麻倉怜士が徹底解説『ドイツ・シャルプラッテンレーベル 第2弾』

旧東ドイツの名録音の宝庫、ドイツ・シャルプラッテンレーベルから第2弾のハイレゾ音源が到着。第1弾の「ルカ教会」シリーズがクラシック・ファンより高い評価を得た同レーベル、第2弾となる今回は東ドイツに位置する『キリスト教会』にて収録されたファン垂涎の作品全10タイトルを配信。 そこで今回は、より「ドイツシャルプラッテン」の作品を深く楽しんで頂くべく、本シリーズを高く評価するオーディオ評論家/津田塾大学講師(音楽)、麻倉怜士氏による解説をご紹介。氏ならではの音楽に対する深い知識に満ちた解説を、是非作品と共にお楽しみ下さい。


【麻倉怜士氏による解説】

「ドイツ・シャルプラッテン・ハイレゾ(アナログテープから192kHz/24bitに変換)の第一陣、ルカ教会録音シリーズを一聴し、これは並のハイレゾでないと思った。単に周波数帯域とDレンジが広いというオーディオ的な観点だけでなく、音楽の流れの自然さ、音場の凋密さ、ニュアンスの豊かさという音楽を滋味深く楽しむことができる要素が満載だったからだ。

 第2弾は、ベルリン東地区にあるキリスト教会(カラヤンが録音していた西ベルリンの「イエス・キリスト教会」ではない)でのセッション集だ。大いに期待して試聴したところ、ドレスデン・ルカ教会とは違うソノリティに、これまた大いに感動したのである。ルカ教会と、どう違うか。

 ルカ教会での代表作、オトマール・スイットナー指揮ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)のモーツアルト「ジュピター交響曲」(1975年)はしなやかで優しく、美しい。まるで室内楽のようなインティメットで典雅な響き。速めのテンポでの溌剌さ、喜遊さが愉しい。ディテールまでことこまかに彫塑する解像度志向ではなく、全体のまとまりを重視したしっかりとした音調。響きは重くなく、軽快。艶感は比較的少なく、ナチュラルで誠実なサウンドだ。ルカ教会での他作品でも生成りの表情は共通しており、ルカ教会の音の特徴と聴ける。

 一方、ベルリン・キリスト教会の音響は音調表現の幅が大きく、作品によって、非常にナチュラルな響きから、グロッシーな質感まで広範囲に分布しているのが、興味深い。響きのボキャブラリーが多いのだ。

キリスト教会らしい典型サウンドはギュンター・ヘルビッヒ指揮ベルリン交響楽団のブラームス・交響曲第1番ハ短調(1978年)で聴ける。実に壮麗、壮大、雄大にして悠々迫るインテンポのドイツ的な質実剛健なブラームスだ。ルカ教会に比べると、ピラミッド的な安定感の高い響きだ。そのスケールの大きさ、会場の広さ、奥行きの深さが感じ取れた。

キリスト教会の音響的なキャラクターが色濃く聴けるのがスウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリンのモーツァルト・オペラ序曲集(1976年)。華麗で進行力の強い、溌剌としたモーツァルトだ。高揚感と活気が楽しく、聴く人をわくわくさせる誘惑力に溢れる。録音も優秀。細部までクリアーに見渡せ、弦と木管のバランスがよく、トゥッティでもどちらも、しっかりとした存在感を聴かせる。周波数帯域が広く、低域の豊かさから高域の高揚感まで響きも華麗。キリスト教会の音響の雄大さのみならず、ブリリアントな音調が愉しい。

 ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送交響楽団のワーグナー&R.シュトラウス管弦楽曲集(1977年)も素晴らしい。楽劇≪ニュルンベルクのマイスタージンガー≫前奏曲は遅めのテンポの威風堂々。複雑なテクスチャーをさばく明快さ、細部の濃密な表情の磨き込み、そしてトゥッティでの爆発力。中間部後半の複数旋律の同時進行も、手さばき鮮やかだ。録音も極上。響きの多さと、艶っぽい質感。弦楽器がキラキラと輝き、高弦の倍音感が色っぽい。楽劇≪ばらの騎士≫ワルツのチャーミングさ、歌心の美しさも印象的。

 レーグナー指揮ベルリン放送交響楽団のデュカス・交響詩≪魔法使いの弟子≫(1977年)はアナログの最高峰的な録音だ。解像度がひじょうに高く、細部まで実に丁寧。低減の力が強く、山形の安定したF特だ。ヴァイオリンの高弦が魅惑的で、コケティッシュ。シャルプラッテンにしては珍しいほど艶艶した質感が聴ける。ここまで演出性を採り入れることが出来るのが、キリスト教会の奥の深さだ。

 最優秀録音はレーグナー指揮ベルリン放送交響楽団のヤナーチェック・シンフォニエッタ(1979年)。一連のシリーズでは、もっとも録音が鮮烈で明晰。金管の咆吼、打楽器の衝撃、弦楽器のグロッシーな音色……モザイクのような楽器のテクスチャーが、実に明瞭に収録されている。オンマイクの明瞭な音だ。

 かなりアドベンチャーなのが、1964年に録音されたスウィトナー指揮シュターツカペレ・ベルリンのマーラー・交響曲第5番嬰ハ短調。冒頭のソロトランペットは、深い奥行き感を伴って聞こえる。バンダ的な距離感だ。弦と木管は遠く、金管は手前に張り出してくる。ヴァイオリン部は細部を丸め、直接音より響きのほうがメインのように聞こえる。冒険的なバランスだ。

 ハイレゾだから、ここまで聴き取れる。ここまで堪能できる。ハイレゾは60年代、70年代の東ベルリンの当時の空気感をそのまま現代に蘇らせてくれた。第1期のドレスデン・ルカ教会シリーズも感銘を受けたが、今回のベルリン・キリスト教会シリーズは、バラエティに富む音調と響きの万華鏡が快感的に愉しい。新たな感動だ」


■ドイツ・シャルプラッテン「ルカ教会」シリーズ

■ドイツ・シャルプラッテンカタログ追加第3弾

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