2月新譜は「スペクタクル系」揃い!「ローマ三部作」と「シンフォニア フンガリカ」~ナクソス・ジャパン取扱新譜より

2019/02/22
 ハイレゾの楽しみ方はどんどん多様化しています。最近は、ソロ楽器や小編成の室内楽など、繊細な音を追い求めるリスナーの方も増えてきました。それでもやっぱり、何十人ものアーティストがひとつの作品を奏でる迫力は別格!そんな“大編成”演奏の醍醐味を味わえる新譜が、2タイトル同時リリースされました。片やオーケストラ、片や吹奏楽。一見するとまったく別モノに見えるこの2タイトルには、意外な共通点も……?ぜひ、聴き比べてみてください。
オススメ新譜 その1


『レスピーギ: ローマ三部作』
ジョアン・ファレッタ, バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団

レコーディング:2018年5月30日/6月4日 クラインハンス・ミュージック・ホール(ニューヨーク)



オススメ新譜 その2


『ヴァンデルロースト』
マスターズ・ブラス・ナゴヤ, 鈴木竜哉

レコーディング:2018年4月30日 刈谷市総合文化センター 大ホール(愛知県)<ライブ>



●聴き比べポイント1 ~ テーマ
片や「ローマの歴史」、片や「ハンガリーの歴史」を壮大に描く!

『ローマ三部作』は、イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギ(1879-1936)の作品。アルバム「ヴァンデルロースト」のメイン収録曲『シンフォニア フンガリカ』は、ベルギーの作曲家ヤン・ヴァンデルロースト(1956-)の作品。いずれも、「歴史」をテーマにしたスケール感のある大作です。

『ローマ三部作』は、『ローマの祭』『ローマの噴水』『ローマの松』の3つの交響詩の総称。ローマは、古代から現代に至るまで、ヨーロッパ史の中心地であり続けている都市。そんなローマの「祭」や、「噴水」「松」などの景勝をあふれんばかりの音量・音色で描いているのが、この『ローマ三部作』です。古今東西のクラシックの有名曲のなかでも、とくに派手な音づかいの作品として知られています。

とりわけハイレゾ・リスナーのみなさまにオススメしたいのは、本アルバムの冒頭を飾る『ローマの祭』。古代(第1曲「チルチェンセス」)から中世(第2曲「五十年祭」)を経て20世紀(第4曲「主顕祭」)に至るまでのローマの祭の歴史が描かれた壮大な交響詩です。第1曲の舞台は、円形劇場(コロセウム)。「暴君」として悪名高いローマ皇帝のネロ(紀元後37-68)が、キリスト教徒を猛獣の餌食にする残虐な場面を描いています。

円形劇場で迫害を受けるキリスト教徒



対する『シンフォニア フンガリカ』のテーマは「ハンガリー」。『ローマ三部作』と同じく3つのセクションに分かれており、ハンガリーの建国に貢献した3人の王「アッティラ」(第1楽章)「アールバード」(第2楽章)「イシュトヴァーン」(第3楽章)を描いています。日本人にとって親しみやすいのは、世界史の教科書にも登場する北アジアの遊牧騎馬民族「フン族」の王アッティラ(406?-453)を描いた第1楽章でしょう。容赦なく敵をなぎ倒すアッティラの姿が、臨場感たっぷりに描かれています。

獰猛なフン族



●聴き比べポイント2 ~ 編成
片や「フルオーケストラ」、片や「フル吹奏楽」の圧倒的迫力!

『ローマ三部作』は、オーケストラ作品。『シンフォニア フンガリカ』は、吹奏楽作品。「大編成」かつ「豪華絢爛なスペクタクル・サウンド」。よく似た方向性でありながら、音の特徴はまったく異なります。最初の1曲だけでも、その違いははっきりと感じられます。

たとえば、『ローマの祭』第1曲の「チルチェンセス」。祭の開始を告げる冒頭のトランペット(0:07~)と、地獄の釜が開くようなタムタム(銅鑼)の音(0:07~、0:20~ほか)、ごうごうと不穏な音を強めていくティンパニ(0:49~1:24)…猛獣や観客の残虐さを象徴するギラギラした音色は金管楽器と打楽器が担い、木管楽器と弦楽器は、迫害されるキリスト教徒の祈りを静かに切々と奏でます(1:51~)。このコントラストが、サウンドと世界観に奥行きをもたらしています。ダイナミックレンジが広く、各パートの分離がはっきりした見事な録音で、カオス状態を描きつつもリアな聴感を実現しています。

金属製の大型の銅鑼「タムタム」



対する『シンフォニア フンガリカ』第1楽章の『アッティラ!』は、楽器の役割がより細分化されており、現代らしい立体感のある作品に仕上がっています。まず驚かされるのが、冒頭3秒から約1分半にわたって続く、打楽器のみのイントロダクション。フン族の足音が草原の彼方から徐々に眼前に迫ってくるかのようです。続いて、トロンボーンが凛々しいテーマを吹き鳴らし(1:45~)、他の管楽器もそれに連なります。そして楽団員の野太い雄叫び(!)とともに、ふたたび打楽器勢の足音が響き渡ります(3:41~)。終盤、死者を悼むレクイエムのように静かに歌うのは、ソプラノサックスのソロ(11:38~)。最後はすべての楽器が暴れ回る大団円で幕を閉じます。「14分間の衝撃の戦闘シーン!」──そんなキャッチコピーを付けたくなるエンターテイメント作品です。

多彩な打楽器も目を惹く「シンフォニア フンガリカ」演奏風景



●聴き比べポイント3 ~ 演奏のあり方
片や「定番曲をどう演奏するか」、片や「演奏機会の少ない作品をどう演奏するか」

『ローマ三部作』は、1910~20年代に初演され、それ以来多くの一流指揮者やオーケストラによって演奏されてきた名曲中の名曲。『シンフォニア フンガリカ』は、2001年に作曲者本人の手によって初演された、まだ演奏機会の少ない作品。両作品の演奏歴の違いは、演奏のあり方の違いとして現れています。

『ローマ三部作』は、ニューヨークを拠点にしたオーケストラ、バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。指揮は、同団の音楽監督であるジョアン・ファレッタがつとめています。

アメリカの近現代作品を得意としているファレッタ。つい先ごろ発表された2019年(第61回)グラミー賞では、ファレッタ指揮のアルバムが「ベスト・クラシカル・コンペンディアム賞」の受賞を果たしています。




『Fuchs: Piano Concerto "Spiritualist"』
JoAnn Falletta



その他のファレッタ指揮のアルバムはこちら⇒


ファレッタの指揮棒さばきは、近現代の音楽=難解というイメージをくつがえす、明快でスピード感にあふれたもの。その持ち味は、この『ローマ三部作』の演奏でも存分に発揮されています。ともすると「うるさいだけ」になりがちな作品を、よどみのないクリアな響きに仕上げています。レコーディングは、グラミー賞受賞アルバム「フックス:ピアノ協奏曲「スピリチュアリスト」」のプロデューサーでもあるティム・ハンドリー。ファレッタの演奏スタイルの魅力を引き出す録音に、海外からは「驚異的な功績」という絶賛の声が上がっています。

対する『シンフォニア フンガリカ』は、愛知県のプロ吹奏楽団「マスターズ・ブラス・ナゴヤ」と、指揮者鈴木竜哉による演奏です。

ヤン・ヴァンデルローストは日本でも人気が高い吹奏楽作曲家のひとりですが、実は『シンフォニア フンガリカ』の演奏機会はあまり多くありません。というのも、日本の吹奏楽コンクールには「2曲12分以内」という時間制限があり、12分を超過するこの作品をフルで演奏することができないからです。だからこそ、日本人の指揮者と楽団がこの大作を演奏することには大きな意義がある──と、作曲家の鈴木英史氏は述べています(ブックレットP.6)。短い作品ばかりが好まれる日本の吹奏楽界の風潮をあらため、西洋音楽の歴史に根ざした大河的な作品に挑戦すべきだ。マスターズ・ブラス・ナゴヤは、そうした意志のもと、オール・ヴァンデルロースト・プログラムを敢行したのです。レコーディングは前作と同じく、名古屋芸術大学 長江和哉氏とサウンドメディア・コンポジションコース学生たちのチームが手がけています。演奏者と密なコミュニケーションを取っているからこその、聴き応えのあるライブ録音です。

満員の客席からの拍手に応える団員。客席には中高生の姿も多数みられた(2018年4月30日)








*マスターズ・ブラス・ナゴヤ 次回演奏会の情報はこちら

マスターズ・ブラス・ナゴヤ 第4回定期演奏会
「トラップ一家のその後」
2019年4月28日 15時~
愛知県芸術劇場 コンサートホール
演目:「サウンド・オブ・ミュージック(R.ロジャース)」「アルプス交響曲 Op.64(R.シュトラウス)」
コンサート情報⇒

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