■【スペシャル・インタビュー】スタジオ・クオリティのサウンドとライヴ感が両立するヘッドフォン・コンサートの第二弾、藤田恵美『Headphone Concert 2022』がリリースへ
「ヘッドフォン・コンサート」は録音芸術の革命だ!
ライブの躍動が、スタジオ録音の高音質で聴けた!(麻倉怜士)
スタジオ録音とライブ録音には、それぞれメリットとデメリットがある。スタジオでは、音響的に理想的な条件の下で高音質で録音できる。何テイクも重ね、部分的なパッチワークも加え、完成度をとことん高められる。その一方で、ライブのような、観客との有言無言のコミュニケートからもたらされる、音楽的な感興の高まりとは無縁だ。ライブ収録は、そうしたヴィヴットな緊張感から生み出される音楽性は獲得できるが、音の品格が低い。会場に広く拡声するためのPAの音が被ってしまい、鈍重な音になる。
そうであるならば、この二つのメリットを合体できないか。つまり「ライブの躍動」と「スタジオ録音の高品質」が、同時に得られれば、理想の音楽性と高音質が実現できるわけだ。それこそが「ヘッドフォン・コンサート」だ。すでに2021年に第一回の藤田恵美の「ヘッドフォン・コンサート」で録音、制作されたCDやハイレゾを聴き、たいへん完成度が高いと評価したので、その年の私のハイレゾベストテン(e-onkyo musicサイトで発表)で、ご紹介させていただいた。
今回の第2弾、2022年10月26,27日にて開催された「ヘッドフォン・コンサート」は、私は観客として参加させていただいた。マイク、ヘッドアンプ、録音機などの機材は、まさにスタジオ録音そのもの。通常のライブで使用する客席用のPAスピーカー、奏者用の返しスピーカーは、いっさい無い。なので、客席ではほとんど無音だ。何か遠くに声が、かすかに聞こえるだけ。でもヘッドフォンをつければ、実にクリヤーに演奏と歌唱が聴けた。
まずこれに驚いた。このようなポップのライブではPAで拡声されるので、どうしても音がヘンに分厚く、メタリックな尖りが加わり、質感はそうとう低くなる。だからライブでは音質は無視して、ライブならではの興趣を楽しむことにしているのだが、「ヘッドフォン・コンサート」は、まったく違ったのである。本SACDの高音質を語る前に、ライブ自体がもの凄く高音質なのであった!それはスタジオと同じ機材、PA無し……だから当然といえば当然なのだけど、まさに「ライブ音質の革命」だと思った。それがそのままSACDになったのだから、高音質は当然だ。
HDインプレッションの阿部氏がスタジオで制作している、いつもの高品位な音調が、まったくそのまま聴ける。ヴォーカルの質感が緻密でナチュラル、粒子が細かい。ピアノ、ヴァイオリン、ギター、アコーディオン……などの楽器も明瞭で、上質だ。「12 Perfect (Encore)」に収録されている拍手の音が実に生々しい。これは客席では感じなかったことで、拍手もスタジオクオリティ(?)なのである。「ヘッドフォン・コンサート」はまさに録音芸術の革命である。
オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽) 麻倉怜士