【連載】生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」 2時限目「ピアノ」 その2

2019/06/28
音元出版が発行するオーディオ雑誌「NET AUDIO」誌との連動企画【生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」】がスタート!本企画は、オーディオアクティヴィスト(音楽家/録音エンジニア)、そして評論家としての肩書を持ち、オーディオファンのみならず、録音愛好家や音楽ファンからも支持を得る、生形三郎氏を講師にお迎えし“クラシック音楽の頻出ワード”を1から分かりやすく解説。そして関連する音源を合わせてご紹介することで、クラシック音楽の魅力をより深く知っていただこう、という連載企画です。

「NET AUDIO」誌Vol.34掲載の、生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」とあわせてお楽しみください。

◆季刊・Net Audio vol.34 Winter 2019年4月19日全国一斉発売




◆2時限目「ピアノ」その2~チェンバロという楽器~

 ピアノという楽器は、クラシック音楽の楽器の中でも、もっとも身近で親しみやすい存在と言えるのではないでしょうか。低い音から高い音までをカバーする広い音域と、どの音域でも均質な音色を持ち、そして、打鍵の強さに追従する自在な強弱の幅があります。まさに万能の楽器であるとともに、作曲家が曲を生み出す際の「万能工具」とも言えるような存在です。それだけに、ピアノ作品は、作曲家の意図や狙いが、隅々まで思い通りに反映されやすいジャンルとも言えるのではないでしょうか。

 ところで、「ピアノ」と一口にいっても、実は、時代ごとに進化を遂げており、その時代時代によって姿は大きく異なります。例えば、J.S.バッハの鍵盤作品は、現代ではピアノで演奏されるのがごく一般的ではありますが、J.S.バッハの生きた時代に現代のようなピアノはありません。また、クラシックのピアノを習ったり、楽譜を読んだりしたことのある方は覚えていらっしゃるかもしれませんが、ピアノで演奏する曲名が、「クラヴィーア曲集」とか「ハンマークラヴィーア」とか、え、これってピアノ用の曲じゃないの? というような、ちょっと聞きなれない名前が付いていたかと思います。実はこれこそが、その歴史を物語っているのです。ピアノの原型は、今ほど鍵盤数も多くなく、出せる音量も限られていました。また、発音構造も違います。そこで、2時限目では、ハイレゾならではの醍醐味のひとつである、音色の繊細さやより深いディティール表現を楽しむべく、様々なピアノを聴いて行きたいと思います。



【チェンバロという楽器】



 前回ご紹介したクラヴィコードと同じく、ピアノの前身の楽器としても知られるのがチェンバロです。張られた弦を弾くことによって音を出す楽器で、発音構造もクラヴィコードと似ていますが、さらに大きく煌びやかな音を出すことが出来ます。また、鍵盤が2段になっているものでは、一方だけを弾くことはもちろん、一つの鍵盤を弾くことで両方を同時に動かすことも出来ます。上下の鍵盤には、それぞれ同じ音程に調律される弦が張られますが、両者は微妙に異なる音になるよう調律されており、同時に弾くことで音に厚みや豊かさをもたらします。また、どちらかの鍵盤には、さらに1オクターブ高い弦も張られており、それを加えることでさらに華やかな音を作ることもできます。また、バフ・ストップやリュートストップと呼ばれる、弦をミュートした音色の音を出すことも可能で、他の鍵盤楽器にはない構造や魅力が沢山詰まっています。チェンバロは、温度や湿度に非常に敏感で、楽器が置かれた環境によって調律や音色が変化する大変繊細な楽器です。それだけに、微細な味わいを録音したり再生するのがとても難しい楽器の一つと言えます。

チェンバロが持つ多彩な魅力のエッセンスを味わうなら、まずはこの作品がオススメです。



『チェンバロおもちゃ箱』/水永牧子


 チェンバロの名曲からクラシックの名曲、そしてギター作品をチェンバロ用に編曲ものなど、チェンバロの魅力に一度で触れることが出来ます。録音としては、近距離に設置されたマイクを中心にミックスされており、チェンバロの音を生々しい質感で楽しめます。また、先に紹介したバフ・ストップの音は、2曲目の「羊飼いの娘」ですぐに知ることが出来ます。効果的に使用されており、独特の世界観を作り出しています。全編を通して、軽快で朗々とした演奏が魅力的なアルバムです。実は筆者は昨年、水永さんの最新アルバムを収録させて頂いたのですが、このアルバムも、まさに水永さんご本人のお人柄が演奏に如実に現れていると感じられてなりません。アルバム購入特典のデジタルブックレットには、水永さん自身による各作品の解説が書かれていますので、興味を持った作品や作曲家を、さらに掘り下げることが出来ます。



『J.S.バッハ: 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 BWV 846-869(1722年自筆手稿譜による)』
/桑形亜樹子

 ハイレゾ音源ならではの音の細やかさや清々しい空気感を存分に引き出しているのがこちらの作品です。サラウンド録音やハイレゾ録音で高い評価を得るエンジニア深田晃氏の録音は、楽器が鳴り響く場の空気感をふくよかに捉えながらも、決して楽器の音像が滲んだりぼやけたりすることがありません。マイクロフォンの巧みなアレンジや、現代的な性能を備えた録音機材群を駆使した、リアルでトランスペアレンシーな録音がなんとも魅力的です。J.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集は、24個の調のために書かれた、西洋音楽の鍵盤演奏家や作曲家のバイブルと言われる作品です。チェンバロは、現代のピアノで一般的な調律法である平均律(1オクターブを均等に12分割する調律法)とは異なる古典調律法が使用されます。それらは、平均律では得られない独特の和音の響きを得られますが、中でもこのアルバムでは、現代に新たに生み出された古典調律法が採用されていることが特徴的です。是非とも、オリジナルの録音フォーマットであるDXD(352.8kHz/24bit)で楽しみたい作品です。


最後は、現代の作品を聴いてみましょう。




『グラス/ラター/フランセ: チェンバロ協奏曲集』/
クリストファー・D・ルイス, ジョン・マクムテリー, 他



チェンバロは、17世紀~18世紀中頃までに隆盛した楽器ということもあり、楽曲自体もその時代の作品、つまりバロック音楽が主流となっています。それは、ともすればチェンバロへの取っつきにくさにもつながりますし、また、繊細な楽器で録音や再生が難しいことも、傾聴することを困難にさせている要因のようにも個人的には感じています。この作品は、その点、とりわけオーディオ的に高音質な作品というわけではありませんが、チェンバロ作品としては珍しい現代の作曲家の作品で構成されています。曲調も親しみやすいものとなっているので、チェンバロのサウンドを気軽に楽しむことが出来ます。




 なお、音元出版「NetAudio」誌の当該連載では「KORG」試聴室でのハイレゾ音源試聴レポートを掲載しています。ぜひそちらも併せてご覧下さい。

KORGの試聴室
再生ソフトウェア :AudioGate4(Windows)
USB DAC&プリアンプ:KORG Nu 1
パワーアンプ :MARK LEVINSON No.383L
スピーカーシステム :B&W Nautilus 802



←前の記事




生形三郎 プロフィール

オーディオ・アクティヴィスト

音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家。昭和音楽大学作曲学科首席卒業。東京藝術大学大学院修了。音楽家の視点を活かした録音制作やオーディオ評論活動を行なう。「オーディオ=録音⇔再生」に関して、多角的な創造・普及活動に取り組む。各種オーディオアワード及びコンテスト審査員を務めるほか、スピーカー設計にも積極的に取り組む。

オフィシャルサイト





◆季刊・Net Audio vol.34 Winter 2019年4月19日全国一斉発売



 | 

 |   |