼓判ハイレゾ音源の選定は、新譜の出揃う月末あたりに行っています。発売済みハイレゾ音源タイトルに多くのお宝が潜んでいるのはもちろんですが、できるだけ本連載では新譜を取り上げたいという個人的な方針です。

2020年2月末の太鼓判ハイレゾ音源選定は嬉しい悲鳴。魅力的なサウンドの作品が豊作状態です。このところ「今月の連載は降参しようかな?」と選定に悩まされることが多かったので、候補作品が多いのには幸せを感じます。

選定作業は意外とスピーディーです。本連載の趣旨は、いかにハイレゾ音源として楽しめるか。つまり、CD規格時代では体験できなかったような、目の覚めるような高音質サウンドを聴きたい! そんな強い欲求から音源を選んでいますので、その作品が持つ音楽的な深みや背景といった評論的内容はノータッチで進めています。

音で具体的にチェックしているのは、まずはサウンド・ステージの広がり。これはスピーカー試聴でチェックしています。スピーカーの外側までグワッと音像が広がるかどうか。5年もの長期連載でハイレゾ音源をチェックし続けていると、このスピーカー外側へ音楽が広がる感覚が第一ハードルであることに間違いないと確信できるようになりました。

第2チェックは、音像の立体表現。前後左右の音楽立体情報が記録されているかはもちろん、太鼓判ハイレゾ音源選定に重要なのは音の前後方向への情報です。音楽が後方のみへ広がることを良しとするオーディオ評論がありますが、これは真実ではありません。後ろ方向だけでなく、前方へも綺麗に音が展開するかどうか。少し難しい表現になりますが、位相が鍵を握っています。位相という音楽の立体情報は、訓練すると認識できるようになる感覚です。私は位相表現が良い音源では、音像が美しい卵型に見えます。1998年より音の仕事に没頭していると、位相が目で見えるように聴こえるようになりました。逆に位相表現がよろしくない状況のときは、この卵型がいびつに見えます(=例えばお米のカタチのように)ので、耳で確認しながらも目で見ているように正確にチェックできるというわけです。

そういった手法で選定している太鼓判ハイレゾ音源ですが、今月は課した難関を楽々と飛び抜けてくる強者音源が多数。その中でも他を圧倒するほど、いや歴代の太鼓判ハイレゾ音源の中でもナンバーワンを狙えるほどの超絶サウンドに出会いました!


■凄まじい高音質だ! と思ったら、やっぱり巨匠テッド・ジェンセン! 

 
誰が聴いても、瞬時に「こりゃイイ音だ!」と感じるであろう太鼓判ハイレゾです!



全ての楽器の音が活き活きとしているのが最高! ギターの弦がピッキングにより振動する様が見えるよう。ドラムのヘッドが震え、シンバルは真鍮の輝きを放つ。ベースは唸りを上げてボトムを支える。パーカッションなどの散りばめられた効果音の細やかさは、まるで宝箱の宝石をひっくり返したようにキラキラと乱舞する。ストリングスは魂を揺さぶるように、優しく語りかけてくる。歌声は、どこまでも天空へ伸びていく。全てのオーディオ的音楽再現の快感が、ここに集結していると確信しました!

この奇跡的な高音質は、いったい誰の手腕で誕生したのか? 制作クレジットを確認せずにおれません。調べてみると納得。やはり見つけました、マスタリング・エンジニアにテッド・ジェンセン氏の名を。

マスタリングで全ての音質が決まるなどと言うつもりは毛頭ありません。しかし、巨匠テッド・ジェンセン氏が、演奏から録音、ミックスと繋がってきたミュージシャンや各エンジニアからのパスを受け、見事にゴールを決めたのは間違いありません。

私はテッド・ジェンセン氏のマスタリングに夢中だった時期があります。1980年代から2000年くらいまでのテッド氏の生み出すサウンドは、圧倒的だったのではないでしょうか。テッド・ジェンセン氏といえば、イコールで高音質盤というイメージがありました。ここ10年位は、テッド氏のマスタリングだからといって全て手放しで絶賛とはいえないと、私はファンだけに感じています。少し高域にザラザラした感触があったというか・・・。

しかし! 本作で聴けるサウンドからは、まさに全盛期の、いやそれ以上に神がかった高音質が楽しめました。いったいどうやったら、こんな音に仕上げられるのか・・・少しでもマスタリングという作業を体験したことのある人なら、真似すらできぬ神業にひれ伏すばかりだと思います。

唯一の問題点を挙げるとするなら、本作がどのような環境で聴いても高音質なこと。いつもはflacをwav変換しないと楽しめない私ですが、本作はまだflacのまま聴いています。flacによるマイナスポイントを感じませんし、これで十二分に音が良いためです。下手をすると、ハイレゾすら必要あるのか? 本作の音質をもってすれば、サブスクでもご機嫌なのではないか? そんなふうに感じてしまうほど、全ての環境で超高音質を楽しめる音源です。

こう書いていて気づきました。これこそ真の上位互換ではないか? 再生環境に左右されない高音質。素晴らしいことではないですか!

だからこそ、音源としての最高峰の条件であるハイレゾで、ぜひ本作の再現に挑戦してみてほしいものです。オーディオ・イベントで本作が鳴りっぱなしとなること間違いなし。なぜなら、自社製品をアピールするのに、こんなご機嫌で鳴ってくれる音源は他にないためです。私もイベントをやるときは本作を積極的に鳴らしてみたいと思っています。イベントではガツンと鳴らして驚いていただく必要がありますので。いやはや、凄い太鼓判ハイレゾ音源の登場です!









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<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
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<第75回>拡大版!神保 彰『26th Street NY Duo』&『27th Avenue LA Trio』インタヴュー
<第76回>『Time Remembered』 須川崇志バンクシアトリオ~ハイレゾのデモに最適なピアノトリオはこれだ!~
<第77回>『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』 MISIA~七色の声とゴージャス・バンドをハイレゾで!~


 

筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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