ジャズ・ヴォーカリストShihoが放つ初のソロ・アルバムはヴァラエティに富んだ選曲も要注目

2019/06/28
2001年に名門コンコード・レコードからデビューしたジャズ・デュオFried Prideの活動を経て、ソロ・アーティストとして多方面で活躍しているジャズ・ヴォーカリストのShihoさん。先頃、彼女にとって初のソロ・アルバムとなる『A Vocalist』が発表されました。e-onkyo musicでは彼女に本作の制作コンセプトから、参加メンバーとのレコーディング時における裏話、さらにライヴとアルバム構成における考え方・向き合い方などを中心に興味の尽きない話をうかがいました。Shihoさんが思い描くハイレゾ音源への想いも含め、たっぷりと語ってくれた最新インタヴューをお楽しみください。

文・取材◎北村昌美 写真(取材時)◎山本 昇

『A Vocalist』/Shiho



■Shiho スペシャル・インタヴュー

−−初めにアルバム『A Vocalist』のコンセプトから聞かせてください。

Shiho ソロ・アルバムの話は数年前からあったのですが、今回ライヴで一緒にプレイしてきた3人のピアニストを迎えることで、一枚の作品にまとめることができました。だから、私としてはアルバム・タイトルに「フィーチャリング・マイ・フェイヴァリット・ピアニスツ」と付けたいくらいだったのです。制作は2018年の夏頃から参加メンバーを具体的に考え始めて、10月には録音を開始しています。アルバムのレコーディングに参加してもらったピアニスト達は、これまで特に私がライヴで共演する機会の多かった3人です。



 彼女のコメントにある通り、アルバム『A Vocalist』には桑原あい、伊藤志宏、柴田敏孝という3人のピアニストが参加している。桑原あいとはデュオ、伊藤と柴田についてはベースとドラムといったトリオ編成と一緒にプレイが繰り広げられる。この3つの編成で本作の軸が成り立っていることを知ると、Shihoと各メンバーとの関係性が次第に分かり、各楽曲の魅力がより身近に感じられてくる。そして、それらの関係性が把握できると、アルバムの全体像がおのずと見えてくる。



--最初にレコーディングされたのはどの編成からになりますか?


Shiho 2018年の10月に、ピアニストの伊藤志宏、ベーシストの鳥越啓介、ドラマーの石若駿のトリオと一緒にSTUDIO MECHで始めた録音が最初です。「ユー」、「ザ・ギフト」、「ナッシング」、「ノー・ワン・ノウズ」の4曲を収録しました。

--選曲はとてもヴァラエティに富んでいますね。

Shiho 選曲の幅は確かに広がっていると思います。以前のFried Prideではまだバラード曲はアルバムの中でも1曲程度と少なかったのですが、年齢を重ねてきたこともあり、バラード曲を積極的に取り入れているのが新しい試みといえそうです。このアルバムに収録した曲は、近年のライヴで頻繁に歌っている曲が大半です。いっぽう、ピアニストの柴田敏孝、ベーシストの鳥越啓介、ドラマー大槻英宣のトリオとは、「ヒット・ザット・ジャイヴ、ジャック」、「ローンズ -ロスト・アンド・ファウンド-」、「フラジャイル」の3曲を録りました。こちらの収録スタジオはFREEDOM STUDIO INFINITYです。





--アップ・テンポの「ヒット・ザット・ジャイヴ、ジャック」ではSHANTIさんとも共演されています。この曲はかなり“攻めて”いますね。

Shiho この曲もライヴでは頻繁に採り上げているんですが、生演奏ではアルバム・ヴァージョンよりさらにアグレッシヴな演奏を従えて歌っています。ライヴを楽しんでもらえるように、お客さんを煽るアレンジで歌っているんです。

--ライヴではアルバム収録ヴァージョンより扇動的なんですね。オーディエンスのテンションは否応なく上がりそうです。

Shiho 常日頃、ライヴではトータルでの緩急を意識しながら、いろいろな仕掛けを考えています。また、SHANTIにはヴォーカリストとしての参加だけでなく、「ナッシング」、「ローンズ -ロスト・アンド・ファウンド-」の2曲では歌詞も書いてもらっています。どちらも失恋ソングですが、毛色がかなり違っているんです。CDのブックレットには対訳も載っているので、ぜひご覧になってみてください。

--対訳を拝見したところ、2曲は同じ失恋ソングでありながら聴き手の印象がまるで変わってくると感じました。男性目線で見ると、「ナッシング」の歌詞は身がつまされる面が少なくないかもしれません……。ところで、「ローンズ -ロスト・アンド・ファウンド-」はちょっと異色ともいえそうなカーラ・ブレイの曲ですが、この曲を選んだのは何故ですか?

Shiho カーラ・ブレイの「ローンズ -ロスト・アンド・ファウンド-」はもともとインスト曲なのですが、以前から気に入っていたので、いつか歌詞を付けてレコーディングしたいと思っていたのです。ご本人の許諾を得るのに時間がかかってしまい、スタッフからは今回の収録は難しいかもしれないといわれていました。そこでカーラ・ブレイのパートナーであるスティーヴ・スワロウとレコーディング経験のあったピアニストでシンガー・ソングライターのさかいゆうを介して、スティーヴに連絡を取ってもらったのです。そうしたら、SHANTIの歌詞も含め、カーラとスティーヴから許諾が下りて、今回無事に「ローンズ -ロスト・アンド・ファウンド-」を収録することができました。許諾の返事がメールで届いた時は本当に嬉しくて、しばらく眠れなかったほどです。

--なるほど。CDのライナーノーツにカーラ・ブレイのコメントが掲載されている理由がよく分かりました。今回のソロ・アルバムの制作背景のみならず、「ローンズ -ロスト・アンド・ファウンド-」の許諾の件も含め、Shihoさんの音楽にはピアニストの人脈が大きくかかわっているんですね。ところで、桑原あいさんさんとはアルバム冒頭を飾る「スウィングしなけりゃ意味ないね」、「パメラ」の2曲で共演されています。

Shiho はい。あいちゃんとの2曲は今年1月にFREEDOM STUDIO INFINITYで、最後にレコーディングしたんです。「パメラ」ではあいちゃんはピアノ演奏に加え、コーラスでも参加してくれています。ただ、レコーディングした時にはアルバム・コンセプトは決まっていたものの、曲順はまったく決まっていない状態でした。

--そうなるとアルバムの曲順はレコーディングがすべて完了してから、決めていったんですね。

Shiho はい。配信先行だった福岡中洲ジャズ公式ソングの「ハッピー・ソング」と、ガスト・ヴァルツィング指揮によるビッグ・バンドとの共演曲「グラッド・ユー・アー・ヒア」の2曲は、ボーナス・トラック的意味合いが強いので、当初からアルバム終盤に収めようと考えていました。

--アルバム構成と曲順にはこだわりがありそうです。

Shiho アルバムの曲順はライヴのメニュー(選曲・構成)を考えるのとまったく変わらず、聴き手にいかに楽しんでもらえるのかを最優先に考えながら決めています。私はアナログLPで音楽に親しんできたので、A面・B面の構成や曲順は当然ながら気になってしまうんです。さらに曲と曲の「間」のインターヴァルになる無音部分の長さも大切で、聴き手に私の聞かせたいタイミングで次の曲を聴いて欲しい。だから、アルバム全体の構成が決まり、曲順を決めてからも、マスタリング・エンジニアとはかなり綿密に話し合いました。



 ハイレゾ音源の再生では使用している再生プレーヤーによって、曲間のインターヴァルまではCDと同様には再生できないと思われるが、シャッフルせずにShihoが本作に想いを込めた曲順を、ぜひそのまま楽しんで欲しい。



--先ほど、ボーナス・トラック的意味合いが強いと話されていたアルバム後半は、ひときわ豪華な印象を抱きます。


Shiho 10曲目の「ハッピー・ソング」は先にも述べた通り福岡中洲ジャズ公式ソングで配信先行だったのですが、今回ようやくアルバムに収めることができました。柴田、鳥越、大槻のトリオにサックスの田中邦和、トランペットの菅野淳史を加えた編成です。そして、アルバム終盤の「グラッド・ユー・アー・ヒア」はビッグ・バンド編成の曲で、ゴージャスなバンド・サウンドを楽しんでもらえると思います。ルクセンブルク在住のガスト・ヴァルツィングはグラミー賞を受賞している方で、近年交流があり、今回アルバムを締め括る曲を収めることができたのです。

--それでは最後に、e-onkyo musicのリスナーの皆さんにメッセージをいただけますか。

Shiho リスナーの方々にはお好きな聴取スタイルで、ハイレゾ音源を自由に楽しんでもらえたらとは思うのですが、一度は冒頭から終盤までアルバムを通して聞いて欲しいと思います。個人的にはミックスの出来映えも含め一番気に入っているのは、先にも話したカーラ・ブレイの「ローンズ -ロスト・アンド・ファウンド-」なんです。この曲にじっくりと耳を傾けてもらえたら、嬉しいですね。

--今日はありがとうございました。


■その潔いヴォーカリスト像を多面的に浮かび上がらせるハイレゾ


 アルバム『A Vocalist』は、メンバー編成の違いを筆頭に3人のピアニスト達の個性の差異を楽しむべきヴァラエティに富んだ内容だ。鍵盤タッチの違いが曲のイメージを膨らませ、聴き手の想像力を無限に刺激してくれる。もちろん、Shihoの楽曲に寄り添った歌い回しも大きな聴きどころで、彼女の声が絶妙なミックス・バランスにより眼前に浮かび上がる。

 アルバムはスタンダード・ソングとして知られる「スウィングしなけりゃ意味ないね」で始まるが、予想を遥かに超えた斬新なアレンジが施され、新鮮な響きとして耳へと届けられる。Shihoのスキャットが効果的に駆使された曲も含め、その表現幅はFried Pride時代とは明らかに次元が異なり、確実に深化を遂げているのが確認できる。繊細な表現が魅惑的なバラードから、刺激的な曲まで、耳を澄まして聴くべき価値がある。曲によってはメンバー間の一歩も引き下がることのない、ジャズならは丁々発止の瞬間も収められ聴き逃せない。万人が思い描くジャズ・ヴォーカル・アルバムはもう少し落ち着いたイメージかもしれないが、本作はその枠には到底収まり切らない。
 アルバム・タイトルの『A Vocalist』は、ステージの真ん中に立つ彼女の姿をあらゆる角度から眺めているような印象を抱かせる。スポット・ライトが当たった曲もあれば、暗闇で歌われる曲もある。整ったハイレゾ再生環境ではそうした光の当たり具合がきちんと享受できる。Shihoの歌には愛があり、挫折があり、葛藤がある。世の中の流行に流されることなく、一人の歌い手としてめいっぱい表現する姿勢はどこまでも潔い。声の収録には彼女が大のお気に入りというラトヴィア製コンデンサー・マイクのヴァイオレット・デザインのモデルが、全編で採用されている。艶やかで上品な質感が魅力というこのマイクで収録された歌声が、ハイレゾ音源では存分に追体験できるに違いない。凛とした佇まいの歌の数々に共感を覚える新規リスナーも少なくないはずだ。







◎Live Information
6月30日(日)◎京都・NAM HALL
7月1日(月)◎広島・FUKUYAMA MUSIC FACTORY
7月2日(火)◎鳥取・JAZZ居酒屋みね
7月4日(木)◎大阪・Mister Kelly's
7月5 日(金)◎和歌山・OLD TIME
7月6日(土)◎兵庫・STUDIO KIKI
8月20日(火)◎東京・eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
9月6日(金)◎大阪・Banana Hall
9月8日(日)◎愛知・NAGOYA Blue Note
*詳細は、こちらの「ライブ日程」をご覧ください。




■武田真治も激賞!!ヴォーカリスト、Shiho初のソロアルバム『A Vocalist』ハイレゾ配信開始!






■Shiho 関連作品




『ラスト・ライヴ!』/フライド・プライド




『Rocks!』/フライド・プライド

 | 

 |   |