【新譜】「身近にプーランクの音楽と魂を感じる生活を送ってきました」──ピアニスト・戸室玄 デビュー・アルバム&レポート

2019/05/31
●代官山ヒルサイドテラスにて──ピアノ・リサイタル・レポート
2019年4月20日。
連休を間近に控えた晴天の土曜。東京・代官山の洒落た街並みのなかでもひときわスタイリッシュな外観が目をひく「代官山ヒルサイドテラス」。螺旋状の階段を地下に降りた先にあるホール「ヒルサイドプラザ」で、ベーゼンドルファーMODEL.275を響かせるひとりのピアニストがいました。 ピアニスト・戸室玄(とむろげん)。



ショパンの「バラード第1番」、プロコフィエフの「ピアノ・ソナタ第7番」、さらにはスクリャービンの「エチュード Op.8 第2番&第12番」、村井邦彦の「Sakura on the Potomac」といった振り幅の大きなプログラムを、骨太かつ明瞭な響きとともに、満員の聴衆の耳に届けます。

難度の高い曲であっても、つねにメロディをはっきりと浮き上がらせ、聴く人を曲の世界にいざないます。集中力が求められるプログラムであるにもかかわらず、1曲弾き終えるごとに自らマイクを持ち、作品や作曲家をめぐるエピソードを、日本語とフランス語で丁寧かつわかりやすく解説。



演奏もトークも、昨年、音楽大学を卒業したばかりとは思えない落ち着き。40代以降であれば「風格」と呼んでもいいであろう雰囲気を、この若さでそなえているのは驚きです。古典派やロマン派の「王道のピアノ曲」もこなせそうな実力派の彼が、それとはやや趣の異なる作曲家を「デビュー・アルバム」のテーマとして選んだのには、何か特別な理由がありそうです。

●「身近にプーランクの音楽と魂を感じる生活を送ってきました」──デビュー・アルバムにプーランクを選んだ理由


『戸室玄 × フランシス・プーランク』/戸室玄

Tr.1-3 プーランク: 3つのノヴェレッテ
Tr.4-18 プーランク: 15の即興
Tr.19-21 プーランク: ナポリ(舟歌、夜想曲、イタリア奇想曲)


「身近にプーランクの音楽と魂を感じる生活を送ってきました。 彼の素晴らしい音楽をたくさんの方に聴いて頂ける様にこれからも演奏を続けて、録音も手がけたいと思います」────

そう語る戸室玄。

サンフランシスコ、ボストン、パリなどで少年時代を送り、ピアノを志したのち、2018年には英国ロイヤルアカデミーの修士課程を最優秀の成績で卒業。豊かな音楽環境のなかで若い時間を過ごしてきた彼が、フランシス・プーランクという作曲家に特に強く惹かれたきっかけは、フランス・フォンテーヌブロー城の音楽祭でのフィリップ・アントルモンとの出会いでした。

1934年生まれのピアニストであり指揮者、フィリップ・アントルモンは、若き日に生前のプーランクと交流を持っていました。戸室は、師を介して、フランスのさまざまな場所に残るプーランクの痕跡や彼とゆかりのある人びとに接しながら、彼の作品の魅力を探求してきました。


フランシス・プーランク(1899-1963)※写真奥



「パリの裕福な家庭に生まれ、ピアノを得意としたプーランクでしたが、作曲活動は親から反対されてしまいました。コンセルヴァトワール(音 楽学校)に入学することはかないませんでしたが、大人になってから、エリック・サティ、ジャン・コクトー、マリー・ローランサン、パブロ・ピカソ、ココ・シャネルといった人びとと交流し、彼らとともに、20世紀のパリの文化を作り上げていった人物です」「軽妙で洗練された音楽だけではなく、人間的な奥行きを感じられる作品も書いています」(戸室玄)

これまでに触れたプーランクの足跡のなかでも特に印象的だったのは、2017年に師アントルモンとともに訪れた、地中海に面した南仏の町マントンにある別荘「ヴィラ・サント・ソスピール(La Villa Santo Sospir)」だったそうです。





「なんと、家じゅうの壁や家具に、ジャン・コクトーが自由に画を描いているんです。訪れた人は、その画とともにひとときを過ごすことができます。コクトーの友人であったプーランクも、この別荘でよく夏を過ごしたそうです。ここでピアノを演奏できたのは本当に貴重な経験でした」



文学から美術、さらには映画までマルチに活躍したジャン・コクトーも、戸室が敬愛する20世紀パリのアーティスト。戸室自身が装画を手がけたアルバムジャケットも、どこかコクトー風です。




さまざまな芸術家によって形作られた20世紀フランスのエスプリは、「代官山ヒルサイドテラス」の美学にも通じるところがある───と語る戸室。今後も、日本を拠点のひとつとして、日本にプーランクの魅力を伝えていきたいとのこと。


どうすれば日本の聴衆にわかりやすく音楽を届けられるか。
その模索のひとつとして、ビジュアルを交えつつ
プーランクを奏でることも。



アルバム『戸室玄 × フランシス・プーランク』のレコーディングは、昨年2018年、3日間かけてロンドンのセント・マークス教会で行われました。レコーディング・エンジニアは、英国ロイヤルアカデミーの大学院で教鞭をとる大ベテランのアンドリュー・ラング。プーランクの、あるいはフランスのピアノ音楽の魅力を伝える、もっとも新しい高音質録音としても愉しめるアルバムです。





◆戸室玄 オフィシャルサイト


◆戸室玄 今後の演奏会

●2019年7月10日 19時開演 日仏会館ホール「フランス音楽の夕べ」
オフィシャルサイト
プーランク「15の即興曲」 (全曲) が演奏されます。

2019年6月5日 14時開演 渋谷ノナカアンナホール「若き巨匠シリーズ」
オフィシャルサイト

2019年7月14日 18時開演 スタインウェイ&サンズ東京サロンコンサート

2019年9月29日 14時開演 庭園美術館コンサートシリーズ
オフィシャルサイト

2019年11月3日 14時開演 紀尾井ホール 「2 Piano Quintets」


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