連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第14回

2014/09/12
数あるハイレゾ音源から、選りすぐりをご紹介していく当連載。第14回はレーベル縛りでアイテムをセレクト。ピアノ・トリオ作品の名作『TRINACRIA』のヒットでも知られるイタリアのジャズ・レーベル「ALFA MUSIC」の作品群より珠玉のアイテムをご紹介します。
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
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ALFA MUSICレーベル
~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~




■ 音楽制作側に物申す

このレビュー連載を書くため、たくさんのハイレゾ音源を聴くようにしています。ニューリリース作品ならば、半分くらいは購入しているのではないでしょうか。多量のハイレゾ音源をチェックしていると、単品で聴いているのとは違った傾向に気付くものです。音の良い共通項をリサーチすると、あるレーベル名ばかりが目に飛び込んできました。今回はレーベルまるごと太鼓判です。

太鼓判レーベルをご紹介する前に、このところ日本のハイレゾ作品に共通して感じていることについて書かせてください。いつもは、「ハイレゾ音源の魅力を引き出すために、音楽を立体再現できるスピーカーセッティングやオーディオ再生の技術を磨きましょう!」と、聴く側へエールを送っています。今回は制作側への喚起です。

ハイレゾ音源の制作側コメント記事で、「ハイレゾで、アーティストの意図をそのままお届けできるようになった。」という趣旨のものを多く見かけます。この音が作り手側の意図そのままというならば、「それでは志が低すぎる!」と私は言いたい。もちろん全ての日本制作ハイレゾ音源がダメだと言っているのではありません。ですが、70%から80%の新作ハイレゾ作品に、共通した完成度の低さを感じます。マスター作りからCD規格の枠を超えていない音楽は、ハイレゾ音源になっても聴き手側に届く感動はCD盤とそんなに変わらないのです。例えるならば、140インチに投影できるプロジェクターとスクリーンがあるのに、その大スクリーンに42インチくらいで映画を映し喜んでいるようなもの。作り手側の段階で音楽の枠を小さく設定してしまっては、聴く側はその大きさでしか聴くことができません。音楽という大樹を盆栽にしないでください。

最近のハイレゾ作品を聴いていると、自分の機材が不調なのではと疑うくらい、平面的で加工された音が鳴り出すので驚いてしまいます。日本のエンジニアだけでなく、アメリカでミックスやマスタリングを行っているからといって安心できません。音楽を聴いていて制作エンジニアの作為が見えるようでは、音楽と感動の間にフィルターがかかってしまいます。制作側にとって、聴き手側はお客様です。「どうせ手を抜いても分からないだろう」と、聴き手を甘く見ないでいただきたい。制作側は、音楽の記憶を未来に託すという重要な使命があります。今現在の「CDが売れないから・・・」という嘆きを、音楽に乗せないでほしいのです。そして、音楽が立体であることを思い出してください。音は上下左右にだけ広がるのではなく、前後を含め立体的に広がり伝わっていくのです。音楽が平面だという思い込みを捨てられたとき、音楽という木々の葉が自分の枠を超えて頭上に大きく広がっていきます。その音楽の大樹を記憶するのが、ハイレゾ規格の役割ではないでしょうか。



■ イタリアのレーベル“ALFA MUSIC”は、音楽の楽しさを思い出させてくれる。

多量のハイレゾ音源をチェックしていると、「おっ!これは!」というゴキゲンなサウンドに出会います。この興奮があるからこそ、音楽の宝探しは止められません。そして気付くのです。その音の良さに、ある共通項があるということを。それがイタリアのレーベル“ALFA MUSIC”でした。ALFA MUSICからは、毎月のように多量の新作ハイレゾ音源がリリースされているので、その音の良い共通項に既に気付いている方も多いことでしょう。

まるで好きなイタリアのファッション・ブランドを見つけたように、私はALFA MUSICのハイレゾ作品を全部買いしています。ALFA MUSICのハイレゾ音源は、どれも音が自然なのが最大の特長。人為的なエフェクトといった誇張は全く感じられず、そのままの音楽と向かい合える喜びがあります。目を閉じると、まるで目の前で演奏しているよう。心はイタリアへと旅立ちます。CD時代は好みのレーベルを買い漁ったものですが、ハイレゾ時代にもそれに値するレーベルが出現してくれたのは嬉しいことです。

録音やマスタリングで特定のエンジニアが鍵を音質の握っているのかと思いクレジットをチェックしてみると、結構バラバラです。私が見つけた共通項は、レーベルがALFA MUSICであるということだけ。キーパーソンはエンジニアでなく他に居るのかもしれませんが、とにかくハズレが無いのではと思えるほど、どれも高音質です。そういえば、数年前に買ったお気に入りの高音質なCDもイタリア制作。イタリアには、何か良い音へのプラス要因があるのかもしれないと妄想して楽しんでいます。

ALFA MUSIC作品のサウンドは、日本人が勝手イメージする陽気なイタリア人といったような音そのもの。小さなプライベートスタジオでコンピュータ相手に頭を抱えて音楽を作っているのではなく、「イエーイ!」と音楽を心から楽しんでいる様子が見えるようなサウンドです。


■ お薦めALFA MUSICハイレゾ作品

ほぼ全部が太鼓判ハイレゾ音源と言っても過言ではないので、e-onkyoの試聴システムを活用し、音楽的に好みのALFA MUSIC作品を選んでいただければと思います。ここでは、私が好んでよく聴いている作品をいくつかご紹介しましょう。


『INFANT SPEECH』(96kHz/24bit)
/U-Man Trio

私はピアノトリオが好きで、どちらかというとワイルド系よりもジェントル系をよく聴きます。U-Man Trioは女性ピアニストだからなのか、繊細なサウンドが気に入っています。お酒を飲みながらのBGMに静かに流すのもよし、ハイレゾ音源のシステム・チェック音源として大音量で真剣に聴くもよし。ALFA MUSICハイレゾ音源の入門としてお薦めできる作品です。


『TRINACRIA』 (96kHz/24bit)
/ANDREA BENEVENTANO Trio

ALFA MUSIC作品で一番売れているハイレゾ音源はコレでしょう。私も『TRINACRIA』がランキングの上位を独占している時期にALFA MUSICを知りました。ジャズ好きの皆さんのアンテナの高さには脱帽です。ピアノは美しく響き、ドラムのシンバルは切れ味抜群、ベースは深く大地を揺るがします。ピアノトリオの理想的なサウンドと言えるでしょう。


『SILENTIUM』 (96kHz/24bit)
/FRANCESCO NEGRO Trio

ピアノトリオをもう1枚。オーディオ的チェックなら、この『SILENTIUM』をお薦めします。3曲目、7曲目の冒頭で鳴るウッドベースの響きは、低音好きにはヨダレものでしょう。4曲目、10曲目のパーカッシブなイントロは、音の粒立ちや立ち上がりが素晴らしい。ピアノの実物大を彷彿させるサウンドも、CD規格では到底収まりきらなかったものです。42型ではなく140型の大画面で映画を楽しむように、ハイレゾ音源を聴いてほしいと思います。


『FIDUS BAND』 (96kHz/24bit)
/FIDUS BAND

最近リリースされた作品の中では、『FIDUS BAND』がお薦め。ジャズというよりフュージョン作品ですが、演奏が上手いのはもちろん、各楽器のサウンドが明瞭に捉えられているサウンドが素晴らしいです。図太いテナーサックスが楽しめますし、ベースの超絶テクニックも圧巻。位相再現の良さが、立体的に音楽を出現させてくれます。70年代のアナログ録音フュージョン作品の面影もありながら、最新デジタル録音の高解像度を感じる、まさにレコーディングの正当進化系と言えるサウンドです。コンピュータを使った録音で音楽が細くなったと言われますが、本作はProtoolsレコーディング。要は、やり方次第ということでしょう。日本のフュージョン作品、いやアメリカ作品も含め、こんな音で好きなアーティストの新作を楽しめたら最高だと思いませんか、皆さん!


■ダウンロードでの音楽販売

ダウンロード販売のおかげで、こうしたイタリアの作品がボーダーレスで入手できるのは素晴らしいことです。出会えなかった音楽が、インターネットの世界に広がっています。私はCDやレコードのように形として入手できる音楽を応援しています。とはいえ、ダウンロード販売の恩恵も音楽好きとして見逃せません。自分で決めつけず、上手く活用していきたいと思っています。

今回はCD盤との比較試聴はありませんが、比較しなくとも十分に理解できるのがALFA MUSICのハイレゾ音源です。初のレーベルまるごと太鼓判ですので、ぜひ自由に選んで聴いてみてください。


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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。

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