ブーケの香りに包まれたソワレから たおやかな優しさと、凛とした芯の強さを併せ持つ伊藤のその演奏からは丁寧な楽曲分析と解釈の痕跡が随所に窺えると同時に、徒に偏った表現に走ることなく、あくまで作品に対しての素直な姿勢と敬意が際立つ。それは、単に作曲家の意思を尊重するというレベルよりもさらに深いところで、その曲が最も自然に無理なく奏でられる「あるべき姿」を模索している、極めて謙虚、かつ妥協を許さない演奏家の横顔でもある。演奏技術の高さを誇ったり、独りよがりの解釈に酔ったりするパフォーマンスとは対照的なその姿勢は、まさに音楽の「自然(じねん)」を模索する謹直さそのものだ。そして、花鳥風月という森羅万象の「法(のり)」に沿ったものが、その「自然」の美しさですべからく人を癒し慰めるように、伊藤のヴァイオリンは聴く者をして、いつまでもその音楽に身を委ねていたいと思わせる魅力に満ちている。
伊藤万桜(ヴァイオリン) Mao Ito, Violin
東京都立芸術高校、東京音楽大学音楽学部音楽学科器楽専攻卒業、卒業演奏会に出演。同大学大学院音楽研究科、およびパブロ・カザルス国際音楽アカデミー(フランス)にてマーク・ゴトーニ氏、ヴィチェンツァ国立音楽院(イタリア)にてアルベルト・マルティーニ氏、またアントン・ルービンシュタイン国際音楽アカデミー(ドイツ)、橋本京子氏(ドイツ)のもとにて研鑽を積む。
2012年日本イタリア協会推薦にてイタリア国際フェスティバル(イタリア)、2014年カザルス国際音楽祭(フランス)、2014年大学より奨学金を得てバイエルン州立青少年オーケストラとしてジョナサン・ノット氏指揮ニューイヤー・コンサート(ドイツ)、2015年キルヒベルク国際音楽祭(ドイツ)に出演。2016年第31回練馬区新人演奏会にて東京フィルハーモニー交響楽団とチャイコフスキーの協奏曲を共演。また、NHK「名曲アルバム+」、BSフジ、OTTAVA、ラ・フォル・ジュルネTOKYOに出演。第7回日本管弦打楽器ソロ・コンテスト第1位及びクリスタルミューズ賞、第16回KOBE国際音楽コンクール第2位及び兵庫県芸術文化協会賞、第4回公益財団法人樫の芽会樫の若木賞他受賞。
2019年東京文化会館小ホールにて文化庁/日本演奏連盟主催新進演奏家育成プロジェクトリサイタル・シリーズ伊藤万桜ヴァイオリン・リサイタル開催。2020年シュロス国際音楽アカデミー(ドイツ)主催CLASSIC@HOMEにてヴィエニャフスキのファウスト幻想曲が動画配信される。2021年2月東京オペラシティリサイタルホールにて文化庁助成/日本演奏連盟後援リサイタル開催。同年11月アールアンフィニ・レーベルよりデビューCD「フレッシービレ」(当該CD)をリリース。
ヴァイオリンを大谷康子、海野義雄、神尾真由子、嶋田慶子、漆原朝子、村瀬敬子、山岡耕筰、マーク・ゴトーニ各氏に師事。室内楽を山口裕之、店村眞積、横山俊朗、大野かおる各氏に師事。日本演奏連盟、練馬区演奏家協会会員。
https://maoito.info(2021年8月現在)