『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part1

2019/10/02
e-onkyo music Special Issue 1~イントロダクション~

世界的にも珍しい“回転式”の機構を持つ、東京池袋にある東京芸術劇場のパイプオルガン。クラシック面とモダン面が背中合わせに一体となり、そのオルガンを回転させることで、4つの時代の音楽を表現することが可能。そんな東京芸術劇場のパイプオルガンを、キングレコードが芸劇のスタッフとタッグを組んでDSD 11.2MHzのハイレゾでレコーディング---そんな注目のプロジェクトの模様をe-onkyo musicでは密着取材を敢行! 参加した4人のオルガニストやスタッフへのインタビュー、さらにパイプオルガンの基礎知識を交え、計5回にわたる連載で詳報します。

 

文・写真◎山本 昇


■バックナンバー
10/2公開:e-onkyo music Special Issue 1~イントロダクション~
10/9公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part2
10/16公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part3
10/23公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part4
10/30公開:『超絶サウンド!芸劇オルガン』東京芸術劇場×キングレコード 共同制作プロジェクトの全貌 Part5


★10月9日(水)配信スタート予定!!

『超絶サウンド!芸劇オルガン』
/川越聡子, 小林英之, 平井靖子, 新山恵理




■ホールの響きを伴ったきらびやかなオルガンサウンド


 圧倒的な存在感---そんな表現がぴったりなのがパイプオルガンという楽器だ。劇場と一体となったその姿は一般的な楽器の概念を超え、見方によっては巨大なアナログ音響システムと捉えることもできるだろう。他の楽器に比べ、普段耳にする機会が多くはないパイプオルガンは、原理・構造・奏法などさまざまな点で私たち音楽ファンにとって謎めいたところがあり、その全体像は掴みづらい。しかし、この楽器の魅力を知るためには、なによりも音そのものをいい状態でじっくりと聴くことが重要だろう。ここに紹介する『超絶サウンド!芸劇オルガン』は、まさに不思議の楽器パイプオルガンの魅力を伝える好企画。キングレコードと、回転式パイプオルガンを世界に誇る東京芸術劇場による注目の共同制作プロジェクトなのだ。

 6月の20日の夕暮れ時、筆者は電車を乗り継ぎ、池袋へと向かっていた。東京芸術劇場で開催される「ナイトタイム・パイプオルガンコンサートVol.27」を聴くためだ。全席1,000円という手頃なチケット代が設定されたこのコンサートの客席は、平日にもかかわらず多くの聴衆で埋まっており、海外からの観光客と覚しい人たちの姿も見られる。そして、なんと言っても目を奪われるのがステージ後方にそびえ、威光を放っているパイプオルガンのその大きさだ。この巨体の前には、モーグのモジュール・シンセサイザーも、ハモンドB3とレズリースピーカーのセットも、マーシャル3段積みも可愛いもの。異様なスケール感と表面に施されている手の込んだ装飾に度肝を抜かれる思いだ。
 この日はオルガニストの小林英之氏によるオール・バッハ・プログラム。ときに軽やかに、ときに重厚に、この巨大な楽器を操る演奏者の姿は遠目に見てもかっこいい。両脇にあるストップと言われる装置に手を伸ばして音色を決定し、複数の鍵盤を弾きこなしていく。驚かされるのがペダル(足)鍵盤の奏法で、まるで座ったままのムーンウォークのように、なんとも滑らかな足の動き。そして、なにより刺激的だったのがそのサウンドで、ホールの空間にきらびやかに立ち現れては美しく消えてゆく高音、ときには地鳴りのような共鳴を響かせる迫力の低音、それらが思いのほか広いステレオ感を伴って迫ってくるのだ。久々に体感したパイプオルガンのすごさ。PAもしていないのに、多くの聴衆を圧倒する要塞のような生楽器。そのサウンドを美しいホールの響きと共に、最新の録音技術で捉えることができるなら、それはさぞかし貴重な音源となるに違いない……。そんな想いを抱きつつ、夜の池袋を後にした。



東京芸術劇場で開催されているオルガン・コンサート。写真はこの日の演奏で使用されたクラシック面からモダン面に“回転”したところ




オルガニストの小林英之さん。6月に行われた『超絶サウンド!芸劇オルガン』の録音シーンから




足鍵盤の見事な演奏が加わるのもパイプオルガンの醍醐味

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