連載 『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第69回

2019/06/07
『Red Line』 吉田次郎
~DSD一発録音は凄腕ミュージシャンが映える! ~
■ライブのリハーサルって、こんな感じ

今回は太鼓判ハイレゾ音源の選出が超難航。いくつかアタリをつけていた新譜を聴いてみたのですが、残念ながらビビビと来ず・・・。ギブアップ宣言間近でe-onkyo担当者さんにヘルプメールをしたところ、「ちょうど明日、ギター吉田次郎さんのイイのが出ますよ!」という嬉しいお返事が。早速、聴いてみたところ、これはガツンと来ました。太鼓判ハイレゾ音源を聴いたときの、いつもの感動がある嬉しさよ。しかも、その数日前にライブリハーサルでお見かけした、ドラマー川口千里さんが参加しているではないですか! ちょっとした運命を感じました。

川口千里さんのライブ 『川口千里 大学卒業記念ライブ!』 には、ベースで参加する櫻井哲夫さんに呼ばれ、リハーサルにお伺いしました。ベーシスト櫻井さんのケーブルは私の会社で開発しており、その最新作ケーブルのお届けとテストを兼ねてです。ちなみに、その新ケーブルは大絶賛で、そのままライブ本番で使用され、櫻井さんファンの皆さんからも中低域の鳴りっぷりが大好評でした。

さて、プロのライブのリハーサルって、どんな感じなのでしょう? あまり馴染みの無い世界でしょうから、少しご紹介してみます。

最近はバンド形式で長くツアーを回るといったスタイルは少なくなり、東京では一夜限りのセッション系ライブが盛んです。ですので、ミュージシャンに求められる力量として、譜面に強く、楽曲への理解度が早く、現場での変更の対応力の的確さ、といったことが求められるようになりました。今回のライブも、どれだけ細かい譜面指示があるのかと、チラリと楽譜を見てきたのですが、驚くことにコード符による曲展開や、簡単な音符でのキメ指示だけが書いてある、メモ書きのような譜面でした。よくこんな少ない情報で、あれだけのプレイができるものだと、トッププロの凄みを再認識した次第です。

この日は川口千里バンドとして何度かプレイした凄腕揃いのミュージシャンですから、リハーサルも簡単なチェックで進んでいきます。興味深かったのは、ドラマー川口千里がドラムヘッドを新品交換していたシーン。ヘッド交換作業自体はドラム専任の技術スタッフが行うのですが、千里さんが叩くと全く別物のような鳴りっぷり。太鼓が鳴るって、こういうことなんだな~と驚かされました。あんな小さくて細いルックスから、大男さながらのズドーン!というタムサウンドが飛び出すのですから。ドラムは単なる力技ではなく、真剣の居合抜きような技なんですよ、きっと。

ドラマーはリハで多く叩く人と、あまり叩かない人に分かれます。あまり叩かない人の代表が神保彰さん。驚くほど、ほとんど叩きません。あそこまでくると、仙人の領域? 則竹裕之さんは、生ドラムではなく、消音の練習用パットを叩き、とにかく入念なウォーミングアップをされていました。会場にポコポコと練習パットの音が鳴り止まなかったくらいです。一方、川口千里さんは、ドラムヘッドを交換したばかりだったためか、かなり激しくドラムを叩かれていました。アマチュアドラマーがリハで練習のようにドコドコ叩くのは五月蝿くて閉口しますが、川口千里さんのサウンドなら大歓迎。おかげで、プロ生ドラムの鳴りを堪能できて快感でした。

セッション系ライブなので、今回のリハでは、ソロ回しや曲展開を確認しながら曲順表通りに演奏していきます。その間に、モニターの返しや、PAミックスが調整されていくわけです。ブルースアレイの音作りは、いつも素早く、イイ感じに仕上がるお見事な職人芸。適度な低音の押し出し感があって、私の好みのサウンドなんです。

川口千里さんは、当日の主役ながら、とにかく謙虚な印象。ですが、大先輩の大御所ミュージシャンをノセるのが上手い。これほどの若い凄腕女性ドラマーが登場したのは、私が知る限り日本初。世界的に見ても珍しい存在だと思います。「若い女性にイイところを見せたい」、「若い女性に負けられない」 といったオジサマ心理が、サラリーマンだけでなくミュージシャンの世界にもあるのではないでしょうか? それは川口千里さんの意図するところでも本意でも無いにせよ、オジサマとはそういう生き物なのです。嫌になりますが、私を含め・・・。このオジサマパワーこそ、川口千里さんセッションの隠れ原動力なのではないかと、想像に難くないのです。


■せーので録る一発録りの素晴らしさ、しかもDSD!



私はflac 96kHz/24bitを事前にWAV 96kHz/24bitに変換しておいて試聴しました。本作は、その他 DSF 11.2MHz/1bit、DSF 2.8MHz/1bitのハイレゾ音源が販売されています。私がDSD系で聴かなかったのは、単に試聴システムで圧倒的にPCMが高音質なためです。私のリファレンス機は、マスタリングスタジオのマスターとしても活躍したDAコンバーターですので、そんじょそこらのDSD再生プレーヤーでは太刀打ちできるサウンドではありません。DSDを選ぶか、PCMを選ぶかは、各々のシステムにより決めると良いでしょう。

実は、DSD録音は、最高とも言えますし、PCMに劣るとも言えます。要は、道具は使い方次第なのです。DSD規格には超高域にディザーノイズがあるので、マルチトラック録音すると、トラックの数だけ超高域ノイズが加算されます。耳に聞こえない超高域ノイズだからとはいえ、このノイズの垂れ流しはいかがなものか。音楽に超高域ノイズが混ぜられたとき、気になる人と気にならない人が存在するようです。私は、とっても気になる人。具体的には、音楽に鍋蓋が被せられたように上方向の音像が広がらなくなり、音色にも曇りガラスでベールがかかっていく印象があります。ですので、DSD録音ならば、なんでも闇雲に好評価することなく、きちんと音を聴いてから判断するようにしています。

本作は、DSD録音の良い面のみが発揮されている印象。一発録りが良かったのでしょう、超高域ノイズの影響も気になりません。つまり、マルチトラック録音でなければ、DSDの超高域ノイズが加算することなく、最小の影響しかないということです。成功例の場合、音質のリアルさは群を抜いてPCMよりもDSDのほうが高音質なのです。

マリーンさんの歌う8曲目「ホワッチャ・ゴナ・ドゥ・フォー・ミー」が素敵です。チャカ・カーンの原曲とは全くのイメージが異なる、柔らかい雰囲気がスピーカーから放たれ、空間を埋め尽くすよう。

どれか1曲と言われたら、9曲目「グッドバイ・ポークパイ・ハット」がオススメ。次回のハイレゾ試聴イベント開催の暁には、この曲を大音量で鳴らしてみたいものです。ベースとドラムのグルーヴが圧巻で、ウーファーを破らんばかりに炸裂します。そうそう、やはりflacの直接再生では非力な音で、このサウンドは事前のWAV変換があってこそ実現する馬力感です。ぜひ実験してみてください。

本作の数曲で楽しめる、川口千里さんの稲妻のようなドラムソロ。録音時は21歳でしょうから、この堂々としたプレイに驚かされるばかりです。21歳の今だから、今でしか叩けないソロだと感じました。

それにしても、本作のサウンドは活き活きしている! これが最大の魅力だと思います。ベテランミュージシャン作品にありがちな、渋いけど若々しさがない・・・といった音とは無縁。その原動力は、きっと川口千里さんであり、「若い女性にイイところを見せたい」、「若い女性に負けられない」という無意識のオジサマパワーが炸裂した結果だと私は思うのですが、いかがでしょう? そのエネルギーを余すことなく捉えたDSD一発録音は、流石の太鼓判です!




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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず) 3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

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