超注目の次世代型アンサンブル=Ensemble FOVEスペシャル・インタヴュー

2019/12/20

 Ensemble FOVEはクラシック界の第一線で活躍する若手演奏家たちによる次世代型アンサンブル。1991年生まれの作曲家、坂東祐大の呼びかけによって2016年に設立され、コアメンバーにはサクソフォンの上野耕平やオーボエの荒木奏美、ヴィオラの安達真理ら錚々たる顔ぶれが並ぶ。「ジャンルの枠を拡張する新しいアートの実験・実践」をコンセプトとし、一般的なコンサートホールではない場所でのパフォーマンスによるオリジナル・プロジェクトを展開する一方で、米津玄師や宇多田ヒカルのレコーディングに参加するなどポピュラーのフィールドでも注目を集めている。

 そしてこのたび、坂東が新設したレーベル、FOVE Recordsから第1弾アルバム『ZINGARO!!!』がリリースされた。ヴァイオリンの尾池亜美をソリストとするツィンガロ・ミュージック(ジプシー系の音楽)集。サラサーテの《ツィゴイネルワイゼン》、ラヴェルの《ツィガーヌ》、モンティの《チャールダーシュ》といった王道名曲や伝承曲などが坂東の手によってアレンジされ、メンバーたちの即興も含むエキサイティングな演奏によって、斬新で遊び心あふれるアルバムに仕上がっている。

取材・文◎原典子 写真◎e-onkyo music

「FOVE Records」第1弾
ZINGARO!!![Hi-Res FULL version]
※e-onkyo music限定~ボーナストラック入りヴァージョン




■坂東祐大&尾池亜美 スペシャル・インタヴュー


◆テーマはツィンガロ・ミュージック

――Ensemble FOVEというと現代音楽というイメージがあったので、最初のアルバムがツィンガロ・ミュージックというのはちょっと意外でした。

尾池 ジプシー系の音楽を集めたアルバムを作りたいというのは、かねてからの私の夢でした。《ツィゴイネルワイゼン》などが「クラシック名曲集」のようなアルバムに入っていることはよくあっても、ジプシー音楽やそこから影響を受けたクラシック作品に特化したアルバムというのはあまり見たことがなかったので、やってみたいとずっと思っていたんです。そんな話を坂東くんにしたときに、「普通の編成じゃ面白くないし、いろんな曲をいろんな編成のアンサンブルでできたらいいなあ」と言ったら、坂東くんから「それだったらFOVEでしょ!」って。

坂東 FOVEでやったら絶対に面白いものになると思ったんです。

尾池 「そうか、その手があったか! じゃあ、やろう」ということでスタートしました。

――もともと尾池さんがジプシー系の音楽に惹かれたきっかけは?

尾池 高校3年生のときに、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番がとても好きになったのがきっかけです。それ以前にもジャワのガムランとか、世界の民族音楽に興味があり、ヴァイオリンを通してどんな国のどんな文化にも親しめる人間になりたいという思いがありました。また、椎名林檎さんのアルバムを聴いて、音楽で自分の感情を自由に表現することへの憧れもありました。そんなときに出会ったこの協奏曲は、ハンガリーの民謡の要素が織り込まれつつも、バルトークの心の中から自然に出てきた音楽だという気がして、私にとってはすんなり身体に入ってくるものでした。高校の卒業演奏でもこの曲を演奏したのですが、打楽器が多用されているのでピアノ伴奏ではどうにもならず、最終的にはピアニストに「足踏みしてくれない?」と頼んだりして。制服姿で、地を踏み鳴らしてバルトークを弾いた思い出があります(笑)。

坂東 僕は亜美さんと同じ高校の2つ下の後輩なので、その姿を見ていました。カッコよかったですよ。今でも憶えています。



FOVE Recordsを主宰する作曲家・坂東祐大(左)とヴァイオリニスト・尾池亜美(右)


◆台本を持ってみんなで遊ぼう!

――アルバムの幕開けを告げるFOVEのオリジナル曲《ロ・ツィンガロ》、大編成で最後にはなぜかウエスタン風になる《ツィガーヌ part 2》、“Reiwa Era Radio Mix”と名づけられた《チャールダーシュ》など、言ってみれば「ツィンガロ・ミュージックのリミックス・アルバム」のようになっていますが、どのようなプロセスで制作されたのでしょう?

坂東 選曲は亜美さんと相談しながら決めました。まず「この曲は入れたい」「この曲は絶対に入れなきゃいけないよね」といった核になる曲から録っていって、残りの選曲はそこからまた考えようという感じで進めていったので、何度もスタジオに入ることになりましたね。編曲に関しては、まず僕が最初にいちおう編曲をして楽譜に書きます。

――「いちおう」というのは?

坂東 その編曲した楽譜を持って、亜美さんと話し合うんです。たとえば「《ツィゴイネルワイゼン》のここ、ちょっと長いからいらないよね」みたいな。

尾池 コンサートならいいけど、アルバムに入れるなら短くした方がいい箇所もあったりして。

坂東 そうやって相談しながら編曲を進めていって、ある程度固まったらメンバーにシェアします。そしてまた「こうじゃない、ああじゃない」とか言いながらリハーサルに入ります。そこで演奏するうちにまた新しいアイデアが生まれて、レコーディングのスタジオに持ち込むといった流れです。なので、僕が最初に書く楽譜は、編曲というか台本みたいな感じですね。「これを持ってみんなで遊びましょう!」みたいな。

――遊んでいる様子が生き生きと伝わってきます(笑)。

坂東 でも遊んでいるときに、どう仕上がるかは全員わかっていないという(笑)。僕もわかりません。

尾池 カレー作りみたいなノリですよね。「冷蔵庫にこれあったから入れてみよう!」っていう。良い意味で自分の想像を裏切られました。とくにディニクの《ひばり》があんなに賑やかに、豪華になるとはまったく思っていなかったので本当に嬉しいです。それぞれの楽器界トップレベルの人たちが横にずらりと並んで、「なんだこれ~~! ひょー!!」なんて言いながら、めちゃめちゃ楽しそうにひばりの鳴き声を真似て弾いていたのがとてもいい眺めでした。

坂東 いい眺めでしたね。《ツィガーヌ》と《ひばり》はコンチェルトのような存在で、アルバムの前半と後半それぞれのクライマックスになっています。

尾池 予想外と言えば、まさか自分の子どもの声を入れることになるとは思っていなかったですね(筆者注:アルバムのなかで2回登場します。ぜひ見つけてみてください!)。




◆ポピュラーのスタジオワークをクラシックの録音に

――お話を伺っていると、坂東さんにとって作曲や編曲という作業は、楽譜に書いた時点ではなく、録音して、ミキシング、マスタリングまで終わってはじめて完了するのではないかと思いました。

坂東 そうですね、すべての工程に立ち会うことを大事にしています。クラシックの作曲家でPro Toolsまでいじる人って、ほかにあまりいないのではないでしょうか。このアルバムでも、スタジオで録音して、ラフミックスを作ったあと、僕が家に持ち帰ってもう一回エディットし直しているんですよ。スタジオワークで使っているようなプラグインを、通常のクラシックの録音ではありえないほど遠慮なく使いまくって(笑)。そうやってEQやリバーブ、音量などのフェーダーも全曲自分で書いて指定しています。そのあと、以前から一緒に仕事をさせていただいているエンジニアの佐藤宏明さんに仕上げのミキシングをしていただくという流れです。

――ご自身でそこまでやっていらっしゃるのですか!

坂東 なぜそんなことをやるかというと、スマホ(スマートフォン)で再生されたときに、どこにフォーカスして聴いてほしいか、みたいなことを考えているからなんですよね。クラシックのホール録音では、全体のレベルを調整するだけで、なかなかそこまではしません。でも僕は細部も全体も、どちらも磨きたい。だからポピュラーのフィールドでは当たり前のスタジオワークのテクニックを、クラシックのフィールドに持ち込んでいるというわけです。

――なるほど。たしかにこのアルバムの音触りは、普通のクラシックの録音とはちょっと違いますね。

坂東 まさに、それが僕個人的には今回のアルバム制作の裏テーマでして。クラシックの録音では一般的に「コンサートホールのS席」で聴いているような音響を再現することが求められますよね。それを可能にするホール録音におけるマイキングというのは、とても完成されたものだとは思います。けれど今の時代、ハイエンドのオーディオだけではなく、スマホで聴かれることも想定しなくてはならないのではないでしょうか。スマホで聴いても「これはなんか違う」と感覚的に音の良さがわかるようなアルバムを作っていきたいですね。

――スマホで手軽にストリーミングを聴く時代、ある意味、対極とも言えるハイレゾについては、どうお考えですか?

坂東 僕はハイレゾの可能性を信じていて、スマホとハイレゾ、どちらもお互いに食い合わず、両立することは可能だと思っています。今回のアルバムは、佐藤さんのスタジオ「EELOW」でミキシングしたのですが、そこの環境がとにかく素晴らしくて、僕が知る限り日本一なんです。そういった環境で究極のハイエンドまで突き詰めた音づくりをすれば、なにで聴いても音の良さを感じられるものになるのではないかと思います。映画だって、映画館で観ることもあるし、スマホの画面で観ることもありますよね。それと同じです。




◆アルバムならではのストーリーテリング

――坂東さんはライナーノーツに、「アルバムというメディアの特性を最大限に活かす」ことを念頭に制作したと書かれていましたが、それについて詳しくお聞かせください。

坂東 アルバムというメディアはキュレーションされているという意味において、まだ作る価値があるのではないかと思ったのがはじまりです。アルバム一枚で、きちんとストーリーテリングができるものを作りたいと。ここでまたクラシックへの問題提起になるのですが、コンサートとアルバムはまったく別ものである、まったく違う時間感覚で進むものであるということを意識しているクリエイターが、クラシックのアルバム制作側にあまりにも少ないのではないかと思うのです。コンサートには、演奏者がステージに歩いて行ったり、曲と曲の間に拍手をしたりといった「間」がありますが、アルバムは時間が止まらずに流れていきます。ということは、ストーリーテリングもすべて変わってくるはずなんですよね。そこを考えないと。

尾池 坂東くんは、アルバムという形態を捉え直していると感じます。CDというメディアには70分以上入りますが、今の人の感覚としては長すぎるので、今作は54分で収めました。さらに前半と後半に流れをわけて、それぞれのクライマックスを作り、聴き手の心の展開を持っていく。曲順にも相当こだわっていて、アルバム一枚を通してストーリー仕立てのようになっているので、映画を一本観るような感覚で聴くことができます。私一人でアルバムを作っていたら絶対にできないことだったので、そこがいちばん嬉しいポイントですね。

坂東 そうやってつねになにか新しく投げかけることを続けながら、今後も活動していきたいと思います。

――今後のご活躍を、ますます楽しみにしています! ありがとうございました。








■Ensemble FOVE 関連作品


井上陽水の音楽活動50周年を記念して、陽水をリスペクトするアーティストが一同に会したコンピレーション『井上陽水トリビュート』。Ensemble FOVEは、名曲「少年時代」にて宇多田ヒカルと共演。演奏はクリックを使わず、歌と演奏を同時に収録するという完全ライブな状況で行われたそう。
右の「少年時代」シングル・バージョンは、アルバム収録曲とマスタリングが違うという事で、その点にも是非ご注目下さい。




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