温かみのあるサウンドを生み出す緻密な作り込み──INO hidefumiの制作スタイルに迫る

2019/11/05
INO hidefumiさんのシングル「Squall」とアルバム『SONG ALBUM』がe-onkyo musicで配信スタート。今回はそれを記念して、ご本人にインタビューする機会を得ました。INOさんの音楽といえば、60年代~70年代のロックやソウル、昭和歌謡などを想起させる温かみのあるサウンドが特徴ですが、それはどのように生み出されているのか? その制作スタイルに迫ってみました。

文・取材◎北口大介 写真◎e-onkyo music 協力◎DYNAMIC AUDIO 5555


■INO hidefumi最新曲が待望のハイレゾ配信開始!Squall/INO hidefumi




■INO hidefumi初の全曲ヴォーカル・アルバム
待望のハイレゾ配信!
SONG ALBUM/INO hidefumi




■INO hidefumi スペシャル・インタヴュー



■90年代から変わらない制作スタイル


── 『SONG ALBUM』がリリースされたのは2018年10月10日、「Squall」のリリースが2019年9月15日ですので、おおよそ1年ですが、その間のINOさんの制作活動はどのように進んできたのですか?


INO hidefumi(以下、INO):その間に限らずですが、僕は常に音楽を作っているんです。ライブをしたり、時々レコードを見に行ったりしているとき以外は、家にいれば基本、作っています。まぁほかにやることがないだけです(笑)。今日も、ここに来るまでは家で音楽を作っていました。 ── 音楽を作るときは、どういうことから始めるのですか? INO:即レコーディングしています。

── なるほど。常に録れる環境がご自宅にあって、時間があればそこにいるようなイメージでしょうか。レコーディングはDAWを使って行うのですか?

INO:僕はパソコンと向き合って音楽を作るのが好きじゃないので、いまだに化石のようなレコーダーを使い続けています。90年代に主流だったハードディスクレコーダーですね。周りのミュージシャンからは「いい加減に乗り換えれば?」と散々言われていますが、自分の性に合っているし、自分の思い通りに使えてスピーディなんです。RolandのRoland VS-1880で、仮想トラックまで入れたら100トラック以上使えますが、音数の少ない音楽が好きなので、自分の作品では18トラックあれば充分です。いまや珍しいと思いますが。

── 確かに珍しいかも……それはVS-1880が新製品のころから使っているのですか?

INO:そうです。何度か買い換えていますけど同じ製品で。このあたり、もう亡くなられましたがレイ・ハラカミさんともすごく意気投合しました(編注:レイ・ハラカミもRolandのVS-2000CDと音源SC-88Proで制作していることが知られていた)。機材は自分たちにとってあくまでも道具であって、合うか合わないかが大事。どんなに原始的な機材を使ったとしても、命がけで自分たちの音色や周波数でつくられたものには、生命力や呪術的なものすら宿ると確信してます。今の環境は自分にすごく合っていて、感覚的に扱えるし、痒い所に手が届く感じ。ちなみに、何かのときのために控えも1台持っているくらいで……ってこれ、取材の趣旨に合った話でしょうか(笑)。

── 大丈夫です! すごく興味深いです。レコーディングはどのように進めていくのですか?

INO:基本的に僕は、鍵盤で弾くコードに対してメロディ/歌だけで成立できるように考えます。その時点ではまだ仮のメロディだったり鼻歌だったりしますけど。それを録ってある程度下地ができたら、次はドラム、次はコード、最後にベースを録っていきます。その間、いろいろやっているうちに気になるところが出てきたら修正して。最初からある程度全体をイメージして、組み立てていきつつも壊しながら。でも最初の直感、イメージは壊さないように。

── ドラムやベースは生かな?と思うようなところもあったのですが、打ち込みなのですね。

INO:はい、ハイハットもバスドラもスネアもベースも1音1音、強弱やアクセントもすべて数値で入力しています。ベースは特に、音のゲートによってグルーブが変わってきますし、スネアに当たらないように削ったり……。厳密に聴くとズレているところもあるんですが、そのズレも細かく計算して。こういう作業を繰り返し行っています。だから家にこもっているわけですが(笑)。生演奏の良さもあって、弾いてくれる人もいるし、人と一緒にやる良さももちろんあるのですが、このやり方が自分の性に合っているんですね。

── 音作りも同時に行うのですか?

INO:ある程度は自分のフォーマットを作っています。例えばスネアならAという音とBという音を組み合わせて、とか。裏で使うときはこんな感じ、とか。すべて数値で細かく設定を決めています。それを組み合わせてパターンを作っていく。聴いてみて、面白くないなと思ったら解体してもう一度組み直す、この繰り返しです。大変ですけど楽しいですよ。どんどん絵が出来上がっていくような感覚。画家ってアトリエにこもって全部1人で描くじゃないですか。デッサンから下絵、色付けまで。塗った後も気になるところは塗り直して。自分もその感覚に近いと思います。

── INOさんの音楽は、60年代~70年代のロックやソウルに通じる手作りの温かみがベースにあり、そこにエレクトロニカ的なエディット感覚が同居しているような感じがしていたのですが、その秘密が分かったような気がします。

INO:それはうれしいですね。レイモンド・スコットのような電子音楽の流れを汲むエレクトロニックミュージックが好きです。細野晴臣さんの音楽もはっぴいえんど時代からの作品も愛聴して来ましたが、『マーキュリック・ダンス』という天河大弁財天社でレコーディングされた細野さんのアンビエント期の作品にもすごく影響を受けていますし。そういうバックボーン、伝わっているかな?って思うこともあったので。

── これはエディットなのかエフェクトなのか、どっちなんだろう?と思う音がありました。「スカイツリー」のピッチベンドがかかったようなエレピの音です。

INO:あれはWhammyというDigiTechのペダルエフェクターを使っています。もともとギター用のものなのですが、ライブでご一緒している鈴木茂さんが「ピアニカにかけるといいよ」と教えてくれて。でも実際にやってみたらあまりよくなくて(笑)、試しにエレピにかけてみたらすごく面白かったので使うようになりました。その当時、ダーティ・プロジェクターズというブルックリンのバンドが好きだったのですが、彼らもギターにWhammyを使っていましたね。

── エフェクトをかけながら録っているのですか?

INO:そうです。DAWなら後から簡単にエディットできるかもしれませんが、僕は何回も踏んでいますよ。没テイクがいっぱいです。おかげで、上達しますね。ライブでも基本的には同じ環境でやるので役立っています。歌もそうですね。最近はピッチを補正してくれるものもあるんですけど、そういうものは絶対に使いたくないので何度も歌う。だから上達します。 気になるところがあれば何度もやり直しするので時間もかかりますし、時々自分は何をやっているんだろう?と思う瞬間もあります。パンチインを行いたいんだけど両手がふさがっているようなときは足でRECボタンを押したり……これはちょっとだれにも見られたくないなぁとか(笑)。

── 逆に拝見してみたいです(笑)。現在の制作スタイルは「Squall」や『SONG ALBUM』に限らず、これまでもずっと同じなのですか?

INO:変わらないです。全部そう。90年代から変えていません。

── そこを変えると自分の音楽が変わってしまう可能性がある?

INO:そうなんです。実は一度、パソコンベースの制作環境を試してみたことがあるんです。便利だし、乗り換えないとなと思って。でも、やっているうちに音楽を作るというよりも、音楽をデザインするような感覚になってきて。カット&ペーストも簡単にできてしまいますからね。やはり自分はそうではなく、録ってみてダメだったらやり直し、二度とできないようなものが録れたらうれしい、そういうところのよさを感じ、これは偶然なのか必然なのか?というのを楽しめなくなったらダメだなと思ってしまって、元のスタイルに戻りました。





■ミックスのチェックは車で

── 『SONG ALBUM』にはエンジニアとして今本修さんの名前がクレジットされていますね。

INO:アルバム全曲伴ったのは今本さんが初めてで技術も人柄もとても信頼できます。東京スカパラダイスオーケストラのGAMOさんにサックスを吹いてもらったんですけど(「犬の散歩」「ねむれない」)、やはりサックスのレコーディングはプロにお任せしたいと思いまして。この部分は別スタジオで行い、機材もProToolsを使ってもらっています。

── ミックスも今本さんが行ったのですか?

INO:自分でつくった仮ミックスとステム(楽器やパートごとにトラックをまとめたオーディオファイル)でお渡しして、リクエストを伝えて仕上げてもらいました。いつも素晴らしい音に変貌して帰って来るので嬉しいです。

── INOさんが行うミックスの作業はどのように進むのですか?

INO:ある程度ミックスしたら車の中で試聴します。走りながら大音量で聴く。信号待ちのとき白い目で見られながら(笑)。気になるところがあれば部屋に戻って修正し、また車に乗って聴く。これが結構続きます。車の中で聴くと、景色も変わるし、動く景色の中で自分の音楽がどう聴こえるのかがジャッジできる。テンポ感もつかみやすいです。部屋の中だと、空間が変わらないので見失ってしまうことがあるんですね。車の中で聴くとそういう意味でも正しい答えが降りてきます。


■歌ものとインストは違うようで同じ

── 『SONG ALBUM』はINOさんにとって初めてのボーカルアルバムでした。そこで歌詞についても聞かせてください。アルバムの解説でINOさんは「何の変哲もない1日を歌っていて何か特別の快感がある歌詞」を書いたとおっしゃっています。具体的にいうとどういうことですか?

INO:難しい言葉を使いたくないというのがあります。黒澤映画を観ていて童謡の「まぁるい まぁるい まんまるい 盆のような月が~」を縁側で歌うシーンがあって見たままを歌う感覚の方が、なんの変哲もないんだけど自分にとっては深みが感じられるというか。ひねられた言葉よりも、そういう言葉の方が新鮮な気がするんです。

── 制作の方法をうかがっていると、曲が先にできるのかなという感じがしたのですが、出来上がった曲のイメージに合わせて歌詞を作っていくのですか?

INO:自分で作詞するときはそうです。『SONG ALBUM』では小西康陽さんに2曲、詞を書いていただいたので、それらは詞が先にありました。自分にとって初めての経験で、絶対にできないと思っていたのですが案外、自分に向いているのを感じました。





── 曲が先と詞が先では作り方の感覚がだいぶ違うのかなと思いますが、どのように進めていったのですか?

INO:歌詞にコードを当てていって、そのうちにメロディが浮かんでくるような感じです。

── テンポも同時に決まっていくのでしょうか?

INO:ほぼ同時ですね。リズムもそうです。とはいえ、いくつかのパターンは生まれます。例えば「東京上空3000フィート」は3パターンできて、採用しなかったものにはスローなものもありました。

── 『SONG ALBUM』以前にボーカルアルバムは作ろうとは思わなかったのですか?

INO:思わなかったですね。ただ、10年くらいずっとインストでやってきて、自分の中ではインストはやり尽くした感覚があったんです。20代のころ組んでいたバンドでは鍵盤を弾きながら歌っていたこともあって、歌の世界も楽しそうだなと思って取り組んだのが『SONG ALBUM』でした。

── 歌詞も書かなければならないし、インストとは違った脳を働かせますね。

INO:違うようで同じでもあるんです。僕にとっては変わらないというか。子どものころから歌詞は響きとして聴いていただんだと思います。声も楽器の1つとしてとらえているので違和感はなかったです。逆に、インストを作っているときも響きとして歌を作っているような感覚でやっていました。でも言葉は面白いですね。本を読むのが好きで、昔から気になった言葉やフレーズ、ストーリーをメモしてあって、今回、作詞をするときにそのメモを開いて拾い集めた言葉から歌詞を作っていったりもしました。

── なるほど、INOさんの詞の世界観はそういったところからも生み出されているのですね。作詞もそうですが、音作りにおいてもあらゆるパートをご自身で手がけるパーソナルなスタイルが基本のINOさんですが、ドラムやギターのプレイヤーでお好きな方はいますか?

INO:日本で好きなドラマーは林立夫さんです。実際、一緒にツアーも回らせていただいて、何回やっても林さんのドラムには鳥肌が立つくらい感動します。ギターはやっぱり鈴木茂さんですね。茂さんのギターって、すごく音がデカいんですけど全然嫌じゃないんです。職人的にご自分でコンプレッサーを作られたりしていて、どんなに大きくても耳障りじゃない、気持ちいい音なんです。歌っていて気持ちいいですね。歌をじゃましない、それでいてソロになるとガッと出てきて。そのメリハリというかさじ加減が絶妙で。本当に勉強させていただいています。

── 本日は興味深いお話をたくさん聞かせていただきありがとうございました。最後になりますが、DYNAMIC AUDIO 5555のハイエンドなシステムでハイレゾ音源の試聴ができますので、ご一緒に「Squall」を聴いてみましょう。

<「Squall」を試聴>

INO:あぁ新鮮ですね。こういう環境で聴くとまた全然違う。きれいですね、音が。ミュージシャンからするといろいろ見えすぎて恥ずかしいような感覚もあるくらい(笑)。個人的には、音楽は手段じゃないという思いがあって、どのような環境でも楽しめる方なんですけど、テクノロジーの進化によってよりよい音で聴ける時代ですから、皆さんにもぜひ楽しんでもらいたいです。

── 貴重なお話、ありがとうございました。






INO hidefumi 待望のハイレゾ配信開始!





■絶賛配信中!Sound and RecordingのDSDライヴレコーディング企画「Premium Studio Live」
 Feat. INO hidefumi + jan and naomi


『Crescente Shades』/INO hidefumi + jan and naomi




■ライヴ・インフォ




INO hidefumi BAND ONE MAN LIVE 2019
Supported by BANG & OLUFSEN Store Japan


2019.11.24 (SUN.) 渋谷 WWW TOKYO
17:00 開場 / 18:00 開演

先行予約 8/11(日)10:00 ~ 8/18(日)23:59 イープラス https://eplus.jp/inohidefumi/

 
一般販売 8/24(土)10:00~ 
イープラス https://eplus.jp/inohidefumi/
チケットぴあ Pコード160-905 (TEL 0570-02-9999)   http://pia.jp/t
ローソンチケット Lコード 71953 (TEL 0570-084-003)   http://l-tike.com

お問い合わせ:innocent record  03-3440-6771
       旅する音楽 0977-84-3838
       WWW 03-5458-7685

 


2019.12.10 (TUE.) 梅田Shangri-La OSAKA
18:30 開場 / 19:00 開演

先行予約 8/6(火)12:00 ~ 9/6(金)23:59 イープラス https://eplus.jp/ino/

 
一般販売 9/7(土)10:00~
イープラス https://eplus.jp/ino/
チケットぴあ Pコード (TEL 0570-02-9999) http://pia.jp/t
ローソンチケット Lコード (TEL 0570-084-003) http://l-tike.com

お問い合わせ:innocent record  03-3440-6771      
       旅する音楽 0977-84-3838
       YUMEBANCHI 06-6341-3525 (平日11:00~19:00) www.yumebanchi.jp

 

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