連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第71回

2019/08/02
『Double Vision (2019 Remastered)』 Bob James, David Sanborn
~あの音ヌケの良い高音質アルバムの音を、ハイレゾで更に超える! ~
 

■『ダブル・ヴィジョン』の思い出は、アメリカ盤vs日本盤

海本日取り上げるフュージョンの超名盤 『ダブル・ヴィジョン』は、私のオーディオ人生で重要な1枚でもあります。

15年くらい前の出来事。お客様が持参した試聴CDが、この『ダブル・ヴィジョン』でした。もちろん私も大好きなアルバム。一緒に聴き始めると、「あれ? いつもより音がイイ!」と、すぐに気づいたのです。慌てて自分のCDラックから『ダブル・ヴィジョン』の盤を持ってきて鳴らしてみると、残念ながらというか、慣れ親しんだいつものサウンド。ここまで音質差があるなら、新発売されたリマスタリング盤なのかと思い、お客様にCDジャケットを見せてもらうと、なんの変哲もない輸入盤でした。よくよくチェックして、Made in USAの文字を発見したくらい。

そう、その2枚の『ダブル・ヴィジョン』の違いは、日本プレス盤か、米国プレス盤かの違いだったのです。音量感は全く同じで、ほぼ生産年も共通。違いは音質で、音の透明度と立体感、音ヌケ・・・。全てにおいて、アメリカ盤の圧勝です。大好きな『ダブル・ヴィジョン』で、ここまでの絶対的な音質差がある。もちろん私も、迷わずアメリカ盤を探し購入しました。

それからというもの、大好きなアーティストのアルバムは、日本盤とアメリカ盤の2枚を買うようにしていました。配信時代の今では、信じられないような無駄に感じられることでしょう。しかし、レコード時代やCD時代は、その盤こそが手に入る音楽の唯一の記憶。そして、音楽好きには、ちょっとした宝物だったのです。少しでも良い音=アーティストの本心を知る手がかりがあるなら、迷わず投資できました。

そうして生産国の異なる2枚を買い集めた私の経験からすると、アメリカ盤が音質的に圧勝する確率は3割くらい。アメリカ盤が少し優位なくらいが4割。残り3割は、互角なサウンドという印象でした。それでも楽しかったという思い出しかありません。極上のサウンドが飛び出したアメリカ盤を見つけたときは、それこそ当たりくじを引き当てた気分。アメリカ盤を聴きながら、日本盤の解説やクレジット表記を読み、ひとりニンマリしたものです。


■やっと出た!ハイレゾ盤『ダブル・ヴィジョン』

『ダブル・ヴィジョン』の最新リマスターでハイレゾ版が出る。しかも、オリジナルのアナログマスターテープから最新リマスタリングした音源とのことですので、思わずガッツポーズ!

『Double Vision (2019 Remastered)』Bob James, David Sanborn

まずは先行販売されたMQA 192kHz/24bitで試聴。ワクワクしながら超名曲のトラック1 「Maputo」を聴いてみると、なんだか不完全燃焼でした。死ぬほど聴き込んだ曲です。ハイレゾ版たるもの、その記憶の音を軽く超えて、ハートに飛び込んできてくれなければ意味がありません。これでは残念ながら太鼓判ハイレゾというわけには・・・

原因はMQA規格自体の問題というより、私の試聴環境です。仕事柄、MQA再生できるプレーヤーを所有しているものの、これがMQA再生のベスト環境とは到底思えません。一方、WAV再生の場合は、音楽制作現場でも活躍中の最高峰DAコンバーターで再生していますから、こちらはWAV再生のトップレベルと言えるでしょう。同列で比較してはMQA規格が可愛そうというもの。

すぐにe-onkyoスタッフに「WAVは出ないの?」と質問すると、「もうすぐ出る」との嬉しいお返事。WAV版の発売を待って、もう一度ハイレゾ版『ダブル・ヴィジョン』をチェックしました。

私の試聴環境限定の結果ですが、WAV版『ダブル・ヴィジョン』の圧勝! 具体的には、アルトサックスの高域の“ヒゲ”のような鋭さ、音と音の隙間が見えるような音ヌケ、前後の広がりがある立体感・・・どれも秀逸です。現代録音が逃げ出すほど、当時のフュージョン作品の多くが目指したサウンド・メイキング。この音こそ、『ダブル・ヴィジョン』の魔法と言えるでしょう。

実はこのポイントが『ダブル・ヴィジョン』の聴きどころ。WAV版は見事に全ての課題をクリアし、なおかつ記憶の中にある『ダブル・ヴィジョン』のサウンドイメージ超えに成功。より深い音楽世界へと導いてくれるような快感があります。これなら太鼓判です!


■ハイレゾ配信は、購入するファイル形式選びを楽しんで!

CD時代と違い、盤の生産国による音色違いを楽しむことはできなくなりました。私のようなアメリカ盤マニアには寂しい限りですが、誰もが同じ音質で音源を手に入れることができる時代になったのです。喜ぶべきでしょう。

ですが、配信時代には、ファイル形式というお楽しみが。お手持ちの再生システムによっては、ファイル形式の得意不得意があるかもしれません。全てが得意というご機嫌なシステムなら、何を選んでも良いでしょう。比較してみて音質差が分からない場合も、好きなファイル形式を選んでください。ですが、私のシステムのように、WAVを絶対的優位で鳴らすものもあります。プレーヤーによっては、MQAがWAVを上回るものがあるのかもしれません。

そこはリスナー側が賢くなって、購入するファイル形式を選ぶべきです。早めにご自身のシステムで、何が一番得意な音源ファイル形式かを見極めることが大切。問題意識を持ち、最高のファイル仕様を選んでみてください。

ファイル形式の違いだけで、ハイレゾ太鼓判音源選定の可否くらいの差が存在するという事実。様々なハイレゾのファイル仕様が乱立する今こそ、しっかりと考えなければいけない問題だと感じています。






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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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