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【2/16更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/02/16
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース『スポーツ』
痛快なロックンロールに理屈は不要。80年代を代表する大ヒット・アルバム


もし「名盤」に定義があるとしたら、それはなんなのでしょうか? いや、定義なんて堅苦しい言葉を使うより、「名盤と呼ばれる作品に対する共通認識」とでも表現したほうがいいかな?

それでも十分に堅苦しいけど。

おそらくは、「後続のアーティストに多大な影響を与えた」とか、「ロックの歴史を変えた」とか、なんらかの“価値”や“意味”を残すことになった作品がそれにあたるのでしょう。

たとえばビートルズの『アビー・ロード』とか、ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』とか、あるいはニルヴァーナの『ネヴァー・マインド』などなど。もちろんそれらは一例にすぎず、他にもいろいろあるに決まっていますが。

いずれにせよ、もしもそのあたりが定義なのだとしたら、きょうご紹介するヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『スポーツ』は適切ではないのかもしれません。きわめてシンプルなロックン・ロールをやっているだけだし、ましてや歴史的な“価値”や“意味”があるわけでもないのですから。

とはいえ実際のところ、そんなことはどうだっていいのです。歴史的にどうとかいう以前に、それを聴いた人が感動したり、ワクワクしたり、勇気づけられたのだとしたら、それも名盤の定義となりうるはずなのですから。

しかも世界的に受け入れられたという事実は、それだけ多くの人々の心をつかんだということ。それ以上の説得力はないわけです。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースは、1970年代にいくつかのバンドでキャリアを積み上げてきたヒューイ・ルイスが、1979年に結成したバンド。痛快でストレートなロックンロール・サウンドが持ち味で、1980年にアルバム『Huey Lewis & The News』でデビューし、ヒット・シングル「ビリーヴ・イン・ラヴ」を生んだ1982年のセカンド・アルバム『ベイ・エリアの風』で注目されることになりました。

そして翌年の1983年には、サード・アルバム『スポーツ』が登場。この作品でブレイクしたことにより、80年代のアメリカを代表するロックン・ロール・バンドとしての地位を確立したのでした。

サード・シングルとして大ヒットした冒頭の「ハート・オブ・ロックン・ロール」は、タイトルどおりの痛快なロックン・ロール。ハイレゾで聴きなおすと、リズム・トラックの重心がよりタイトに聞こえます。

「ハート・アンド・ソウル」は、当時のファースト・シングル。ポップでキャッチーなアプローチを試みており、音の粒立ちも抜群です。ロックン・ロール・ファンのみならず、ポップ・リスナーにも無理なく受け入れられる楽曲です。

「バッド・イズ・バッド」はシングル・カットこそされなかったものの、ゆったりとしたグルーヴ感が魅力的なミディアム・ナンバー。中盤のブルース・ハープ(ハーモニカ)・ソロの浮遊感が、とてもいいアクセントになっています。

続くは、セカンド・シングルとして大ヒットした「アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ」。ストレートでシャープなロックン・ロール・ナンバーで、冒頭のギターが聞こえてきた時点で鳥肌モノ。

ちなみにこの曲はレイ・パーカー・Jr.のヒット曲「ゴーストバスターズ」に盗用され(たしかにソックリですよね)、裁判にまで発展したことでも知られています。

そのストレート感は、「ウォーキング・オン・シン・ライン」「君のもとへ」でも全開状態。特に後者は、イントロのアコースティック・ギター・サウンドの心地よさがポイントです。

さらに、理屈抜きで「本当にいい曲だなー」と思える「いつも夢みて」、テクノっぽいシンセ・フレーズが印象的な「ユー・クランク・ミー・アップ」、ブルース・フィーリングが心地よい「ホンキー・トンク・ブルーズ」などもそれぞれが魅力的。捨て曲が一切ない作品だといえます。

ちなみに1985年には、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主題歌「パワー・オブ・ラヴ」が全米1位を獲得(映画のなかにも、ヒューイ・ルイスがオーディションの審査員役として登場していました)。さらには1986年のアルバム『FORE!』も大成功を収めましたが、彼らのポテンシャルを実感するためには、やはりこの『スポーツ』を体験しておきたいところです。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースが大ブレイクしていたころ、僕は荻窪のレンタル・レコード店で働いていました。そのころのことでよく覚えているのは、常連だった高校生の女の子の言葉です。

「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースって、みんな好きだよね。嫌いな人っていないよね」

「クラスではきっと浮いているんだろうなー」と思わせる変わり者で、普段からいろんなものを否定していたその子にさえ、好きだと言わせてしまう。そんなヒューイ・ルイス&ザ・ニュースは、純粋にすごいなぁと思ったわけです。

当時あの子は16歳くらいだったから、単純計算しても40代後半ぐらいかー。時の経つのは早いなぁ。

すっかり丸くなって、かつての自分のようにいろんなものを否定したがる自分の子どものことを、「それはよくない」と説教していたりして(そうあってほしいものだ)。

「みんな大好きヒューイ・ルイス&ザ・ニュース」をひさしぶりに聴いたら、そんな余計なことまで思い出してしまったのでした。


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『Sports』/ ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース




『Back To The Future[Original Motion Picture Soundtrack / Expanded Edition]』
/ Alan Silvestri






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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」