【4/19更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2019/04/19
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
ザ・ビートルズ『The Beatles』
ザ・ビートルズの名作に刻まれているのは、中学時代の親友との思い出


僕は集団で盛り上がるようなノリが苦手です。

リアルな交流であれSNS上のグループであれ、複数の人たちと群れることに魅力を感じず、そういう状況を見ると、すーっと気持ちが冷めてしまうのです。

屈折していますなぁ。自分でもわかりますが、それが自分なのですから仕方がありませんね。

多感な中学生時代から、すでにそんな感じでした。大勢で「ウェ~イ!」と盛り上がっているようなグループ単位の関係性を、薄っぺらく感じていたのです。

学校のような集団生活の場にいちばん適さない、浮きやすいタイプだったということ。ですから反発も食らいましたが、それはそれでいいやと思っていました。

本音で語り合えない複数の“仲間”と表面的なつきあいをするより、信じられる数人の“友だち”と、ていねいにつきあっていきたいと考えていたからです。

もちろん、それは言うほど簡単なことではないはずです。にもかかわらず僕が自分のスタンスを通せたのは、Kちゃんというクラスメイトのおかげでした。

小太りでクルクルの天然パーマだったKちゃんは、中2の時点で身長が180センチぐらいあり、足のサイズも28㎝(なぜかそのことははっきり憶えている)。大柄だから目立ちはするのですが、落ち着いていて穏やかな性格でした。

自分では「目立たないタイプ」だと思っていたのに、実は「いちばん目立っていた」らしい(のちに同窓会の席で聞いた)僕とは正反対のタイプ。

しかも、いつも一緒にいたイメージがあるのですが、大多数のクラスメイトともうまくやっていたようなので、コミュニケーションに長けた男だったとも言えそうです。

よく一緒に帰り、それぞれの家への分岐点である八幡神社近くの曲がり角で長々と立ち話をしていました。Kちゃんは人間関係が下手な僕の悩みを真剣に聞いてくれ、いろいろアドバイスしてもくれました。

家にもよく遊びに行きました。彼はビートルズの熱烈なファンだったので、行けばたいていはビートルズのレコードをバックに、ビートルズ論を延々と聴かされることになりました。

名作と名高い『The Beatles』、通称『ホワイト・アルバム』を初めて聴いたのも、その体型にしては狭すぎるのではないかと感じさせるKちゃんの小さな部屋でした。

詳しいことまでは憶えていませんが、「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」のかっこよさや「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」にまつわるエピソード、「レボリューション9」の特異性などについて教えてもらった記憶があります。

Kちゃんは(主にビートルズを中心とした)音楽の情報源であり、悩みを打ち明けることのできる友だちであり、親切に勉強を教えてくれる優等生でもありました。

そう、対する僕は劣等生だったので、よく勉強を教えてもらっていたのです。うちに来てくれて、勉強が終わったら僕の持っていたレコードやカセットを聴き、また音楽談義をするような感じ。

夏休み中盤の、ある日のことでした。

わからない数学の問題があったので、また教えてもらおうと思って電話しました。教えてほしいと伝えると、「わかった。教えてあげる」と言い、Kちゃんはすぐに来てくれました。

そしてその日も、数学を教えてもらい、レコードを聴いたのだったと思います。いつもと、なにも変わらない日常でした。

でも2学期の始業式の日のホームルームで、実は大きなことが変わっていたのだと初めて知りました。担任がこう告げたのです。

「夏休み中に、Kくんのお父さんが亡くなりました」

目を向けると、Kちゃんは表情を変えることなく、黙って教壇のほうを見ていました。

話によれば、Kちゃんのお父さんが亡くなったのは、僕が「数学を教えてほしい」と電話するよりも前のことでした。つまり、あのときわざわざ来てくれた彼は、父親を失ったばかりの時期だったのです。でもあの日、彼はそんなことをひとことも口にしませんでした。

「本当に知らなかったの? 本当に、知らなかったの?」

休み時間にその話題を振ると、いつもなら穏やかに話すKちゃんは、珍しく強めの口調で聞いてきました。どうやら、僕が気を遣って電話したのではないかと思っていたようでした。

でも全然知りませんでしたし、もし知っていたとしても、そんな気遣いをさりげなくできる器用さを僕は持ち合わせていません。だから、知らなかったとはいえ悪いことをしたという後悔しか残りませんでした。

会社を経営されていたお父さんをKちゃんが尊敬していたことは、話の端々から伺えました。亡くなる以前から、お父さんの話をよく聞かされていたからです。

もうひとつ印象的だったのは、その後、「将来の夢」というような作文を書かされたときのこと。Kちゃんの原稿用紙に、「父親の会社を再建する」という内容の文章があったのです。

だから卒業して離れ離れになり、数十年が経過してからも、「もうKちゃんは会社を再建したのかな?」と気になっていました。

その問いに対する答えを同窓会の幹事Hから聞いたのは、50代前半のころでした。42歳のとき大きな同窓会を開催して以来、僕らは年の暮れに集まるようになっていました。でも考えてみると、Kちゃんが出てきたことは一度もありませんでした。

「そういえば、Kちゃんって連絡つかないの?」

そう聞いた僕の耳に、予想をはるかに飛び越えた答えが返ってきました。

「亡くなった」
「え?」

幹事Hのなかには、Kちゃんの死をあまり騒ぎ立てたくないという思いがあったようでした。その気持ちも、わかる気はしました。

でも、事実それ自体が、ちょっと理解できませんでした。

早くに父親を亡くしたKちゃんが、なぜ父親と同じくらいの年齢で亡くならなければならなかったのか、ということが。

もちろん、生きていればなにが起こるかわからないものです。でもちょっと不公平な気がしますし、なんだか腑に落ちなかった……いや、いまでも腑に落ちないのです。

そのせいか、『ホワイト・アルバム』を聴くと、いまでもときどきKちゃんのことを思い出します。


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『The Beatles[White Album / Deluxe]』
ザ・ビートルズ



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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」

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