セレクターズ・チョイス--ジャズ7月新譜 by 原雅明



原雅明(はら まさあき)

音楽ジャーナリスト/ライターとして各種音楽雑誌、ライナーノーツ等に寄稿の傍ら、音楽レーベルrings(https://www.ringstokyo.com/)のプロデューサーとして、新たな潮流となる音楽の紹介に務める。また、LAのネットラジオ局の日本ブランチdublab.jp(https://dublab.jp/)のディレクターも担当。ホテルの選曲やDJも手掛け、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。著書『Jazz Thing ジャズという何かージャズが追い求めたサウンドをめぐって』(DU BOOKS)ほか。

Twitter:http://twitter.com/masaakihara



  今月はまずUKのピアニスト、キーボード奏者カマール・ウイリアムスのニュー・アルバム『Wu Hen』から取り上げたい。ドラマーのユセフ・デイズとのユニット、ユセフ・カマールを経て、自身のレーベルBlack Focusを立ち上げてソロ活動をスタートさせた。LAのジャズ・シーンで注目されているジャズ・コレクティヴ、カタリストのドラマー、グレッグ・ポールと、アトランタのサックス奏者、クイン・メイソンらを迎えたバンドで録音され、フライング・ロータスとの仕事でも知られるLAのヴィオラ奏者/アレンジャーのミゲル・アトウッド・ファーガソン、UKのジャズ・ハープ奏者のアリーナ・ジェジンスカらも参加している。ヘンリー・ウー名義でDJやクラブ・ミュージックへのアプローチもしているウイリアムスだが、本作ではストレートアヘッドなジャズも、ストリングスやハープのクラシカルなアプローチも、エレクトリックなファンクのグルーヴも、アルバムの中で滑らかに繋げてみせている。UKジャズのみならず、グローバルなジャズ・シーンやそこから更に拡がる多様な音楽フィールドで、今後活躍が期待できることを示した作品だ。
 『Wu Hen』でも素晴らしいストリングス・アレンジを聴かせたミゲル・アトウッド・ファーガソンが関係している作品もいくつか紹介したい。シンガー/ラッパー、プロデューサーのアンダーソン・パークのアルバム『Ventura』では、スモーキー・ロビンソンをフィーチャーした“Make It Better”やレイラ・ハサウェイをフィーチャーした“Reachin’ 2 Much”といった注目曲でファーガソンのストリングスが光っている。また、ナッシュビル出身の次代を担うジャズ/ソウル・シンガー、キャンディス・スプリングスの『Indigo』は、故ロイ・ハーグローヴやクリス・デイヴ、カリーム・リギンスらが参加した力作だったが、“Fix Me”でのファーガソンのアレンジは特に耳を惹き付けた。そして、マルチ・プレイヤー、テイラー・マクファーリンのセカンド・アルバム『Love's Last Chance』もファーガソンのストリングスからスタートする。Brainfeederからデビューを飾り、ロバート・グラスパーらとR+R=NOWを結成したマクファーリンは、このアルバムでは自らヴァーカルも採り、よりポップで80年代を意識したサウンドにシフトしている。

 Blue Noteからは、ピアニスト、ジェラルド・クレイトンのライヴ盤『Happening: Live At The Village Vanguard』がリリースとなった。『Life Forum』や『Tributary Tales』で既に高い評価を受けてきたが、朋友と言えるローガン・リチャードソン(Sax)やジョー・サンダース(B)に、ウォルター・スミス3世(Sax)とマーカス・ギルモア(Ds)という実力者を揃えた、けれんみのないストレートな演奏は、ジャズの底力を示している。
 ジョシュア・レッドマン(Sax)、ブラッド・メルドー(P)、クリスチャン・マクブライド(B)、ブライアン・ブレイド(Ds)の『RoundAgain』は、ジョシュア・レッドマン・クァルテットでのアルバム『MoodSwing』(1994年)以来となる同メンバーでの録音作だ。非常に洗練された演奏を易々とこなしていて、このコンビネーションは唯一無二のものだろう。アーロン・ゴールドバーグ(P)ら新たなメンバーを迎えたジョシュア・レッドマン・クァルテットの『Come What May』(2019年)と比較して聴いてみるのもお勧めしたい。
 トランペッターのテレンス・ブランチャードは、スパイク・リー監督作などの映画音楽の作曲家としても活躍をしているが、最新作はTVドラマ・シリーズのサウンドトラック『Perry Mason: Chapter 6 (Music From The HBO Series - Season 1)』だ。幾度もドラマ化されてきたE・S・ガードナーの推理小説『ペリー・メイスン』だが、1930年代という時代背景を意識したスウィング・ジャズを採り入れたサウンドになっている。この機会にブランチャードの過去の作品も振り返ってみたい。自身のバンド、E・コレクティヴを率いた録音を近年リリースし続けている。『Live(feat. The E-Collective)』(2018年)は、ミネアポリス、クリーヴランド、ダラスでのライヴが収録されているが、これら3都市では警察官による黒人への暴力が絶えない状況があり、それに対してのブランチャードなりの音楽的な返答が込められている。E・コレクティヴのメンバーとして、キューバ出身の気鋭のピアニスト、ファビアン・アルマザンが参加していることにも注目したい。また、Blue Noteに復帰して録音された『Magnetic』(2013年)も、アルマザンやケンドリック・スコット(Ds)らとの素晴らしい演奏が楽しめるアルバムだ。

 ブライアン・イーノとのコラボレーションで知られるトランペッター、ジョン・ハッセルの新作『Seeing Through Sound (Pentimento Volume Two)』もリリースされた。元々は現代音楽を学んでいたが、ヒンドゥスターニー音楽のマスターであるプラン・ナートとの出会いから、音響処理されたトランペットの演奏へと進み、独自のスタイルを築き上げた。今年83歳を迎えて、尚もアグレッシヴな作品をリリースし続けている。ECMからリリースとなった『Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street』(2009年)など、旧作にもぜひ耳を傾けてみてほしい。
 今年1月に93歳で亡くなったサックス奏者ジミー・ヒースの遺作『Love Letter』もリリースとなった。亡くなる1ヶ月前に仕上げられたアルバムだという。フィラデルフィア出身のヒースは、モダン・ジャズの歴史を生き抜いてきた存在だ。ディジー・ガレスピーやジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィスとも共演し、レコーディングのキャリアは70年以上に及び、100枚以上のアルバムに参加してきた。また、兄のパーシー・ヒース(B)と弟のアルバート・ヒース(Ds)と共に結成したヒース・ブラザースの『Marchin' On 』は、サンプリングネタとしても有名で、ヒップホップ世代からも支持された。『Love Letter』では、写真家ゴードン・パークスが残した楽曲“Don't Misunderstand”の、グレゴリー・ポーターをヴォーカルに迎えた演奏が特に心に残る。また、若きヒースの演奏は、トロンボーン奏者ジェイ・ジェイ・ジョンソンの『Jay Jay Johnson With Clifford Brown』(1953年)で聴くことができる。
 先月紹介したピアニスト、ジェイミー・サフトが、ジョー・モリス(G)、チャールズ・ダウンズ(Ds)とのトリオ作『Mountains』と、ブラッドリー・ジョーンズ(B)を加えたクァルテット作『Atlas』をリリースした。セシル・テイラーと共に活動をしてきたフリー・ジャズのドラマー、チャールズ・ダウンズ(ラシード・バクル)を迎えることから、この録音は始まったという。重苦しい空気は一切なく、開放感のある、アップデートされた即興演奏が繰り広げられている。

 毎月、新譜を中心に紹介をしているが、e-onkyo musicの中には「掘り出し物」と思える音源もあり、それらの「発掘」も今回からやっていきたい。まず、今回の「掘り出し物」は、Naim Labelの音源だ。UKのオーディオ・メーカーNaim Audioが主宰するレーベルで、素晴らしいオリジナル音源をリリースしている。チャーリー・ヘイデン(B)率いるカルテット・ウェストの87年、88年のライヴを収めた『The Private Collection』は、同レーベルの代表作であり、演奏、録音共に一級の出来映えだ。シカゴのドラマー、テッド・シロタ関連のリリースは、まさに「掘り出し物」だろう。自身のバンド、レベル・ソウルズには、ジェフ・パーカーやロブ・マズレクら、シカゴのジャズ、ポストロックのムーヴメントを担った重要なプレイヤーたちが参加している。ぜひ、聴いてみてもらいたい。
 最後になったが、京都を拠点とするバンド、SOFTのアルバム『Tokinami』とシングル『Invisible Flowers』も紹介したい。ダブやクラブ・ミュージックからの影響も受けながら、ローカリティを重視して90年代から活動を続けてきた希有なグループである。ライヴでこそ真価を発揮する音楽だと思うが、シングルでは特に録音面での新鮮さを感じた。

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