【作品解説】
TimeArt Entertainment代表として、e-onkyo musicでも定期的にプロデュース作品をリリースしている五木田岳彦ですが、今回は作曲家としての五木田の世界をお届けしたいと思います。現代音楽から、映像のためのサウンドトラックなど、様々な音楽を作曲していますが、その作品の中から、今回は「One Step, One World」という作品をリリースします。
この作品は、以前「NHK スペシャル 夫婦で挑んだ白夜の大岸壁」のテーマ曲として作曲したものです。番組は、第34回放送文化基金賞 テレビドキュメンタリー部門本賞受賞作品として、幾度も放送された作品です。
今回は、メインテーマの他にギターとピアノそれぞれのバージョンをリリースします。
凍傷でほとんどの指を失った世界的な登山家、山野井泰史・妙子のクライマー夫妻が、北極圏・グリーンランドにある、高さ1300メートルの未踏の大岩壁に挑んだ模様を記録したドキュメンタリーです。
番組のDVDは発売されているのですが、こうして音楽のみをリリースするのは、今回が初めてとなります。このDSD配信のために、五木田自身がリミックス、リマスターした作品です。(レーベル資料より)
【制作手記】
初めて、この番組のサウンドトラックの依頼を受けた時には、登山ものだということでしたので、きっと「世界の偉大な山々」とか、「天空へ届け!大いなる頂」的な壮大な番組だと勝手に思い込み、豪華自然派大スペクタキュラー音楽作品を作る気でおりました。
ところが、実際に番組企画書やシノプスを読んでみると、そのような内容とはまったく違いました。自分たちの限界に挑み続ける山野井夫婦2人の姿や生き様を追っていく映像を見ながら、人間の幸せとは?人間の生きる目的とは?など人生の意味についていろいろなことを考えさせられる内容でした。登山家の極限の挑戦と、その基礎にある普段の生活や価値観、思想などにフォーカスされた人間ドラマ。絶体絶命の困難をも克服し、決して終わりなき挑戦へまっすぐに(垂直に)歩いて行く山野井夫婦の姿がテーマ音楽の核となりました。
作品の音楽的な様式ですが、まず上に7度ジャンプする音形から、スッテプワイズに下降するシンプルなメロディー、そのパターンが一定の感覚でゆったりと刻まれている分散和音上で繰り返されていきます。それはクライマーが自分の頭上の岩肌に手を伸ばし、次のステップを探し当てながら、一歩一歩登っていく姿からきています。そのシンプルなメロディーはやがて織り重なったハーモニーや2nd メロディーなどと共に豊かさを増し、深みのある音像へと変化していきます。
何事にもくじけず、諦めない不屈の精神で、人生を一歩ずつ前へ前へと、また立ちはだかる大岸壁の頂を目指して、少しずつ上へ上へと登っていく彼らの姿を、想像しながら聴いていただけたらと思います。
五木田岳彦
◆プロフィール
五木田岳彦 Takehiko Gokita, Ph.D. (作曲家、音楽プロデューサー、TimeArtEntertainment 代表)
ハーバード大学作曲科卒業、博士号取得。ハーバード大学にて作曲、音楽理論の教鞭を取る。多くの作品を全米各地で発表。ボストン・シンフォニーホール、ニューヨーク・リンカーン・センター、アスペン国際音楽祭などで初演された作品はニューヨーク?タイムズなどの音楽評論家に「想像的な耳」、「独創的な音楽」と評価を得る。作曲家としての活動と平行して、レコーディングの世界でも、様々な経歴を持つ。中でもボストン交響楽団やシカゴ交響楽団などの作品で多数のグラミー録音賞を受賞しているレコーディング・エンジニアのジョン・ニュートンとのプロジェクトでは、音楽プロデューサーとして作品制作に携わる。日本では、NHK「映像の戦後60年」、NHK「赤い翼シルクロードシリーズ」他、数多くのNHKスペシャルのテーマ音楽、NHKクローズアップ現代テーマ曲などを作曲。また妖怪人間ベムやデジタルモンスター等のアニメ作品のオリジナルサウンドトラック作曲など、幅広い活動をしている。テーマ曲を担当したNHK大型スペシャル「激流中国」は世界で最も権威のあるイタリア賞を受賞したほか、モンテカルロ、モナコなど、世界五大メジャー・コンクールで最優秀賞を受賞し、ヨーロッパ各地、また中国でテーマ曲が注目される。
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