【連載】生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」 2時限目「ピアノ」

2019/04/19
音元出版が発行するオーディオ雑誌「NET AUDIO」誌との連動企画【生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」】がスタート!本企画は、オーディオアクティヴィスト(音楽家/録音エンジニア)、そして評論家としての肩書を持ち、オーディオファンのみならず、録音愛好家や音楽ファンからも支持を得る、生形三郎氏を講師にお迎えし“クラシック音楽の頻出ワード”を1から分かりやすく解説。そして関連する音源を合わせてご紹介することで、クラシック音楽の魅力をより深く知っていただこう、という連載企画です。

「NET AUDIO」誌Vol.34掲載の、生形三郎の「学び直し! クラシック攻略基礎講座」とあわせてお楽しみください。

◆季刊・Net Audio vol.34 Winter 2019年4月19日全国一斉発売




◆2時限目「ピアノ」その1~クラヴィコードという楽器~

 ピアノという楽器は、クラシック音楽の楽器の中でも、もっとも身近で親しみやすい存在と言えるのではないでしょうか。低い音から高い音までをカバーする広い音域と、どの音域でも均質な音色を持ち、そして、打鍵の強さに追従する自在な強弱の幅があります。まさに万能の楽器であるとともに、作曲家が曲を生み出す際の「万能工具」とも言えるような存在です。それだけに、ピアノ作品は、作曲家の意図や狙いが、隅々まで思い通りに反映されやすいジャンルとも言えるのではないでしょうか。

 ところで、「ピアノ」と一口にいっても、実は、時代ごとに進化を遂げており、その時代時代によって姿は大きく異なります。例えば、J.S.バッハの鍵盤作品は、現代ではピアノで演奏されるのがごく一般的ではありますが、J.S.バッハの生きた時代に現代のようなピアノはありません。また、クラシックのピアノを習ったり、楽譜を読んだりしたことのある方は覚えていらっしゃるかもしれませんが、ピアノで演奏する曲名が、「クラヴィーア曲集」とか「ハンマークラヴィーア」とか、え、これってピアノ用の曲じゃないの? というような、ちょっと聞きなれない名前が付いていたかと思います。実はこれこそが、その歴史を物語っているのです。ピアノの原型は、今ほど鍵盤数も多くなく、出せる音量も限られていました。また、発音構造も違います。そこで、2時限目では、ハイレゾならではの醍醐味のひとつである、音色の繊細さやより深いディティール表現を楽しむべく、様々なピアノを聴いて行きたいと思います。



【クラヴィコードという楽器】



 西洋音楽における鍵盤楽器のベーシックな姿ともいえるのがクラヴィコードです。横長の箱の中に張られた弦を、金具片で押し上げることによって音を出す楽器です。発音の構造的によく似た、弦を弾くチェンバロよりももっと音量が小さいのですが、弾くときの力の強さによって音量を大きく変えたり、弾いてから力加減を変えることで音程を変化させることも可能です。決してピアノやチェンバロのように派手やかではありませんが、なかなかに味わい深い、奥深い世界観を持った楽器です。家庭でも気軽に導入可能なシンプルな楽器で、鍵盤楽器の学習用途にも広く親しまれた楽器です。J.S.バッハの時代は勿論、ハイドンや、あのモーツァルトも若いころは自宅ではクラヴィコードやチェンバロに親しんでいたといいます。そして、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの息子、カール・フィリップ・エマニュエル・バッハもその愛好者でした。ここで早速、彼の作品をクラヴィコードで演奏した作品を聴いてみましょう。

まずは、こちらです。


『静寂の語らい C.P.E.バッハ作品集』
上尾直毅



 いかがでしたか? ピアノと全く違う音色だったかと思います。しかしながら、この時代には、こういった楽器を使って音楽が作曲されたり、楽しまれていました。また、演奏会場の残響が非常に豊かに捉えられている録音であることも、お判り頂けたかと思います。

 次に、同じくC.P.E.バッハの曲を、別の楽器で聴いてみましょう。まずは、試聴してみてください。


『C.P.E. Bach: Tangere』
アレクセイ・リュビーモフ



 この演奏で使われているのは、タンジェント・ピアノという楽器で、金属片で弦を押し上げていたクラヴィコードと違い、代わりに木片で弦を押し上げて音を出す楽器です。発音される際の響きがこちらの方が柔らかいですね。このように、この時代は、同じような楽器だったとしても、かなり異なる個性を持った楽器がたくさん存在していたのだと推察されます。ちょっと面白い世界ですよね。

 最後に、ちょっとファンキーな音も聴いてみましょう。


『Bach - Gulda - Clavichord (The Mono Tapes) [Remastered]』
Friedrich Gulda



 こちらは、フリードリッヒ・グルダという、古典派の楽曲やジャズを得意とする大家のプライベート録音で、モノラル録音となっています。音質は万全とはいえないでしょうが、実に生き生きとした演奏と楽器の音色を楽しむことが出来ます。また、打鍵の後に音程が揺らされていることがわかるかと思いますが、これがクラヴィコードならではの奏法です。また、「ファンク」という音楽ジャンルに詳しい方は、「クラビネット」という楽器をご存知だと思いますが、これはクラヴィコードにピックアップをつけて電気的に音を増幅させる楽器です。あの、低い音と高い音をリズミカルに交互に演奏してグルーヴを生み出すご機嫌な楽器ですね。この録音は、まさにそのようなエネルギッシュな音世界を楽しむことが出来ます。

 この3つを聴いていただくと、楽器や演奏の違いは勿論、録音のアプローチによっても全く音が変わってくることを実感していただけるかと思います。ハイレゾでは、そのような情報の違いもよく分かり、なおさら音楽に引き込まれてしまいます。


 なお、音元出版「NetAudio」誌の当該連載では「KORG」試聴室でのハイレゾ音源試聴レポートを掲載しています。ぜひそちらも併せてご覧下さい。

KORGの試聴室
再生ソフトウェア :AudioGate4(Windows)
USB DAC&プリアンプ:KORG Nu 1
パワーアンプ :MARK LEVINSON No.383L
スピーカーシステム :B&W Nautilus 802







生形三郎 プロフィール

オーディオ・アクティヴィスト

音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家。昭和音楽大学作曲学科首席卒業。東京藝術大学大学院修了。音楽家の視点を活かした録音制作やオーディオ評論活動を行なう。「オーディオ=録音⇔再生」に関して、多角的な創造・普及活動に取り組む。各種オーディオアワード及びコンテスト審査員を務めるほか、スピーカー設計にも積極的に取り組む。

オフィシャルサイト





◆季刊・Net Audio vol.34 Winter 2019年4月19日全国一斉発売



 | 

 |   |