【拡大版!!】連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第75回

2020/01/01
西野 正和氏による人気連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』。新年一発目となる今回は、「拡大版!!」と題して、西野氏も常に高い評価をするドラマー、神保 彰のスペシャル・インタヴューをご紹介。神保 彰と言えば、元日にリリースされるニューアルバムが恒例となっているが、今回のインタヴューでは、本日1月1日にリリースされる2枚のアルバム『26th Street NY Duo Featuring Will Lee & Oz Noy』と『27th Avenue LA Trio Featuring Abraham Laboriel,Russell Ferrante & Patrice Rushen』について、西野氏ならではの視点で質問していただきました。



『26th Street NY Duo』『27th Avenue LA Trio』神保彰
~スペシャル・インタビューで、最新海外録音の極上サウンドに迫る!

今年もまた、世界的ドラマー神保彰氏の新譜の季節がやってきました! 年始の恒例行事のように毎年の新譜を取り上げているので、神保氏は太鼓判ハイレゾ音源の最多登場記録です。

神保氏の新譜をここまで高く評価し続けているのには、きちんとした理由があります。それは現在では絶滅危惧種となってしまった、日本人による海外レコーディングを続けているからです。神保氏のビジョンにブレはなく、「一緒に演奏したいミュージシャンがいるから」という理由での海外レコーディングであり、「単なる録音データのやりとりではなく、顔を合わせて演奏する=合奏することに意味がある」とのことから、ご自身が海を渡るのです。

実際に、その仕上がってくるサウンドは流石と唸らされるものであり、ハイレゾで記録する、そしてハイレゾで聴く意味のある作品に仕上がっています。

神保氏の新譜インタビューはドラム専門誌など数多くあるでしょうから、私なりの違った角度から質問攻めにしてきました。海外録音の実際など、新譜から大きくかけ離れた質問にも真摯に答えてくださった神保氏に感謝! それではスペシャル・インタビューをお楽しみください。



■スペシャル・インタヴュー with 神保 彰


-- ニューヨーク盤とロス盤で、かなり音色が違う印象がありました。実際にドラムを叩いてみての感触や、レコーディングしてみた音の違いなど、ニューヨークとロスの音に違いはあるのでしょうか?


神保 僕が使っているドラム自体は同じヤマハのドラムですし、スタジオのレコーディングに関しても、どこに行ってもだいたい同じ機材(=プロ・ツールス)です。何も変わらないはずですけど、やはり違う場所に行くと確実に音が変わってくるのは不思議です。その土地の気候が、如実にレコーディングにも現れます。このところ僕がレコーディングしているのは、東京とロサンゼルスとニューヨークで、他の街では最近は録音していないですけど、それぞれの街の気候というものがサウンドに出ているという気がします。録音というものは空気の振動ですから、違う街の空気が振動すると違う音がするのでしょう。

ニューヨーク盤は、骨太な感じの音です。自分が叩いているドラムの音の感じや、スタジオで鳴っている生の音の差は、レコーディングされた音質の差ほどはありません。叩いているときのドラムは耳に直接届く音ですから、直接音を聞いている限りは、ロスもニューヨークでも東京でも変わらないのですけれども、出来上がった音は全然違います。昨年のニューヨーク録音『24th Street NY Duo』の音は、ここまでロス録音と差が出るとは思わなかったので、自分でもかなりびっくりしました。

ロス盤のマスタリング・エンジニアは、昨年と変わっています。今作は、ロス盤のマスタリングも、ニューヨークのエンジニアにやってもらいました。レコーディングとミックスまでをロスでやって、それをニューヨークに持ってきてマスタリングしています。もちろん昨年とのマスタリング・エンジニアの違いが、今回のサウンドの違いに出ているということもあるとは思います。

昨年までは、ロスのジーン・ グリマルディさんにマスタリングをやってもらっていました、ジーンさんは、レディー・ガガを始めとする、ポップスの派手な音に仕上げるのが得意なマスタリング・エンジニアです。今回は、ロス盤をニューヨークでジャズをメインにやっているマスタリング・エンジニアに頼みました。どちらかというと、今までやってもらっていたロスのジーンさんは、かなりレベルを突っ込んで、パッと聞いた時に迫力があり音圧が高いというのがマスタリングの特徴です。一方で、今回マスタリングをお願いしたのは、ジャズ系のアレックス・デタークさん。ジャズ・フィールドの人にマスタリングをやってもらうと、ボックス・フィールドのような派手さよりも、奥行き感や透明感が更に出るのではないかと。今回もニューヨーク盤とロス盤で、かなりレベル差はありますが、レベルを入れないマスタリングの良さは確実にあり、ロス盤は奥行き感がよく出ており上手くいったと思います。

ニューヨーク盤のスタッフ、レコーディング、マスタリングのエンジニアは、昨年の『24th Street NY Duo』と同じです。ただ、今回は違うスタジオを使いました。消防署のビルをそのままスタジオにしているので、ドラムをセットしたルーム自体がかなり大きく、天井も高い部屋でした。今回のドラムのマイク・セッティングですが、部屋の中に割と近いアンビエンスと、 中くらいのアンビエンスと、遠いアンビエンスの三種類くらいのマイクを立てています。ドラムにリバーブをほとんど使わず、ルームのマイクをブレンドして、エンジニアが音作りしていました。

-- ニューヨークのデュオの録音方法ですが、ほとんどソロパートの演奏なので、事前にミュージシャンへ渡す譜面やデモ音源はどのようなものなのでしょうか?

神保 例えばウィルさんとのデュオであれば、ベースのパートは全部入れて渡します。リズムのキメなども全部入っています。実際に演奏するときのモニターでは、ベースのパートはもちろん抜きますけど、その他に入っているプログラミングのパートで、例えばコードなどの必要最低限なものは、聞きながら演奏します。

-- 神保さんの作曲するベースラインは独特なので、なかなかベーシスト泣かせなフレーズではないかと思います。

神保 そうですね。自分でギターを弾いてみて、演奏可能なフレーズかどうかは一応チェックしていますので、弾けないものは作っていないつもりです。ウィルさんは下準備をしっかりしてくださる方で、デモ音源や譜面を3ヶ月くらい前くらいには送っているので、しっかり練習してきてくれます。レコーディングする時には、ベース・パートの全部が体に入っている感じです。ウィルさんには、指弾きやスラップという演奏方法のリクエストはしていないです。

-- ウィルさんファンの私としては、もう少しスラップ奏法が大盛りだと嬉しいのですが。

神保 なるほど、確かに指弾きがメインですものね。ウィルさんはすごく気さくな方なので、次はスラップ多めでリクエストしてみましょう。譜面に『スラップで』と書いておきますね(笑)。






-- ベーシストが変わると、神保さんのドラムのグルーヴも変わっているように思うのですが、いかがでしょうか? こんなワイルドに演奏する神保さんは、ウィルさんとのニューヨーク・デュオでしか聞けません。

神保 自分では意識していないですけど、やはり一緒に演奏する人が違えば、グルーヴも自然に変わってくると思います。今回のデュオは、演奏するミュージシャンが二人しかいないため自然にスペースが生まれるので、ドラムの演奏自体も割と叩きまくっているかもしれません。今回は特に、ロス盤は楽曲をキレイに聞かせるという作りで、ニューヨーク盤はミュージシャンの緊張感みたいなものをパックしました。デュオ盤には、もうドラムソロがうるさいっていうくらい入っています。

-- ギターデュオの打ち込みベースがグルーヴしていて素晴らしく、ウィルさんのベースと並べて収録されていても違和感なく楽しめました。機械の打ち込み演奏で、ベースのグルーヴを再現する秘密は?

神保 ベースの打ち込みは、日本で僕が作って持っていきます。不安だったのは、ウィルさんとの曲とシンセベースの曲が、うまくブレンドするかなというところでした。曲順が、1曲目はシンセベースで、2曲目はウィルさんの生ベース、次の曲はまたシンセベースと、交互に並んだサンドイッチ方式になっていますから。それが意外とスッと聞けました。シンセベースも単体で聞くと、いかにも機械的なシンセの演奏なのに、ドラムと一緒になると意外と有機的なのが不思議です。シンセベースは打ち込み段階では、ほぼジャストなのに、ちゃんと揺れているように感じます。僕のドラムが揺れているのに、シンセベースは絶対揺れないですから、完全にビタッとは合いません。僕がリズムを行ったり来たりして揺れている分、ベースも何となく揺らいで聞こえるのでしょう。また、最初の打ち込みの段階でベースのパターンを作りますから、それに対してドラムはどのように絡むかというのは、ある程度は自分の頭の中にあります。ドラムとベースが一緒になってイイ感じになるように作っているので、シンセベースとのグルーヴ感が上手く出せたのではないかと思います。

-- 今回のレコーディングでは、ファーストテイクを採用した曲が多かったとのことですが、セカンドテイクも収録しての判断だったのでしょうか?

神保 ファーストテイクでOKという曲も、一応セカンドテイクの録音もやりました。2回、3回とテイクを重ねると、意識しなくても演奏がどんどん守りに入ってしまいます。一緒に演奏する相手が、次にこうくるというのが見えてくるからです。ファーストテイクというのは、そういった邪念がありません。ただ、一般的にファーストテイクは完成度が低い場合が多いですけれど。今回はファーストテイクで完成度の良いものが出来たので、セカンドテイクよりもそちらを採用した曲があります。






-- レコーディングで使用したドラムについて教えてください。

神保 ロス盤は、いつもロス録音で使用しているドラムです。ニューヨーク盤は、現地でレンタルしたドラムです。ドラムがヤマハ製なら、レンタルの楽器でもだいたい何が来ても大丈夫です。ただ、シンバルのレンタルはリクエスト通りにはいかず、だいたい7割くらいは代替品という感じです。シンバルの数も適当で、今回はスプラッシュ系の小さなシンバルが1個しかありませんでした。自分としてはもうひとつくらいほしくて、両サイドに小さなシンバルがあれば、もっと良かったかなと思います。ライド・シンバルも、リクエストと違うものが来ていたかな。でも、無いときは無いなりにやりますので大丈夫です。

-- 今作では曲によって、カラフルなくらい異なるグルーヴが楽しめました。プロデューサー目線から見たドラマー神保彰とは?

神保 ドラムの演奏に関しては、ざっくりしたイメージはありますが、細かいところまでは決めて臨まないです。あまり決めると、せっかくの合奏しているハプニングが楽しめなくなります。一緒に演奏することによって生まれるハプニングというのが、大きな魅力のひとつだと思うので、ベーシックな方向性を決めるけど、あんまり細かいところまで決めないで臨むという感じです。音を出してみて違うと感じたら、リズムパターンを含め録音現場で変更するときもあります。曲によってのグルーヴの違いも、意図的というよりは、一緒に演って自然にそういうグルーヴになっているのだと思います。

拍子は変わってないのに、ライブで手拍子できなくなるみたいな不思議なリズムの曲もあります。こういったリズムパターンは、事前に考えているような、考えていないような。もちろん普通に四分で刻むのも全然アリですけど、何となくその曲に関しては四分音符を感じさせる要素を排除して叩いたら面白いのではないかと思いました。ライブで急にそんなリズムで叩いたら、みんなが拍子を見失ってしまうかもしれませんが、レコーディングではクリックがあるから大丈夫です。これからも、新しいビートの要素を自分なりに取り入れていけたらなと思っています。

-- 神保さんは複雑なビートも得意なのに、ソロアルバムでは四分打ちのリズムがはっきりした楽曲を作られますよね?

神保 やはり4/4拍子が一番落ち着きます。今のコンテンポラリー・ジャズというのは、どんどん複雑なビートになってきています。僕は、そういうのにピンとこないというか、あまり変拍子は得意じゃないです。というより、カシオペアも基本的に全部四拍子ですし、変拍子ばかり演っているバンドに在籍したことがないので経験がないのです。

-- 近年、海外録音する人が皆無に近く、海外のスタジオ情報が全く入ってきません。海外レコーディングの最新情報を教えてください。

神保 例えば、海外ミュージシャンにベースを弾いてもらいたいとすると、 最近はメールで楽曲ファイルを送って、演奏したファイルを送り返してもらうみたいな世界です。そういうことができるようになったというのも、それは凄いことだと思います。ですが、やはり合奏する、一緒に演奏することによって音楽が変わってくるというのは、大きな意味があります。

海外スタジオのモニター・スピーカーは、基本的に全てスモール・モニターです。ラージ・モニターを鳴らすことは、最近ほぼありません。スモールのニアフィールド・モニターというと、昔はヤマハNS-10Mといったスタンダードがありました。今は、エンジニアが自分のモニターを持ってくる場合もありますし、スタジオに備え付けのスモール・モニターも、だんだんNS-10Mは見かけなくなっています。モニター音量は、特に日本と違いはありません。スモール・モニターで、それなりの音量で聴くという感じです。

-- 私は、近年の録音は音質が硬くなってきていると感じています。神保さんの海外録音作品は、同じデジタル・レコーディングなのに、自然な音色なのが素晴らしいです。神保さんのようにアナログ録音時代からの長いキャリアですと、だんだんと音質が硬くなってきていると感じることはあるのでしょうか?

神保 結構、あります。なぜでしょうね? 録音した音をコントロール・ブースで聞き返すのですけど、やはりその時に自分が実際に叩いている、自分が感じた音圧感みたいなものが、うまく再生されてないことが多いです。ロスやニューヨークでは、割と「こういう音だよね」と自分で納得できることが多いですが、それが何故なのかというのは、未だにちょっとよくわからないです。ロスにしてもニューヨークにしても、「何かEQとかしたの?」と聞くと、「いや、ただマイクを立てて、そのまんまだよ」と、エンジニアはみんな言うんですよ。もちろん日本が良くないという意味ではなく、傾向的に音質は硬い方向に行きがちだというのは、確かにあるかもしれませんね。






-- 今回のアルバムに参加した、各ミュージシャンについて教えてください。

ウィル・リー (Bass)
ニューヨーク盤のウィル・リーさんは、僕が若い頃からずっと憧れていたベーシスト。ウィルさんの『24丁目バンド』は、それこそアナログ盤を擦り切れるほど聴き込んでいた世代です。僕は彼のベースを聞いて育っているから、一緒に演奏したときにも「始めまして」という感じは全くなく自然に溶け込めました。また、とっても気さくな方です。今年9月に一緒に日本ツアーをして、今作レコーディングでの再演と、ますますウィルさんとの親交は深まっています。またこの先も長くお付き合いできたらいいなと思っています。

オズ・ノイ (Guitar)
オズ・ノイさんは、昔から気になっていたギタリストです。言葉は悪いのですけれど、イメージとしては変態ギタリスト。演奏スタイルも、音楽も、音色も、尖ったエフェクトも、全部が変態という感じです。ウィルさんが来日した際に、ご挨拶も兼ねて見にいったライブのギターがオズさんでした。ウィルさんは割とポップな楽曲をセットリストにたくさん並べていて、そのポップな楽曲で変態なオズさんが弾いているのがすごく良かった。ポップなフィールドでも、ちゃんと対応力のある人だと思いました。次のアルバムは、半分ウィルさんで、半分はギタリストにしようと決めていたので、だったらオズさんが面白いなと思いオファーしました。実際にオズさんと演ってみて一番感じたのは、とにかく切れ味です。カッティングも、ソロも、メロディを弾かせても、鋭利な刃物のような切れを持っている人でした。必ず正攻法ではないところから攻めてくるギターが面白かったです。オズさんは、このアルバムを気に入ってくれて、「次は、ウィルとトリオでやろうぜ!」と言ってくれたので、また面白い方向に進んでいくのではないかなと思っています。

エイブラハム・ラボリエル (Bass)
ロス盤のベースのエイブラハム・ラボリエルは、僕が20代の頃からずっと敬愛するミュージシャンで、1986年に作ったファースト・ソロアルバムで初共演が実現しました。初めてのソロアルバムで「誰と演奏したい?」と聞かれた時に、僕が迷わず「エイブラハム・ラボリエル!」と答えたのを憶えています。エイブラハムさんの凄いところは、もちろんベースの安定感。安定感というと、ドッシリしていて硬いというイメージがあると思うのですが、エイブラハムさんは安定しているけれど、ものすごく柔らかいという印象があります。この感覚はなかなか得難いもので、これから何度も一緒にやりたいなと思わせてくれる素晴らしいベーシストです。

ラッセル・フェランテ (Piano)
ラッセル・フェランテさんは、昨年の『25th Avenue』で全曲弾いてもらいました。キングレコードでソロアルバムを作る前に、初期ソロアルバムを10枚作っているのですが、そのうちの6枚くらいでラッセルさんに弾いてもらっています。もともと僕はイエロージャケッツの大ファンで、昔から機会があれば一緒にやりたいピアニストでした。キングレコードでソロアルバムを作り始めてから、オトマロ・ルイーズさんというベネズエラ出身のピアニストを起用してきたのですが、最近彼が非常に忙しくて、なかなかスケジュールが合わない。それで久々にラッセルさんにお願いしてみようと思い、今年のロス盤の半分を弾いてもらいました。とにかく温厚な方で、その人柄が音にも現れていて、ピアノの音色もとっても温かいです。空間の活かし方が上手で、ピアノソロでも音で埋めないタイプです。またその空間の取り方が絶妙で、何回もリピートして聞きたくなる、そんなピアニストです。例えば、ロス盤の1曲目は、リズムが早いのにメロディーはゆったりしています。

パトリース・ラッシェン (Piano)
僕がパトリース・ラッシェンさんを初めて見たのは、まだ10代のころ。1979年のリー・リトナー&ジェントル・ソウツの初来日でした。その19歳の時に見にいった六本木ピットインのライブ以来、彼女のファンです。今回は同じスタジオの同じピアノを、全く同じマイク・セッティングで録っているのですけれど、やはり音が全然違うのが面白かったです。弾く人が違うと、こんなに音が変わるのだと驚きました。曲の振り分は、パトリースさんはR & B 色のあるグルーヴ主体の曲で弾いてもらい、ちょっとジャズ色のある曲はラッセルさんにお願いしました。

ボブ・ミンツァー (Sax)
サックスのボブ・ミンツァーさんは、僕の中ではジャズのイメージが強くて、お願いしても演ってくれないのでは思いましたけど、快諾していただきました。ボブさんといえばテナー・サックスですが、リクエストしてソプラノ・サックスも1曲吹いてもらっています。その2曲のピアニストは、イエロージャケッツで一緒だったラッセルさんと相性がいいのは分かっているので、あえてパトリースさんとラッセルさんに分けました。パトリースさんとボブ・ミンツァーさんは、ひょっとすると初共演かもしれません。サックスは別の日に録っていますので、実際に顔は合わせていないのですけど。ボブさんは、とっても物静かな紳士の方で、2曲を1時間かからないで、あっという間に吹き終わっちゃいました。迷いがないというか。サックス・ソロは完全にファースト・テイクです。


■試聴レビュー

ハイレゾ版と44.1kHz/16bit版を比較試聴しました。ハイレゾ版では、音楽が目の前の全体に広がっていきます。一方、CD規格の44.1kHz/16bit版は、それだけ聴いていると、海外録音の恩恵を確実に感じられる、ご機嫌なサウンドが楽しめます。しかし、ハイレゾ版と比較してみて、改めて驚きました。44.1kHz/16bit版は、まるで窓からの景色を見ているかのよう。つまり、ハイレゾ版の眼前に広がっていた音楽世界を、縦1メートル、横2メートルくらいの窓枠をはめられて見ているようです。上下と左右のサウンドステージが、その窓枠の外には見えてこないのが44.1kHz/16bit版の音像でした。

『26th Street NY Duo』は、ギターの音像がしっかり前に出てきて立体的。カーンとリズムを刻むドラムのライド・シンバルの音像は高く、ベースドラムのキックによる低音もガツンと沈み込んでいます。ウィル・リー氏による極上の重低音はもちろん、ニューヨーク録音をサウンドはワイルドでゴリゴリのボトムが魅力です。

『27th Avenue LA Trio』では音像が一変! 低音は柔らかくなり、音像の奥行き感がどこまでも伸びるようで美しい。ピアノは、上手く再現できれば実物大に近いサウンドが実現。同じピアノを同じセッティングで弾く、二人の名ピアニストの音色違いを堪能できます。エイブラハム・ラボリエル氏のベースの音色が2曲目だけ他の曲と異なる印象でしたので、神保氏に確認してみました。「2曲目だけ、ネックの長さが少し短いミディアムスケールのヤマハ4弦ベースです。今回それ以外は、ほとんど6弦のヤマハを使っていました。エイブラハムさんのスラップって、フラメンコチックで面白い弾き方をするんですよね。」とのことです。

この2枚の新作を聴いて、やはり魅力はなんといっても神保彰氏のドラムだと再確認しました。ウィル・リー氏、エイブラハム・ラボリエル氏、そして打ち込みシンセベースと、3種のベース低音と神保氏ドラムの共演。それぞれのコンビネーションで変化するグルーヴは、機械のビートでは得られない快感があります。まるで神保氏の叩くベースドラムから、ベーシストの弾く低音フレーズが鳴っているかのように、ピタリとシンクロしている様子は、ハイレゾ版でしか味わえない凄みを感じました。神保氏の新譜、私のファン心理を差っ引いても間違いなく太鼓判ハイレゾです!



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筆者プロフィール:


西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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