セレクターズ・チョイス--ロック/ポップス9月新譜 by 片寄明人(GREAT3)




片寄明人(かたよせ あきと)

GREAT3のボーカル&ギター。妻のショコラとのデュオ、Chocolat & Akitoとしても活動中。最新作はGREAT3「愛の関係」、Chocolat & Akito「Chocolat & Akito meets The Mattson 2」。

また音楽プロデューサーとして、DAOKO、TENDOUJI、SHE IS SUMMER、The Wisely Brothers、フジファブリック、など多くのアーティストの作品に参加している。

NHK-FM、毎週日曜16時の70’s 80’s洋楽専門番組「洋楽グロリアスデイズ」DJも担当中。

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一気に秋めいてきた9月の終わり、リリースされるタイトルの数もグンと増えたような気がします。コロナ渦でツアーができず、制作に没頭した世界中のミュージシャンから、次々と新作も届いているのでしょう。悩ましい状況は続きますが、だからこそ生まれる音楽の革新もあるのかもしれません。

さて9月のニュー・リリースですが、そんな新作チェックの傍らで、今月は70's、80'sの名盤ハイレゾ・リリースに心奪われました。

まずは、待望のプリンス「Sign O‘ The Times(Super Deluxe)」です。1987年に2枚組アナログで発表された大名盤が、未発表曲や当時のライブ音源を含む92曲のスーパー・デラックス・エディションとしての登場です。8CD+1DVDでリリースされたフィジカル盤からライブ映像をオミットした内容ですが、CDより高音質な24bit音源を、フィジカルの半分以下というプライスで堪能できます。

オリジナルLPのカッティングも手がけた名匠バーニー・グランドマンによるリマスター・サウンドは、中低域の厚みが増して、サウンドの立体度が高まった素晴らしい仕上がりです。奧が深すぎて、まだまだ堪能しきれていませんが、天才プリンスのめくるめく脳内を垣間見たかのような音の迷宮を、時間をかけて、ゆっくり味わいたいです。

続いては、英国の名バンド、ザ・キンクスの70's、80's作品です。DJを担当するNHK-FM日曜夕方の「洋楽グロリアスデイズ」でも、9月のピックアップ・アーティストとして、ちょうどこの時代のザ・キンクスを4週連続で紹介したばかりだったのですが、同時代のストーンズやザ・フーとも異なる、何とも言えない斜に構えた独特の芸風に魅せられます。

英国のパブから米国のカントリー・ワールドへアクセスしたような音楽性で、彼らの最高傑作と評する人もいる1971年の「Muswell Hillbillies」、名曲「セルロイドの英雄」を収録した1972年のアルバム「Everybody’s in Show-Biz」に大量のボーナストラックを追加した全38曲のレガシー・エディション、そして古き良き英国の田園生活に想いを寄せた1968年作「ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ」の世界を再度描いた、1973年の「Preservation: Act 1」と1974年の「Preservation: Act 2」、さらに1975年の「Soap Opera」、1976年の「Schoolboys in Disgrace」と続く一連のコンセプト・アルバム群、そしてこの時代の音源を紡ぎ、レア・ミックスも収録した1976年のベスト盤「Celluloid Heroes」、どれもハイレゾで聴くのがふさわしい70'sの英国録音作品で、味わい深いアルバムばかりです。

その後、コンセプト・アルバムを捨て、アメリカでの成功を目指し、イメージ・チェンジに挑んだザ・キンクス。ハードなギター・サウンドを取り入れてキャッチーに飛躍した1977年の「Sleepwalker」、1978年の「Misfits」、NYのパワー・ステーション・スタジオに赴いて録音された1979年の「Low Budget」。この3枚はアナログ・シンセやキーボードといった時代の音を取り入れたキンクス流の70'sロック・アルバムで、いま聴くと新鮮です。特に「Sleepwalker」は名盤。

そして時代が求めるロックンロール・バンドとして生まれ変わった80'sのザ・キンクス。ハードかつスピーディーにアレンジされた60年代の名曲も連発し、パンキッシュに駆け抜けた1980年の傑作ライブ盤「One for the Road」を挟んで、当時の彼らの勢いを感じる1981年の「Give The People What They Want」、いま聴いてもカラフルな音に魅了される1982年の名盤「State Of Confusion」と、1984年の「Word of Mouth」。自分にとってリアルタイムで聴くことができた時代なので思い入れもありますが、とにかく最高、血湧き肉躍るサウンドです。

プリンス、ザ・キンクスの他にも、ルー・リードが1989年に放った、これまた名盤の誉れ高い「NEW YORK」に、デモ、未発表ヴァージョン、ライブ音源などを収録した全42曲のデラックスエディション。

ザ・ローリング・ストーンズ、1973年のアルバム「山羊の頭のスープ」の鮮烈な2020年ニュー・ステレオ・ミックスに、デモやオルタナティヴ・ミックス、ライブ音源、そしてジミー・ペイジが参加した「スカーレット」を含む3曲の未発表曲を収録した全37曲の「Goats Head Soup (2020 Deluxe)

P.Jハーヴェイが1995年に発表した3rdアルバム「To Bring You My Love」のデモを丸ごと収録し、簡素なリズムボックスとギターを中心としたシンプルなサウンドから、ソングライターとしての彼女の魅力が赤裸々に伝わってくる「To Bring You My Love(DEMO)

と、聴き逃せないロック名盤の拡張版が数多く発表された9月でしたが、新作アルバムの推薦盤も、いくつかご紹介しましょう。

まずはNYの新世代ポップ・アイコンとも呼ばれているシンガーソングライター、ガス・ダパートンの2ndアルバム「Orca」です。ユニークでエッジの効いたファッションセンスでも話題を呼んだ彼ですが、ブライアン・ウィルソンやデヴィッド・ボウイ、トロ・イ・モアなどに影響を受けたという実にオーセンティックで素晴らしい作曲センスの持ち主。より深みを増したこの新作にも珠玉の旋律が満載です。マニアックな音楽性とメジャー感あるサウンドのバランスも絶妙。まずはM1、M5あたりをぜひ試聴してみてください。

そしてこちらはベテラン、ザ・フレーミング・リップスから届いた新作アルバム「American Head」。儚く美しいソフト・サイケデリックの傑作です。30年近く彼らを追ってきた大ファンの自分ですが、甘美な白昼夢を見ているかのような統一感、その美麗でありながら歪んだ楽曲群に驚かされました。ナチュラル・トリップへと誘う、鬼才エンジニア:デイヴ・フリッドマンのミックスも冴えわたり、1998年の「Soft Bulletin」と並ぶ愛聴盤になりそうな予感です。

ニュージーランドをベースに活動しているシャノン・マシュー・ヴァンヤの1stミニ・アルバム「Shannon Matthew Vanya」も極上のポップ・ミュージック。以前はトム・ラークの名で活動していたそうですが、ちょっとボビー・コールドウェルやクリス・レア、などを思わせるメロディ・センスと、ドリーミーでモダン・ポップ・ファンクなトラックとの組み合わせが心地よいです。

どうぞ、秋の夜長を素敵な音楽と共に楽しんでください。

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