昨年、オーケストラ作品「葉の調べ」(東京フィルハーモニー交響楽団)のネイティヴDSD11.2MHz音源をリリースした五木田岳彦の新作アルバム「ふくしま」がリリースされました。
福島県を元気にしたいという思いが込められた番組、NHK「ココに福ありfMAP」のテーマ曲「幸せの地図」をはじめ、福島県で放送されているNHK情報番組やニュースの音楽が収録されたアルバムです。全ての作品がDSD5.6Mhzミックス、及びDSDマスタリングで制作されています。

『五木田岳彦NHK作品集ふくしま』/五木田岳彦
今日はその作曲家で音楽プロデューサの五木田岳彦さんに、作品やレコーディング、そして番組や福島についての思いなどのお話をお伺いしました。
アルバムについて
――どのような作品が収録されているのですか?
五木田 NHK福島局が2018年より制作している新番組「ココに福ありfMAP」を始め、「はまなかあいづToday」、「ニュースふくしま845」と、福島県で放送されている情報番組やニュースのテーマ音楽、及び番組内の様々な作品が収録されています。
このアルバムのユニークなところは、テーマ曲、主要BGMだけでなく、番組内で流れる細かい素材的な作品も収録されていることです。
――細かい素材的な作品というのはシーンが変わる時に流れる、短い音楽ですね。
五木田 はい、普段はあまり気に止めない小さい作品ですね。
ピアノソロ曲として8秒で依頼された作品と、9秒で依頼された作品の細かい違いなど(最後の1音の有無)、作り手の立場で聴き比べてもらえたら面白いかなと思いました。
また、「ココに福ありfMAP」のテーマ曲として作曲した「幸せの地図」はフルバージョンだけでなく、少しアップテンポの元気バージョン、ゆったりしたテンポのエンディングバージョン、また口笛バージョン、ピアノソロ、ギターソロバージョンなども収録されています。楽器の違い、アレンジの違いで同じテーマ曲がどう違って聴こえるのか、その辺も楽しんでいただけたらと思います。
――収録されている作品のことや番組の内容について教えて下さい。
五木田 まずは「ココに福ありfMAP」。ほぼ毎月第2金曜日午後7時30分に福島NHK総合テレビで放送されている福島県限定のドキュメンタリー番組なのですが、度々全国区のNHK総合でも放送されています。
「豊かで美しくたくましい“福島の物語”発見の旅」というキャッチコピーの通り、福島の様々な魅力を発見して紹介していく番組です。
テーマ曲「幸せの地図」は番組のもつ「明るく美しくたくましい」思いを僕なりに音楽として表現した作品です。
この曲は先ほど申し上げたようにオープニングテーマ以外にも色々なバ?ジョンをあらゆる楽器でレコーディングしていて、それが番組随所で流れています。この曲を聴いた人がメロディーを覚えて口ずさんでくれたら、という思いもこめて作曲しました。
ちなみに、このアルバムのジャケットは、番組冒頭にテーマ音楽とともに映し出される福島の地図「エフマップ」です。
NHKここに福ありfMAP番組HP⇒
次に収録しているのは「はまなかあいづTODAY」という情報番組で、毎週月曜日~金曜日の午後6時10分~7時に福島NHK総合テレビで放送されています。
福島は「浜区」「中区」「会津区」の3つから成り立っていて、それぞれが少しずつ違った風土や習慣があることを、僕はこの番組の音楽を作る時に、初めて知り「はまなかあいづTODAYのテーマ曲」は、その3つの地区のエネルギーが集まる力強さ、前向きに元気に復興していく福島の姿、をイメージして作曲しました。
エンディング曲の他、情報やニュースを伝える際の背景音楽、気象情報も2種類作曲しているので、こちらも収録しました。そして、福島の美しい風景をイメージして作曲した「beautiful scape of f」など、映画音楽のような世界観で作った作品もあります。
このイラストは番組のオープニング映像で登場するイラストです。CDの裏ジャケットにもなっています。
NHKはまなかあいづToday番組HP⇒
3つめの番組は「ニュースふくしま845」という番組です。毎日午後8時45分(週末は午後6時45分)福島NHK総合テレビにて放送されています。
毎晩15分流れるニュースのテーマ音楽なので、時報的な要素も含んだ作品として仕上げてみました。時間帯が夜であることから、ゆったりとした速度とピアノの音色で優しさを含んだテーマ曲になるように意識しています。
――使用楽器やレコーディングについて教えてください。
五木田 多くの作品はピアノを中心にベース、ドラムス、オーボエ、ギター、ヴィオリンで書かれています。また作品によってはボーカル、口笛などが登場します。
アコースティックな楽器だけでなく効果音的な要素としてデジタル機材の音も使っているのですが、それらは全てSSLのアナログミキサーやDangerous Music製アナログサミングミキサーなどを通しています。デジタル機材の持つ平べったいサウンド感に立体感を持たせるためです。
――音の個性を際立たせるのですね。
五木田 はい、同じソフトベースの音源をいくつか使用する場合は、出来るだけそれぞれの音に個性を持たせて録音するようにしています。
ピアノはSteinway & Sons製フルコンサートグランドピアノを使用しています。奥深い響きと明るいトーンを魅力的にするためのマイクセッティングや使用するヘッドアンプのバランスなどを微調整しながら録音しています。
ベースはウッドベースを使っているので、アコースティックの音の暖かさと
倍音の響きを漏れなくレコーディングしたいと思いました。音質としてはしっとりとしていて存在感のあるサウンドを目指しました。
旋律楽器としていくつかの曲でメインになったのはオーボエでした。福島の自然豊かな風景をイメージしていたら、オーボエの響きが頭に聴こえてきたので、選びました。音質的には、あまり固くなくそれでいて艶のあるサウンドとしてレコーディングできればと思いました。
口笛は高域の音を魅力的なサウンドに仕上げられるように、マイクや録り方もいろいろと試してみました。この口笛バージョンははまなかあいづTodayの番組内で週一に放送されている「エフマップコーナー」でもよく流れています。「エフマップコーナー」は「はまなかあいづToday」の番組HPでも随時最新回が公開されていますので、そちらの映像内で聴くことが出来るかもしれません。
ちなみに口笛はLapis Lazuliが吹いています。
――ラピスラズリさんはe-onkyo musicではおなじみの女性アーティストですね。
五木田 はい。普段はボーカリストとして多くの作品をリリースしているのですが、口笛が得意なことを知りお願いしました。高音が美しい歌い手ですが、口笛もかなり高い音で奏でられるのに驚きました。
――このアルバムをリリースするにあたって、どのようなことを思いましたか?
五木田 災害が起きた場所のことは、時間が経つと人の記憶から離れていってしまいがちです。
福島でこんな番組があり音楽が流れているんだと知っていただくことで…いや、このジャケットの「ふくしま」という文字を見ていただくだけでも、それが皆さんが福島のことを思い起こすきっかけになってくれたらいいなと思います。
最後に、「ココに福ありfMAP」の番組では、登場した人たちが似顔絵となって
紹介されているのですが、今回その似顔絵やイラスト、文字を書いている金井真紀さんに、このアルバムのためにタイトルの題字と、なんと僕の似顔絵を書いていただきました。CDブックレットの裏表紙なのですが、その絵がこちらです。(笑)
――視聴者の方々に一言お願いします。
五木田 福島県に行けば必ず聴ける、福島県で毎日流れている音楽です。ちょっと変わったアルバムかも知れませんが、是非聴いてみていただけたら嬉しいです。
――本日はありがとうございました。
作曲家・五木田岳彦 プロフィール
アメリカのハーバード大学大学院作曲科を優待奨学生 (全授業料免除)として卒業、博士号取得。ハーバード大学で教鞭をとる。作曲をバーナード・ランズ、マ リオ・ダビドブスキー、アール・キムに師事。ピアノを長峰和子、指揮をマイケル・プラットに師事。数多くの作品がカーネギー・ホール、ボストン・シンフォ ニー・ホール、リンカーン・センター、アスペン音楽祭、イースタン音楽祭など全米各地で初演される。ボストン公共ラジオ局のクラシック音楽番組に作曲家と して出演多数。多くの作品がニューヨーク・タイムズ紙やボストン・グローブ紙などで高く評価される。
東京フィルハーモニー交響楽団、読売 日本交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、アメリカのプロ・アルテ室内管弦楽団などのオーケストラや室内楽団が作品を演奏。またウォルト・ディズ ニー、映画音楽、ミュージカル、ダンスパフォーマンスの作曲など、アメリカと日本を拠点にジャンルを超えて活動。
ボストンにて行われた皇太子御成婚の祝賀コンサートで作品が演奏され、その模様がNHKニュース7で放送される。
日 本では、NHK「クローズアップ現代」、「時論公論」「NEWSLINE」、NHKスペシャル「映像の戦後60年」、「赤い翼」他、多くのNHK番組の音 楽や「デジタルモンスター」、「妖怪人間ベム」等のアニメの音楽を作曲。音楽を担当したNHKスペシャル「激流中国」は、イタリア賞をはじめ世界各国のメ ジャー国際コンクールで最優秀賞を受賞。 NHK音楽集「地空風人」(キングレコード)、現代フルート曲集「Incantation」(VAI)をはじめ、多くのCD、DVDがメジャーレーベル各 社より発売。
また、立体音響作品「森の詩」、東京フィルハーモニー交響楽団委託作品「葉の調べ The Sonority of Leaves」など、自社レーベルからのリリースも精力的に行っている。
五木田岳彦 オフィシャルサイト
TimeArt Entertainment オフィシャルサイト
Producer, Recording, Mixing and Mastering Engineer:五木田岳彦
Recording Studio: Studio 56
Piano: Steinway & Sons D-274 Full Concert Grand Piano
主要使用機材: Neumann M-147 Tube, Neumann M-149 Tube (Stereo), B&K 4003 (Stereo), Old Neve 1081, Old Neve 33122(Stereo), Studer 169, Avalon Design VT-737SP (Stereo), TC Electronic System 6000, Tascam DA-3000、B&W Matrix 801 series 3, 他
プロデューサー: 五木田岳彦
ピアノ & コンピュータ・プログラミング : 五木田岳彦
ギター : 山田豪、 五木田岳彦(M8、M14)
オーボエ : 山田早織
ベース : 齋藤順
ドラムス:ブラッキー黒田
ヴァイオリン : 南條由起
ボーカル&口笛 : Lapis Lazuli
レコーディングスタジオ : studio56
レコーディング & ミキシング エンジニア : 五木田岳彦
マスタリング エンジニア : 五木田岳彦
イラスト : (株)リバティアニメーションスタジオ
似顔絵 & 題字 : 金井真紀
◆五木田岳彦関連作品