麻倉怜士が徹底解説!『超絶サウンド!芸劇オルガン』その魅力を徹底チェック!

2019/10/23
10月9日の配信開始以来、e-onkyo musicのアルバム・ダウンロードチャートの上位をキープし、オーディオファン、ハイレゾファンの高い関心を集め続ける作品『超絶サウンド!芸劇オルガン』。東京芸術劇場とキングレコードのタッグにより実現し、各方面でも話題となっているこちらの作品を、オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師の麻倉怜士氏が徹底解説。その魅力をオーディオ的、音楽的観点から紐解いていきます。

【遂に配信開始!】東京芸術劇場×キングレコード共同企画
超絶サウンド!世界最大級、芸術オルガンを聴く!



「東京芸術劇場のパイプオルガンはルネサンス、バロック、モダンの3スタイルに変身する世界でもたいへん珍しい可変構造を持つ。そこで、ハイレゾ試聴も、単に音質だけの観点ではなく、3つの古今のスタイルが、音楽的に音にどう反映するのか。それをハイレゾはどこまで描き分けできるか。リニアPCMとDSDの音質、音調の違いはどうか……の観点で、チェックした。」麻倉怜士


●ルネサンスオルガン

 1オクターヴの中に8ヵ所の純正3度を含むミーントーン(5度をわずかに狭める)で調律されている。ピッチは467Hzと高い。

Tr. 1 -- J.C.ケルル:カプリッチョ「カッコウ」(2:29)
 鍵盤によるカッコウの鳴き声の描写に加え、効果音で鳥の鳴き声が発音される。鳥の鳴き声は音量は低いが、けたたましく、最後まで鳴く続ける。秘め事のような濡れたカンタービレが色っぽい。

A.ファン・ノールト:詩編 第24編「地とそこに満ちる」
Tr. 2 -- Vers1(2:27) 
Tr. 3 -- Vers2(2:22)
 ポリフォニーの各声部の音高的な、そして音色的な違いが192kHz/24bitの解像力でひじょうにクリヤーに活写されている。ゆったりと音を刻むしっとりした主旋律と、軽快な律動の副旋律との対比が鮮やか。客席で聴くより、はるかにクリヤーなのは、幾重もの空気の層を通った音でなく、パイプに近接したマイキングだからだ。

 最後のピカルディーの3度(マイナー調が最後の一音でメジャーに変化)が強烈に効く。ピアノでのピカルディーの3度はすぐに音が減衰するので、短調が長調で終わるこの進行の有り難みは、いまひとつよく分からない。オルガンの場合、長三度のメジャー音が長くサステインされるので、効用はひじょうに大きい。マイナー世界が最後に、ドミノ倒しのようにメジャーに一気に変わり、ああ助かったという安堵感に包まれる。

 ルネッサンス以前のピタゴラス調律では、こうはいかない。長三度が、わんわんというウルフノイズになるからだ。純正律のドとミは、386セント(半音の100分1の単位)間隔で、きれいに協和する。ところが、ピタゴラス調律ではそれが408になり、純正律の正しい音程より22セントも離れてしまう。ピタゴラス調律でピカルディーの3度メジャー和音を聴いても、不快になるだけだが、純正3度のミーントーン調律だから、より今回のピカルディーの3度が心地好く、体感できたのである。しかも、特に和声感覚が研ぎ澄まされるハイレゾの高透明度の音だから、メジャーハーモニーがより美しいのである。
 
 Vers3は高域から中域、低域へと旋律がカノン的に移動し、最後にペダルの低音に到達。各帯域旋律の解像度が高く、ペダル音は偉容だが、決して重苦しくはない。低域から見事に構築された「音のピラミッド」を見る思いだ。この曲はピカルディーの3度なし。短調のまま終わる。


●バロックオルガン

 バロック調律法で、415Hzという低いピッチ。

Tr. 5 -- J.C.オーライ:コラール「一日が終わり、イエスよ私とともに留まりたまえ」(2:42)
 <ルネサンス>はストレートに音が出てくる印象だが<バロック>は一音一音の磨き込みが高度になり、洗練されてきた。響きは透明に、音のグラテーションが緻密になった。密やかな、かそけきサウンドが神秘的にしっとりと奏される。副旋律と主旋律の対比もより鮮やかに。ハイレゾの透徹な再現性は、その描き分けも見事だ。

Tr. 8 -- J.S.バッハ:前奏曲とフーガ・ロ短調(BWV544)
 旋律音の明確さ、音の輪郭の明瞭さ、うごめく副旋律のあやしさ、ペタルの低音の盤石な安定感---と、キャラクターの違いが明白だ。ここでもピカルディーの3度が効果的。 


●モダンオルガン

 平均律、442Hzのピッチ。透明性、静謐性が<バロック>の特徴だとしたら、<モダン>はハイコントラスト、ハイカラー、ハイシャープネスの明確で鮮明な、抜けの良いクリヤーなサウンドだ。音の粒立ちがこまやかで、しかもパワー感も十分だ。音の勢いが強く、シャープに凝縮され、音の尖り方もダイナミックだ。音色は少し金属調を帯びる。

F.クープラン:『教区のためのミサ』より
Tr. 9 -- 「地には平和 プラン・ジュ」(グローリア)(1:21)
 実にブライトで、クリヤー。何より音に色が与えられ、カラフルな虹がオルガンに掛かったようなブリリアントな音色だ。

Tr. 12 -- 「グラン・ジュによるディアローグ」(アニュス・デイ)(2:30)
 豊かな倍音がリスニングルームに満つる。音色の異なる音の粒子が、広い会場を躍動的に飛び交うようにキラキラ輝く。

J.ブラームス:『11のコラール前奏曲 Op.122』より
Tr. 13 -- 第10番「わが心の切なる願い」(3:55) 
 モダンオルガンの別の側面を聴く。ドイツ的な陰鬱で、曇り空のような切なさと、重たい感情が抑圧的に覆うような短調曲だ。ハイレゾは、悲痛な思いをえぐり出すかのように悲愴な感情を露わにする。

Tr. 14 -- 第4番「心よりの切なる喜び」(2:57)
 優しい、ジェントルな眼差しの温かいメジャー曲だ。ブラームスならではの重層感が体に染みる。


●DSD11.2MHz

 ここまでは192kHz/24bitのリニアPCMだったが、今回の録音はPyramixを使ったDSD11.2MHzがマスターだ。リニアPCMはそこからの変換だ。ではオリジナルのDSD11.2MHzの音はどうか。

Tr. 1 -- J.C.ケルル:カプリッチョ「カッコウ」(2:29)
 風の音が大音量で、ゴーゴーと轟く。この風がパイプを震わせ、共振させ、音を出しているという実感が、生々しく湧く。まさしくオルガンは「風の楽器」なのだ。192kHz/24bitバージョンでは、かそけき、秘めやかなサウンドだったが、DSD11.2での録音は、これほど音が立ち、音の剛性も高く、透明度が高いのか、驚嘆だ。

Tr. 3 -- Vers2 -- A.ファン・ノールト:詩編 第24編「地とそこに満ちる」(2:22)
 192kHz/24bitは空気の層を介して聴く音だが、ここのDSD11.2はまさに眼前にパイプがあり、そこからの直接の放射音が耳に届くイメージだ。万華鏡のように倍音が放射され、豪華絢爛な音の饗宴が聴ける。音の色の種類がひじょうに多く、音の彩度も鮮やかに再現される。倍音を含むさまざまな帯域の音が、ひとつひとつが明瞭なのだ。DSD11.2はオルガンサウンドの華麗さ、音の複線感を生々しく体感させてくれた。




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