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【3月7日更新】 ハイレゾ・クラシック by e-onkyo music

2018/03/07
衛星デジタル音楽放送ミュージックバードで、2017年1月にスタートした番組「ハイレゾ・クラシック by e-onkyo music」と連動したコラム。音にこだわるオーディオ・ファン、ハイレゾに初トライしてみたいクラシック・ファンのために、「ハイレゾ女子」として活躍する音楽ライター・原典子が、e-onkyo musicから選りすぐりのタイトルをご紹介します。 文◎原典子
3月のテーマ:別れと旅立ちのクラシック

 新年度を前にした3月は別れの季節。学校を卒業したり、転勤で引っ越したりして、長年ともに過ごした友や土地に別れ告げる方もいらっしゃることだろう。J-POPでは「桜ソング」なんていうジャンルもあるようだが、クラシックの世界にも別れをテーマにした作品は数多くある。そこで今月は「別れと旅立ちのクラシック」と題して、悲しくも心揺さぶられる、エモーショナルな作品の数々をお届けしたい。

◆大切な人との別れ、この世との別れ

 世界のどこへでも飛行機でひとっ飛び、SNSでいつでも繋がっていられる現在とは違い、昔の人々にとっての別れは、ときに「今生の別れ」をも意味する重大な出来事だった。ベートーヴェンはよきパトロンであり友人でもあったルドルフ大公との別れと再会に際してピアノ・ソナタ第26番「告別」を書き、バッハは兄のヨハン・ヤーコプとの別れの光景を「最愛の兄の旅立ちに寄すカプリッチョ」で描いている。
 そして大切な人との永遠の別れを惜しむ追悼音楽としては、チャイコフスキーが旧友ニコライ・ルビンシテインへの追悼として書いたピアノ三重奏曲「ある偉大な芸術家の思い出のために」が有名だ。さらにラフマニノフは、この形式を踏襲するように、チャイコフスキーの訃報を受けて「悲しみの三重奏曲」第2番を書き上げた。

 誰かとの別れではなく、自分がこの世に別れを告げる悲哀を歌ったのが、ドイツ・ロマン派の作曲家たちである。わずか31歳でこの世を去ったシューベルトが、死の年に書いた作品を死後に友人たちがまとめた歌曲集『白鳥の歌』は、まさに辞世の歌ともいえる内容。そこからは、梅毒に侵され、迫り来る死を前にしたシューベルトの「死への憧れ」をも感じ取ることができるだろう。  シューマン晩年のピアノ独奏曲集『暁の歌』も、なんともいえない情緒をたたえた作品である。ライン川に身を投げて自殺未遂をする半年ほど前に書かれ、当時のシューマンの精神の不安定さが深い影を落とした難解な内容ながら、この世を儚むような透徹した美しさに満ちている。

◆亡命作曲家たちと新天地

 祖国との別れもまた、多くの作曲家たちの人生と音楽に大きな影響をもたらした。ロシア革命の動乱でアメリカに亡命したラフマニノフは、祖国をあとにしてからというもの、作曲の意欲をすっかり失ってしまった。友人にその理由を尋ねられた彼は「もう何年もライ麦のささやきも白樺のざわめきも聞いてないから」と答えたという。
 バルトークも第二次世界大戦中に祖国ハンガリーからアメリカへ移住し、環境の変化と体調不良から作曲の筆が止まってしまった。そんな最中、アメリカ在住の友人たちの働きかけもあり、クーセヴィツキー財団がオーケストラ曲の作曲を依頼する。それに意欲をかきたられたバルトークが一気に書き上げたのが、晩年の名作「管弦楽のための協奏曲」である。

 しかし、祖国との別れは悲しみをもたらすだけではない。ナチス・ドイツの迫害から逃れ、アメリカに亡命してハリウッドに活躍の場を求めたユダヤ系作曲家による作品を集めたダニエル・ホープのアルバム『楽園への脱出-ハリウッド・アルバム』を聴くと、いかにして彼らの才能が新天地で花開き、映画やミュージカルといったアメリカ文化の中核を担っていったのかということがよくわかる。
 折しも、ゴールデンウィークに開催される『ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2018』のテーマは「UN MONDE NOUVEAU モンド・ヌーヴォー - 新しい世界へ -」。別れを乗り越え、新天地へと漕ぎ出した作曲家たちのドラマティックな人生と音楽を、さまざまな角度から追体験してみてはいかがだろうか。


<旅立ちに寄せて>

『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集第3巻「自然」』
小菅 優
録音:2013年/Sony Music Labels Inc.




『輝くチェンバロ YOKO ISHIKAWA~第9回生録会 at 松本記念音楽迎賓館』
(J.S.バッハ:最愛の兄の旅立ちに寄すカプリッチョ)
石川陽子(cem)
録音:2013年/一般社団法人日本オーディオ協会




『ラフマニノフ:悲しみの三重奏曲第1番・第2番』
ヴラディーミル・アシュケナージ(p)ツォルト=ティハメール・ヴィゾンタイ(vn)
マッツ・リドストレーム(vc)
録音:2012・2013年/Decca





<惜別の歌>

『ドイツ歌曲集 III』
藤村実穂子(Ms)ヴォルフラム・リーガー(p)
録音:2012年/フォンテック




『シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》』
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)ジェラルド・ムーア(p)
録音:1972年/Universal Classics&Jazz




『シューマン:ピアノ・ソナタ第2番、森の情景、暁の歌』
内田光子(p)
録音:2013年/Decca





<恋人との別れ>

『ショパン:ワルツ』
仲道郁代(p)
録音:2015年/Sony Music Labels Inc.




『ブラームス:弦楽六重奏曲第1番・第2番』
ベルリン・フィルハーモニー八重奏団員
録音:1966年/Decca




『ヴェリズモ』
アンナ・ネトレプコ(S)ユシフ・エイヴァゾフ(T)アントニオ・パッパーノ指揮サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団 他
録音:2015・2016年/Deutsche Grammophon







<祖国との別れ>

『ラフマニノフ:交響曲第3番、バラキレフ:交響詩「ロシア」』
ヴァレリー・ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団
録音:2014年/LSO Live



『追憶』
ジョン・ネシリング指揮サンパウロ交響楽団
BIS



『バルトーク:管弦楽のための協奏曲、舞踊組曲、《中国の不思議な役人》組曲』
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ロンドン交響楽団
録音:1963・65年/Universal Classics&Jazz







<新天地への旅立ち>

『楽園への脱出-ハリウッド・アルバム』
ダニエル・ホープ(vn)アレクサンダー・シェリー指揮ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団 他
Deutsche Grammophon




『ドヴォルザーク:交響曲第6番、第9番「新世界より」』
マリン・オールソップ指揮ボルティモア交響楽団
ナクソスジャパン



『ヘンデル:水上の音楽 他』』
マンフレート・フス指揮ハイドン・シンフォニエッタ・ウィーン
録音:2012年/BIS








<優しき春にち>

メンデルスゾーン:無言歌集
レナーテ・ショルラー(p)
録音:1976年/Deutsche Schallplatten




『モーツァルト歌曲リサイタル』
エリーザベト・シュヴァルツコップ(S)ワルター・ギーゼキング(p)
録音:1955年/Warner Classics



『チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲、憂鬱なセレナード、なつかしい土地の思い出 他』
ユリア・フィッシャー(vn)ヤコフ・クライツベルク(指揮、p)ロシア・ナショナル管弦楽団
PentaTone









【バックナンバー】
<第1回> 違い歴然!ハイレゾで聴きたい名曲名盤
<第2回> ポスト・クラシカルが止まらない!
<第3回> 世界のこだわりレーベル探訪 その1!
<第4回> 春の声
<第5回> 確信犯的クラシック――革新的NEXT GENERATIONS
<第6回> 雨の日の音楽
<第7回> 世界のこだわりレーベル探訪 その2 ~自主レーベル篇
<第8回> エキゾでフォークなクラシック
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<第12回>
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<第13回>
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<第14回>
フランスの色と香り




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出演者:原典子(はら・のりこ) 音楽に関する雑誌や本の編集者・ライター。上智大学文学部新聞学科卒業。音楽之友社『レコード芸術』編集部、音楽出版社『CDジャーナル』副編集長を経て、現在はフリーランス。『intoxicate』『CDジャーナル』など音楽雑誌への執筆のほか、坂本龍一監修の音楽全集『commmons: schola』の編集を担当。鎌倉で子育てをしながら、「レゾナンス<鎌倉のひびき>コンサートシリーズ」の企画にも携わる。
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