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【4/5更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/04/05
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
KISS『地獄の軍団』
KISS全盛期の勢いが詰まった最強力作。オリジマル・マスターのリミックス・ヴァージョンも。


あれは1978年春のこと。

中学卒業を間近に控えた当時15歳の僕は、興奮を抑え切れないまま、日本武道館の隅っこで緊張していたのでした。

目的は、KISSの来日公演。つまり、噂に聞いていた超ど派手なステージを、いよいよ目の当たりにしようというときだったわけです。そりゃ緊張しても仕方がないざんしょ。

「目の当たりに」とはいっても2階席の後ろのほうだったので、実際にはほとんど見えないに等しかったんですけどね。でも、同じ空間にいるというだけでも満足できたわけです。

なぜって、彼らはそれほど大きな存在だったからです。

当時の中学生にとってはクイーン、KISS、エアロスミスが王道中の王道でした。もちろんそれ以前にレッド・ツェッペリン、ディープ・パープルという二大巨頭もいたわけですが、この3バンドはよりリアルタイムが強かったのです。

バンドの成長を、同じ歩調で確認しているような感じ。

そして、そんななかでも、派手さとわかりやすさによって(おもに)男子の心をくすぐりまくっていたのがKISSでした。

もちろん、シンプルなロックンロール・サウンドも魅力的だったのですけれど、それ以上に魅了されたのはそのルックスとパフォーマンスです。

エキセントリックなメイクと衣装をし、火を吹いたり血を吐いたり、ギターから煙を出したりと、書きはじめればキリがないほどのお祭り状態。

そんなKISSにハマった中高生のマインドは、結局のところ、怪獣に夢中になる小さな子どもと大差なかったのではないかと思います。刺激を求める若い世代に、わかりやすくて強烈なアプローチが受けないはずがないということ。

はっきり断言する自信はないのですが、たしかステージのオープニングは「Detroit Rock City」だった気がします。言わずと知れた、1976年リリースの4作目『Destroyer』(『地獄の軍団』という邦題のほうが有名かも)の冒頭を飾る代表曲。これ以降も、ライヴ時のオープニング・ナンバーとして定着しました。

KISS作品に駄作は皆無なのですが、なかでもこの『Destroyer』は強力な作品でした。ジーンが血を吐くパフォーマンスをする際の定番曲「God of Thunder(雷神)」、キャッチーな「Shout It Out Loud(狂気の叫び)」ドラムスのピーター・クリスがヴォーカルを担当したバラードの「Beth」など、ヴァラエティに富んだ内容。

「King of The Night Time World」「Flaming Youth(燃えたぎる血気)」「Do You Love Me」などなど、他にもおなじみの楽曲が数多く収録されています。

アリス・クーパーからピンク.フロイドまで数多くのアーティストを成功に導いたプロデューサー、ボブ・エズリンの功績が大きいと言われていますが、中学生にとってはそんなことより、いろんなタイプの楽曲が次から次へと飛び出してくるところが爽快だったわけです。

ひとつ記憶しているのは、同級生だったK君がこのアルバムについて「すぐ終わっちゃう」と話していたこと。全40分にも満たないので当然といえば当然なのですが、めくるめく展開が時の経過を忘れさせるといった側面もあったのではないでしょうか。

そしてハイレゾで聴きなおすと、当時は気づかなかったリアルな音像に驚かされることになります。カフェテリアを出てきた男が車を運転する光景からスタートする「Detroit Rock City」からして、臨場感満点。

その車が事故ってクラッシュする音とともに始まる「King of The Night Time World」、冒頭の子どもの声が立体的でビビらずにはいられない「God of Thunder」、ライヴでの光景が思い浮かぶ「Flaming Youth」や「Shout It Out Loud」、温かみのある「Beth」、「Do You Love Me」のドラムの奥行きなどなど、どの曲もオーディオ的な完成度の高さがよくわかるのです。

ちなみにe-onkyo musicでは、マニアの間で評価が高かった2012年の『Destroyer - Resurrected』をチェックすることができます。

これは、ボブ・エズリンがオリジナル・マスターテープかリミックスしなおしたヴァージョン。

たとえばファイナル・ミックスの段階れ編集されていた「Beth」のヴォーカルは、オリジナルのとおりに再編集されており、ディック・ワグナーのプレイに差し替えられていた「Sweet Pain」のギター・ソロも、エース・フレーリーによるオリジナルに戻っているのです。

そういう意味でもファンには興味深いところですし、そうでなくとも青春時代の残像が蘇ってくるはず。いまこそ、改めて聴いてみたい名盤です。

さて、冒頭で触れたKISS来日公演に話を戻しましょう。KISS全盛期のそのパフォーマンスはどう考えても最高だったのですが、僕は別の理由で気が散ってたまらなくもあったのでした。

なぜって隣の席に、同い年くらいのめっちゃめちゃかわいい女の子がいたから。いわゆるロック少女とはまったく違うおとなしそうなタイプだったのですが、その子のことが気になって気になって仕方がなかったのです。

で、ライヴ終了後、こともあろうに僕はその子に声をかけていたのでした。

「……あの、よ、よかったら一緒に帰りませんか?」

結果? もちろん即撃沈ですよ。当たり前じゃないですか。思春期ならではの黒歴史だとも言えますが、いま思い出しても十分に恥ずかしいなぁ。

あの子、いまごろどうしているんだろう?


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『Destroyer (Resurrected)』/ Kiss






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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」