大編成による圧倒的な高揚感と、コンサートまるごとのキュレーションを愉しむライブ録音 ~ マスターズ・ブラス・ナゴヤが提示した「大人目線でのポップス」とは?

2020/02/07
ハイレゾの愉しみのひとつは「臨場感」。クラシックや吹奏楽のように多くの場合ホールで収録される音楽のライブ録音では、奏者が奏でる音や彼らの息遣いだけでなく、収録当日その場でしか醸し出されないオーディエンスの空気感まで味わいたいもの。そのためにも繰り返し聴きたくなるようなお気に入りのライブ録音はいくつかもっておきたいですね。しかしながら吹奏楽の場合、国内に愛好家人口は多くても、実はレコーディング作品はあまり聴かないという方も多いのではないでしょうか。それは、吹奏楽のレコーディング作品に聴かれる演奏・録音が得てして「行儀」がよく、コンサート会場の高揚感を得られるものが少ないと感じているからなのでは? という専門家の声を聞くことがあります。


「アルプス交響曲 ~トラップ一家のその後~」
MBN5-2019
マスターズ・ブラス・ナゴヤ/鈴木竜哉(音楽監督・指揮)
PCM 192kHz/24bit
レコーディング:2019年4月28日愛知県芸術劇場コンサートホール<ライブ>

『アルプス交響曲 ~トラップ一家のその後~』
/マスターズ・ブラス・ナゴヤ, 鈴木竜哉



マスターズ・ブラス・ナゴヤ(MBN)は、東海地区のオーケストラ奏者、音楽大学の講師、フリーランス奏者たちが結成したプロ吹奏楽団。これまでに4作のアルバムを、いずれもライブ・レコーディングにより発表。奏者たちも観客も、年に1度のお祭りに参加するかのようにポジティブな雰囲気に溢れ、会場全体で音楽を作っている様子が感じられるとして評価の高いシリーズ。今回配信開始したのは昨年4月の第4回定期演奏会のライブ録音です。


●「アルプス交響曲」
巨大な編成と特殊楽器でつづる標題音楽の金字塔

『ツァラトゥストラはかく語りき』や『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』などで映画ファンにもおなじみのリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が作曲した、長大な単一楽章の交響曲。原曲はもちろんオーケストラのための作品ですが、このライブでは石毛里佳による吹奏楽編曲に、MBNの音楽監督である指揮者の鈴木竜哉が補筆して演奏されています。

「日の出」「頂上にて」「霧が立ちのぼる」「嵐の前の静けさ」といったトラック名からもわかるように、『音楽は何だって表現できる。たとえばティースプーンでさえも』と豪語したとされるシュトラウスのオーケストレーションの粋をこれでもかと堪能できる作品で、大きなバンダ(本来の編成とは別に、主にステージ外で演奏するアンサンブル)やウィンド・マシン/サンダー・シートのような特殊楽器を駆使して巨大なスケールで描く一大叙事詩。鈴木竜哉自らが愛する曲としてメイン・プログラムに据えられました。


ステージ袖で演奏するバンダにもマイクが




ステージ奥、ウィンド・マシンの位置から客席を望む



●「サウンド・オブ・ミュージック」
吹奏楽ならではの編曲による大人のエンターテイメント

コンサートの第1部として演奏されたのは、あまりにも有名なこのミュージカル/映画音楽に、日本の吹奏楽界を代表する作編曲家のひとり長生淳によるユニークな編曲が施された、音楽通も唸らせる作品。

山々にこだまするアルプホルンを模した(ここでもバンダが活躍する)前奏部にはじまり、「ドレミの歌」「エーデルワイス」といったおなじみの楽曲たちに、マーラーやR.シュトラウスのモチーフ、そしてサンバのリズムまでもが織り込まれ、オーディエンスはさながら音楽クイズを解くかのように集中させられてしまう見事な編曲です。

こうした、ユーモアを含めたあらゆるテイストを飲みこむ編曲やプログラミングはやはり吹奏楽ならではのもの。本公演(アルバム)のプログラミングと、サブタイトルの『トラップ一家のその後』について問われた音楽監督の鈴木竜哉は次のように趣旨を説明しました。


インタビューに答える音楽監督・指揮:鈴木竜哉



“学校吹奏楽で盛んなポップス・ステージの工夫と完成度について以前から着目していたが、MBNでは違うやり方ができるのではないか。もしもアルプス交響曲の登山者が、サウンド・オブ・ミュージックのトラップ一家だったとしたら? という架空のストーリーを設定してみよう。映画のエンディングの続きがあるなら、亡命の道が困難であったことは間違いない。そこをイメージして聴いていただけたら「大人目線でのポップス・ステージ」として成立するのではないか。”

…答えを示すのではなく、アイディアを投げかけることで聴く者のイメージをふくらませ、音楽だけではない《なにか》を持ち帰っていただく…。あらゆるジャンルを取り込んでしまえる吹奏楽だからこそ表現できるエンターテイメントは、決して子供だけのものではないのですね。

おまけに、残念ながらアルバムには収録されなかった本公演のアンコールが、『ニューヨークに行きたいか!!』でおなじみの、グローフェ作曲ミシシッピ組曲より「マルディグラ」であったことを付け加えておきます。



●レコーディング・クオリティ
創設以来のチームワーク

2016年の創設以来MBNのライブ収録を手掛けるのは、長江和哉率いるエンジニア・チーム。長江氏とそのチームは「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ」のアルバムで2度「日本プロ音楽録音賞」を獲得するなど、オーディオ・ファンにもおなじみの存在です。彼らが、愛知県芸術劇場コンサートホールに集まった1500人の聴衆と107名の音楽家とのセッションをいかにまとめ上げたのか。ぜひハイレゾでお確かめください。


長江和哉氏率いるレコーディング・エンジニア・チームとステージ・マネージャーの吉田敬一氏



リハーサル風景




*前作「祝典前奏曲」「PHOENIX」「時の逝く」「ヴァンデルロースト」も好評配信中。






*マスターズ・ブラス・ナゴヤ 次回演奏会の情報はこちら

マスターズ・ブラス・ナゴヤ 第5回定期演奏会
2020年4月26日 15時30分~
愛知県芸術劇場 コンサートホール
吹奏楽を代表する作曲家のそれぞれの時代の『交響曲』 ~ アルフレッド・リード(昭和)、保科洋(平成)、鈴木英史(令和・世界初演)

more info⇒

 | 

 |   |