セレクターズ・チョイス--ジャズ6月新譜 by 原雅明



原雅明(はら まさあき)

音楽ジャーナリスト/ライターとして各種音楽雑誌、ライナーノーツ等に寄稿の傍ら、音楽レーベルrings(https://www.ringstokyo.com/)のプロデューサーとして、新たな潮流となる音楽の紹介に務める。また、LAのネットラジオ局の日本ブランチdublab.jp(https://dublab.jp/)のディレクターも担当。ホテルの選曲やDJも手掛け、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。著書『Jazz Thing ジャズという何かージャズが追い求めたサウンドをめぐって』(DU BOOKS)ほか。

Twitter:http://twitter.com/masaakihara



 今月はBlue Note関連の魅力的なリリースが目立った。ノラ・ジョーンズの『Pick Me Up Off the Floor』は通算7枚目となるソロ・アルバムだが、アルバム制作という枠を離れた曲単位で多様なアーティストとのコラボレーションを進め、配信ベースでリリースしてきた近年の試みから、アルバムへと結実されたものを感じる。昨年リリースの『Begin Again』と同じくウィルコのジェフ・トゥイーディーが共同プロデュースを務め、ブライアン・ブレイドやジョン・パティトゥッチ、ネイト・スミスなど、信頼を寄せるミュージシャンを多数迎え入れている。ジャズはもとより、カントリー、ブルース、フォークからインディ・ロック、ヒップホップ、R&Bまで横断する、広義のアメリカン・ミュージックの再編に向かった彼女の表現が、一つの到達点に至ったアルバムだ。

 ベーシスト、作曲家、プロデューサーとして活躍するデリック・ホッジの『Color of Noize』は、R+R=NOWでも共演するドラマー、ジャスティン・タイソンらを迎えて制作された。デビュー作『Live Today』はロバート・グラスパーら仲間達と共に新たな流れを象徴するサウンドを作り、セカンドの前作『The Second』は一転してほぼ一人で作り上げられた。それに対して、『Color of Noize』は単にアルバム制作だけではなく、今後プロジェクトとして拡がっていくアートフォームとなるようだ。その自由度の高い、オープンな姿勢が演奏に反映されている。トランペッター、アンブローズ・アキンムシーレの『on the tender spot of every calloused moment』は、多様なカルチャーの交錯するコンセプチュアルな前作『Origami Harvest』から、ジャズのコアな部分にフォーカスする作品へと進んでいる。ロスコー・ミッチェルとロイ・ハーグローヴ、それぞれに捧げた曲がとても印象的で、現在のBlue Noteがこのシリアスな作品をリリースする意味は大きい。

 先月、シングルを紹介したゴーゴー・ペンギンはフル・アルバム『GoGo Penguin』が届いた。デビュー当時から、スウェーデンのジャズ・ピアニスト、故エスビョルン・スヴェンソンが率いたe.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)からの影響を感じさせてきた彼らだが、e.s.t.が確立したポピュラー音楽の中での独自のジャズの拡張を更新する音楽を、『GoGo Penguin』で成し遂げたと言える。

 そして、アキンムシーレ同様に、現在のBlue Noteを代表するトランペッター、キーヨン・ハロルドの『High Breed Music Presents:Keyon Harrold-Live From Brooklyn NYC』も注目作だ。これは、こちらの記事にもあるように、NYブルックリンでスタートした「レコーディング・ラウンジ」のライヴ・ハイレゾ音源だ。マーカス・ストリックランドやニール・フェルダーらが参加したライヴは、音質も飛び抜けて素晴らしく、その臨場感溢れるプレイには驚かされる。ハロルドは、ホッジの『Live Today』や『The Second』をはじめ、様々な作品に参加しているが、特に最近のリリースでは、サウス・ロンドンの若きピアニスト、アシュリー・ヘンリーの『Beautiful Vinyl Hunter』やブルックリンの新鋭ラッパーHDBeenDopeの『BrokeN Dreams』に客演した演奏が素晴らしい。また、ニール・フェルダーのリーダー作『II』もリリースされた。前作はポスト・ロックやインディ・ロックの影響も感じさせたのだが、本作はそうした要素も残しつつ、よりストレートでブルージーな側面も聴かせ、音楽性の幅が拡がった。

 ブラッド・メルドーの『Suite: April 2020』は、バッハをテーマとしたアルバム『After Bach』とコンピ『I Still Play』に続く、ピアノ・ソロにフォーカスしたアルバムだが、新型コロナウイルス感染症の状況下で録音され、Jazz Foundation of Americaが設立したミュージシャンを支援するCOVID-19基金に売上の一部が寄付される。ニール・ヤング”Don’t Let It Bring You Down”をカヴァーする、静かなエモーションを感じるタッチが特に心に響く。

 先月末のリリースになるが、ジェイミー・サフトのピアノ・ソロ『The Golden Scale (Live at the Piano Performance Museum)』も素晴らしいアルバムだった。ジョン・ゾーンの作品への参加やメルツバウとの共作でも知られ、ニューヨークのアヴァン・ジャズ・シーンを代表するピアニスト、作曲家だが、本作はピアノ・パフォーマンス・ミュージアムの1889年スタインウェイをはじめ、歴史的なピアノの数々を正統的にプレイするサフトを聴くことができる。また彼がプロデュースしたジャズ・シンガー、ユン・サン・ナの『She Moves On』もサフトの意外な側面を知ることができるアルバムだ。

 ドイツのサックス奏者イングリッド・ラブロックと、カナダのピアニスト、クリス・デイヴィスとのデュオ・アルバム『Blood Moon』は、共に現在ニューヨークの即興シーンの最前線で活動する女性二人による演奏だが、構築された音楽と即興との狹間を突くようなインタープレイがスリリングだ。ラブロックはオーケストラとの『Contemporary Chaos Practices』が、クリス・デイヴィスはエスペランサやテリー・リン・キャリントンとの『Diatom Ribbons』やマイケル・フォーマネクとの『The Distance』が特に印象に残っているが、共に作曲家としても活躍して、即興音楽に新しい風を吹き込んでいる注目の存在だ。

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