オーディオ界隈を騒がせた 情家みえ『エトレーヌ』に「究極のアナログマスター バージョン」が登場!

2019/08/01
潮晴男と麻倉怜士という、オーディオ・ファンなら誰もが知る2人によるによるレーベル「ウルトラアートレコード」。その第1弾としてリリースされ、日本はもちろん海外のファンの間でも大きな話題となった作品、情家みえ『エトレーヌ』に、オーディオ・ファン必聴の新バージョン『エトレーヌ [Ultimate Analog Master Ver.]』が登場。

★究極のアナログマスターバージョン配信開始!

『エトレーヌ [Ultimate Analog Master Ver.]』
情家みえ


2018年3月に配信がスタートしたオリジナル・バージョンの『エトレーヌ』は、Pro Toolsを用い192kHz/24bitで録音/編集された音源となるが、それに対し、この[Ultimate Analog Master Ver.]は、Pro Toolsとは別に、「STUDER A-800」で2インチのアナログテープを用い、24トラック、76cm/secで録音した音源を後日トラックダウン。PyramixでDSD11.2MHzとDXD384kHz/24bitにてファイル作成した音源となる。

ここでは、この『エトレーヌ [Ultimate Analog Master Ver.]』について「ウルトラアートレコード」を主宰する潮晴男氏と麻倉怜士氏の両氏に加え、ジャズ評論家、櫻井隆章氏による解説をご紹介。

是非、この「究極のアナログ・マスター」をハイレゾの最高スペックでお楽しみください。









  • ■Pyramixによる超絶的なDSDとDXD録音

  • UAレコード合同会社代表 潮晴男

 2017年ウルトラアートレコードの立ち上げと同時に情家みえの「エトレーヌ」のレコーディングをおこなった。その際A面/B面というコンセプトを掲げ、A面を麻倉怜士が、B面をぼくが担当して文字通り将来的にアナログレコードの製作をおこなうべく、プロツールスによるデジタル・レコーディングに加え、スチューダーのオープンリール型のテープレコーダーを用いたアナログ録音もおこなったのである。いまの時代アナログ録音は極めて稀だ。それはすでにコンディションの良いテープレコーダーを常備したスタジオが少なくなっていることと、オープンリール用のテープが入手しにくいことにある。
 
 「エトレーヌ」では2インチのテープを同時に回し、24トラックに情家のボーカルを初め各楽器のサウンドを収録した。先行するUHQCDとハイレゾ配信にはプロツールスのデジタル音源を用いて皆さんのもとへとお届けしたが、アナログレコードにはアナログ音源でというぼくの我儘も手伝って、アナログ録音をおこなったのである。ウルトラアートレコードはインディペンデントの弱小企業なので、アナログ音源のトラックダウンに至るまでにかなりの時間を必要としたが、この度ようやく実現の運びに漕ぎつけた。
 
 基本的にはデジタル音源をミックスダウンして製作したUHQCDとバランスを大きく変えてはいないが、だからと言ってイージーなトラックダウンはできない。アナログ音源ならではの難しさがあり、1曲にほぼ1リールを使ってテイクを録っているため、曲ごとにテープをかけ替え、さらには厳密なアジマス調整が必要になるからだ。アナログ録音は実に手間暇のかかるものなのである。11曲のトラックダウンに4日間を費やしたが、その甲斐あって素晴らしい音源が出来上がった。これでレコードを製作すれば、フルアナログの作品が完成する。

 ラックダウンの際にはそれぞれの曲ごとにモニターして最終的な音決めをするが、2年前にレコーディングした時にラフミックスで聴いたあの感激が徐々に戻ってきた。アナログ録音特有の分厚く濃厚な味わいが2トラックのマスターテープから香り出るのである。もともとこの音源をDSD変換してハイレゾ配信することは決めていたが、せっかくならDXDからPCM音源を作り、両者の比較が出来ればオーディオファンにとって意義のあることと思い、11.2MHzのDSD音源と、384kHz/24bitのWAVの音源を同時に配信することにした。これでアナログ・レコードとハイレゾ配信のデジタル音源との違いも容易に体験していただくことが出来る。

 メディアが変われば音質も変わるし、フォーマットが変われば同様に音質が変わる。どれが正しいではなく、どれも正しい。それぞれの特質を理解した上で音の違いを楽しむ、アナログマスターの「エトレーヌ」なら、それが可能になる。ぼくは基本的にPCM音源を優先して試聴してきたが、今回DAWに用いたPyramixのHapiはDSD変換においても、過去の体験を塗り替える素晴らしいサウンドを聴かせてくれた。音場の豊かさはDSD音源の大きな特徴だが、ビラミックスで変換したサウンドはそうした中にも密度感を保ち音の深みをぎゅっと閉じ込めている感じがする。一方の384kHz/24bitのWAV音源はエネルギッシュで力強く躍動感あふれるPCM特有のサウンドをさらに昇華して聴かせてくれるのである。

 アナログ音源からダイレクトにDSDとPCMに変換したリアリティが高くフレッシュな音の違いをぜひ「エトレーヌ」のハイレゾ音源で体験していただきたい。


■2インチ・76cm/secアナログ録音由来のDSDとDXDの素晴らしさをぜひ、聴いて欲しい。

  • UAレコード合同会社副代表 麻倉怜士

 UAレコード合同会社の第1弾作品、「情家みえ・エトレーヌ」のアナログ音源によるDSD11.2MHz、DXD384KHz/24bitのハイレゾ・ファイルのダウンロードがスタート。

  「エトレーヌ」のUHQCDは2018年1月にで発売されているが、実は、2017年8月に東京・代々木スタジオでのセッションでは、2種類の音源を録音していた。PRO TOOLSでの192kHz/24bitのデジタル録音版は、UHQCDと192kHz/24bitのe-onkyo musicでリリースされているが、もうひとつ、アナログでも同時に録音していた。STUDER A-800 で76cm/secという猛スピードで回して、24トラックにマルチ収録した。あまりにスピードが速いので、10インチ径テープに数分しか録音できない。11曲だから、11巻が必要であった。

 24チャンネルから2チャンネルへのアナログ・ミックスダウンを、この6月初めに代々木スタジオで敢行。76センチ・2インチ・24トラックテープからの2ミックスダウンの音は、どんなものか。トラックダウン時にTADモニターで聴いたリアル・インプレッションを述べよう。実に生々しく、鮮明で、突きぬけ感が耳と体の快感だ。ベースのスケールと切れ味、ピアノの鮮烈なノリが深く印象に残る。ヴォーカルは輪郭が確実に描かれ、ボディは太く中味がひじょうに緻密。アナログ的な音の繊細さ、力感ある階調感と、ヴォーカルの持つ、芳しい香りのニュアンスが心に染みる。まさに感動力が全開だ。

 あまりに素晴らしい音なので、多くのメディアで展開することになった。この2トラックにまとめたアナログ信号は、STUDER A-820で33回転LPのマスターとして2トラック38センチ/秒・0.5インチテープに録音、同じく78回転LPのマスターとして2トラック76センチ/秒・0.5インチテープに録音した。

 ここでは同時にトラックダウン信号から世界最高峰のDAW、Pyramixで作成したDSD11.2MHzとDXD384KHz/24bitファイルの音について述べる。具体的にA面の5曲目『You Don't Know Me』で、聴いてみよう。50年代のナッシュビルのシンガー&ソングライター、シンディ・ウォーカーとカントリー歌手エディ・アーノルドの共作。最初のレコーディングは1956年にエディ。その後、64年にシンディも録音。最大のヒットが62年リリースのレイ・チャールズ版。情家はレイの歌唱に大いにインスパイアされた。都会的に、でもブルージーに、深い思いと共に歌い上げる。感情振幅の大きさと上質なアクセント感、そして歌詞の世界に突っ込む鋭角的な切れ味が聴きどころだ。

 どちらもひじょうにオリジナルの2トラック信号に近接したクオリティを持つが、キャラクターの観点からはもの凄く違う。DXD384KHz/24bitはきわめて透明度が高く、スケール雄大で切れ味がシャープだ。一方のDSD11.2MHzは空気感の濃密さが凄く、声が消えゆく際のニュアンスの微細さが、信じられないほどリアルに表現される。ピアノの間奏はオクターブ弾きで、切れ味がシャープだが、スタインウエイのフルコンサートならではの音の深み、音の胆力、音の華麗さが堪能できた。

  コーデックとは無色透明なものではなく、個性と魅力を持つ。オリジナルの音を「解釈」して自分の世界を表現しているようにも感じられた。e-onkyo musicには、他レーベルのDSD11.2MHzとDXD384KHzのファイルもあるが、完全に同一音源から作成したものは、皆無に近いのではないか。というのも、DSDファイルの編集は原則不可なので、PyramixでDXDに変換して行い、再度、DSDに戻すという面倒が必要。ノルウエーの2Lは初めからDXDで録音し、編集を経てDSDに変換し、DSD11.2MHzファイルとしている。ところがUAレコードの今回のDSD、DXDは完全同一音源なのだ。だからDSDとDXDの完全同一条件比較ができるのである。この観点からも大いに注目だ。

ぜひ素晴らしいDSDとDXDを聴いて欲しい。



2017年8月 情家みえレコーディング@代々木スタジオ

STUDER A-800で76cm/sec、2inchテープ、24track アナログ・レコーディング



これが2インチテープ。76センチ/秒で回す



  • ■アナログの「印象」と、デジタル技術の「数値」を駆使した『エトレーヌ』は、英知と工夫の勝利

  • ジャズ評論家 櫻井隆章

 1982年のCD発売開始以来、繰り返されてきた「アナログVSデジタル」論争。何度かの「波」はあったものの、今でも尽きることの無い論争だが、結局は「数値VS印象」である気がする。今回、麻倉氏のリスニングルームにて実に興味深い経験をさせて戴いた。ウルトラアートレコード第一弾アルバム、情家みえ『エトレーヌ』の聴き比べである。

①PROTOOLSで192kHz/24bit録音した音源をダウンコンバートした44.1kHz/16bitのCD音源
②PROTOOLSでの192kHz/24bit録音音源
③STUDER A-800テープレコーダーで、2インチ幅テープ・76センチ/秒・24トラックで収録したアナログ信号を、2チャンネルにミックスダウンしたアナログマスターを元に、Pyramixで作成したDXD384kHz/24bit音源
④同じくDSD11.2MHz音源。

これらを聴き進んだ印象を以下に記させて戴く(試聴で使用したDACはコルグNu-1)。
 まず、①44.1kHz/16bitのCD。これはこれで、充分に音が良い。「手間とお金が掛かっていますから!」とのことだが、並みのCDよりも遥かに高音質だ。
 だが、その印象は、見事に覆された。②192kHz/24bitでは、実にクリアにドラムのスネアの倍音が収録されているのだ。更には、ベーシストの左手から出る、指板と弦とのしなりも聴こえる。当然ながらピアノの音も奥行きが広がった。ここまで変るのか……。

 ③DXD384kHz・24bitで更に覆る。圧倒的にピアノの音が深くなる。グランド・ピアノの胴体の先の方までが見えるようなサウンドになっていたし、今度はドラムのタムの倍音も収録されているのが聴き取れる。ベースも、今度はウッド・ベースの大きな楽器本体の姿が見えてきた。と同時に、ここまで総ての音が綺麗に収録され、再生されるのであれば、如何なるミスも出来ないと、これはミュージシャン泣かせなのではないか、という気もしてきたのである。

 そして、④DSD11.2MHz。1970年代初期の第一期オーディオ・ブームの際に良く使われた言葉、「原音再生」という言葉を思い出した。これこそが、原音再生であり、かつ究極の「高音質」である。ピアノの音は更に奥が深まり、ベースは時に力強く、時に繊細に。同じくドラムは、ドラム・キットの総てから出て来る音が実に立体的になっているのだ。つまり、このアーティストが演奏をしているスタジオの中の最良の席に座っているような、そんな感じになるのである。 その「原音再生」という言葉は、結局は「オーケストラは私の部屋には入って来ない」という一言で沙汰止みになった覚えがあるが、再生設備次第では、ピアノ・トリオ+ヴォーカリストは入って来られるであろう。そんな証拠が、本作の④での再生なのである。
 
 ここで、再度冒頭の「アナログVSデジタル」の話に戻る。「数値VS印象」とも書いたが、結局、人間の耳は、数値で音を聴いていない。あくまでも印象で音を聴いている。アナログの「印象」と、デジタル技術の「数値」を駆使したこのアルバムは、そんな英知と工夫の勝利と聴いた。

櫻井隆章氏


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