セレクターズ・チョイス--ジャズ5月新譜 by 原雅明



原雅明(はら まさあき)

音楽ジャーナリスト/ライターとして各種音楽雑誌、ライナーノーツ等に寄稿の傍ら、音楽レーベルrings(https://www.ringstokyo.com/)のプロデューサーとして、新たな潮流となる音楽の紹介に務める。また、LAのネットラジオ局の日本ブランチdublab.jp(https://dublab.jp/)のディレクターも担当。ホテルの選曲やDJも手掛け、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。著書『Jazz Thing ジャズという何かージャズが追い求めたサウンドをめぐって』(DU BOOKS)ほか。

Twitter:http://twitter.com/masaakihara



 5月の新譜でまず注目したいのは、ECMからリリースされたノルウェーのピアニスト、ヨン・バルケのピアノ・ソロ『Discourses』。ECMは設立当初から、ヤン・ガルバレクやテリエ・リピダルらノルウェーのミュージシャンを積極的に紹介してきたが、バルケも90年代からECMで活躍している。ピアノ・ソロではあるが、Siwanというプロジェクトでアプローチしてきたアンダルシア音楽、アラブ音楽、西アフリカ音楽からの影響も伺え、さり気ないエレクトロニクスの導入も豊かなアンビエンスをもたらしている。そのSiwanプロジェクトのアルバム『Siwan Nahnou Houm』もぜひ聴いてみてもらいたい。

 日本でも人気のあるUKのトリオ、ゴーゴー・ペンギンの新作『Don't Go』は、フル・アルバム『GoGo Penguin』に先行するリリースだが、新たなフェーズに入ったグループの注目作だ。映画のサウンドトラックをベースにした昨年リリースのEP『Ocean In A Drop (Music For Film)』ではピアノのフレーズに12音技法を採り入れ、従来のダイナミックでシャープなグルーヴは保ちながら、少し複雑で即興性に飛んだ展開を見せた。本作はその延長にある。これまでより録音にも時間をかけ、丁寧に作られた作品であり、高音質でこそ真価が分かる音源だろう。

 ハイレゾでリリースが実現したタイトルの中では、ブライアン・ブレイドの『Landmarks』と、クリス・シーリー&ブラッド・メルドーの『Chris Thile & Brad Mehldau』にまずは注目したい。ドラマー、ブレイド率いるフェローシップの通算4作目となる『Landmarks』は、アメリカン・ミュージックの再編に取り組んできたプロジェクトの集大成と言える成熟したアルバムで、トータスのジェフ・パーカーがファースト・アルバム以来の復帰を果たしたのも注目したいところだ。パンチ・ブラザースのクリス・シーリーとメルドーの共演は、ジョシュア・レッドマンとメルドーの共演に続く、Nonesuchからの刺激的なリリースとなった。

 ドイツ版のウェザー・リポートとも称されたパスポートは、今年84歳を迎えたリーダーのサックス奏者、クラウス・ドルディンガーが、若いプレイヤーをオーガナイズして、いまも活発な活動を続けている。新作『Motherhood』はその勢いを十二分に感じるアルバムだ。また、リック・イアナコーンはジャマラディーン・タクマと活動を続けたシカゴ出身のベテラン・ギタリストだが、彼もまた若いメンバーとフレッシュな新作『Confidence of Uncertainty』をリリースした。

 他には、ロバート・グラスパーのインスト・アルバム『Fuck Yo Feelings[Instrumentals]』、アーチー・シェップやドン・チェリーらのニューヨーク・コンテンポラリー・ファイヴの名盤『Vol. 2』、シェップも参加したヨアヒム・キューン・トリオの近作『Voodoo Sense』、新世代のUKジャズのキー・プレイヤーの一人、エマ=ジーン・サックレイの『Ley Lines』もぜひ耳を傾けてもらいたい作品である。

 日本のリリースで注目したいのは、ハイエイタス・カイヨーテを輩出したオーストラリア、メルボルンのシーンから東京に移ってきた注目のトロンボーン奏者ジェームス・マコーレー率いるサンシェードのライヴ盤『Sun Shade Live at Velvetsun 2020.2.9』。ピアノレス・カルテットの名の通り、ホーン中心の濃密なアンサンブルが聴き所だ。

 | 

 |   |