新進ジャズピアニスト高木里代子の鮮烈なピアニズムとハイレゾ録音の醍醐味双方が存分に楽しめるアルバムである。
高木は、幼少からクラシックピアノを学ぶが、慶応大学在学中からジャズを弾き始め、卒業後は都内のライブハウスを中心に活動。 2000年代後半から「ハウスミュージック」に傾倒し、DJ牧野雅己と組んだ「インナー・シティ・ジャム・オーケストラ」が大きな注目を集めた。10年代からは「ICJO」活動と並行しながら、新たな可能性を求めてストレートなジャズピアノの活動の場を広げている。
このアルバムは、その活動の一環で、東京・成 城学園にほど近い小ホール「サローネ・フォンタナ」で開催されたソロ・ピアノ・コンサートでの公開実況録音である。
「サローネ・フォンタナ」は、50人も入ればいっぱいというこじんまりとしたホールサイズであるが、壁全面が漆喰で、8㍍ほどの吹 き抜け舟形天井は分厚い板張りと、欧州の古い木造教会のような佇まいである。反響も吸音も適度で小編成のクラシックなどには最適と思われる。
使用ピアノは、ベーゼンドルファーのやや小型の古いグランド。なんと、“ウィーン三羽烏”の一人、イェルク・デムスの持ち物だとい う。因みにデムスは、高木の録音のほぼ1カ月後に公演を行っている。
指慣らしの折、高木は、指を深く下さなければ響きのよろしくないベーゼンを「軽い感じ」と評していたが、これは、アタック鋭くスピードの速いハウス・ジャズを、生ピアノでも弾いていたキャリアが言わせるのであろう。ベーゼンのフル・コンサート・グランドを鳴らしまくる高木を頼もしく想像するものである。
本番は2部構成で、重なる曲はなく、敢えて言えば、1部はクラブ系の即興、2部は楽曲をきちんと弾き切るストレートなジャズスタイルを目指したようである。「ようである」と記したのは、お聴きのように、発想も展開は自由闊達。「いわゆるジャズのソロ・ピアノ」と いう視点だけで聴くと違和感があるかもしれない。
そこに聴き取れるのは、自分に向けられた先入観に対する苛立ちや既成の美に対する不満など負のエネルギーと、自由解放に向かって飛び立とうとする正のエネルギーが交ざり合った核反応的ダイナミックなピアニズムなのである。ただ正統な「ピアニズム」という点では、荒削りでどこかバイオレンスの匂いがするが、それこそクラシック、ハウスを超えてきたばかりの「今の高木里代子」らしさと言えるであろう。
曲目に関しては、人気オリジナル曲の「サクラ」や「オレンジの衝動」からスタンダードまで並ぶが、あくまでモチーフ。高木はベーゼ ンのグランドを楽しむように味わい尽くそうとしている。ピアノの響きこそ大好物と言わんばかりである。
録音の場にいたの者として、これから、さらに伸びゆくであろう高木の初のソロピアノ録音としても、小ホールでのベーゼンドルファーの響きを捉えた録音としても、大変貴 重なアルバムと確信する。【毎日新聞社学芸部 専門編集委員 川崎浩】
録音 96kHz 24Bit
※演奏会を録音したもので、聴衆ノイズや環境ノイズ等があります。ご了承下さいませ。
*今作はサラウンド5.0ch音源をマスターとした「HPL5」音源となります。
◆「HPL」は株式会社アコースティックフィールドが有するエンコード技術です。
「HPL」は、ヘッドフォン&イヤホンでの音楽リスニング用に最適化された音源を作るための技術です。ヘッドフォン・リスニングによる定位の崩れを改善し、本来のミックス・バランスに近い定位で音楽をお楽しみいただけます。
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