連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第62回

2018/11/02
『音楽境地 ~奇跡のJAZZ FUSION NIGHT~ Vol.2』 村上“ポンタ”秀一
~限りなくライブそのままのハイレゾ音源! ~
■ライブ会場で鳴っていた、そのままのハイレゾ音源

ライブ盤はオーディオ再生の醍醐味。上手く再現できれば、コンサート会場そのままを自宅に再現することができます。とはいえ、やはり家で聴くライブ盤は、オーディオの域を超えることができません。家庭用オーディオシステムの能力や音量の限界はもちろんありますが、何より鳴らす音源そのものがライブ会場とは異なります。なぜなら、ライブ盤は制作される際に、一般家庭で鳴らしやすいよう、そしてイイ感じに聴こえるよう、再ミックスやマスタリングが施されるためです。

本日ご紹介するライブ盤ハイレゾ音源は、ちょっぴり珍しい制作手法でリリースされました。コンサート開催直後にハイレゾ音源を発売するという流れから、おそらく本格的なミックスやマスタリング作業は行う時間がなかったのではないか? ということは、コンサート会場のPAミックスそのまま、もしくはそれに近い音源が発売されたと推測できます。

一般的にPAミックスそのままの音源というのは、実は一長一短です。良い点は、コンサート会場そのままのサウンドが手に入るというところ。例えるなら、船の上でそのまま魚をさばいて刺し身で食べる感じ。一方で、マスタリングまでの入念な作り込みがされていない、大味な感じのサウンドになる懸念があります。

実際に本作を聴いてみると、荒っぽい音という第一印象。実は私、本作をパソコンでチラ聴きして、あまりに雑な音に感じ、放置してしまったのでした。私の友人からも、「ありゃPAミックスだね。買う気が失せた。」 といったメールが届いていました。

しかし、改めてメインシステムで試聴してみると、なんとそこにはコンサート会場が出現したではないですか! うん、コンサート直後のハイレゾ配信、イケますよ、これ。PAミックスの良さ、ハイレゾの良さが存分に発揮されており、生々しさを感じます。大音量で聴けば、まさに自宅がライブ会場。いや、ナメていました・・・スミマセン。

逆に、ノートパソコンなどの小さなスピーカーでリスニングすると、さっぱり良さがわからないかもしれません。私と同じように、サイトで試聴して見送っていた人がいるなら大変です。ハイレゾで聴いてこそ意味のあるライブ盤です。ぜひ、ガツンと鳴らしていただきたい!


■ 名プレーヤー達による、名曲の宝庫!

●『音楽境地 ~奇跡のJAZZ FUSION NIGHT~ Vol.2』
村上“ポンタ”秀一 >





ドラマー・村上“ポンタ“秀一のデビュー45周年を記念した中野サンプラザのコンサートを、ほぼそのままパッケージングしたハイレゾ音源です。ライブの出来次第で、配信できる曲が少なくなる可能性もあったらしいのですが、めでたく2枚組というボリュームに。

もちろんVo1.1も素晴らしいのですが、個人的にはバンドメンバーがノッてきた、後半戦のVo1.2がオススメです。
JAZZ FUSION NIGHTですので、昭和のフュージョン名曲が盛りだくさん。楽器を演奏する方なら、コピーした曲が見つかるのでは? 私も「BLUE LAGOON」、「SEA LINE」、「OSHI-TAO-SHITAI」あたりをアマチュアバンドでコピーしていましたね~。


■ オススメの2曲はこれだ!

私が角松敏生氏のファンということもあり、Vol.2の角松セッションの中から、本作のオススメ2曲をご紹介しましょう。

2曲目の「RAMP IN」は、角松氏がポンタさんにスネアドラムを指定するので有名な曲。他の曲でズバッと鳴っているスネアが、「RAMP IN」ではボズッというか、深くどっしりとしたサウンドのスネアドラムに変更されているのが、音として確認できると思います。本作で唯一のボーカル曲である「RAMP IN」。ポンタさんの歌うドラムが満喫できるのはもちろん、ハイハットの強いアクセントでドラマチックに盛り上げていく様が、まさに会場にいるようにスピーカーとスピーカーの間に広がっていきます。トランペットのソロも素晴らしい。長く「RAMP IN」を聴いていますが、このパフォーマンスがナンバーワンかも? 別れを決意したCAさんの恋の行方やいかに!

3曲目の「OSHI-TAO-SHITAI」は、もともとは角松バンドのドラム用オーディション曲だったので、リズムのキメがこれでもかと出てきます。最近リメイクされた「OSHI-TAO-SHITAI」を聴くと、個人的には不完全燃焼。そして本作を聴いて確信しました。私の中の「OSHI-TAO-SHITAI」は、ドラムはやはりポンタさんでなければいけないのだと。1987年よりは稲妻感が少し落ち着いたグルーヴなれど、ポンタ節ともいえるフィルインが多く散りばめられています。大音量で聴けば、コンサート会場の再現間違いなしの1曲です。


■ 主役を輝かせる、日本語グルーヴのドラムを堪能する

ドラマーのアルバムとはいえ、長尺のソロや超ハイスピードリズムといったド派手なプレイはありません。ですが、感じていただきたいのは、歌やギター、サックスといった主役たちが、なんとも気持ち良さそうに歌っているところ。これこそがポンタさんドラムの真髄。看板が輝くリズムを叩き出すドラマーが、ポンタさんなのです。

「I Love You」ではなく「愛してる」という日本語のグルーヴ・・・といったら伝わりますでしょうか。日本語ドラムに初めて出会ったのが、ポンタさんのドラムでした。当時、ドラムを叩いていた私は、すぐにポンタさんスティックを買いに行ったっけ。

PAミックスに近いハイレゾ音源は、マスタリング済み音源のような過保護感がなく、ぶっきらぼうで素っ気なく感じるかもしれません。ですが、コンサート会場と同じ音源なのですから、上手く鳴らせば “コンサートを自宅でそのまま味わう” というオーディオの夢が叶う可能性大。その底力が、本作には十分に隠されているというワケです。ぜひ挑戦してみてください。

ポンタさんデビュー45周年コンサートは、第2段としてボーカルシリーズが予定されています。こちらもまた、ハイレゾ音源でのリリースを期待したいところです!




当連載に関するご意見、これを取り上げて欲しい!などご要望は、こちらにお寄せください。
※“問い合わせの種類”から“その他”を選んで送信お願いします。



【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
<第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~
<第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~
<第22回>『19 -Road to AMAZING WORLD-』 EXILE ~1dBを奥行再現に割いたマスタリングの成果~
<第23回>『マブイウタ』 宮良牧子 ~音楽の神様が微笑んだ、ミックスマスターそのものを聴く~
<第24回>『Nothin' but the Bass』櫻井哲夫 ~低音好き必聴!最小楽器編成が生む究極のリアル・ハイレゾ~
<第25回>『はじめてのやのあきこ』矢野顕子 ~名匠・吉野金次氏によるピアノ弾き語り一発録りをハイレゾで聴く!~
<第26回>『リスト/反田恭平』、『We Get Requests』ほか、一挙5タイトル ~イイ音のハイレゾ音源が、今月は大漁ですよ!~
<第27回>『岩崎宏美、全53シングル ハイレゾ化』 ~ビクターの本気が、音となって届いたハイレゾ音源!~
<第28回>『A Twist Of Rit/Lee Ritenour』 ~これを超えるハイレゾがあったら教えてほしい、超高音質音源!~
<第29回>『ジム・ホール・イン・ベルリン』、『Return To Chicago』ほか、一挙5タイトル ~多ジャンルから太鼓判続出の豊作月なんです!~
<第30回>『Munity』、『JIMBO DE JIMBO 80's』 神保彰 ~喜びと楽しさに満ちたLA生まれのハイレゾ・サウンド!~
<第31回>『SPARK』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~ハイレゾで記録されるべき、3人の超人が奏でるメロディー~
<第32回>『究極のオーディオチェックCD2016~ハイレゾバージョン~』 Stereo ~付録CD用音源と侮れない、本物のハイレゾ!~
<第33回>『パンドラの小箱』ほか、岩崎宏美アルバム全22作品ハイレゾ化(前編) ~史上初?! アナログマスターテープ vs ハイレゾをネット動画で比較試聴!~
<第34回>『パンドラの小箱』ほか、岩崎宏美アルバム全22作品ハイレゾ化(後編) ~アナログマスターテープの良いところ、ハイレゾの良いところ~
<第35回>『エラ・フィッツジェラルドに捧ぐ』 ジェーン・モンハイト ~オーディオ好き御用達の歌姫は、やっぱりハイレゾでも凄かった!~
<第36回>『Queen』ハイレゾ×5作品 ~ 超高音質CD盤をはるかに超えるサウンド!~
<第37回> CASIOPEAハイレゾ × 一挙18作品 (前編) ~ ハイレゾ界を変える?超高音質音源襲来!~
<第38回> CASIOPEAハイレゾ × 一挙18作品 (後編) ~ ハイレゾ界を変える?超高音質音源襲来!~
<第39回> Earth, Wind & Fireのハイレゾはグルーヴの宝箱 ~ 祝・ソニーミュージック カタログ配信スタート!~
<第40回> 日本の宝、あの名盤『FLAPPER』がハイレゾで聴ける日 ~ 祝・ソニーミュージック カタログ配信スタート! その2 ~
<第41回> オーディオ大定番音源の進化は、音の色温度に注目 ~ デジタルでも、あったかいサウンドは可能だった! ~
<第42回> 強い音楽エネルギーこそ、ハイレゾの魅力 ~ 骨太サウンド音源はこれだ! ~
<第43回> 桁違いの制作費から生まれた超豪華名盤が、ハイレゾで更に輝きを増す。 ~ 小室サウンドのハイレゾ決定版! ~
<第45回>神保彰氏の新作ハイレゾ × 2作品は、異なる海外マスタリングに注目!~ 公開取材イベントのご報告 ~
<第46回>生々しいピアノを聴くならこれだ! ~ 大御所スティーヴ・ガッド & ウィル・リーの名サポートも必聴 ~
<第47回>一糸乱れぬグルーヴを聴くならこれだ! ~ 名匠アンソニー・ジャクソン氏のベースを、歴史的名盤で ~
<第48回>DSDを聴くならこれだ! ~ ECMレーベルのDSDシリーズは一味違う。 ~
<第49回>ライブ盤を聴くならこれだ!~ 凄腕ミュージシャンとの一発録音で蘇る、あの名曲たち。 ~
<第50回>マイケル聴くなら、これだ!~ 圧倒的なグルーヴ、疾走感、そして驚くほど広大なサウンドステージ。
<第51回>ハイレゾとCD規格を比較するなら、これだ!~ ダイレクト2ch同時録音が生んだ、世界に誇れるハイレゾ音源
<第52回>ピアノのライブを聴くなら、これだ!~ 強烈なグルーブと音楽エネルギーで、目の前にピアノが出現する ~/a>
<第53回>
『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』~ 試聴テストに最適なハイレゾ音源は、これだ! ~
<番外編>『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』を、イベントで実際に聴いてみた!
<第54回>最新ロサンゼルス録音ハイレゾを聴くなら、これだ! ~『22 South Bound』『23 West Bound』~
<第55回>『Franck, Poulenc & Strohl: Cello Sonatas』Edgar Moreau~ エドガー・モローのチェロに酔うなら、これだ! ~
<第56回>『大村憲司 ~ ヴェリィ・ベスト・ライヴ・トラックス』大村憲司~ ライブの熱気と迫力を聴くなら、これだ! ~
<第57回>『ドリームス』シーネ・エイ~ 部屋の照明を落として聴きたい、ハイレゾ女性ボーカルはこれだ! ~
<第58回>『今ここにあるべき百戦錬磨~7人~』NOBU CAINE~日本最強の重厚グルーヴを聴くなら、これだ! ~
<第59回>『Laidback2018』、『Call me』~ OTOTEN 2018で、女性ボーカルお二人とトークイベント! ~
<第60回>『Laidback2018』、『Call me』~ OTOTEN 2018トークイベントは満員御礼! ~ たくさんのご来場、ありがとうございました!
<第61回>『B'Ridge』B'Ridge~佐山雅弘氏のピアノと、新リズム隊の強烈グルーヴ!


筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず) 3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。

 | 

 |   |