『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part3

2019/10/16
e-onkyo music Special Issue 3 ~スタッフ座談会~
今回の芸劇オルガンを巡るプロジェクトはどのように誕生し、どう行われたのか。集中連載の第3弾は、その中心スタッフである4氏にお集まりいただき、語り合っていただいた座談会の模様をお届けします。参加者は、キングレコードの松下久昭氏(プロデューサー)、キング関口台スタジオの増田晋氏(録音部長)、東京芸術劇場の石丸耕一氏(管理課 舞台管理担当係長)、同劇場の曾宮麻矢氏(事業企画課)の皆さん。『超絶サウンド!芸劇オルガン』のハイレゾが益々楽しくなるような話題が満載です!

文・写真◎山本 昇

■バックナンバー
10/2公開:e-onkyo music Special Issue 1~イントロダクション~
10/9公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part2
10/16公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part3
10/23公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part4
10/30公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part5



【遂に配信開始!】東京芸術劇場×キングレコード共同企画
超絶サウンド!世界最大級、芸術オルガンを聴く!


『超絶サウンド!芸劇オルガン』
/川越聡子, 小林英之, 平井靖子, 新山恵理


 



左から、松下久昭さん(キングレコード)、増田晋さん(キング関口台スタジオ)、石丸耕一さん(東京芸術劇場)、曾宮麻矢さん(同)


■「一緒にやりましょう!」~コラボのスタート


松下 私は個人的にもこの東京芸術劇場のファンだったんです。観客としてはもちろん何度も訪れていますし、演奏者としてステージに上がったこともあります。そうした中で、ずっと気になっていたのがこのオルガンでした(笑)。ものすごく大きくて、しかもリバーシブルな機構によってルネサンスから現代まで時空を超えた音楽を楽しめるという世界的にも珍しいオルガンを、なんとかしっかりと録音することができないかと以前から考えていました。我々キングレコード主催のコンサートでこのホールを使わせていただいたときもこのオルガンを聴いて、ますますそう思いました。キングレコードには、ハイスペックなDSDレコーディングが行える機材もありますから、それをここでフルに活用したいと思っていたのです。

 こうしたプロデューサーの熱意から生まれた企画だが、このプロジェクトで注目したいのはキングレコードと東京芸術劇場とのとても丁寧なコラボレーションが図られていることだ。

松下 単に我々が乗り込んで録るということではなく、30年間にわたって蓄積された東京芸術劇場の音響チームと合同でやらせていただきたいと提案させていただきました。それが2018年の終わり頃のことで、以降、思いのほか順調に進んで今日の録音日を迎えることができ、ほっとしています。

 東京芸術劇場の音響チームの受け止めはどうだったのだろう。松下氏の提案を快く受け入れたという東京芸術劇場の石丸耕一氏はこう語る。

石丸 ホールでの音楽の録音と言うと、一般的にはレコード会社を中心としたチームが機材と共に乗り込んで来られ、こちらは電源と回線をお貸しするだけというのがよくあるパターンです。一方、劇場は劇場で、自主公演の録音をなるべくいいものにすべく、日々チャレンジしていますが、それらは資料としてアーカイブされるものがほとんどで、基本的には日の目を見ない録音物なんです。そうした中でいただいたキングレコードさんのご提案は「一緒にやりましょう」というものでした。それを聞いたときのうちの音響チームのメンバーたちのモチベーションの上がりようはすさまじく、「いままで頑張ってきて良かった」と喜んでいました。本当にありがたいお話をいただいたと思っています。

 そして、本作の録音とミックスを担当するのが、キング関口台スタジオの増田晋氏だ。

増田 僕はこれまで、いろいろなジャンルの音楽を録ってきました。キングレコードがリリースした歌謡曲や演歌をはじめ、ポップスはもちろん、童謡まで……。

松下 彼は2010年に陰陽座の『金剛九尾』というヘヴィ・メタルのアルバムで、第17回日本プロ音楽録音賞の「ポップス・歌謡曲部門」で最優秀賞を受賞しています。

増田 ここ数年は松下さんと一緒にクラシックの生音もよく録らせていただいてます。日々勉強という感じではありますが、すごく楽しいですね。歴史がある分、奥が深いというか。

松下 元々はポップスやロック系の仕事が多かった増田さんですが、クラシックも担当するようになってからは何度もクラシックのコンサートに足を運んで、実際にいい音で録るようになりました。いまやアーティストからの信頼も厚く、クラシック録音のエンジニアとしても定評があります。


録音をプレイバックするコントロール・ルームの様子


■一筋縄ではいかないパイプオルガンをDSD 11.2MHzで録る!

 今回のレコーディングはDSD 11.2MHzをメインに行われた。このフォーマットの選択にはどんな意図があるのだろうか。

増田 現在の録音フォーマットの中でもクオリティが高く、プロデューサーの松下さんも音質にこだわりがあり、このDSD 11.2MHzをよく評価していましたから、今回も当然これでいこうと思いました。

松下 私はクラシックの仕事が多くてオーケストラ、あるいヴァイオリンやピアノ、チェロといったソロの録音にも携わってきましたが、そうした経験の中で、DSD 11.2MHzは音の奥行き感や広がり、解像度の高さといった点で非常にいい印象を持っていました。音域が広いパイプオルガンがホールと一体となった響きを捉えるという今回の録音では、まさにDSD 11.2MHzの良さが生きると思ったんです。キングレコードの関口台スタジオも高い買い物をしましたが(笑)、この高価な録音システムを役立てるには絶好の機会ですからね。

増田 ただ、このシステムは社内に1セットしかありませんから予約するのも早いもの勝ちの状態で(笑)。

 空間表現に優れると言われるDSD録音には、確かにホールの美しい残響も含めて上手く録音できそうな期待が募る。

松下 やはりそこがDSDを選んだいちばんの理由ですね。石丸さんよると、このホールを担当された永田音響設計の永田穂さんが「パイプオルガンは風の楽器」とおっしゃったそうですが、そういう音をしっかり録れるのがDSD 11.2MHzだと思います。

石丸 モダン面で演奏された初日の録音で、まずプレイバックを聴いたとき、「これはうちの録音環境では到達できない音だ」という、ものすごいインパクトがありました。録音物として、いままで聴けなかったようなオルガンの音が再生されていたんです。例えばPCM録音では16bit/44.1kHzのCDクオリティから24bit/96kHzに変わったときに、多くのマエストロが「これからは全部これでやってくれ」と言ったというエピソードはよく聞かれましたよね。でも、パイプオルガンの録音にはその24/96でも超えられないハードルがあると感じていました。確かに16/44.1よりはいいのですが、まだまだだと。今回、キングレコードさんが持ってこられたPyramix(ピラミックス)の録音システムはそのオルガンをちゃんと捉えていました。

 マイクとその指向性の選択、ポジションは「30年にわたり、代々みんなで作り上げてきた蓄積」(石丸氏)を元に決められた。東京芸術劇場の音響チームによる、そうしたマイキングのノウハウの提供はレコーディング・エンジニアの増田氏にとっても大きかったという。

増田 大変助かりましたね。僕は最初、マイクの設置はスタンドを使おうと思っていたんですが(笑)、実物を見たらとてもじゃないけど、スタンドでは網羅できません。そんなところから始まり、「30年の蓄積」にはお世話になりました。

石丸 ピアノやヴァイオリンのマイキングには、ある程度のセオリーやパターンは成り立ちますよね。でも、パイプオルガンの場合はオルガンそのものの音色だけではなく、ホールも一体となった楽器としての鳴りがある。ということは、パイプオルガンがあるホールの数だけオリジナルのベストポジションがあるはずなのです。ですから、うちのやり方をほかのホールに持って行っても役には立ちません。私たちのノウハウは、あくまでも東京芸術劇場の響きを研究する中で得られたものです。パイプオルガンを持つどのホールも、ベストポジションを探す模索はやっていくべきなのだろうと思いますね。ことほどさようにパイプオルガンは、録音するにはハードルの高い楽器なのです。

増田 石丸さんをはじめ音響チームの皆さんには、すごく親身になって対応していただけました。その姿を見て僕は秘かに感動していたんですよ。使用したマイクにしても、こうしたレコーディングではB&K 4006あたりがよく使われるのですが、聞くところによるとそれだとあまりいい結果が得られなかったということで、そういうカット&トライを続けてSCHOEPSに辿り着いたそうなんですね。そんなことも大変勉強になりました。

松下 そうですね。B&Kやその後継のDPAをメインに、サブでSCHOEPSというのはよくあるんですが、ここでは今回の組み合わせが本当にいい音たったので驚きました。僕としても新しい発見でした。

石丸 先ほども申し上げましたが、それはキングレコードさんが「一緒にやりましょう」と手を差し出してくださったのが、みんな本当に嬉しかったんですよ。


芸劇の音響を知り尽くしている石丸さん


■芸劇スタッフが積み上げたマイキングのノウハウ

 そのマイキングも、録音初日はリハーサルの中で細かな調整も行われていた。

石丸 初日のモダンをモニタースピーカーで聴いたとき、もう少しサイド狙いにしたほうがいいかなと感じましたので、ポジションは同じで、4本のメインのうちの両脇の2本のバランスを少し上げてみようと提案させていただきまた。それから、録音の途中にパイプが1本、不適切な鳴りをしていることに気付いて急きょ調律し直しましたが、こんなことはいままでの録音では分かりませんでした。DSD 11.2MHzだからこそ見えたということです。録音技術はとうとうここまできたんだと、今回ご一緒させていただいて実感しました。

 石丸氏のコメントにもあるとおり、4本のメインマイクはオルガンから11.5mほど離れた場所に天井吊りで設置されている。SCHOEPS CMC-62Sを2本、AB方式(90度 間隔:45cm)でバーに取り付けたものがセンターに、そこから左右に470cmほど離したところにサイド狙いのCMC-62Sが2本ある。さらにオルガンから4mほどの位置にはオンマイク(近接マイク)としてSCHOEPS CMC-62Hが2本、同じくAB方式(90度 間隔:45cm)で吊られていた(マイキングの様子は、連載第2弾〈レコーディング・レポート編〉をご参照ください)。

石丸 東京芸術劇場では普段、オーケストラを録るときにはフィリップスのオノ・スコルツェ方式を採用していまして、3mのバーに無指向性マイクを4本吊っていますが、これをそのままパイプオルガンのサイズに合わせて伸ばしてみようというのが発想のスタートでした。

曾宮 ここのオルガンは中央のタワーには手鍵盤のパイプが、両脇のタワーには低音のパイプがありますが、これらの音を立体的に録るには4本のマイクはちょうどいいと思いますね。

松下 そうですね。その立体感を出したかったんですが、そこはよく捉えられていると思います。

増田 スピーカーのすぐ前で聴いていると、いろんな音があっちからこっちから飛んできて、定位感がすごく面白いんです。皆さんには悪いのですが、僕はずっとスピーカーの真ん中のスイートスポットでそれを一人で楽しんでいました(笑)。

■現場の判断を優先した録音スタイル

 録音対象として、面白くもあり難しくもあるパイプオルガン。そのサウンドを捉えるため、本作のエンジニアである増田氏が現場で心掛けたことは何だったのだろうか。

増田 僕としても、ホールの響きを含めてオルガン全体を録りたいというのはありました。近い音ではなく、いちばんいい客席で聴いているような感じの音を録ろうと思いました。そこで、僕が提案させていただいたのがアンビエンスマイクの追加です。DPA 4006を2本、客席の中ほどで両サイドに吊っています。石丸さんもそういうサウンドがお好みのようでしたのでよかったです。そして、パイプオルガンは低域から高域までレンジがすごく広い楽器ですので、とにかくそれをきちんと収めたい。それが今回のいちばんのポイントでしたね。

 今回のDSDレコーディングでは、マイクごとのマルチトラックと2ミックス(ステレオ)を同時に録音している。この2ミックスは、現場に持ち込まれた小型高性能なアナログコンソールSTUDER 962でミキシングされたものだ。

増田 あとの段階で特にバランスを変えたいということになれば、マルチの音源を使ってミキシングをし直しますが、僕が松下さんとやるときはいつも、基本的にはこの2ミックスをメインに編集作業を進めていきます。現場で聴いてバランスを取った音がファイナルミックスになる場合が多いです。また、今回はサラウンドミックスも作る予定ですので、マルチトラックの音源はこちらで活用することになると思います。

石丸 可能な限り“一発”で勝負したいというお二人の考えには、私たちも賛成でした。

 現場でバランスを整えた2ミックスを生かすということは、位相に狂いが生じないなど音質的なメリットもあるし、現場で決定した判断を優先しようという意志の表れでもあるのだろう。そして、現場と言えば、いい録音には演奏者との良好なコミュニケーションが不可欠だが、そのあたりもとてもスムーズに行われていたように見える。

松下 今回の録音でご登場いただいた演奏者の皆さんはさすがにここのオルガンを熟知されていて、音決めも素早く行えましたし、演奏も完璧でした。演奏者、音響スタッフとも、東京芸術劇場のオルガンを知り尽くした方々によって作られた最高のオルガンサウンドを、DSD 11.2MHzのハイスペックなクオリティでお届けするというのが当プロジェクトの趣旨です。レコーディングも成功裏に終了しましたので、リスナーの皆さんには楽しみにしていただきたいと思います。

曾宮 芸劇のオルガニストたちは、松下さんがものすごく励ましてくださったこともあり、「録音でこんなに気持ちよく演奏できたことはない」と言っていました。「こういう録音もあるんだね」と、みんな嬉しそうでした。また、私が録音の様子を見ていて印象深かったのは、オルガニストたちも録音のための音作りに積極的に取り組んでくれたことです。テスト録音のプレイバックを聴いて、「こう聞こえるなら、音色をこう直したほうがいいかな」と、一度決めた音をさらによく録れるように歩み寄ってくれたのが印象的でした。いい音を聴いてほしいという姿勢は、コンサートのお客さんにも、録音を聴いてくださるリスナーの方にも同じなんだという感触がありました。

松下 そういう意味では今回の録音は、楽器が主役と言えるのかもしれません。

 その主役たるパイプオルガンの音色について、今回の録音を通じてあらためて感じたこともあったのでは?

松下 これまでもいろんなイメージは持っていたのですが、今回しっかりと録音してみて感じたのは、こんなにも多彩な音色を持っていたのかということです。指使いや足使いだけではなく、いろんな要素が交ざり合って出てくる音にびっくりしました。本当に大きな可能性のある楽器だと思います。この魅力をたくさんの人たちに聴いていただけるように、面白い録音をこれからもどんどんやっていきたいと思っています。また、そうすることによってパイプオルガンのコンサートも盛り上がって行くような、そういう一助になればと思います。

曾宮 私たちも頑張りたいと思います!

石丸 先ほどもお話ししましたように、パイプオルガンはなかなか録音が難しいのですが、いまはこんなにいい音で録れるようになりました。ぜひ配信でハイレゾを聴いてくださる方たちにも、この楽器の魅力を感じていただきたいと思います。


オルガニストとの円滑なコミュニケーションを図りながら録音を進めていくプロデューサーの松下さん


■「風の楽器パイプオルガンをずっと好きでいて」

 ここで一つ、読者にご紹介したいのが、東京芸術劇場の音響設計者である永田音響設計の創立者、永田穂氏にまつわるエピソードだ。

石丸 実は私の祖父は、戦前・戦中の頃、日本ではまだ少なかったパイプオルガニストの一人でした。終戦直後、焼け残った日本中のパイプオルガンを弾いて回り、それをNHKが土曜日の朝にラジオで放送していたんです。当時、帝大生だった永田穂先生はそれを毎週聴いていたそうで、1990年にお目にかかった際、私の苗字からそのことをお知りになり、「僕は君のお爺さんのファンだったんだよ。あの放送のおかげで、僕はパイプオルガンが大好きになったんだ」とおっしゃったんです。そして、「このパイプオルガンのあるホールで、そのお孫さんと会うことになるのは運命だね。どうかこのオルガンを好きになって、ずっと守り育ててあげてください」と。2018年にお亡くなりになるまで、お会いする度にご自身がオルガンをどれだけ好きかを、本当に子供のような表情でお話されましたが、いつもおっしゃっていたのが、「オルガンは風の楽器だからねぇ」というお言葉だったんです。私は祖父のことを知りませんが、いつしか永田先生やオルガンの音色にその姿を写すようになり、それが30年にわたって、ベストのマイクポジションを探すためのモチベーションの一つとなりました。

松下 永田先生が手がけられたホールは素晴らしく、私も尊敬していました。そうした素敵なご縁のある劇場での録音に関わることができて、私たちとしても嬉しいです。

石丸 国土の狭い日本に、これだけ多くのパイプオルガンがあるのも永田先生のおかげです。去年亡くなった永田先生にも、この音を聴いていただきたかったですね……。CDができたら、それを持って永田先生と祖父のお墓参りにいかなければと思っています。

■ホールの空間に浮かんだ仮想の特等席

 ところで、パイプオルガンの音をよく聴くと、出音自体にいい意味での歪みを感じるし、メカニカルなノイズも混じっている。アコースティックな楽器はどれもそういった要素を含んでいるが、パイプオルガンはそれも合わせてスケールが大きい。その全体像とディテールを今回の録音によってどう捉えられているか、非常に興味深いところだ。

増田 高域から低域までをもれなく録ることも大前提ですし、オルガン全体の鳴りや響きもきちんと収めたいと思いました。客席のいちばんいい位置で聴いた音が、そのままスピーカーから出てくるようなイメージでしょうか。


 

 増田氏がイメージするいちばんいい席とは恐らく、リアルな客席から遊離して、ホールの空間に浮かんだ仮想の特等席なのだろう。実際の席では聴くことができない、本当のパイプオルガンの音---この芸劇オルガン作品ではそんな極上のサウンドが期待できるということだ。では、最後に、各氏からe-onkyo musicリスナーへのメッセージをご紹介しよう。

松下 東京芸術劇場のパイプオルガンを知り尽くした皆さんとキングレコードが一丸となって取り組んだ録音です。最高のスタッフと機材で臨んだこの作品をぜひお楽しみください。お手元のオーディオを存分に鳴らせる音源だと思います。

増田 スピーカーのセンターでお聴きいただくと、定位感のはっきりした音像が出てきます。一人の演奏とは思えない音がどんどん聞こえてきますので、そんな面白さも味わってほしいですね。もちろん、ヘッドフォンでも楽しめます。

石丸 繰り返しになりますが、キングレコードさんと劇場スタッフがタッグを組んで、これまでは不可能だった「風の楽器」たるオルガンをここまで再現することができました。ぜひこれを、聴いてくださる皆さんにはご自身のリスニング環境でソースの中身を全部引き出していただけるよう、再生にチャレンジしていただけると嬉しいですね。

曾宮 今回は素晴らしい方たちに巡り会えて、素晴らしい音を残していただくことができました。実はこの音もいましか聴けないもので、経年によって風の通りも変わりますし、オーバーホールによって音色も違ったものになっていきます。素晴らしいメンバーによって録音されたこの作品でオルガンの魅力に出会っていただき、当劇場にも足を運んでいただければ幸いです。そして、この作品をきっかけに、ぜひ全国のオルガンの面白さも再発見していただきたいですね。


録音終了後、安堵の表情を浮かべるスタッフの皆さん。右からお二人目はアシスタントを務めた皆川誠志さん(オクタヴィア・レコード)



Organist Interview

「ボエルマンではオルガンのいろんな表情を聴いてみてください」
新山恵理



--いつものコンサートとは違って、今日はレコーディングでの演奏を先ほどご披露いただきましたが、いかがでしたか。

新山 録音中はスタッフの方がいろいろ声をかけてくださったので、安心して臨むことができました。もちろん、「間違えちゃいけない」というプレッシャーも強いんですけどね(笑)。勢いで弾けるコンサートと違って、やはり音が残ってしまうので……。

--ライブではお客さんの反応も感じられるのでしょうね。

新山 そうなんです。後ろを向いているので、見えるわけではないんですけどね(笑)。

--新山さんは、どのようなきっかけでオルガンを弾くようになったのですか。

新山 私は毎日礼拝がある学校に通っていました。そこで聴いたオルガンの和音がすごく印象的で、聖歌が好きでオルガンを始めました。

--オルガンを弾き始めたのはいつ頃から?

新山 もともとピアノはやっていたのですが、オルガンも弾き出したのは高校生になってからです。やはり、あの和音が伸びる感じが性に合ったのかもしれません。

--当時、実際に弾いてみた印象はいかがでしたか。

新山 始めたときは難しかったですね。足鍵盤もあるし。最初は左手と足が一緒になってしまいました(笑)。

--例えばピアノと比べて、奏法として難しいのはどんなところですか。

新山 体のバランスを取るのが難しいんですよ。腰にもかなり負担がかかりますしね。




--それでは、今日録音された曲の聴きどころなどを教えてください。

新山 ボエルマンの『ゴシック組曲 Op.25』は、四つの曲をまとめて一つになっているのですが、フランスの響きが必要になりますので、ここ東京芸術劇場のオルガンにもすごく合った曲です。いろんな曲想に富んでいますので、飽きることなく聴いていただけると思います。柔らかい音があったり、低音のゴォーッという音もあったり、オルガンのいろんな表情を聴いていただきたいですね。

--新山さんが考えるオルガンの魅力とは何でしょうか。

新山 やっぱりその響きですね。森林浴のように、空気の振動を浴びると言いますか……。その音色も、演奏者によって様々で、みんな違うんですよ。もちろん、曲によっても違ってきますしね。

--東京芸術劇場の客席で、新山さんのお勧めはどこですか。

新山 2階の端のほうもいいのですが、改修後は1階もなかなかいい響きになっていると思います。オルガンは演奏台で聞こえる音とホールの音はまた違いますのでね。先ほどの録音でも、ソの音が大きいということで調律してもらいましたが、弾いている本人は気付いてなくて、スピーカーで聴かせてもらって「あら、こんな大きく鳴っていたんだ」と分かりました。手と足のバランスなど、そういう音を見極める時間がオルガンには必要なんです。だから、私たちにとってはこういう録音もいい機会になりますね。

--では最後に、e-onkyo musicのリスナーへのメッセージをお願いします。

新山 私はオーディオに詳しくないので分からないのですが、皆さんのいい装置で聴いていただけるのは嬉しいです。そして、ぜひ会場にも聴きに来ていただきたいですね。ライブではそのときだけのお楽しみ、録音では選ばないような珍しい音もたくさん聴けると思いますよ。



Eri Niiyama
東京藝術大学オルガン科卒業、同大学院修了。仏・リール国立音楽院を満場一致の一等賞を得て首席卒業。各国際アカデミーにおいて研鑽を積み、各地の歴史的な楽器でのコンサートに出演。18世紀に建造された楽器の修復記念演奏会等に招待されている。ソロ演奏会のほか、各オーケストラのオルガン担当や共演、合唱団、アンサンブルとの共演も続けている。NHK-FM「朝のバロック」、NHK-TV「名曲アルバム」等に出演。第3回日本オルガンコンクール第2位入賞。現在、アクトシティ浜松副オルガニスト、東京芸術劇場副オルガニスト。






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