HOME ニュース 【7/5更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く 2019/07/05 月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。 KISS『Alive!』 ライヴ・バンドとしてのKISSのポテンシャルが最大限に発揮された、スケールの大きなライヴ・アルバム 先日、KISS最後の来日公演がアナウンスされました。1978年の来日公演については以前書いたことがありましたが、思えばあれから41年。ジーンは今年で70歳、ポールも1月に67歳になったばかりと考えると、これが最後だとしても仕方がないなのかもしれません。 ももいろクローバーZとまさかの共演を果たした前回、2015年の来日公演のときも、後半はなんだかキツそうに見えたしなぁ。あの格好であれだけ動くのですから、まぁ当然なのですけれど。 いずれにしても、今回を見逃したらほぼ確実に「次はない」わけで、どうしても体験しておく必要はありそうです。僕も決心がつきましたよ。 ところでKISSのライヴといえば、やはり最初に思い出すのは1975年の秋にリリースされたLP2枚組のライヴ・アルバム『Alive!』です。日本でKISSが本格的ブレイクしたのは翌年の『地獄の軍団』でしたし、このライヴがきっかけでKISSを知ったという方も多いのではないでしょうか?僕もそうでした。 いや、正確にいうとそれ以前から、「KISSというヘンな格好をしたバンドがいる」ということ自体は伝え聞いていたのです。でも、音を聴く機会がなかったので、その気味が悪いルックスだけを頼りに音をイメージするしかなかったわけです。 だからいつの間にか勝手に、「わけのわからない難解なアングラ・ロックかなにかをやっている人たちなのではないだろうか」と思い込み、勝手に恐れおののいていたのでした。 そんな、とんでもなく飛躍したイメージをかき消してくれたのは、1歳上の従兄弟のKくんでした。横浜の高台にある彼の家へ遊びに行ったときのことです。 Kくんのお父さん、つまり僕からみた叔父は、某大企業の偉い人だったので、家にもなんだか高級感がありました。なにより我が家と違っていたのは、応接室に大きなステレオセットがあったことです。 うらやましかったのは、実質的にそこが息子たち、すなわちKくんと、その兄のT兄ちゃんの娯楽室と化していたことでした。レコードがたくさんあって、彼らはソファに腰かけてそれらを楽しんでいたのです。 うちにはプラスチック製の安っぽいレコードプレーヤーしかなかっただけに、理想的な空間に見えました。で、その環境の素晴らしさに口を半開きにして驚いているとき、「これ知ってる?」とKくんがKISSの『Alive!』をかけてくれたわけです。 針が落とされると、大きなスピーカーのなかから歓声が聞こえてきました。そののち重量感のある「ジュース」という曲がスタートし、部屋を迫力満点のバンド・サウンドで包み込みました。続く「ストラッター」のグルーヴ感にも、文句なしに魅了されました。 僕にとってはそれが、KISS初体験の瞬間でした。勝手に思い描いていた「わけのわからない難解なアングラ・ロック」などではなく、ハードでありながら適度にキャッチー。初めて聴いた耳にも、ライヴ・バンドとしてのポテンシャルの高さがはっきり伝わってきました。 レコード・ジャケットには、観客で埋め尽くされたライヴ会場の写真。それを見たとき、まだ日本では知られていなかったKISSの、現地での支持の大きさを実感させられたものです。 このときの体験がきっかけで僕はKISSにハマり、以後も熱心に追いかけることになったわけです。でも、それは僕に限った話ではないはずです。あのころの中高生は、多少なりとも似たような経験をしてきているに違いないのですから。 つまり、KISSは若い世代にとってそれほど大きな影響力があったということ。 だからいまでも、『Alive!』を聴くと当時の感動が蘇ってきて鳥肌が立つのです。しかもハイレゾだと、当然ながら臨場感がまったく違います。あたかも、客席の真ん中あたりにいるような感じ。 こののち快進撃を続けることになったKISSは、2年後の1977年にも『Alive II』というベタなタイトルのライヴ・アルバムをリリースしました。なにしろ脂の乗り切っていた時期ですから、こちらにはさらにスケール・アップした印象があります。 バンドというのは、たった2年でここまで成長するのかと思わざるを得ないほどの完成度です。しかしそれでも、『Alive!』を初めて聴いたときの衝撃が僕は忘れられないのです。 だから、12月の最終公演までの間、このアルバムを改めてじっくり何度も聴きなおそうと思っています。 ◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」 『Alive![Live]』KISS 『Alive II』KISS ◆バックナンバー 【6/21更新】マイルス・デイヴィス『Doo-Bop』 頭の硬い方々からの評価は厳しいものの、時代性を色濃く反映した秀作だったことは事実 【6/14更新】ドクター・ジョン『Dr. John’s Gumbo』 謎の留年大学生が教えてくれた、セカンド・ラインの心地よさ 【6/7更新】アース・ウィンド&ファイア『Faces』 リリース当時はいまひとつ評価の芳しくなかった大作も、いま改めて聴けばなかなかに新鮮 【5/24更新】クルセイダーズ『Street Life』 ジョー・サンプルが、本作リリース後のランディ・クロフォードについて語ってくれたこと 【5/17更新】マイケル・ジャクソン『Off The Wall』 アイスコーヒーを飲みながら、井上と聴いた“Don’t Stop ‘Til You Get Enough” 【5/10更新】フリートウッド・マック『Rumours』 コーヒーショップで出会ったクリスチャン・グループの彼はいまどこに? 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