安田寿之 5thアルバム『Nameless God’s Blue』

2015/02/04
電子音楽をベースに、音楽家/作編曲家/プロデューサーとして幅広く活動する安田寿之が5作目となるアルバム『Nameless God’s Blue』をリリース。ストリングスやピアノといった生楽器の音色ひとつひとつにもこだわった今作は、これまでのエレクトロ路線とは一線を画すオーガニックで透明感あふれる作品となっている。

ここでは、安田寿之本人による楽曲解説に加え、レコーディング時の貴重な画像とともにアルバム『Nameless God’s Blue』をご紹介。

『Nameless God’s Blue』
/安田寿之



安田寿之5thソロアルバム。「ロボットが歌うブラジル音楽」、「全曲モノラルのコンピレーション」、「世界の童謡の電子音楽カバー」など、これまで強いコンセプトの元制作してきたスタンスを変え、主観を軸に生歌・ピアノを中心にした生楽器を用いシンガー・ソングライターのような楽曲をイージーリスニングやジャズのような雰囲気でアレンジした雄編。ドリーミィーなメロディーとピアノ、リラックスしつつも力強いドラム・ベース・ギター、反復する弦楽器、煌びやかな鉄琴楽器が混じり合うLaid Back Music。2年程かけじっくり作曲、レコーディングを行った。レコーディングは、echo and cloud studio(東京)、安田自宅(東京)、沖縄、ミラノなどで行った。特に、ピアノは10本のマイクで録音するなど質感にこだわっている。アルバムを通して、一つの楽器を一人のミュージシャンが演奏している。


「電子音楽をベースに活動してきましたが、今回生歌/生楽器で構成しています。マイク録りした「生」は電子楽器と比べダイナミクスという点で大きな違いがあり、ハイレゾできいていただくべき作品になりました。ただ、普通のアコースティック作品とも違うと思っています。例えば、1曲目「La pesanteur」のViolaは6音で1フレーズになっていますが、奇数音と偶数音を別々に録り左右にパンニングしています。また、5曲目「Don't Think It's to Be Down」のピアノは、マフラーペダル音からいつの間にかノーマル音にモーフィングします。このように、アコースティックですが随所に電子音楽を経過した処理がされているのが、このアルバムの特徴だと思っています。ぜひ、その辺りも24bitでお確かめいただければ幸いです。」(安田寿之)




◆セルフ・ライナーノーツ by 安田寿之

1. La pesanteur
「重力」という意味のタイトルのこの楽曲は2012年に父親になりできたものだが、少し不思議な体験に基づいている。柿の木坂を上り病院に子供に会いに行っていた出産直後のことを後に思い返している時、なぜか自分の目線ではなく外から自分を見ている、まるで映画のような映像で思い出した。自らも新しく生まれ変わったように春の風を受け弾むような気持ちで自転車のペダルを漕ぐ自分と、斜め上のアングルでそれを追うもう一人の自分。fantaholicの佐藤多歌子さんにこの二重性の話をしフランス語で歌詞を書いていただき、デュエットした。

2. Sei gradi di separazione
元々、TVドラマのテーマのプレゼンで作曲した。もっとテンポの速いジャズワルツのインストだったが、イタリア語の歌詞を付け3拍子から4拍子にドラマティックに展開するように再構成した。イタリア語歌詞は、以前から共作したかったGak Satoさんにお願いしViola d'Acquaroneさんと共作していただいた。テーマは「6次の隔たり」だそうだ。6人を介すると世界中の人と繋がる、という社会実験。宇宙人に出会ったらよろしく、というオチが付いている。ドラマの仕事は決まらなかったが、そのおかげでこんな風にフレッシュに曲を生き返らせることができた。

3. Don't Miss the Time
10年以上前に開恵美さんに作曲した曲をセルフカバーした。アレンジもテンポも元曲に近いが、ギターを津嶋利仁さん(The Firefly Clan)に弾いていただき、男っぽくなる方向性ができた。今回、津嶋さんにストロークギターをたくさん弾いていただいている。ストロークギターというのは、リズム機能もあり音調機能もあり最強の楽器奏法の一つだと思っている。これまでRobo*Brazileiraとしてロボ声で歌ってきたが、今回生で歌っている。ここまでの2曲はデュエットだが、この曲からソロになる。決して歌はうまくはないが、曲全体をどうしたいかという明確なイメージで成立させている。最小限度のシンプルな楽器構成だが、曲の構成と少しサイケデリックなミックスで持たせている。今はもう、こんな冒険したBメロのようなコードワークは作れないかもしれない。サビの前のC#7/Bが気に入っている。

4. Ironic Dance
チャップリン映画のエンドロールのようなイメージのピアノ曲。2013年に制作したフレンチレストランのためのアルバム「Les Rendez-vous de Tokyo 20130606」に、オリジナルヴァージョンが収録されている。サイレント映画的な早回しのようなドタバタした曲だったが、今回は和音を堪能できる位のテンポにした。

5. Don't Think It's to Be Down
篠山紀信さんの写真映像作品に作曲した元曲ではロボ声で歌っていたが、今回は他曲同様生で歌った。イントロからAメロにかけての曲詞ともに、あっと言う間にできた覚えがある。篠山さんの仕事は量も多かったので1-2日で仕上げるようにしていたが、時間や条件の制約の中でつくると、火事場的な力により思いがけない成果が出ることがある。この曲もそういう生来を持っている。松井敬治さんのコントラバスのフレーズが、たまにしか喋らないけど一言が意義深い人のようで、とても効いている。ピアノは、マフラーペダル音からいつの間にかノーマル音にモーフィングする。アコースティックなアルバムだが、随所に電子音楽を経過した処理がされているのがこのアルバムの特徴と言える。

6. Alpha Helix
前曲が賛美歌のように天上に昇っていくようなイメージで終わるので、一度地に足を付ける曲がほしいと思いつくった。螺旋階段のイメージ。だが、階段を下りると地は地でもそこは月であった(次曲)。

7. Spa On the Moon
涼音堂茶舗レーベルのコンピレーション「over flow」へ提供したのが元曲だが、この曲だけを色んなアーティストにカバーしてもらうEPを作る程自分でも気に入っている曲。Joe Meek+Dick Hymanのようなイメージの3拍子だったのを4拍子のスウィングにした。ガーシュウィンもジョビンも自分の作曲を何度も色んな編曲を試みるが、作曲家にとって可能性を感じる限り何度もトライしたくなる曲というのはある。

8. Falling Stars
2013年初頭に企画/主宰した「音楽家の写真展」(1点物の音楽と写真を組み合わせた展覧会)用の曲を、全く違うスタイルで再編した。元曲は売れてしまったので、写真とセットでは僕自身ももうきけない。祖母が亡くなった時に、多摩川の流れを眺めていて曲はできた。詞はなかなかできなくて、大学教務で通う電車の中でスマホで何週にもわたり書いた。少しYo La Tangoみたいなスタイルを意識した。どうやってもあんな太平感は出せないけど。

9. My Fiendish Heart
桑原茂一さんのコメディ作品につくったのが元曲。ヴィクター・ヤング作曲「My Foolish Heart」のオマージュ。ピアノはこのアルバムでは、松井敬治さんのエンジニアリングでリボンマイクなど8-10本立て録音し、小さな音でも存在感のある音になっている。マフラーペダルによるフェルトや鍵盤に爪が当たる質感が心地いい。

10. Wings
ある女性タレント(タイトルにヒントあり)の歌手デビュー作のプレゼン用に書いた曲。飛べない鳥の歌。1番はペンギン、2番はニワトリ。元々電子音楽家として知り合った佐治宣英さんのドラムは、ほぼ1テイクでokで部分的に少し録り足した位だった。このアルバムでは、これまでコンセプチュアルな作風だった自分から飛び出したいと思っていた。クールな客観性を捨てバカに見えても主観を大事にするんだ、という気持ちをこの歌詞に込めた。実際は飛べないかもしれないけど、"All the way to you, I'll never veer away".(君のところへ、まっすぐ向かっていく。)

11. By Grace of Blue
クラシカルな曲だが、ウッドベースにより少しだけジャズ的に。イントロとインタールードは、トリスタン和音。2013年に共作して以来友人の河村泉さん一人で重奏していただいているが、弦楽器も「息づかい」だなと思わせられた。

12. Journey's End in the Eastern Evening Sky
これも、元々桑原茂一さんのコメディ作品につくったモチーフを発展させた作品。ピアノソロの録音は、dip in the poolの木村達司さんとMorgan Fisherさんと僕とのユニットPortmanteauのアルバムでも使用した。長い曲だが、ベースはずっと変わらない。しかも、間違ったようなマイナーコードに付くフレーズを弾いているが、それがポリネシア感を出している。津嶋さんのギターは、The Firefly Clan(グナワとブルースを合わせたような彼自身のユニット)曲の雰囲気だ。沖縄北谷の海沿いのスタジオで仕上げの録音をした。たった70年前のこと、誰がこの美しい海を見て戦争なんてしたいと思っただろう。長い旅の終わり、永遠に続く夕日、全ての楽器も声も溶け合う宇宙に一つの星を見付けた。




◆Recording & Featured Artists

「echo and cloud studio」で、僕のPianoは録音しました。1977-1978年頃(シリアル番号からサイトで判明)のイギリスのメーカー、John Broadwood and Sonsのアップライトピアノを使いました。リボンマイクなど10本位立てて録ったので、小さい音でも存在感のある音になっています。ここは、密閉された無菌室みたいなスタジオではなく、大きな窓があり緑が見えて居心地がよく、ヴィンテージ機材の宝庫です。蝉や雨を避けて録りましたが、自然に任せて自分でタイミングを計れないのもよかったような気もします。全体像が頭で鳴っている状態でPianoを最初に録り骨格をつくり、他の楽器を録り、最後にDrumsを録るという、かなり変則的な録音の順番になりました。


Tr.1 “La pesanteur”で作詞、デュエットのfantaholicの佐藤多歌子さん。2014年11月、台東区入谷のお洒落な照明店「Di Classe」でのライブ時の写真。WORLD ORDERのサポートなどもされています。この優しい曲はフランス語の歌詞が合いそうだと思い、fantaholicではフランス語も書かれておらずNew Wave的なシャウトをされている多歌子さんに、音楽的なイメージよりお目にかかったイメージで自然に作詞と歌をお願いしました。1枚のアルバムの物語をスタートさせる、素晴らしい雰囲気になりました。


Tr.2 “Sei gradi di separazione”において、Gak Satoさんにセッティングしていただいたミラノ在住のVocalist、Violaさん。Gakさんと共同で、イタリア語歌詞も書いていただきました。ナチュラルな声で、どんどん展開する曲構造を自然にきかせてくれる力があったと思います。現代音楽のイベントなども主催されているようです。美人ですね。


2014年の夏にミラノから帰省された時に、久々に再会し乾杯したGak Satoさん。Tr.2 “Sei gradi di separazione”の曲は、以前TVドラマのプレゼン用に書き落選したものでした。もっとテンポの速いジャズワルツのインストでした。自分でも気に入っていて、今回歌詞を付けて蘇らせました。イタリア語が合いそうだと思い、Gakさんに相談し作詞とVocalistのViolaさんのやりとりをしていただきました。歌詞のテーマは「6次の隔たり」。6人を介すると世界中の人と繋がる、という社会実験。宇宙人に出会ったらよろしく、というオチが付いています。ドラマの仕事は決まらなかったですが、そのおかげでこんな風にフレッシュに曲を生き返らせることができました。


The Firefly Clan名義でブルースやグナワを融合した制作を行う津嶋利仁さんは、Guitarとラスト曲でのDuetを担当。The Firefly Clan作品は未発売の曲がたくさんあり「これは出さねば」と、2010年に選曲とマスタリングをしてiTunes Storeで出させていただき、ブルースジャンルでロングセラーになっています。今回、津嶋さんにストロークギターをたくさん弾いていただいています。ストロークギターというのは、リズム機能もあり音調機能もあり最強の楽器奏法の一つだと思います。右手のリズム感は練習してうまくなるものでもなく、「才能だなあ」と津嶋さんを見ていて思います。あと、世界各国で育ってこられた音楽的/人格的蓄積が、ひとつのプレイにも多層的に出ていて厚みを感じます。


Viola奏者の河村泉さん。菊地成孔のバンドなどでも活動。2013年の共作以来、共演させていただいています。トリオ/カルテット的なことを泉さん一人で重奏していただいていますが、弦楽器も「息づかい」だなと思わせらました。


Primrose名義でのご自身での活動、マイア・ヒラサワのサポートなどで活動されている松井敬治さん。マルチプレイヤーですが、今回Contrabassを弾いていただきました。たまにしか喋らないけど一言が意義深い人のように、とても効いたフレーズが連発しています。echo and cloud studioも運営されていて、Piano、Viola、Drumsなど、今回の主なレコーディングもしていただきました。


DE DE MOUSE、織田哲朗など数多くのサポートをされているDrumsの佐治宣英さん。元々は10年程前、涼音堂レーベルのPlot.名義での電子音楽家として知り合いました。多才です。全曲ほぼ1テイクでOKで、部分的に少し録り足した位でした。




安田寿之 プロフィール

安田寿之:電子音楽をベースにジャンルレスに活動する音楽家/作編曲家/プロデューサー。MEGADOLLYレーベル代表。元FPM(Fantastic Plastic Machine)。「Robo*Brazileira」としてブラジル音楽を歌うなどユニークなソロ活動を主体に、Towa Tei、Senor Coconut (Atom Heart)、Clare and The Reasons、Fernanda Takai (Pato Fu)など、内外・ジャンル問わず共作・共演。CM、中野裕之監督映画、篠山紀信写真映像作品、桑原茂一コメディ作品、パフォーマンスなどへの音楽制作も多数。新しい形の「音楽のソーシャル・ハブ」になるべく、直接配信契約するiTunes Storeで多様なアーティスト作品を全世界発表する。常に、既成概念を打破する新しい音楽の公表方法を模索/実施している。2013年には、1点物の音楽作品と写真を組み合わせた「音楽家の写真展」を開催し、広告業界など他業種から注目を集める。武蔵野音楽大学講師。

◆安田寿之 オフィシャルサイト

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