UNAMASレーベルの新作はトランペットとベースのデュオによるコルトレーン集『Dear J.C. 〜Dedicate to John Coltrane〜』

2018/03/14
クラシックやジャズを中心とした数々のアルバムのほか、サラウンドでフィールド録音された自然音とさまざまな楽器演奏を組み合わせた「サラウンド・スケープ」など、独自のアプローチで多彩な音楽を発信し続け、いまや世界の音楽ファン、オーディオ・マニアを唸らせているUNAMASレーベル。そのラインアップに、またしても興味深いタイトル『Dear J.C. 〜Dedicate to John Coltrane〜』が加わりました。今回はなんと、トランペットとベースのデュオによるコルトレーンのバラード。基本的には単音楽器である両者のアンサンブルから、どんな音楽が生まれたのでしょうか。その様子を、レコーディング時の写真とともに綴ります(文中敬称略)。

取材・文・撮影◎山本 昇


『Dear J.C.(Dedicate to JohnColtrane)』 / Tomonao Hara, Hiroshi Ikejiri



■リスキーなアルバム・コンセプトへの挑戦

 本作『Dear J.C. 〜Dedicate to John Coltrane〜』のレコーディングは、2017年の8月21と22日、東京・目黒のモウリ・アートワーク・スタジオで行われた。登場人物はトランペッターの原朋直とベーシストの池尻洋史の二人。この大胆な編成での録音を提案したのは、UNAMASレーベルの主宰者であり、本作のプロデューサー/エンジニアのミック沢口だ。原朋直グループのアルバム『Time In Delight』の録音時に、原がライヴでコルトレーンをやっていると聞き、「トランペットでコルトレーンの世界をどう表現しているのか。とても面白いと思った」という沢口。その場で、「じゃあ、今度はそのコルトレーンを、コントラ・バスとのデュオでやってみませんか」と伝えたという。

「デュオは双方の力量がモロに出るから、やるほうも大変なのですが、原さんも面白がって引き受けてくれたのはありがたかった」(沢口)

 それにしても、最小限のアンサンブルと言われるデュオ編成の相手にコントラ・バスを選ぶというのも実にチャレンジングな話だ。奏法によっては2音以上を奏でることもできるコントラ・バスは、基本的にはトランペットと同じく単音楽器であるし、全体的な音域のバランスがどうなるのかも、ちょっと想像がつかない。

 しかし、スタジオのモニター(GENEREC 8050A)から流れてくる音を聴くと、そんな疑問は一瞬のうちに吹き飛んだ。原が指名した池尻による正確さと大胆さを合わせ持ったベースに、自由で力強い原のトランペットが絶妙な絡みを見せ、聴くものを引き込み、圧倒していく。これで十分、コルトレーンの音楽として成立しており、足りないものは何もない。沢口プロデューサーの面目躍如もさることながら、この大胆な企画に応える演者の二人に心の中で拍手を送り、素晴らしいものを聴いた喜びに浸りつつスタジオをあとにした。

 そんなレコーディングから約半年が経ち、いよいよミックスも完成して迎えた本作『Dear J.C. 〜Dedicate to John Coltrane〜』のプレス発表の場で、ミック沢口は次のように語った。

「原さんと池尻さんには、かなりリスキーなコンセプトのアルバムに挑戦していただきました。本作はジョン・コルトレーンが自身のテナー・サックス演奏のために作曲した名曲を、トランペットとコントラ・バスだけで演奏するUNAMAS流のアルバムです」

 そして、原朋直はプレイヤーの立場から、本作に溢れる即興の醍醐味について、次のようにコメントする。

「ジャズは元々、インプロヴィゼーションつまり即興によって広がっていく種類の音楽です。絵画や建築なども創る瞬間に次の形を想像しながら広がっていくもので、芸術はすべて即興的な要素を含んでいると思いますが、通常は設計図や見通しを立てて、一つのモチーフがこういうふうに広がっていくであろうという予想のもとにクリエイトされていきます。即興芸術では、そうした設計図を持たずに行うところに面白さがあり、僕は特にそういうものを目指しています」

 例えば、「Moment’s Notice」や「Count Down」は、「どちらがソロをとるかも決めず、最初から二人でアドリブをやっている感じ」(原)なのだという。そして我々はこの編成に、意外なほど自由度の高さを感じることになる。

「デュオという編成は、それなりに音をたくさん出すこともできるし、抑えることもできます。意思の疎通が速いというメリットもあります。もちろんリスキーな部分もありますから、録音中はかなり緊張感がありましたね」(池尻)

「トランペットもオープンに加えて2つの異なるミュートも使用しています。コントラ・バスのアルコ演奏も組み合わせて、表現の幅を広げることができました」(沢口)

 録音に当たり、ベースの池尻は「コルトレーンの曲が持つ力強さに助けられ、またそれを楽しむことができた」と言う。コルトレーンの曲の強さとはどんなものなのだろう。

「ジャズ・ミュージシャンに取り上げられてきた曲はたくさんありますが、強さを持っている曲はどんなアレンジをされても常に鮮烈な印象を残します。コルトレーンはそんな曲を書く筆頭にいる人ですね。逆に言えば、だれがやっても彼の束縛を逃れることはできないんですよ(笑)」

 かなり自由にやり通したようにも感じるが、それでも演奏者にはコルトレーンの影が迫っていたというのも、これまた興味深いところだ。二人には、e-onkyo musicのリスナーへのメッセージも語ってもらおう。

「リアリティの追求は、芸術を巡るコンセプトの核となるものの一つです。自宅でハイレゾを聴いてもらえるのはすごくいいことだと思います。リスナーの皆さんにもいい音を追求してほしいし、そのためにこのアルバムを活用してもらえると嬉しいです(笑)」(原)

「非常にチャレンジングな内容ですので、リスナーの皆さんにもスリルを持って聴いていただけると思います。ぜひそこを楽しんでみてください」(池尻)

〈 自らのグループを率いるジャズ・トランペット奏者にして作曲家、教育者としての顔も持つ原朋直さん 〉

〈 原朋直グループに欠かせないベーシストであり、BUNGALOWでのバンド活動なども注目される池尻洋史さん 〉

■ジャズのエネルギー感を表現するセンター定位

 エンジニアリングのトピックについても見てみよう。今回のマイキングは、デジタル・マイクNEUMANN KM133Dのほか、NEUMANN U-47(トランペット)、SCHOEPS V4 U(同)、NEUMANN U-67(コントラ・バス)と、新世代のモデルとヴィンテージを組み合わせた形で行われている。

「UNAMASではこれまでに、ホール録音でデジタル・マイクのノウハウを積み上げてきましたが、スタジオで使うのは初めてでした。さらに、モウリ・アートワーク・スタジオの存在感のあるヴィンテージ・マイクとどのようにバランスするかは、私にとってのチャレンジでした。結果としてはお聴きのとおり、いいサウンドになったので良かったと思っています」(沢口)

 DAC(オーディオ・インターフェース)はRME MADIface XTを使用し、24bit/192kHzで録音された。また、BLUE MICROPHONES Bottle Rocket Stage Oneを入り口とした別系統で、同じくRMEのオーディオ・インターフェースADI-2 ProによるDSD 11.2MHz、さらに384kHz/768kHzといったサンプリング・レートでのPCM録音も同時に行われている(PCM 384kHz/768kHzの音源は、RMEの新モデル“ADI-2 DAC”にバンドルされる予定とのこと)。システムの詳細は下の図版を参照されたい。

〈 本作のレコーディングのシステム図[図版提供:シンタックス・ジャパン]〉

 そして、注目すべきは両者の定位である。

「デュオの録音というと、二人を左右に並べたイメージでやる場合も多いのですが、それだとパワー感が出ないと思ったので、今回は縦の配置としています。2chステレオでエネルギーがバッチリ出るようなセンター定位で表現してみました。言うなれば、昔のブルーノートのモノラル盤のイメージを、空気感も生かしながらハイレゾでやってみたという感じでしょうか」

 このどっしりと安定した定位感も本作の聴きどころの一つであり、まさしく、ファントム・センターだからこそ表現し得るステレオ音像の奥行き感と言えるだろう。

「僕はいつもリスクが高いものにチャレンジするのがいいと考えているほうですが、今回の“コルトレーンをトランペットでベースとデュオ”はさすがに難しいだろうなと思いました。でも、尊敬する沢口さんのチームとなら大丈夫だろうと」(原)

 そんなプレイヤーと制作スタッフの良好な関係も、本作を魅力あるものに仕上げた大きな要因だ。コントラ・バスとの異色の組み合わせといえば、昨年、北欧のジャズ・シーンでスタイナー・ラクネス(Cb)とサックス奏者トーレ・ブルンボルグのユニットが話題となり、国内ではコントラ・バス奏者の松永誠剛と宮古の歌手である與那城美和によるデュオがライヴでも人気を博した。コンセプトも録音方法も、型破りなアプローチで貫かれた『Dear J.C. 〜Dedicate to John Coltrane〜』も、音楽の新しい自由さを感じさせてくれる。最小限のアンサンブルから生まれた、この壮大なジャズ・スピリッツをぜひ体感してほしい。

モウリ・アートワーク・スタジオ2階の“Natural Room”で行われたレコーディング(2017年8月21日)。「二人が演奏しやすく、なおかつ音がいちばんきれいに出るポイントを探すため、いろいろな場所でテストをして決まったのがこの配置です。全体の音もきれいだし、それぞれの楽器の鳴りもいいんですよ」(ミック沢口さん)

センター定位で豊かな奥行き表現を狙った配置

原さん(トランペット)の前のマイク群

一番上のペアが二人の演奏全体を捉えたNEUMANN KM133Dで、アンビエンス・マイクを兼ねている

原さんのトランペット用。NEUMANN U-47(左)と、ミュート・トランペットによる「Equinox」「Syeeda’s Song Flute」で使用されたSCHOEPS(ショップス)のヴォーカル・マイクV4 U。「トランペットのミュート音は高調波も多くレコーディングが難しいのですが、V4 Uは物の見事に捉えてくれました。オープンで吹いている曲との違いもぜひ聴いていただければと思います」(沢口さん)

真ん中のBLUE MICROPHONES Bottle Rocket Stage Oneのペアは、DSD 11.2MHzなどの別系統での録音で使用された

池尻さん(コントラ・バス)のマイキング。2本のNEUMANN U-67とデジタル・マイクKM133D(奥)という組み合わせ

スタジオ・フロア内に設置されたRMEのMicstasy(フルレンジ・プリアンプ/ADコンバーター〈上下〉)とDMC-842(デジタル・マイクロフォン・インターフェイス〈中央〉)

マイク・スタンドには防振用にジルコン砂バッグを敷いている

電源はELIIY POWERのバッテリー・ドライヴを録音フロアとコンソール・ルームで1台ずつ使用している

こちらは沢口さんはじめスタッフが待ち受けるコンソール・ルーム

沢口さんのDAW(Pyramix)に接続されたオーディオ・インターフェースはRME MADIface XT

同時に行われたDSD 11.2MHzやPCM 384kHz/768kHzでの録音で使用された別系統のシステム

この日のモニター・スピーカーはGENEREC 8050A


録音の合間のコンソール・ルームは和気藹々とした雰囲気。「ピリピリした空気の中では、いい音楽は録れません。コミュニケーションも円滑な楽しい2日間でした」と沢口さん

シンタックス・ジャパンのmEx - Loungeで行われたプレス発表にて





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