『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part2

2019/10/09
e-onkyo music Special Issue 2 ~レコーディング・レポート~

e-onkyo musicがお送りする、東京芸術劇場とキングレコード 共同制作プロジェクトの集中連載。その第2弾は注目のレコーディングシーンのレポートです。巨大なパイプオルガンと対峙するオルガニストたちの生々しい表情を、またマイキングや録音機材に工夫を凝らす制作スタッフたちのこだわりを、どうぞご覧ください!

文・写真◎山本 昇

■バックナンバー
10/2公開:e-onkyo music Special Issue 1~イントロダクション~



【遂に配信開始!】東京芸術劇場×キングレコード共同企画
超絶サウンド!世界最大級、芸術オルガンを聴く!


『超絶サウンド!芸劇オルガン』
/川越聡子, 小林英之, 平井靖子, 新山恵理



 『超絶サウンド!芸劇オルガン』のレコーディングが行われたのは、2019年6月。演奏は、平井靖子氏(初日の午前)と新山恵理氏(同午後)、川越聡子氏(2日目の午前)と小林英之氏(同午後)という4人のオルガニストによって行われた。 
 初日の9時にはレコーディング機材が搬入され、上手舞台裏に近い一室にコントロールルームが設置された。ここでは、レコーディング・エンジニアの増田晋氏が所属するキング関口台スタジオが所有するPyramixの録音システムや小型高性能なアナログコンソールSTUDER 962などの機材がセットされていく。
  一方、ホールでは、東京芸術劇場の音響に精通する石丸耕一氏を中心とした音響スタッフがマイキングを着々と進めていた。
 録音の準備が整うと、11時前には最初の録音となるオルガニストの平井靖子氏が演奏台に上がり、音決めが済むとリハーサルを開始。この間に、録音スタッフは録音レベルの確認などを行い、いざ録音へ。1曲録るごとに、演奏者はコントロールルームに足を運び、スタジオモニターで音を確認。プロデューサーの松下久昭氏と意見を交わしながら、オルガンの音色を変更したり、演奏の仕方を変えたりして、その楽曲に合う表現を見出していった。
 各演奏者とも、こうした流れで行われた本番の録音は、曲によりテイクを重ねる場面も見られたが、概ねスムーズに行われ、その素晴らしい演奏とホールの響きを伴った豊かなサウンドはDSD 11.2MHzという大きな器に収められていった。
 それでは以下、レコーディングの模様を写真でご覧いただこう。








レコーディング初日の朝、東京芸術劇場の音響チームが中心となり、マイクのポジションが決められていく




各マイクの位置関係。オンマイクはステージ奥、メインマイクはステージ中ほど、アンビエンスは1階席の後方あたり。それぞれ天井から吊り下げている




メインマイクのSCHOEPS CMC-62S(センター)




同じくメインマイクのSCHOEPS CMC-62S(サイド)




オンマイクはSCHOEPS CMC-62H




アンビエンスマイクはDPA 4006




仮設のコントロールルームの様子。手前・左はレコーディング・エンジニアの増田晋さん(キング関口台スタジオ)、
手前・右は両日の録音のアシスタントを務めたエンジニアの皆川誠志さん(オクタヴィア・レコード)。
奥・左はプロデューサーの松下久昭さん(キングレコード)、奥・右は東京芸術劇場の石丸耕一さん




DAW(Pyramix)の画面と小型高性能なアナログコンソールSTUDER 962。8本のマイクのオーディオ信号は、
マイク・プリアンプのMILLENNIA HV-3Rで増幅されてSTUDER 962へ(ラインイン)。
そのインサートアウトがPyramixのテープインに入り、そのテープリターンがSTUDER 962のインサートリターンに戻り、
ラージフェーダーに立ち上がっている。そこでバランスを整えた2ミックスが再度Pyramixに戻される。
よって、Pyramixの画面には、8本のマイクのマルチトラックと2ミックス(ステレオ)の計10トラックが立ち上がっている。
「この2ミックスがステレオ・バージョンのマスターとなります。パラで録っているものは5.1chのサラウンドミックスに使用します」(増田さん)




DSD 11.2MHzの録音が可能なPyramixの本体が収まるラック(下)




今回の録音で使用したマイク・プリアンプはMILLENNIA HV-3Rはホール天井付近に固定設備として設置されている。
写真は当劇場の可搬機材として用意されている同型モデル




マイク・プリアンプのリモートコントロール画面





初日はモダンタイプのオルガンを使用。鍵盤は5つある。




この日最初の録音に臨むオルガニストの平井靖子さん




演奏台からの眺め。「演奏台で聞こえる音は実はバランスがあまり良くないんです。真上から出る音は聞こえづらくて、
近くで鳴っている音が大きく聞こえたり。だから、事前に録音して確かめる演奏者も多いんですよ」(平井さん)




重低音を生み出す木製の32フィート管




楽屋に設置されたモニタースピーカーでも試聴が可能




初日のお二人目はオルガニスト新山恵理さん






演奏をモニターすると、目立つ音が1音あったため、オルガンビルダーのマテュー・ガルニエさんが急きょ調音する。
彼はこのオルガンの製作者であるフランス人のマルク・ガルニエさんのご子息




録音2日目の前半はオルガニスト川越聡子さん




荘厳な雰囲気を醸すルネサンス・バロック面のオルガン




コントロールルームで録音を聴き、マテューさんとも相談しながら音作りを考える川越さん




最後の録音はオルガニストの小林英之さん




2日間にわたる録音を無事に終えた録音スタッフの皆さん





■Organist Interview

「パイプオルガンは、その土地の言語をしゃべります」
川越聡子


 


--川越さんがオルガン奏者を志すようになったきっかけは何ですか。


川越 私はバッハが好きな、ちょっと変わった子供だったんです。小さい頃からバッハのインベンションばかり進んで、ショパンは苦手で(笑)。中学3年生のとき、家にあったパイプオルガンのCDを聴いて「これだ!」と。実際にピアノからオルガンに切り替えたのは高校1年生の終わり頃からですが、そこで出会ったオルガンの先生が小林英之先生だったんです。

--川越さんにとって、パイプオルガンの魅力はどんなところに感じますか。

川越 まるで生き物のように、世界に同じものが一つもないところでしょうか。オーダーメイドのオルガンは人間と同じように個性があります。バイオリニストさんのように、いつも同じ相棒を弾くのではなく、出向いた先でそのオルガンとしばし戯れるという感じになります。だから、そのオルガンに合わせて弾くという姿勢が求められます。例えば、スペインにはスペイン語をしゃべるオルガンがあり、ドイツには子音をたくさん含んだシャープなドイツ語のような音色のオルガンがあります。パイプオルガンはどこのものでも、その土地の言語をしゃべります。弾くほうからすれば、そういう一つひとつの違いを楽しみに訪れるのが魅力ですね。聴くほうにとっては、同じ曲でも、ここ東京芸術劇場、サントリーホール、オペラシティでメーカーも違えば全く違う音色を楽しむことができます。そんなところもオルガンの面白さですね。

--オルガンの音色は演奏者の方によって違ってきますよね。

川越 そうですね。演奏者が理想とする音とそのオルガンが持っている音を照らし合わせて、最終的に選ぶ作業が欠かせませんが、もちろん人によってその選択は違ってきますね。例えばバッハでも、ドーンとゴージャスに弾く人がいれば、少ないパイプで弾く人もいます。

--世界のオルガンを弾いてきた川越さんが感じる芸劇オルガンの個性とは?

川越 異なる国、異なる時代、そして異なる理想を三つの楽器でかなえた、世界的にも貴重なオルガンです。だから、外国人の方もわざわざここに聴きに来るんですよ。

--三つのうち、どのスタイルがお好きですか。

川越 コンサートでは曲に合わせてどのスタイルのオルガンも弾いていますが、今回の録音で担当したルネサンスが好きですね。こういう本格的なヨーロッパの響きがコンサートホールで聴けるのはここだけですから。

--録音中は、調律師のマチューさんとも相談されていましたね。

川越 そうですね。マチューさんはこのオルガンを造ったガルニエさんの息子さんですから、楽器のことは私よりよく知っていて、音の組み合わせなど、いつもアドバイスをもらっています。今日の録音でも、私が決めたレジストレーションも悪くはなかったのですが、録音するなら彼が選んだ音色のほうがより自然に録ることができました。レジストレーションにはいろんな可能性があるのですが、マチューさんもいいアイデアを持っているんです。

--パーツの数も膨大なパイプオルガンは扱いが難しい面もあるのでしょうね。

川越 生き物ですから。季節によっても音色は変わります。アナログ楽器らしく、湿度と温度の変化が音に出るんですね。いまくらいの季節はちょうどいいんですよ。

--では、e-onkyo musicのリスナーへ向けてメッセージをいただけますか。

川越 パイプオルガンには、楽器にもよりますが、だいたい14~15オクターブくらいの音域があります。低音から超高音まで、いままでのCDでは入りきらない音が今回のハイレゾでは収められているそうですね。ライブに足を運ばないと体感できなかった振動や高音も味わっていただけるということで、私も仕上がりを期待しています。皆さんもぜひ楽しんでみてください。






Satoko Kawagoe
東京藝術大学音楽学部オルガン科卒業、同大学院音楽研究科修了。フランス国立トゥールーズ音楽院高等課程(CESMD)修了。
第2回アンドレア・アンティーコ・ダ・モントーナ国際オルガンコンクール第2位入賞。
所沢市民文化センターMUSEの初代ホール・オルガニストを4年間務めたほか、国内外での様々な演奏・啓蒙活動を通して、
オルガン音楽の普及活動を積極的におこなっている。
現在、東京芸術劇場副オルガニスト、洗足学園音楽大学非常勤講師。日本オルガニスト協会、日本オルガン研究会会員。









【遂に配信開始!】東京芸術劇場×キングレコード共同企画
超絶サウンド!世界最大級、芸術オルガンを聴く!


『超絶サウンド!芸劇オルガン』
/川越聡子, 小林英之, 平井靖子, 新山恵理


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