パーカッション・アーティストはたけやま裕、待望の新作である。「ハナミズキの願い」以来であるから4年も経つ。この間、はたけやまは、加藤登紀子や桑田佳祐らスターの演奏メンバーに加わったり、新たなプロジェクトを立ち上げたりと、多彩な活動を続けていた。それだけに「今のはたけやまの記録を残して!」というファンの渇望感はいや増していた。一方、はたけやま本人は「ハナミズキの願い」にも収録した「よだかの星」の作者・宮沢賢治の作品と音楽とのコラボレーションを進めており、それを形にすることを望んでいた。
2018年9月の「銀座YAMAHAホール」コンサートにおいて宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を大きなテーマにすることを決め、新曲を制作。これを“組曲”として残すことに決定したのが本作の経緯である。
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しかし、普通のスタジオ録音では、今一つ挑戦的なはたけやま的ではない。「最小限の編成で、空間に響くパーカッションの生の音を新鮮なまま記録したい」と、高音質ハイレゾリューションで録音。しかも、聴衆を入れたライブ録音で「お客さんと音楽を共に生み出す緊張感」も記録しようとした。場所は、東京・成城学園近くの小ホール「サローネ・フォンタナ」である。メロディアスなはたけやま作品ゆえ、最小限と言っても、ピアノとのデュオを選択。ピアニストは近年共演の多いKeikoに頼んだ。
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収録曲は、賢治作品にインスパイアされた“組曲”が中心。独立した作品として聴いても、楽しさと美しさと力強さに満ち溢れているが、はたけやま本人の賢治に関するコメントや原作を参考にしながら聴いていくと、想像の中で映像が広がるようなファンタジー感に包まれる。文頭で、パーカッション・アーティストと紹介したのは、ここが理由である。演奏だけでなく、プロデュース、作曲、コンセプト作り、映像などとの共演など、総合的な芸術構築力は、本作でさらに進化したと言える。
「レフトアローン」「アフロブルー」は「ケイオティック・プラネット」収録曲の再演。「クロスロード」「あの遠い夏の日」は新作である。
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疲れ果てた現代日本に、賢治のメッセージは最も必要なビタミンのようなものではないか。はたけやまの願いがそこに重なる。【毎日新聞社学芸部・川崎浩】
◆今作はサラウンド5.1ch音源をマスターとした「HPL5」音源となります。
「HPL」は株式会社アコースティックフィールドが有するエンコード技術です。「HPL」は、ヘッドフォン&イヤホンでの音楽リスニング用に最適化された音源を作るための技術です。ヘッドフォン・リスニングによる定位の崩れを改善し、本来のミックス・バランスに近い定位で音楽をお楽しみいただけます。
詳しくは
「HPL」紹介ページをご覧ください。