連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第70回

2019/07/08
『Don't Smoke In Bed』 ホリー・コール・トリオ
~オーディオ御用達盤のDSDハイレゾ化は買いだ! ~
■海外のCD事情を聴いて、少し寂しくなった・・・

海外で活躍する日本人ミュージシャンの方とミーティングがあり、その時に最新CD盤事情をお聞きしました。アメリカ在住でヨーロッパもツアーで回っている演奏家の方ですので、音楽流通の生の声を知る良いチャンスかと。

海外では、ミュージシャンが新譜をCD盤でリリースするという発想は無くなってきているとのこと。「日本では、まだまだCD盤の需要があるんですよ」と言うと、逆に驚かれていました。日本では、コンサートパンフレットやTシャツと同じような扱いながら、ライブ販促物販というスタイルでまだまだ無視できぬ存在であるCD盤。ビジネスでFAX文化が残っているくらい、海外から見ると不思議なのかもしれませんね。

海外では、音楽は主に配信でゲットするらしいです。ネット環境さえあれば、海外ツアー中のどの国でも聴きたい作品が手に入りますから、もはやCD盤という物体に執着が無いのでしょう。

レコメンド機能で、次々に興味あるアーティストを見つけるスタイルも主流とのこと。私はそこまでレコメンド機能から愛聴作品と出会った経験が無いものですから、その情報も新鮮でした。

そう考えると、日本の音楽文化は、まだまだ平和です。今のところ、好きなアーティストはCD盤を出し続けてくれていますし、なんといっても作品によっては新譜のハイレゾ音源も手に入る。そう、ハイレゾ音源が発売されるって、超貴重なんです。私達リスナー側がどんどんハイレゾ音源を購入しなければ、アーティスト側はいつでもハイレゾ販売を止める気満々なのかもしれません。これは一大事!

私がオーディオ業界に入って20年強。当時は、当然ながらCD規格44.1kHz/16bitよりもデータ量が多い未来が待っていると思っていたのですが、まさか配信という手法が主になりつつあり、CDよりも更に小さな規格に移行しようとは想像もしていませんでした。オーディオ好き、音楽好きとしては、なんとかこのハイレゾ文化を死守したいものです。


■オーディオフェアを席巻した、あの名盤がDSDで!

オーディオマニアのCD棚には必ずある(?)、超有名盤のDSDハイレゾです!


『Don't Smoke In Bed』 ホリー・コール・トリオ
DSF 2.8MHz/1bit


どのような手法で製作された音源なのか? DSD化したエンジニアは誰なのか? インフォメーションがゼロなので全く分かりません。それでいて価格は4,370円と、旧譜なのに高額。いきなり文句爆発です・・・しかし、買いです!

本作のアナログ盤が出たとき、CD盤のマスタリング・エンジニアでもある巨匠バーニー・グランドマン氏が、 オリジナルのアナログテープから再マスタリングを行ったというのが話題になりました。ですので、その際にDSD化された音源ではないかと想像しています。いや、そうであってほしい! 音を聴く限り、巨匠バーニー・グランドマン氏のサウンド作りであると、ほぼ確信しています。

本作は、ハイエンド・オーディオ機器のデモ演奏に良く使用された音源とはいえ、実際は音のスパイスは無です。というより、良い音へのテクニックが盛り込まれていたとしても、それを音として感じることはできません。つまり、オーディオ用といわれる音源によくありがちな、「ちょっぴり高音にピリッとくる成分を足して、低音には量感が出やすいようにEQチョイ上げ。こんなの素人さんじゃ気付かないですよ」 的な、真のオーディオ好きや音楽好きが聴いたらすぐ分かる姑息なサウンドとは無縁ということです。

音圧は弱め。おそらくSACD盤化を意識したDSD音源のようで、一般的なCD盤よりも4dBくらい小さめの音圧に仕上がっています。聴くときは、いつもより少しアンプのボリュームを上げてみてください。

最も高く評価したいのは、DSD音源でありながら、立体音像が非常に優秀であるところ。DSD音源の多く、もしかすると9割以上は、DSD規格特有の超高域ノイズの影響を受け、音像が低く再現されます。本来ならばきれいな卵型を形成するはずの音像が、上側だけ抑え込まれたたような・・・そんなイビツな音像になりがちなのがDSD音源です。しかし、本作の音像はどこまでも美しい。部屋いっぱいに音楽の芳香が広がっていくような、そんな柔らかく優しい空間が広がっていきます。

DSD規格の超高域ノイズをどのように攻略したのか? こちらも情報はゼロなのですが、聴いた音から判断すると、おそらくDSD規格を通過する回数を1回限りにし、超高域ノイズの積算を極力少なくした手法ではないかと想像します。

もし本作にベース低音の馬力感を求めているならば、このDSD音源は少し肩透かしをくらうでしょう。どちらかというと、空間表現の美しさや、歌の優しさ方向に魅力を振っていると感じました。これはDSD規格の音傾向でもありますので、良い決断だったのではないかと思います。

CD盤、アナログ盤、SACD盤、そしてこのDSD音源と、さまざまな規格で楽しませてくれている本作。CD盤やレコード盤を既に所有されている方でも、このDSD版は、買いだ!とオススメしたいです。というのも、DSD版のみの魅力があるからです。

それは、まるでマスターテープを聴いているような快感。音楽的魅力ならば、アナログレコード盤が秀でているでしょうが、実は現代のレコード盤製作にはデジタルマスターが使用されます。20世紀のように、アナログマスターテープからレコード原盤が製作されることはないのです。つまり、本作ならば、レコード盤よりも上流にあるデジタルマスターが聴きたくなるのはマニアの常。その需要に最も近いのが、本DSD音源なのです。

実際に、マスターテープを聴いているような錯覚に陥る、このハイレゾ音源。特にある種のサウンドの強調も感じなければ、エンジニアの顔も見えてこない。こういったストレートな規格変換というのは、実は最も難しいもの。劣化せず、規格固有のサウンドに大きく引き込まれることなく、まるで何もしていないように感じる規格間の移動こそ、匠の技と言えるでしょう。
オーディオ名盤の本作に初挑戦される方には手放しでオススメしますし、本作とともに苦楽を共ににした百戦錬磨のマニアの方にも、究極のマスター音源として推奨します。ぜひ、美しく柔らかに、そして優しさに包まれるサウンドを体感してください!




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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず) 3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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