活動50周年 ジャズドラマー大隅寿男スペシャルインタヴュー!

2019/05/22
今なお精力的に活動を続けているベテラン・ジャズドラマー大隅寿男が、キャリア50周年を記念したアルバム『Caravan』をリリース。
今作の制作を振り返っていただきつつ、今の心境についてお話を伺う事ができた。

●インタヴュー&テキスト:e-onkyo music


『キャラバン』大隅寿男



-:活動50周年となる記念すべきアルバムの発売、おめでとうございます。あらためて心境はいかがですか?

いやもう、本当に”嬉しい”という一言につきます。ポニーキャニオンにもずっとお世話になっていて、前作を作った時にも「次回はこんな事やりたいですね」って言って頂いていたんですけど、まさか本当に実現するなんて・・・。75歳にもなって、こうしてアルバムをリリースさせて頂けるなんてありがたい限りです。なかなか最近はジャズでCDをリリースするのも難しい時代になってきている中、こうして頂いた機会を大事にしたいと思っています。

-:アルバムタイトルの『Caravan』について、勿論これは今回の収録曲であるデューク・エリントンの「Caravan」から来ているのだと思いますが、大隅さんの音楽人生や、これまでの長い旅を表しているような印象も受けました。このタイトルにはそういった意味もあるのでしょうか。

そう言って頂けると非常に嬉しいのですが、正直なところ全く無かったです(笑)この「Caravan」という曲は私がジャズを演奏し始めた頃からずっとやり続けてる曲なんですよ。オリジナルのデューク・エリントンよりも、ベンチャーズなんかがカヴァーしてるのでそちらの方が有名だったりするのかな?そういうのもあって、最初からライヴでもリクエストが多かったんです。僕自身も以前のアルバムにも収録した事があるんですが、そのときはピアノトリオ編成だったので今回のサックスがいる編成でもう一度録らせて頂きました。

-:原曲よりもグッっとテンポアップされていてドラムが映えるアレンジですね。

ライヴでやる度にどんどん速くなっていきましたね(笑)僕のステージでは定番の曲で、これで締めた後にアンコールをやるのが大体お決まりです。そんな風に僕のキャリアの中でずっと演奏し続けてきた曲なので、今回の節目になるアルバムにはぜひ入れたいなと思ってお願いしまいた。プロデューサーの山下さんには「前にもやりましたよ?」なんて言われたんですが、是非にと(笑)

-:アルバムのタイトル曲にまでなっていますね(笑)

タイトルについても他にいくつか候補を頂いていたんですけど、どうもしっくりこなくて。ここは『Caravan』でいいんじゃないかという事になりました。

-:その他の曲もスタンダードなジャズのレパートリーから選曲されていますが、曲を選ぶ基準や背景は何かあったのですか?

いつもそうなんですが、とにかく好きな曲を選んだ結果です。今までのアルバムでも、それぞれその時期に一緒にやっていたミュージシャン達とのライヴでのレパートリーから選ぶ事が多かったのですが、今回も同じ流れですね。

-:そんな中にあってSTINGの「FRAGILE」は少し異彩を放っていますね。

この曲は普段のライヴではそんなにやっていないんですけど、私もずっと好きだったんです。で、今回はメンバーにサックスが居るので録音前に”こういう曲をソプラノでやりたい”っていう希望も出てきて。じゃあ、ヴォーカルを入れてやろうかって話になって安冨祖貴子さんに連絡をしたら、彼女もたまたま最近STINGを歌ってるという話になって。最終的には僕のバンドにしてはいつもと少し違う仕上がりになったかな。


-:たしかに、少しチャーミングでモダンな感触もあるアレンジになっていますね。

基本的には原曲からあまり遠ざからないようにしたんですが、やっぱり歌とソプラノサックスを生かすというところが肝でしたね。安冨祖さんもしっかり歌いこんでいた曲なのもあって凄くいい仕上がりになったと思います。

-:アレンジをするにあたってはどんな話し合いを?

あんまり譜面を元にどうこうって感じじゃなかったんですけど、ヴォーカルの貴ちゃん(安冨祖)に「どうしてる?」って聞いても、「いやぁなんかイントロ付けてもらって歌ってるさあ」って(笑)ほんとにそんな感じなんですよ。じゃあこうしようかって8小節でコード進行だけ決めて。譜面なんて書かないから「イントロが終わったらサビまでアドリブをとって、エンディングは2コードでいってみようか」みたいに。あまり決めこまずに何回か繰り返していると形が出来てくるので、それを磨いていくような感覚です。

-:バンドとしては理想的ですね。

そうなんですよ。本当に譜面を使わない。その場にいる皆で作っていくから、初めての人が来るとちょっと困りますね。説明が難しい(笑)

-:気心の知れたメンバーならではですね。今作はドラマー大隅さんのリーダー作という位置付けですが、中身は非常にバンドっぽいという印象でした。

本当にバンドっぽいですよね(笑)繰り返し演奏しながら仕上げていったアレンジです。譜面を渡して「この通りお願いね」みたいな現場とは対極にあるような、良い意味でいい加減な流れです。逆に言えば、こうしてお互いを分かっているメンバーじゃないと出来ないですね。アドリブというものの解釈が近い人じゃないと一緒にはやれなかったと思います。阿吽の呼吸というか、これが我々のセッションの形なんじゃないかと。この部分はやはり大事にしましたね。

-:決め事だらけのスタジオワークとは全く違う世界ですね。アットホームというか。

そうかもしれないですね。だから、言い換えれば外国人とやるのも簡単ですよ。説明がいらないから、言葉が分からなくてもKeyを伝えて「イントロ!エイトバー!」って言えば通じる(笑)あとはやりながら調整していくだけ。

-:アプローチに対する指示はあるんですか?

指示といっても「ここは明るく」とかそういうザックリとしたことだけですね。たとえば「ここは誰々っぽいフレーズで!」みたいなのは絶対に無いです。その人その人がそれぞれ持ち寄るもので作っていくというか、若い人がロックバンドを組んで繰り返し同じ曲を練習しながら仕上げていくようなやり方に近いんじゃないですかね。

-:メンバーのお話も出たところで、今回はご子息である大隅卓也(sax)さんが参加されていますがプレーヤーとしてはいかがでしたか?

いやー、まだまだですね。もっと頑張って貰わないとダメだなと思いますが、それだといつまで経ってもやれないですからね。プロデューサーの山下さんが「卓也さんを入れてやってみましょうか」と言ってくれたタイミングが契機だったんじゃないかと思います。今が最高だからやるっていうことじゃなくて、今だからこそという。実際、上手く行ったところもそうじゃ無いところもありますけど、彼が現在持っている力で頑張ったとは思います。とにかくこの先も自分の力で発展させて行ってほしいですね。彼にしてみれば大きなチャンスですからね。私自身もかつてそうでしたが、ドラマーとして駆け出しの自分にチャンスをくれて使ってくれたからこそ今の私がありますから。だから親としては、こうして良い機会を得たのだから頑張ってほしいと思っています。

-:ゲストで数曲参加という扱いではなく、フル参加のメンバーとしてのポジションですから、大隅卓也さんにとっても名刺がわりとなる作品でしょうね。

そうですね。親子揃ってありがたい限りです。元々いつかはレコーディングを一緒にやりたいという気持ちはありましたが、彼がバークリーの留学から戻ったばかりの頃はなかなか難しくて・・・。向こうで音楽理論の勉強はしっかりしてきたんでしょうけど、プレーヤーとしての経験は全然でしたからね。スタンダードなレパートリーの知識も乏しくて。だから最初は、とにかくなんとか演奏するところから始めて、お客さんの前でプレイできるところまで経験を積ませて。ジャズは特にお客さんの反応で全て分かりますからね。感動してくれてないときはハッキリ分かります。彼と一緒にプレイして9年くらいになりますが、それがこうして一緒に録音を残せたというのは本当に感慨深いですね。様々な問題がありましたが、なんとかクリアしてくれてよかったなと思います。

-:リハーサルを含めた制作期間はどのくらいだったんですか?

レコーディングは2日間です。アルバム用のリハーサルというのは特にしていないですね。あのイントロをこうしようとか、今回はもう少しスイングしてみようとか、いつもライヴでやっている曲ばかりなので、それがアルバムという形になったという感じです。


-:スタジオで無観客ライヴを行ったような?

そうとも言えるかもしれないですね。とにかく普段のライヴの延長でそのままレコーディングをしたということです。僕らの今の音がそのまま録音されていると思います。

-:ここで少しアルバムのお話から外れて大隅さんご自身とオーディオとの関係をお聞きしてみたいのですが、普段はどのように音楽を聴いていらっしゃいますか?

恥ずかしながら、いわゆるオーディオセットのようなものは持っていないんですよ。音楽を聴くときは大抵車の中なので、主にカーオーディオでという場合が多いですね。
ただ、僕とジャズとの出会いって、まだの高校生の頃昔僕の家に下宿していた明治大学の学生が持っていた電気蓄音機だったんです。大きなスピーカーが付いていて・・・。その大学生は数々のジャズの名盤のレコードを持っていて、僕を可愛がってくれていたから「これがジャズだよ。聴いてみな。」って聴かせてくれたんですよ。それがもう衝撃で。忘れもしない、サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ。アート・ブレイキーのバンドですね。

-:それがジャズの原体験!

もうほんとに「え!?なんだこの音楽は!」って(笑)でも、その頃はまだ自分で音楽をやろうとは全然思わなかったですけどね。
その大学生の彼は北海道の登別温泉の旅館の息子さんだったんですけど、里帰りするときなんかに「勝手に部屋に入って聴いてていいよ」って言ってくれるわけですよ。そこで色々と聴き漁っていく内に、BLUE NOTEのサウンドに魅了されてしまいましたね。

-:他人にレコードのコレクションは絶対触らせないって人も結構いますが、すごい気前の良さです。

とても大事にしてる様子でしたけどね。僕がプロのミュージシャンになって、ツアーで北海道に行った時に会いに来てくれましたけど、とても喜んでくれていました。まだまだお元気で、登別温泉の理事か何かをされているんじゃなかったかな。

-:人生を変えた出会いですね。

まさにそうですね。それがきっかけで僕も大学生になるとジャズ喫茶に通うようになって。一杯のコーヒーでずーっと粘って聴いてました。だんだんマスターが嫌そうな顔になってくるんですけどね(笑)そうこうする内に、ドラムなんてできないのに大学の軽音部に入るわけです。

-:それまで楽器の経験は無かったんですか?

僕は子供のころ福井県の芦原温泉というところに住んでいて、旅館の子供だったんですけど、戦後4~5年の終戦間もない頃にもかかわらずヴァイオリンとピアノを習わせてもらっていたんです。まあこれが女の子みたいだし嫌で嫌で!でも今にして思うともう少しちゃんとやっておけばよかったかな(笑)旅館は火事で焼けてしまったので、東京に家を建てて母と一緒に住むようになって。それで日銭を稼ぐのに下宿屋をやっていたんじゃなかったかな。そこでその大学生とジャズに出会うわけです。

-:音楽が大隅さんを追いかけてくるような人生ですね・・・

ははは(笑)ただ、姉たちは先に東京に出てきていたので、それで安くて小さな電気蓄音機が家にあったらしいです。それで、グレンミラーみたいな所謂スイングとかトリオ・ロス・パンチョスとか流行っていたので聴いてはいたんですけど、あの大学生の部屋でアート・ブレイキーを聴いたときのような衝撃とは違いました。

-:何が決定的に違ったんでしょう?

もちろん黒人の出すグルーヴというのもありますけど、やっぱりサウンドじゃないですかね。今で言うオーディオとはまたちょっと違いますが、あの大きな電気蓄音機から出てきたサウンドというのは重要だったと思います。

-:それでは、最後にe-onkyo musicのリスナーに一言メッセージをお願いいたします。

私の50年間の活動で得た全勢力を注ぎ込んだ、良い作品が出来上がったと思っています。どうか皆さんぜひ聴いてみてください。

-:ありがとうございました。


―(了)


Drums:大隅寿男
Piano:関根敏行
Bass:横山裕
Sax:大隅卓也
Vocal:安冨祖貴子(on #6, #8)


レコーディング時のセッティング表

本作は、長い歴史を誇るポニーキャニオンの代々木スタジオ(Studio1)でレコーディングされた。
エンジニアの川崎氏曰く、「各楽器ブースのアイソレートがあまり完璧ではないものの、それが良い“かぶり”を生み出すことでよりバンドらしい雰囲気を録音できた」との事。
また、ピアノのオンマイクには真空管マイクの定番テレフンケンAR-51と併せて、オーディオテクニカのリボンマイクAT4081を採用するなど、モダンでクリアな音像にも注目して頂きたい。録音、ミックス、マスタリング共に96kHz/24bitで制作。


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