コモドアーズ『マシン・ガン』
バラードとは違うライオネル・リッチーの姿を確認できる、グルーヴ感満点のファンク・アルバム
1996年にライオネル・リッチーが『Louder Than Words』というアルバムを出したとき、インタビューするためニューヨークまで会いに行きました。いまはどうだか知らないけれど、当時はまだ、ライターにそういう機会が与えられていたんですよね。
いまは亡きマーキュリー・レコードのエントランスでぶらぶらしてたら、当時ノリにノッてたラッパーのDMXがちっちゃい子どもを連れて現れたりして、いかにもニューヨークだなあと感じたのはいい思い出。
夜に勢いでマンハッタンののぞき部屋に入ったら、ハードコアなルックスと体型のおねえちゃんが「チップ弾んだらおっぱい見せてやるで」とか凄んできたんだけど、「けっこうです」と思いながら小窓をそっと閉めたのもいい思い出。
あ、予想外に話がそれた(そらしたくせに)。
ちなみに『Louder Than Words』は、ライオネルのキャリアのなかでは地味な部類のアルバムで、評価もそれほど高くはありません。わかりやすくいえば、彼のキャリアを決定づけたバラード路線を踏襲したものなのです。
いま改めて聴きなおすと、なかなかよくできた作品だなぁとも感じるんですけどね。
ただ僕にとってライオネルといったら、やはりコモドアーズ時代、しかもゴリゴリのファンクをやっていた初期ということになります。特に外せないのは、1974年のファースト・アルバム『Machine Gun』。
大ヒットしたタイトル曲はインストゥルメンタルのファンクですが、そのねちっこいグルーヴは、当時小学6年生だった僕の感性を強烈に刺激したのでした。前回も話題に出た一歳年上の従兄弟、Kくんと「“Machine Gun”かっこいいよねー」と盛り上がっていたことをはっきり覚えています。
同じく印象的だったのが、やはりシングル・カットされた“The Bump”。バンプというのは男女がお尻をぶつけあって踊るダンスのことだったので、小学生にはやや刺激的。でも曲調は文句なしにかっこよく、強烈にハマるのも当然だったわけです。
なお、この原稿を書くにあたって、ひとつ気づいたことがあります。コモドアーズのファンクって、意外にハイレゾとの親和性が高いということ。各楽器の位置関係がより明確になり、立体感も際立って聞こえるのです。
大きな音の塊が、ぐいぐいと迫ってくるような感じ。
あ、大きな音で思い出しましたが、ジャケットに写るライオネルのアフロヘアの大きさも時代を表してますよね。
いずれにしても、それほどの衝撃を与えてくれたからこそ、インタビューにはこのアルバムのLPジャケットを持参したのでした。「本当に影響を受けたんです」ってジャケを見せながら伝えたくて。
でもね、ここから22年を経た1996年のライオネルにとって、これはもはや過去の作品だったみたいです。
「たしかにこのアルバムでやっていたことは、当時の最先端だった。でも、いま僕はラスベガスでショウができる立場にいるんだ。いまの自分にとっては、そちらのほうが重要なんだよ」
たしかにそれは、アメリカ南部の田舎町で人種差別を受けてきた彼の本音なのでしょう。「あんな状態から、ここまで来られたんだ」というような。
でも個人的には、だからといって初期コモドアーズ時代の創造性も同じように認めてほしいなあと感じずにはいられなかったのでした。
そういえば、こんなことも言ってましたよ。
「それにさ、ここに写ってるアフロヘアの男は僕じゃないんだ。これ、叔父なんだよねー(爆笑)」
全然おもしろくもなんともない冗談ですが、つまりはアフロヘアの自分を気恥ずかしく感じたのでしょう。
なお、その晩、ホテルに戻ってテレビをつけたところ、「70’s Pop Hits」みたいなCDセットのCMが流れはじめたのです。ぼーっと見ていたらアフロヘアで踊りまくるライオネルの映像が登場したので、ひとりで大爆笑してしまいました。
◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」

『Machine Gun』/ コモドアーズ

『Louder Than Words』/ Lionel Richie
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印南敦史 プロフィール
印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。
ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」