連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第77回

2020/02/12
『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』 MISIA
~七色の声とゴージャス・バンドをハイレゾで!~

■44.1kHz/24bitも問題なくハイレゾだ!


この連載では何度も書いていますが、44.1kHz/24bitを侮ってはいけません。CD規格との違いは何でしょう? 44.1kHzは同じで、16bitか24bitかの違いだけ。それでも44.1kHz/24bitは、ハイレゾと呼ぶに相応しい高音質を私達に届けてくれます。

具体的に、CD規格44.1kHz/16bitとハイレゾ44.1kHz/24bitの音質違いはどこか? それは音の実在感や気配といったポイントだと思います。その微妙な違いが感じられるかどうか、再現できるかどうかが、ハイレゾ44.1kHz/24bitを選ぶのかどうかの境界線です。

楽器が奏でられた瞬間、例えばドラムのスティックがヘッドやシンバルにヒットした瞬間、ギタリストが弦をかき鳴らした瞬間。そういったアタック音の倍音が豊かに再生され、生々しい音に感じられるのが44.1kHz/24bitの魅力です。そして、声や楽器が消えゆく瞬間、例えばエコー感や音の余韻。その余韻は、電気的エフェクターのリバーブでもかまいません。余韻の細かい音の情報が、44.1kHz/24bitでは豊かに再現されます。そんな小さな音の積み重ねが、より人間の脳を騙してくれるようになり、音楽の生々しさという感覚に繋がっていくのです。

一般的な傾向として、DSDは優しい音、192kHz/24bitは高解像度ながら薄味、96kHz/24bitはウェルバランス、48kHz/24bitはガッツのあるロック向きの音と言えます。(あくまで傾向であって、全てではありませんので誤解なきよう。) では、44.1kHz/24bitは? CD直系のサウンドと言いましょうか、聞き慣れた音質でありながら、ちょっとした音の手触りが生々しいという傾向です。ですので、音楽制作側としては音作りに慣れているという意味でメリットがあり、リスニング側にも慣れた音の感触ですので心にキャッチしやすいというメリットがあります。

音楽制作現場では48kHz/24bitや44.1kHz/24bitで録音作業が行われるケースが未だに多く存在します。私も経験があるのですが、プロデューサーの私が到着する前にレコーディングが勝手にスタートしており、録音フォーマットを確認すると44.1kHz/24bitで進んでいたのでした。ハイレゾ録音するプロダクトだったのでもどり道を選択するという案も考えたのですが、現場の士気を優先すべく44.1kHz/24bitのままで継続しました。

こうした音楽制作の現実は何を意味するかというと、44.1kHz/24bitで録音現場では何のストレスも無いということです。データが軽くて処理が早くPCの負荷も軽いという理由が10数年前まではあったのでしょう。現代のCPU性能や周辺機器の速度を考えると、あえて44.1kHz/24bitなどの小さなフォーマットに拘る理由は皆無です。

とはいえ、より小さなフォーマットであるMP3などで音楽制作が進むことはありません。やはり録音現場では、プレイバックしたときの高揚感は大切です。あまりガッカリしたサウンドでは、ノリノリの気分で音楽創造ができないもの。ですので、プレイバックしたときの音質が、その後の演奏モチベーションに影響しないくらいの録音フォーマットであることが必要。その最低ラインが44.1kHz/16bitではNGであり、44.1kHz/24bitならOKということです。

そんな44.1kHz/24bit、レコーディング現場に負けないくらい、リスニング側もしっかりと再現してみたいもの。「CD聴いているのと変わらないな~」 という音で鳴っているなら、まだまだ44.1kHz/24bitの再現に伸びシロがあります。44.1kHz/24bitの生々しいサウンド、ぜひ実現してみてください。


■本作の「Everything」を音質確認のリファレンス音源に加えた! 

 
多くのハイレゾ作品をリリースしてくれているMISIAさん。最新作は、演奏、音質ともに大満足の太鼓判ハイレゾです!



MISIAさんの作品は、これまで個人的に不完全燃焼が続いていました。それは、歌と演奏の実力バランス。MISIAさんの歌唱能力が高すぎると感じていました。「もっと究極の超一流ミュージシャンと、ガッツリ組んでくれないかな~」 と感じること多し。アニメに例えるなら、“パイロットの反応に、操縦する機体の運動性能がついていかない”というアレです。MISIAさんの歌が、より活かせるオケにできないものか。そんな不完全燃焼がありました。MISIAファンの皆様には失礼かもしれませんが、あくまで個人的な感想です・・・。

本作は、長年の私のモヤモヤを吹き飛ばすような快作! アルバム・タイトルからして「またベストか~」と期待薄で、しかも1曲目が「Everything」ですから、売上重視の手抜き作かとスルーするところでした。ところが、私の大好きなベーシストであるマーカス・ミラー氏が参加していたので、とりあえずチェックしてみることに。

参りました。この「Everything」、私史上最高の「Everything」です。そして続く2曲目のグルーヴ! これこそ、私の長年聴きたかったMISIAさんアルバムであると確信しました。

次は音質。フォーマットと見ると44.1kHz/24bit。私とて、できれば96kHz/24bitで聴きたかった。でも44.1kHz/24bitの発売なのですから仕方なし。演奏は良いけど、音質ガッカリの作品は星の数ほど出会ってきましたので、半ば諦めムードで試聴したのですが、これまた嬉しい方向へ大きく裏切られました。音も最高ではないですか!

大好物のマーカス・ミラー氏のベースも、低音が超大盛り仕様。明らかにベースの低音過多のミックスは、私のようなマーカス・ミラー氏ファンは大歓迎。でも、こんなにベースを大きくして大丈夫?と心配したくなるほど、低音のデカさに苦笑するほどです。バラード曲ですので、爽快なスラップベース低音を楽しむという感じではありませんでしたが、十分にマーカス氏を堪能できました。

ハイレゾとしての試聴ポイントは、なんといっても「Everything」のボーカル。リスニング側の再現能力が増せば増すほど、歌の心が迫ってきます。どもまで「Everything」がエモーショナルに鳴らせるかに挑戦です。このアルバムに出会ってから、日々のオーディオ製品開発のお仕事で、試聴音源としてこの「Everything」を導入しました。冒頭のストリングスとMISIAさんの歌声が始まったあたりまで聴けば、バッチリと音質チェックが可能です。ぜひ皆さんもお試しください。

更に本作はドラムとベースのグルーヴも魅力的です。ニューヨークのリズム隊は超強烈。ハイレゾ版にはミュージシャン・クレジットが付属していないので未確認ですが、演奏を聴くだけでもその凄みは伝わってきます。かなり手数の多い低音ですから、モコモコせず粒立ちハッキリ再現できれば、グルーヴをより感じられると思います。

そして目玉である豪華なホーンセクション。ラッパ再現には、アタックが超重要です。楽器そのものの原理からして、トランペットなどの楽器はリズムにジャストで反応していてはノリが遅くなるのは明白。常にリズムより前にブワッのブが発音され始めるということに注目。このアタック音を44.1kHz/24bitなら更に引き出せるはずです。

このあたりに注目してリスニングすれば、CD盤よりも、サブスクよりも、本作を深く楽しめます。そのためにハイレゾ音源が存在するのです。好きな音楽をより良いサウンドで聴きたい。皆さんがオーディオを始めたスタートラインの気持ちを、もう一度取り戻す鍵のひとつとなるであろう本作をオススメします。







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筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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