Maison book girl『海と宇宙の子供たち』発売記念!プロデューサー サクライケンタ氏スペシャルインタヴュー

2019/12/18
矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミによるMaison book girlが最新アルバム『海と宇宙の子供たち』をリリース。計算され尽くした世界観とサウンドデザインは、まさにハイレゾで聴くのにうってつけの仕上がりとなっている。
今回、トータルプロデューサーであるサクライケンタ氏へのインタビューが実現。作曲やサウンドメイクだけでなく、本作の歌詞の世界観まで語っていただいた。

Interview and Text, Photo:e-onkyo music




◆より多くの人に聴いてほしい最新アルバム『海と宇宙の子供たち』


―:前作『yume』から約1年、Newアルバム『海と宇宙の子供たち』の発売、おめでとうございます。この1年を振り返ってみて改めていかがですか?

ありがとうございます。前作『yume』はかなりコンセプチュアルなアルバムでした。今年はその後にシングルが2枚、『SOUP』と『umbla』をリリースして、その頃から今回のアルバムのテーマを先に考えながら進めていました。そこに“海と宇宙”のようなイメージがあって、『SOUP』がどちらかと言うと海で、『umbla』は宇宙。そこに“その世界の子供たち”みたいなイメージでアルバムを作っていて。『yume』はある意味で重くて聴きごたえのあるものでしたが、少し入りづらいかもなという印象もあり、今作はMaison book girlをまだ知らない方にもぜひ聴いて欲しいという気持ちでした。『yume』は”聴くぞ”という気合いが多少要るアルバムなのに対して、今回の『海と宇宙の子供たち』はで外でイヤホンで聴くような感じで楽しめると思います。
もちろんハイレゾでしっかりと聴いていただいても、全編通して気持ちよく聞けるようなアルバムにしました。

―:事前にハイレゾの音源を聴かせて頂きましたが、1曲1曲をそれぞれじっくり聴いていると、“本当にアイドルソングなのか”という難解さもありつつ、アルバムを通して聴くととても聴きやすいアルバムだなという印象が残ります。

実際『yume』はすごくコンセプチュアルに【夢】というテーマをフィーチャーしていたんですけど、今回はもう少し外に向かって開けたものになっていますね。

―:『yume』ほどではないといいつつ、やっぱり今作も音の手触りは的には結構攻めているなと・・・

開き具合がまだ少し足りなかったですかね(笑)僕としてはMaison book girlは4人の女の子のグループとして捉えている一方で、音楽としてはちゃんとポップスとして成立するようにって考えています。だから、前の2枚のシングルも含めて、ちゃんと歌のメロディーや歌詞が聴き取れてなおかつ一緒に口ずさめるようなものにしたいと考えながら作りました。

―:ヴォーカルの仔細なニュアンスもかなり残されていますね。リップの音も聞こえたり、音像も近くて生っぽいというか。アイドルというフォーマットだとどうしても作り込んだエディットをしがちなように思いますが。

そうですね、普通はミックスの段階でそういう帯域はガッツリ切っちゃったりするんですよね。ミックスのエンジニアさんはいつも同じ方にお願いしているのですが、前々回のシングルぐらいから、あえてそういう歌としての生々しさを残していこうという話はしました。


◆全ての音が意味を持つように


―:オケも音数が多くなくてとても整理されているというか、J-POPというよりはオルタナティヴっぽさを感じます。

トラックの音数は実際すごく少なくて、必要なものしか入れないようにしていますね。今回特に変わった作りになっているは4曲目の「悲しみの子供たち」は殆どがリズムのトラックで、和音としてはピアノとあとはアコギだけっていう。ピアノがいてアコギがいて、リズム5人くらいで演奏しているみたいな空間のイメージです。

―:「悲しみの子供たち」はアレンジ自体もコンテンポラリージャズっぽさもあり、少しジプシーっぽさを感じるピアノのフレーズもあったりで、アコースティック編成でも聴いてみたいと思いました。

昔からMaison book girlでは必要のない音は入れないようにしています。音と音の間隙を大事にしているというか、やっぱり歌と重なって色々な音が鳴っていると埋もれてしまうので、鳴らすにしても同じタイミングにしないようにとか、そういう部分を意識しています。どの曲もそうなのですが、鳴っている全部の音がちゃんと意味があるように心がけてます。

―:しっかりと帯域で計算された塊感があって、音圧で押してくる音とは真逆ですね。とてもオーディオ的でハイレゾ向きな音です。

全編通してハイレゾだとLowはかなり低いとこまで出ていて、それもちゃんと音程感のある低音になっていますね。キックもスマホの付属のイヤホンでは再生できないだろうなという成分が結構大きな音で入っていたりします。Highもちろん出ているんですが、今回はよりローエンドにこだわっています。ミックスって箱みたいなものだと思うんですけど、上を出しすぎると相対的に下が聴こえにくくなったりするんですよね。なので、Lowの深いところまで聞こえるようにHighとのバランスをとったというのが今回のミックスの方向性です。Highは聴感上聴こえやすい分、それを抑えていかにLowの見通しをよくするかという。

―:とても広いレンジ感で、普段こういう音楽を聴かない方にこそしっかりとオーディオ的に楽しんでほしいですね。ヴォーカルだけでなく楽器の音色も印象的です。例えば1曲目の「風の脚」のピアノはアルバムを象徴しているような印象がありますが、アタックを抑えた質量のある音で、ヨハン・ヨハンソンを彷彿とさせるものを感じます

ピアノは今回は生では無くソフトウェア音源なんですけど、デフォルトの音の時点ですごく音が良くて、ある意味生より生っぽいという。
タッチノイズのコントロールもできるので、生ピアノだったらマイキングの関係で実現できないような、たとえば打鍵の音だけでなく鍵盤から指が離れる音を強調したり、そういう領域まで追い込めるんです。

―:生ピアノだと物理的に難しい側面が出てしまう分、ソフトウェア音源でこその領域ですね。サクライさんご自身の現代音楽からの影響が強くでる部分ですか。

そうとも言えると思います。音を整理する感覚であったりとか、そういう部分はクラシックや現代音楽的な要素が強いですね。音色としての展開と、メロディーの展開の関係性はかなり考えています。

―:一方で、J-POPとしての大衆性を維持したところに着地させる必要があると思うのですが、そのバランスはどのように?

そうですね、このアルバムで現代音楽的じゃ無い要素といえば、例えば普通のエレキベースやドラム、エレキギターなんかも現代音楽では大抵クリーントーンでメロディーや和音を補強していると思うんですけど、僕の場合は要所要素で歪みを加えたりしてポップス的なバランスを作っています。もちろん歌の存在もそうですね。コード進行やメロディーの展開も現代音楽とは違いますし、そういう部分がポップスとしてのこの音楽を成立させてくれているのかなと思います。


◆作り手の思いが伝わるサウンドを


―:昨今のアイドルのシーンは、音楽で勝負をする動きが強くなってきているように思います。Maison book girlのサウンドの特色の一つは難解さと表現できると思いますが、今のシーンの中におけるMaison book girlはサクライさんご自身にはどう映りますか?

昔からではあるんですけど、単純にいい音楽を作りたいってところが根底にあります。J-POP自体も二分化されると思うんです。全部コピー&ペーストで作られたような思いっきり商業的なものと、ちゃんと作り手がこだわりを持って作っているんだなと誰もが分かるようなものと。だからMaison book girlも、4人の女の子がいるアイドルグループではあるんですけど、音楽的には作り手がしっかりと作ってるというのが伝わるようなスタンスを示していきたいなと思っています。

―:『海と宇宙の子供たち』を聴いていて、今のJ-POPの中でもっとも自由なのはアイドルの音楽なのかもしれないと感じました。以前は音楽好きがアイドルを聴いてるというのを公言しづらい雰囲気があったところに、たとえばPerfumeがエレクトロとして上質な音楽性を示したようなところから随分と流れも変わって、そうした潮流の先にMaison book girlもあるのではないかと思うのですが、サクライさんはどのように感じますか?

なるほど、このe-onkyoさんで話す内容かどうか分からないんですけど(笑)アイドル業界で活動をする前は、ずっとインストばかりやっていたんです。そのうちにソロのアイドルの子の曲を作るようになって…なので7、8年前ですかね。なんとなくアイドル業界も音楽にこだわって作ろうという動きが出てきて。歌モノとしてちゃんとしたものを作ろうという形でアイドル文化が活性化されたあたりで、グループ自体もすごく増えた時期があったんですよ。で、曲を作る人がいないという状況も一方で発生して。そういう中ですごくいい曲を書く人が現れる一方で、あまり売れてないグループだと友達のバンドマンで“ちょっとDTMができる人が曲を書いてる“みたいな状態もありました。僕はそれ自体は悪くないと思うんですけど、とにかくクリエイターが不足していたので色々な人が曲を書いてたんです。そういうものを経てアイドル音楽が進化したような部分もあるかもしれないですね。

―:e-onkyo musicでも、チャートにアイドルがランクインするケースも増えてきました。ハイレゾでアイドルを聴く人が増えている状況については、どう感じますか?

さっきの話からの流れでもあるんですけど、アイドル業界以外のフィールドの方がアイドルに曲を書くケースが増えたことで、楽曲面がしっかりしたグループが多くなって必然的に音質自体へのこだわりも強くなってきています。音源だけじゃなくライヴでの音への追求も進んでいて、以前は2chステレオのカラオケ音源だったのが、ProToolsを持ち込んでパラでミキサー卓に送るグループも増えました。現場での整音への関心が高くなっていますね。ヴォーカル用のマイクもかなりこだわったものを自前で持ち込んでるケースが多いです。作り手もお客さん側も、音の事をよく知ってる人が増えているという事なんでしょうね。

―:なるほど。

特にMaison book girlでいえば、あまり他に参考にできるものがない音作りやミックスをしていると思います。作曲やアレンジはもちろん、Mixの段階でさえ「こういう感じで」というリファレンスを用意したことは無いですね。音の配置であったり、先ほどの話でも出たローエンドの表現の仕方も、他では見当たらない作りになっていると思います。


◆変拍子を抑えて多くの人に楽曲を聴いてもらいたい


―:Maison book girlの場合、小節の解釈など歌う事自体の難易度が高い曲も多いと思いますが、いつもレコーディングはどのように?

だいたいは僕が事前に仮歌を入れた音源を資料として渡しています。以前は何拍子なのかわからないまま歌っていたらしいんですが、この2年位は「この7拍子は4と3の解釈なのか、3と4のノリなのか」みたいな事を本人たちから聞かれることも出てきました。

―:プログレの現場みたいですね。

そうですね(笑)歌う側としては歌詞に歌を乗せるフィールも変わってきますからね。アクセントのつけ方とか。

―:今回はレコーディングや制作の方法論や環境的に何か特徴はありましたか?

ちょっと前の話に戻っちゃうんですけど、今回はほとんどの曲が4/4拍子なんですよね。アルバム用の歌モノの新規曲は「海辺にて」、「ノーワンダーランド」、「LandmarK」、「悲しみの子供たち」、「ランドリー」なんですけど、変拍子なのは「悲しみの子供たち」だけです。この曲だけは逆に思いっきり変拍子にしてあるんですけど、気持ちよく聴くという意味では意外と取っ付きにくいらしくて。僕自身は全ての曲が1/1拍子だと思ってるタイプなんですけど(笑)

―:1/1拍子!

いや実際は無いんですけど、「ここで展開が変わる」みたいな小節の解釈なんです。ただ、お客さんの感想なんかを見てると案外そうでもないみたいで。だから今回は逆に、4/4縛りというか、4/4拍子になるように意識的に曲を作りました。4/4という枠の中で付点の音符を使ったり楽器同士の音を少しずつずらしたりして、アクセントの置き方でグルーヴを作っています。一拍も厳密には八分音符2個分なので、その裏の部分を強調したりするのはいつも意識せずにやっています。

―:トレードマークともいえるトリッキーさですね。

その枠の中からはみ出さない範囲のトリッキーさで、多くの人に聴いてもらいたいなという楽曲を作っていきました。

―:サウンドだけでなく歌詞も非常に独創的ですが、着想自体はどういうところから?

シングル『SOUP』と『umbla』からそれぞれ2曲ずつ今回のアルバムに収録しているんですが、『SOUP』の時点で頭には『海と宇宙の子供たち』というアルバムのタイトルがあって、“海の中の偽物の世界”みたいなイメージだったんです。そこが誰かが前回のアルバム『yume』を作っているメタ世界みたいな。その上に『SOUP』というシングルの階層があって、さらに『umbla』の階層があるという。で、自分がその幾重にもある階層のどこにいるのか、というようなことを想像しながら歌詞を書きました。

―:その世界の情景がはっきりとあったんですね。

そうですね。そういう情景の投影が強いタイプなのかもしれないです。

―:最早コンセプトアルバムの領域なのでは・・・

いや、今回はそういう世界観をそこまで気にせず聴いていただいて大丈夫です(笑)ただ自分が作り出す上で、そういうテーマを決めておきたかったんです。アルバム全体でストーリーということではなく、どれか1曲を繰り返し聴いていてもいいし、その1曲の中にもちゃんとストーリーがあります。深読みしたければ、それはそれでまた楽しんで頂けると思います。

―:冒頭のお話にもあった「歌詞が聞き取れる音作り」というところにも繋がりますね。

はい、そうですね。

―:既存のシングル2作の時点で通奏低音のようなテーマがあることで、アルバムとして綺麗なシェイプになっているのだなと改めて感じます。
それでは最後に、e-onkyo musicのリスナーに聴きどころやメッセージなどお願いします。

最近は、ライトな音楽ファンもファッション感覚で音のいいイヤホンやヘッドホンを使っている人が増えてきました。そういう人にこそ音作りやミックス…音の形みたいなものを聴いてほしいなと思うのと同時に、ちゃんとしたオーディオで聴いてもしっかりと楽しめるものになっているので、そういう環境をお持ちの方にも聴いてほしい作品になっています。皆さんぜひ聴いてみてください。



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<information>
■ Maison book girl「Solitude HOTEL ∞F」
会場:LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
日程:2020年1月5日(日)
時間:16:00開場 / 17:00開演

Maison book girlオフィシャルサイト
https://www.maisonbookgirl.com/



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