吉田次郎『Red Line』ライナーノーツ公開!

2019/05/30
ボーダーを超える吉田次郎の音楽――
NYの腕利きメンバーとともに創りあげた吉田の最新美学


『Red Line』吉田次郎



吉田次郎の音楽には、ギタリストとしての多様な魅力はもちろんのこと、広い音楽的視野をもったプロデューサーとしてのセンスが発揮されている。この新作『RED LINE』にもそれは顕著だが、基盤になるジャズの知識と、その上に散りばめられる様々な音楽的要素が彼の持ち味である。と同時に、彼のボーダーレスな活動がその音楽の全体像を把握するのを難しくしているかもしれない。吉田が、音楽の内にある様々な境界線、つまりジャンルや国境、世代、アコースティック/エレクトリックといった様々なボーダーを軽く超えてみせるので、ある一面だけを聴き、それが吉田次郎だと思うと間違うことになる。
吉田次郎という音楽家への評価がやや遅れたのもそれが要因の一つだと思うが、今こうして高いクオリティを誇る、彼の全体像を網羅した『RED LINE』というリーダー・アルバムが発表されることで、彼の音楽に改めてスポットライトが当たるのではないかと思っている。
簡単に吉田次郎の仕事を紹介しておこう。彼はニューヨークを拠点に、世界を飛び回る仕事をしている。日本では東京と関西を拠点として音楽活動に勤しんでいる。内容は、本作のような自身のアルバム制作とライヴ活動の他、クリヤ・マコト(p)、マリーン(vo)とのトリオ=THREESOMEの司令塔&メンバーでもあり、THREESOMEとしてはこれまでソニーから2枚のアルバムをリリース。高い評価と人気を得て、今もツアーを続けている。
プロデューサーとしては、2019年2月2日にクラシックの殿堂であるニューヨークはカーネギー・ホールで、テノール歌手・世歌動が歌う歌曲や唱歌を中心に、J-Popsやジャズにまで縦横無尽に音楽のボーダーを超えた「Transcending Borders」と題したコンサートを開催し、大きな評判を呼んだばかりだ。
 また、今陽子の50周年記念アルバムをはじめ、石丸幹二、相田翔子にマリーンといったビッグネームの作品やライヴの音楽監督を手掛けてもいる。

 このように様々なジャンルのビッグネームからのオファーが引きも切らない吉田だが、本作『RED LINE 』で「吉田次郎の音楽の全貌」がつかめると、嬉しく聴いた。ソニーからはソロとして2作目、4年ぶり13作目のリーダー・アルバムとなる。その新作はニューヨークで活躍するミュージシャンたちを東京に呼んでレコーディングするという力技。参加したのは、スティーヴィー・ワンダーの音楽監督を務め、ヴォーカリストとしても素晴らしいマーロン・サンダース。ステップス・アヘッドでも活躍してきたカール・カーター(b)。ジャンルの垣根を超えて世界中で幅広い活動を繰り広げる流麗なピアニスト、ヴァーナー・ギリッグ(p)。そして、日本からは現役大学生(注:録音当時)である川口千里が、闊達なドラミングで参加している。THREESOMEのヴォーカリストであるマリーンも1曲に参加し、いつもとは違ったソフトな歌声で楽しませてくれる。
吉田のギターは、ジャズの基盤と即興演奏家としての自負を持ちながら、泣きのロック・ギターから切々と訴えるアコースティック・ギターまで、広い音楽的視野を十二分に発揮。聴き応えのある演奏が続く。
 また、今作は近年吉田が大きな関心を持って取り組んでいる「DSD」という、全くオーヴァー・ダビングをしないレコーディング方式をTHREESOMEの2作に続いて採用し、東京のソニー・ミュージックスタジオで録音されたが、そのため非常に腕の立つミュージシャンしか使えなかったということも言える。全員がセーノ!で演奏しているそのライヴ感、醍醐味をそのまま味わいたい。レコーディング時には1?2回リハーサルを行い、全曲1?2テイクで仕上げたというのだから、集結したミュージシャンの集中力と腕の素晴らしさが分かるというものだ。その仕上がりを、存分に楽しんでいただきたい。

 楽曲の解説を、吉田次郎の言葉を借りながらしていきたいと思う。
1  アフロ・ブルー
 ジョン・コルトレーンの名演で知られ、ジャズ・ミュージシャンの演奏・歌は21世紀に入っても、ロバート・グラスパーほか後を絶たない名曲だ。吉田はコルトレーンのコード・チェンジをさらに複雑にし、面白いアレンジを施した。 「ヴォーカルを、バークリー音楽大学の教員でもあり、楽器でもアドリブができるマーロン・サンダースがとってくれたのでこんな演奏が可能になりました」

2 フットプリンツ
 なるほどのアレンジ、そして音色にまで凝った、吉田のギターが素晴らしい。
「ウェイン・ショーターが大好きなんです。この曲も、以前プロデュースした中川英二郎さん(トロンボーン)のアルバムで取り上げましたが、そこでは僕自身はソロを弾いていないので今作に収録しました。かなりアウトに弾いていますが、お楽しみください」

3 男と女
 涙が出るほどの情感を、ソロ・ギターで表現した。ライヴではソロを聴いたことがあるが、こういう素朴な吉田のギターが記録されることは、素晴らしいことだと思う。
「フランシス・レイは素晴らしい作曲家だと、心から尊敬しています。訥々と弾く、そんなアレンジも好きなので、コードはそのまま、シンプリシティを大事に弾かせてもらいました」

4 チェンジ・ザ・ワールド
「エリック・クラプトンやベイビーフェイスでお馴染みの曲ですね。今、世界的に多くの問題が山積しています。僕も及ばずながら、国連親善大使(WAFUNIF)を務めながら、世界をよき方向に変えていく努力を続けたいと思っています。そんな真剣な思いを込めました」
 マーロンのヴァーカルがメッセージを伝え、その裏でギターを刻む吉田のギターが軽やかに訴えかけてくる。メッセージの重さとギターの軽やかさのバランスが、見事だ。

5 スモーク・オン・ザ・ウォーター
「マーロンのヴォーカルを大フィーチャーしたナンバーです。ディープ・パープル(1972年リリース)、好きなんですよ!」
この曲での吉田の泣きまくるギターに、驚嘆しつつ魅了された。ドイツ出身でジャンルを超えた活動で知られるヴァーナー・ギリッグのピアノも、また素晴らしい。

6 レッド・ライン
 スリリングなサウンドにコード進行、非常に都会的で、これもまた吉田次郎らしい。
「このアルバムのために書き下ろした新曲です。論理性のあるサウンド。現代音楽の範疇で語れる音楽だと思いますが、フリーっぽくはしたくないと、5/8拍子をメインとしたジャズロック調で仕上げました。この曲こそ、もっとも皆さんにお聴きいただきたかったものと言っても過言ではないでしょうね」
 吉田の超絶技巧にしびれた1曲である。もう1曲、この手のナンバーが聴きたかった気もする。

7 イマジン
「ニューヨークに住んでいますから、ジョン・レノンのお宅の前はよく通ります。ここでは、自分の感覚でコードをつけさせてもらいました。どこまで弾くか、どこまで壊すか、自問しながらプレイした曲です」
 澄んだ音色、そして音楽の“間”に深い想いがたち込めていて美しい。このクラシック・ギターはFieldsのギターで、吉田次郎モデルであるとのこと。

8 ホワッチャ・ゴナ・ドゥ・フォー・ミー
 素敵なヴォーカルに、筆者は「これは誰?」と聞いた。シャウトが得意なマリーンだというので、驚いた次第。優しく、柔らかく歌ったらという提案も吉田がしたそうだ。
「マリーンは抑えて歌うと、いいんです。オリジナルのチャカ・カーンとは真逆の魅力を狙いました」

9 グッドバイ・ポークパイ・ハット
「大好きなミンガスの、大好きな曲です。この曲でエレクトリック・ベースを弾いているカール・カーターはチャック・ローブのバンドにいたこともある名手で、彼とも長い付き合いです。凄いベースですよね」
 吉田次郎のギターも、色っぽいというか、高音域の使い方が絶妙で、バカテクでありながら、技術以上の歌心が伝わってくる素晴らしいテイクになった。ドラムの川口千里の切れもよく、これほどのベテランたちに加わって頑張っているところが好もしい。

10  ウィンター・レイン
 アルバムのラストを飾るオリジナル・ナンバー。情景を見せるメロディ。哀愁があり、そこに情感がこもる。こういった琴線に触れる音楽もまた、また吉田次郎の世界である。
「作曲家として、また音楽に携わる者として、情緒豊かに暮らしていきたいと思っています。美しいメロディを書けたら、そしていい情景を聴く方に見せることができたら本望ですね」

 吉田次郎にギタリストとしてのゴールはと問えば、
「ギタリストとしては、心はアマチュア、腕はプロでありたい。Study to be quiet.」――そう言って微笑んだ。  花なら大輪の花を咲かせている時季に当たるだろう。また、人の花を咲かせることにも秀でた人なので、彼の周りは華やかなこと、この上ない。完成した音楽家だと思われがちだが、筆者は吉田次郎はこれからが楽しみなギタリスト/作曲家だと思っている。この『RED LINE』を機に、じっくり生涯聴いていきたいと思っている。

2019年春
中川ヨウ / Yo Nakagawa




【プロフィール】


●Guitar: 吉田次郎(ヨシダ・ジロウ)
1958年福岡生まれ。
5歳でピアノ、6歳でクラシックギターを始め15歳の時にジョン・コルトレーンを聴きジャズに興味を持つ。
18歳で上京し、スタジオ・ミュージシャンとしてプロ活動を始める。その後第一線で活躍していたが1981年新宿でマイルス・デイヴィスを聴いたことが転機になり、1983年渡米。翌年バークリー音楽院に入学。卒業後は同学院の講師を務めた。
90年からニューヨークに居を構えて本格的な音楽活動を始める。オリバー・レイクやフィリス・ハイマンといったコアなジャズからジョー・サンプル、マイケル・フランクス、リッキー・リー・ジョーンズ、セルジオ・メンデス、フィービー・スノウといったポップ・アーティストのツアー・サポートまで幅広く活動している。
ジャズギタリストとしては自らのグループ“ニューサウンド・ワークショップ”を主宰し、実験的な音楽にも挑戦するなど芸術家としての真摯な音楽活動も続けている。プロデューサーとしてはカルロス・ジョビンへのトリビュート作「エアーズ・トゥ・ジョビン」(BMGジャパン)でアストラッド・ジルベルトを起用したり、ニューヨーク・ヴォイセズとマンハッタン・トランスファーのジャニス・シーゲルを共演させたプロジェクト「トリビュート・トゥ・カーペンターズ」(キング)を完成させるなどその幅広い人脈とアメリカの音楽業界に精通した活動ぶりで、在米日本人アーティストとしては異色な才能を発揮している。
モントリオール・ジャズ・フェスティバル、Mt.FUJIジャズフェスティバル、JVCジャズフェスティバル等内外のメジャーなジャズフェスに多数出演。
2003年にNHK人気番組「公園通りで会いましょう」のウイークリーホストを勤め、1週間に及び多彩なゲスト(八代亜紀、三宅裕司、他)と伴に吉田次郎ワールドを繰り広げさらに彼の才能がお茶の間に浸透した。
同年、国際連合ニューヨーク本部から日本人としては2人目の国連WAFUNIF親善大使に任命される。
ジャズギタリストとして以外にも、「ダンス・ウィズ・ウルヴス」などの映画音楽のスコアも手掛けている。現在は近年公開予定のハリウッド映画「I Remember You」(リチャード・ドレイファス、ジェニファー・アニストン主演)のテーマ曲およびスコアを手掛けている。2015年にはSony Musicからアルバム『a pastel shade』を発表した。
2016年にマリーン&クリヤ・マコトと共に世界で活躍するジャズメン3人によるユニット「THREESOME(スリーサム)」のファーストアルバム「CUBIC MAGIC」をリリース。ガーシュウィンの有名なナンバー「サマータイム」はトヨタNewCrownスペシャルムーヴィー使用曲に。2017年には「THREESOME(スリーサム)」のセカンドアルバム「WHATEVER!」をリリース。2019年2月にはニューヨークにある音楽の殿堂、カーネギーホールにおいてTHREESOMEのメンバーとステージに立ち、大喝采を浴びた。

●共演歴
海外/シンディ・ローパー、スティング、ポール・マッカートニー、ジョー・サンプル、マイケル・フランクス、リッキー・リー・ジョーンズ、セルジオ・メンデス、フィービー・スノウ、ブレッカー・ブラザーズ、マンハッタン・トランスファー、ニューヨーク・ヴォイセズ、エディ・ゴメスなど
国内/今陽子(ピンキーとキラーズ)、福山雅治、浜崎あゆみ、相田翔子、ケイコ・リー、石丸乾二など



【アルバム参加メンバー】


●Vocal: Marlon Saunders(マーロン・サンダース)
ソングライター、レコードプロデューサー、バークリー音楽院教授。スティーヴィー・ワンダーの音楽監督でもある。ビリー・ジョエル、スティングなど多数の著名ミュージシャンとのツアーに参加、ブロードウェイミュージカルの音楽監督も務める。日本を代表する久保田利伸や米倉利紀のプロデュースも。今年2月に行われた「グラミー賞」のコーラスを仕切った人物でもある。


●Piano: Vana Gierig(ヴァーナー・ギリッグ)
ドイツ・ミュンヘン出身。8カ国語を操るピアニスト・作曲家。その類まれな演奏スタイルは「天才」「神」とも言われ、NY中心に世界的に定評がある。Vane独自の音楽言語は「グラミー賞」のクラシックとジャズ部門のどちらも受賞した巨匠ウィントン・マルサリスとパキート・デ・リベラにもその才能を見出される。人気TV番組「セックス・アンド・ザ・シティ」の音楽監督でもある。


●Bass: Carl Carter(カール・カーター)
コネチカット州出身。バークリー音楽院在学中より才能を認められ、フィル・ウィルソン、ゲイリー・バートンらと共演、卒業後は活動の拠点をNYに移し、チック・コリア、ステップス・アヘッドのツアーメンバーとしても参加。またセンス溢れるビート感でR&Bのシンディ・ローパーのレコーディングにも参加。ブライアン・マックナイトの音楽監督としても活躍している。


●Drums: 川口千里(カワグチ・センリ)
愛知県生まれの21歳。5歳でドラムを始め、8歳から菅沼孝三氏に師事。「ドラマーワールド」で世界のトップドラマー500人に選ばれた日本人二人の内の一人でもある。2013年、若干16歳で待望の1stアルバムをリリース。2016年にはLAでコレーディングした待望のメジャーデビューアルバムをリリース。翌年はそのリリースツアーを全国7箇所で行い、好評を博す。アメリカのドラム専門誌「DRUMHEAD MAGAZINE」の表紙を飾り、18ページに渡り特集される。現在、大学に通いながらライブやスタジオワークなど国内外を問わず多彩に活躍中。


【ツアースケジュール】
●2019.6.11(火)、12日(水)渋谷@Jz Brat
●2019.6.13(木) 名古屋@名古屋ブルーノート
●2019.6.15(土) 大阪@ロイヤルホース
●2019.6.17(月) 熊本@CIB
●2019.6.18(火)福岡・博多@ブルックリンパーラー
●2019.6.19(水) 岡山@ルネスホール

◆吉田次郎オフィシャルサイト
https://www.jiro-yoshida.jp

◆吉田次郎 ソニーミュージック オフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/jiroyoshida/


Photo:Rinako Sakamaki

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